ねねこグラフィカル(泡沫太陽のこけおどし)

アポロ

文字の大きさ
15 / 23
四章・新説バブルブルームグラデーション

環状アンダーグラウンド・七色想念はゆらがない

しおりを挟む
 ソドムヶ丘はゴモラ町と隣り合う。それらはもちろんぼく独自の呼称だ。地名の通り、駅周辺には人の欲望を食らって輝く歓楽街が広がる。
 母体の市はZと表記しておく。

 Z市駅の南側と西側は、特に怪しげな土風の溜まり場だ。当市に赴任するまで分かっていなかったが、この辺はわりとアングラ偏差値が高い。
 表通りから見える印象はありふれたさびれる住宅街区の趣き。その裏通りへ踏み入ると、ギャップにあらまあと驚く。

 この半年間やることが多くあったので、そっちの方へは立ち寄っていない。裏街道に棲む人たちに関心はあるので、機会があれば話は聞きたい。
 夜職へ流れ着く現代人たち、取材したら珍しい話の種が拾えるに決まっている。

 こんな地域なので駅前のスタバでは度々たじろぐほどの美女らが見られる。見ると色々飲食しておる訳だから、基本はぼくと大して変わらない人間だろう。けれど、あまりにも美しい女たちはまるでフィクションのアンドロイドみたいだ。

 朝のコーヒー代を支払って店を出る時、もしぼくがねねこになりすませるなら相当稼げるコンパニオンになるだろう、なんて思った。贔屓にしてくれるお客の胸が痛くなるほど、いたずらに美しさを安売りしてみたい気もする。

「すみません、ちょっといいですか」

 改札口の手前だ。かわいらしい少年に声をかけられた。怪しい店の呼び込みでもキャッチセールスでもなさそうだった。それくらいは見ればわかる。

「ここはソドムヶ丘駅なんですよね。ぼく、ゴモラ町の劇場へ行きたいんです。今日は地下アイドルになった友だちが人生ではじめてのライブなので。けど、ナビが変で困ってるんです」

「何?」

「もしかしたら迷子なのかも」

「……あっちだね。真っ直ぐ行くと着く」

「ありがとうございます! ぽんぽこ!」

 うん。君も、気をつけて。推しのライブがあるというならば、そこへ全力で駆けて行けば良い。

 駅で子供に道を訪ねられた。それだけだ。それだけのこと。
 ここは、半現実半仮想の世界だ。起こる出来事に意味を考えすぎてはいけない。いちいち説明しすぎてもいけない。気になるあの子のお荷物になったりもしない。大事な目的を見失わないためだ。

 ぼくは簡単にはゆらがない・・・・・・・・・

 意識、目を、今自分が向かいたい方向へ開ける。財布からICOCAイコカを取り出し、極めてスマートに自動改札を抜け、着実に人混みのホームへ進む。効率良く動くことが全てではないだろう。しかし地味ながら大切な行動選択だと考えている。
 世界の時間やエネルギーは無限にあるとしても、自分の瞬間はここに限定されている次元の話だ。今ぼくは、会いたい人と会いに行かなければならない。隠された鍵が欲しい。
 ソドムとゴモラの町を抜けて、探しに行くんだ。

 電車が間もなくやって来た。時刻表通りのダイヤに感謝する。当たり前のことのようだが、当たり前の気持ちが通用しない所では、普通っぽい現象こそ身に沁みる。

「駆け込み乗車はご遠慮ください」

 もちろんさ。まず出入り口から降りてくる人たちを優先。すし詰めの車内に幾ばくかの空間が再生するからこそ、そのスペースに後から来た者たちが流れ込める。
 電車はホームで扉が開かれ、人が減り、増え、また閉じて、安全円滑に走り出す。
 ここは環状線。ここは環状線。

「社内での迷惑行為はおやめください」

 もちろんさ。スマホはマナーモードにしてある。常識なので。
 平日の朝、馬鹿混み電車の中にいる泡沫太陽を俯瞰すると、くふ、笑いが込み上げてくる。仕事へ行く訳でもあるまいに、ずいぶん頑張っているじゃないか。こいつ、本当に大丈夫かと。無理するなよ、破裂するぞと。

(何なら今すぐ逃げ帰ってもいいんじゃね?)

 くふふ。周りは人に取り囲まれすぎていて、ほとんど身動き出来ない。ポケットからスマホを出すだけで、自虐抜きに涙がにじむ。

【今、電車でそっちへ行くところ。少し会えないか? ぼくは、ねるこむと戦いたくはない】

 簡潔な文章をLINEで送る。
 車内がいくらぎゅうぎゅうでも、電波はあっさり向こう側の秘密結社へ届いた。

【いいよ。待ってる。ランチしよう】

【先に木目田さんが行くかも。逃げた方がいいかも】

【いや、太陽が先に着くと思うよ】

【君が面白いし好きだ。木目田さんも好き】

【わかってる。大丈夫。ぼくも木目田さんと戦いたくない】

【みんな馬鹿なのだね】

【太陽もね】

【化け猫カフェで。十二時でいい?】

【了解。またあとで】

 通信終了。乗り換え地点到着。
 電車の扉が再び開き、ぼくは人の流れに溶け込んで、またのろのろ動き出す。リアリティの行き過ぎた架空の虫の大群の一部になったみたいだ。
 環状線を出る。環状線を出る。

 大阪駅から梅田まで歩くと、ソドムヶ丘やゴモラ町とはまったく景色が違う。現実、昔勤めていた会社の看板は綺麗になくなってる。

 誰かさんが後を付けてきているらしい。視線の主は見えないものの、それに悪意がないことはぼんやり感じる。

「悪質なキャッチセールスにご注意ください」

 街頭アナウンスはシステマチックでうんざりする。詐欺的なビジネスに対向するやり口なら、もっと他に有効な活動方法を考えても良いだろう。
 うんざりさせる相手を間違っているんじゃない? 世界自体に悪のやる気さえ起こらなくさせるサブリミナル的爆弾なんか、どうだい?
 泡沫太陽は、真面目にそんな表現を考えてみたい。
 
 このまま歩いても良い。でも、地下鉄を使う。次は御堂筋線だ。
 ソフトクリーム食べたい。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

火輪の花嫁 ~男装姫は孤高の王の夢をみる~

秦朱音|はたあかね
キャラ文芸
王を中心に五家が支配する、綺羅ノ国。 五家に覡(かんなぎ)として仕える十六夜家の娘、久遠(くおん)は、幼い頃から男として育てられてきた。 都では陽を司る日紫喜家の王が崩御し、素行の悪さで有名な新王・燦(さん)が即位する。燦の后選びに戦々恐々とする五家だったが、燦は十六夜家の才である「夢見」を聞いて后を選ぶと言い始めた。そして、その夢見を行う覡に、燦は男装した久遠を指名する。 見習いの僕がこの国の后を選ぶなんて、荷が重すぎる――! 久遠の苦悩を知ってか知らずか、燦は強引に久遠を寝室に呼んで夢見を命じる。しかし、初めて出会ったはずの久遠と燦の夢には、とある共通点があって――? 謎に包まれた過去を持ち身分を隠す男装姫と、孤独な王の恋と因縁を描く、和風王宮ファンタジー。 ※カクヨムにも先行で投稿しています

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派
ファンタジー
 勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"  その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。  そんなところに現れた一人の中年男性。  記憶もなく、魔力もゼロ。  自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。  記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。  その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。 ◆◆◆  元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。  小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。 ※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。 表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

石榴(ざくろ)の月~愛され求められ奪われて~

めぐみ
歴史・時代
お民は江戸は町外れ徳平店(とくべいだな)に夫源治と二人暮らし。  源治はお民より年下で、お民は再婚である。前の亭主との間には一人息子がいたが、川に落ちて夭折してしまった。その後、どれだけ望んでも、子どもは授からなかった。  長屋暮らしは慎ましいものだが、お民は夫に愛されて、女としても満ち足りた日々を過ごしている。  そんなある日、徳平店が近々、取り壊されるという話が持ちあがる。徳平店の土地をもっているのは大身旗本の石澤嘉門(いしざわかもん)だ。その嘉門、実はお民をふとしたことから見初め、お民を期間限定の側室として差し出すなら、長屋取り壊しの話も考え直しても良いという。  明らかにお民を手に入れんがための策略、しかし、お民は長屋に住む皆のことを考えて、殿様の取引に応じるのだった。 〝行くな!〟と懸命に止める夫に哀しく微笑み、〝約束の1年が過ぎたから、きっとお前さんの元に帰ってくるよ〟と残して―。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

攻略. 解析. 分離. 制作. が出来る鑑定って何ですか?

mabu
ファンタジー
平民レベルの鑑定持ちと婚約破棄されたらスキルがチート化しました。 乙ゲー攻略?製産チートの成り上がり?いくらチートでもソレは無理なんじゃないでしょうか? 前世の記憶とかまで分かるって神スキルですか?

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...