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四章・新説バブルブルームグラデーション

ジレンマスパイラルリンボ鉄道・怪人の反逆美学

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 俺もいっそ書き散らすか。
 曝露風味にピカレスク。
 尾行する魂の気分転換。
 それも一興。

 木目田嵐丸きめだあらしまるは、株式会社アワノ倉庫で約二年、文句一つなく働いた。管理職のポストは入社直後から、オーナー社長直々に与えられた。

 アワノ倉庫は秘密結社ねるこむの隠し財産、特別な物語の保管庫である。
 ねるこむも倉庫も元はねこっち一人ぼっちの創作支援機関だ。
 おっしゃレッツ世界征服、輝かしい我らが青春のはじまりはじまり、そんな序章であった。

「木目田さん、一緒に太陽君を推しましょう」

「ええけど……何で俺を誘うの?」

「もう気付いてるでしょう、あなたも超能力者仲間にゃ」

「おお。そんな言われ方すると燃える」

「お義理じゃなく」

「ふふん。俺は何をしたらいい」

「今の工場やめて、うちで働きませんか。社長はわたし。お給料はそっち工場より五%高く出します。倉庫は他社の資産でしたが、前オーナーに活用する体力が皆無ゆえ乗っ取りました。アワノは、泡沫太陽や木目田嵐丸のような傑作人間を世に出すべき時まで保護できます。ゆくゆくは世界中の怪物作家の卵も蒐集します。やりがいあるでしょ」

 今の時代にマッチしない、人気ゼロの最下位では誰も気付かない、そんな才能の出荷タイミングを計り将来性を高める。
 傑作は安売りさせず、守る。

 初期ねるこむのアワノ戦略は覇道や。
 あいつがやらなきゃ、どの道どこかで誰かが創り出したビジョンや。
 みんな揃ってめくるめく、夢グラデーションの馬鹿売れドミノ保管庫。

 ねこっちは、結果なんかどうでもいいと思ってたかもしれない。でも俺は本気で夢を見れそうで高揚してたかな。
 いや、感情まで覚えてはいられない。そこは怪人木目田のコンプレックス、脳の欠陥仕様。
 よく覚えてないならお前にとって本当の夢じゃなかった? 怒られたくはないね。記憶力があって当然の人には、呆れて笑ってほしい。

 反省はしよう。

 俺はまだ表現の鬼になれない。
 ねこっちも真祖化け猫じゃない。
 俺たちは鬼才に憧れ、目が眩む。強大な夢想計画に、生かされたいと思わずいられない。

 覇道の鬼道。
 人間なんてらららららららら。

 メガネ君。
 この世の果てはジレンマスパイラルリンボと呼べる。
 なぜ俺たちは輝き続けられない?
 宇宙は今も全体的に素晴らしく美しく連動してるのに。
 必要な可能性は、人の知恵工夫でもっとうまく創れる。マジで?
 俺をゆるがそうとする、人に非ざる神の声が聞こえるんだ。

 自分だろうが世界観だろうがキャラだろうが説明しすぎてはいけない。
 しかし説明を省けないところは説明しなければならん。
 できる限りスマートに、分かりやすく、そして詩的に?
 いやはや書くって簡単なのに、それで人のハートを刺すのは難題や。
 笑えるほど広い入口で、泣くほど奥が深いトンネルや。

 喫煙所でも少し語り合ったね。
 サリンジャーは学生時代に何を学んだんだろう。あのライ麦畑に辿り着くまでに、世の中の何をどう見て考えたんだろう。そもそもちゃんと何か見てたのか? 本当に、人の世を? 絶望も希望もありのまま?

 今だに俺は疑うんだ、大人だから。
「実の所は反逆願望と描き出したいキャラクター、ホールデン・コールフィールドとの対話で手一杯の目一杯、周りなんか訳が分からなかったよ」
 いっそそう語ってもらえた方が、納得する。

 たとえばと言えば、たとえばの話が現実問題に作用しすぎやしないか? 

 小説の技法を語り出すと、書き手自身の作家性が段々説明的になる。小説講座なんか生業とする人は、書き手として落ちるリスクが大きい。

 現役一流の感性を誇る書き手は、プレイヤーとして活躍しなきゃならん。だから指導者になるヒマはないし、ヒマがあってはならん。
 選手兼任監督だったヤクルトスワローズの古田敦也なんか思い出してみろ、ありゃ超一流のタフガイだからこそ、あれこれ両立可能やった。本当に例外中の例外。

 文芸でも道理は同じと思う。
 学校やカルチャーセンターで真面目に小説を目指す人は、表現の前線を行けてないまだ二流かすでに一流を退いている人から学べる所へ集いやすい。
 それは師弟揃って深く学び合える仕組み、とも言えるんだが。

 何、ああそう、だから俺みたいなのはこのまま売れない作家でいるよりは、創作教室の講師になるのが向いてるよね、んな新たな夢はどうってか。なんでやねん。
 こんなセルフツッコミは誰向けなのよ、論破もできん。
 偉大なメガネ君のフレア文体を模倣しろって?

 そうじゃつまらん。
 俺は漫才師でも物真似師でもなく小説家志望のナイスミドルな私立探偵。オリジナルでいたい希望を、簡単にゆらがせちゃいけない。小笑いなんか取りに行っちゃいけない、ハードボイルドなキャラや。

 反省はしよう。

 ねるこむの二代目会長、木目田嵐丸はすべった。
 三代目、町野あかりはもっとすべった。
 泡沫太陽は、必然その上をいくすべりっぷり。
 作品ばかりか本人らまでアワノ温泉付き倉庫で「このままの感じでいいかも~」

 なんたる平和ボケか。
 ボケた君がアホな四代目を推薦したのも、また必然。

 どうする。
 俺は俺なりに覚醒した。
 
 下手したら世界滅ぶ。まったく。
 下手したと思い始めた端から挽回したい。

 ねるこむもアワノ倉庫も取り戻そう。
 今の社長は、リア炎上させてぶっ飛ばせ。

 *

 燃料追記。

 ネットよりリアルが不自然やろ。
 ソドムとゴモラに俺たち四人を揃えたというウルトラZドミノ!

 笑ってはいけない?
 あざとくあらしめ。
 隠された鍵こそ幻の華。
 ここまで来たら説明が必要や。

 誰が咲かす。
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