ぼくたちのたぬきち物語

アポロ

文字の大きさ
4 / 5
ぼくたちのたぬきち物語(未来の掌編)

ショートショート・みどりのあかり

しおりを挟む
 男は『怪物』のインストゥルメンタルを聴いていた。
 kindleの『やさしい小説の書きかた』を読みながら。

「夕方にいるの、珍しいですね」

 ふたりは、夕焼けのあくび公園で再会した。

 話しかけられて、男はため息をついた。
 その少女に声かけのタイミングを狙われていることは、見え見えだったのだ。
 彼女は前日もこの公園へ男を盗み見に来ていた。

「たぬきちさん。わたし、あかりです。覚えてませんか」

「いや、ごめん。ぜんぜん覚えてない。何の用?」

「これをみてください」

 女の写真。たぬきちは驚くふりをした。

「みどりだ・・・君はみどりの?」

「娘です。お母さんと、あなたの」

(そうきたか)たぬきちは頭を搔いた。

「嘘だ。だまされてると思う」


🍀


「ぼくが山から街へ下りてきたのは、十年前かな。
 映画館で、たまたま隣の席にみどりが来た。
 最初からかなり強引な女の子だった。
 でもはじめて会ったその日、ぼくはひと目で彼女を気に入ったよ。

 みどりはぼくの田舎臭い所がいいと言った。
 ぼくはぼくで彼女の都会の匂いに惹かれた。
 付き合おうよ。そうしようか。
 すぐ決まったね。

 その日にぼくはアパートへ転がり込んだ。
 みどりは計画的だったよ。
 アパートには、赤ちゃんのあかりがいた。
 この子のお父さんになってくれない? ときたもんだ。

 ぼくはまあ、別にかまわないなと思った。
 みどりは美人だし、金持ちだったし。
 バツ1こぶつきでも、ぜんぜん魅力的。
 オッケー。お父さんになるよー。軽く約束しちゃった」

「でも、二年くらいしか続かなかった。
 ぼくのせいだ。ぼくがまともに働かなかったからな。
 ギャンブルで借金も作ったし浮気もした。
 あげくに逃げた。
 後悔、そりゃしてるよ。人間らしくってむずかしいよ。

 街には誘惑があまりにも多すぎたんだ。
 ぼくがたぬきとして山で暮らしていた頃と、訳が違った。
 言い訳。そう、言い訳だね。
 ぼくは化け狸だからね。ずるいんだね。

 とにかく、ぼくは君が探すべき人じゃなかったってこと。
 ちなみにあかりの本当のお父さんは、立派な人間だったらしいよ。
 きっと今でも、どっかでちゃんとしてる。
 平日に、公園で遊んでたりはしないと思う。

 ああ、あかり、名前を覚えてなくてほんとに悪かったね。
 仕方ないじゃないか。たった二年だった。
 でも君たちとの暮らしは悪くなかったよ。
 みどりは綺麗で小遣いをくれたし。あかりはおりこうで可愛かったし」


🍀


「本当のお父さんじゃないんですね」

「みどりは今?」

「病気で、死にかけです。」

「へえ。可哀想に」

「わたし、もう天涯孤独って訳です」

「おい。泣くな」

「お母さん、ううっ」

「仕方ないなあ」

 たぬきちはポケットから葉っぱを出した。

「これね、特別な葉っぱ。使うと変化の術が解ける」

「ど、どういうこと」

「君、あかりじゃない。みどりだろう」

 たぬきちがあかりの頭に葉っぱを乗せた。
 あかりの姿がたちまち少女ではなくなった。

「連れ戻しに来たんだろ。いいよ。帰るよ」

「うん。今度はお互い、ちゃんとしようね」

「もう嘘つくなよ」

「わかった。たぬきちもね」


🍀


 みどりは公園まで車で来ていた。
 たぬきちは運転席側のドアを開けた。
 助手席で待っていたあかりが笑う。

「あなたがわたしのパパ?」



               了


(引用/YOASOBI『怪物』)


あとがき

 初稿は一二〇〇字ジャストでした。冬にnoteで発表した作品を、アルファポリス版として修正しました。(どこらへんをか、わかった?笑)

 当時執筆のモチベーションを上げてくれたnoteのピリカさんと、インスピレーションを与えてくれたYOASOBIに感謝しています。

 ありがとーございましたあ🤤

              アポロ
    
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

冷たい彼と熱い私のルーティーン

希花 紀歩
恋愛
✨2021 集英社文庫 ナツイチ小説大賞 恋愛短編部門 最終候補選出作品✨ 冷たくて苦手なあの人と、毎日手を繋ぐことに・・・!? ツンデレなオフィスラブ💕 🌸春野 颯晴(はるの そうせい) 27歳 管理部IT課 冷たい男 ❄️柊 羽雪 (ひいらぎ はゆき) 26歳 営業企画部広報課 熱い女

【完結】狡い人

ジュレヌク
恋愛
双子のライラは、言う。 レイラは、狡い。 レイラの功績を盗み、賞を受賞し、母の愛も全て自分のものにしたくせに、事あるごとに、レイラを責める。 双子のライラに狡いと責められ、レイラは、黙る。 口に出して言いたいことは山ほどあるのに、おし黙る。 そこには、人それぞれの『狡さ』があった。 そんな二人の関係が、ある一つの出来事で大きく変わっていく。 恋を知り、大きく羽ばたくレイラと、地に落ちていくライラ。 2人の違いは、一体なんだったのか?

処理中です...