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ぼくたちのたぬきち物語(未来の掌編)
ショートショート・みどりのあかり
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男は『怪物』のインストゥルメンタルを聴いていた。
kindleの『やさしい小説の書きかた』を読みながら。
「夕方にいるの、珍しいですね」
ふたりは、夕焼けのあくび公園で再会した。
話しかけられて、男はため息をついた。
その少女に声かけのタイミングを狙われていることは、見え見えだったのだ。
彼女は前日もこの公園へ男を盗み見に来ていた。
「たぬきちさん。わたし、あかりです。覚えてませんか」
「いや、ごめん。ぜんぜん覚えてない。何の用?」
「これをみてください」
女の写真。たぬきちは驚くふりをした。
「みどりだ・・・君はみどりの?」
「娘です。お母さんと、あなたの」
(そうきたか)たぬきちは頭を搔いた。
「嘘だ。だまされてると思う」
🍀
「ぼくが山から街へ下りてきたのは、十年前かな。
映画館で、たまたま隣の席にみどりが来た。
最初からかなり強引な女の子だった。
でもはじめて会ったその日、ぼくはひと目で彼女を気に入ったよ。
みどりはぼくの田舎臭い所がいいと言った。
ぼくはぼくで彼女の都会の匂いに惹かれた。
付き合おうよ。そうしようか。
すぐ決まったね。
その日にぼくはアパートへ転がり込んだ。
みどりは計画的だったよ。
アパートには、赤ちゃんのあかりがいた。
この子のお父さんになってくれない? ときたもんだ。
ぼくはまあ、別にかまわないなと思った。
みどりは美人だし、金持ちだったし。
バツ1こぶつきでも、ぜんぜん魅力的。
オッケー。お父さんになるよー。軽く約束しちゃった」
「でも、二年くらいしか続かなかった。
ぼくのせいだ。ぼくがまともに働かなかったからな。
ギャンブルで借金も作ったし浮気もした。
あげくに逃げた。
後悔、そりゃしてるよ。人間らしくってむずかしいよ。
街には誘惑があまりにも多すぎたんだ。
ぼくがたぬきとして山で暮らしていた頃と、訳が違った。
言い訳。そう、言い訳だね。
ぼくは化け狸だからね。ずるいんだね。
とにかく、ぼくは君が探すべき人じゃなかったってこと。
ちなみにあかりの本当のお父さんは、立派な人間だったらしいよ。
きっと今でも、どっかでちゃんとしてる。
平日に、公園で遊んでたりはしないと思う。
ああ、あかり、名前を覚えてなくてほんとに悪かったね。
仕方ないじゃないか。たった二年だった。
でも君たちとの暮らしは悪くなかったよ。
みどりは綺麗で小遣いをくれたし。あかりはおりこうで可愛かったし」
🍀
「本当のお父さんじゃないんですね」
「みどりは今?」
「病気で、死にかけです。」
「へえ。可哀想に」
「わたし、もう天涯孤独って訳です」
「おい。泣くな」
「お母さん、ううっ」
「仕方ないなあ」
たぬきちはポケットから葉っぱを出した。
「これね、特別な葉っぱ。使うと変化の術が解ける」
「ど、どういうこと」
「君、あかりじゃない。みどりだろう」
たぬきちがあかりの頭に葉っぱを乗せた。
あかりの姿がたちまち少女ではなくなった。
「連れ戻しに来たんだろ。いいよ。帰るよ」
「うん。今度はお互い、ちゃんとしようね」
「もう嘘つくなよ」
「わかった。たぬきちもね」
🍀
みどりは公園まで車で来ていた。
たぬきちは運転席側のドアを開けた。
助手席で待っていたあかりが笑う。
「あなたがわたしのパパ?」
了
(引用/YOASOBI『怪物』)
あとがき
初稿は一二〇〇字ジャストでした。冬にnoteで発表した作品を、アルファポリス版として修正しました。(どこらへんをか、わかった?笑)
当時執筆のモチベーションを上げてくれたnoteのピリカさんと、インスピレーションを与えてくれたYOASOBIに感謝しています。
ありがとーございましたあ🤤
アポロ
kindleの『やさしい小説の書きかた』を読みながら。
「夕方にいるの、珍しいですね」
ふたりは、夕焼けのあくび公園で再会した。
話しかけられて、男はため息をついた。
その少女に声かけのタイミングを狙われていることは、見え見えだったのだ。
彼女は前日もこの公園へ男を盗み見に来ていた。
「たぬきちさん。わたし、あかりです。覚えてませんか」
「いや、ごめん。ぜんぜん覚えてない。何の用?」
「これをみてください」
女の写真。たぬきちは驚くふりをした。
「みどりだ・・・君はみどりの?」
「娘です。お母さんと、あなたの」
(そうきたか)たぬきちは頭を搔いた。
「嘘だ。だまされてると思う」
🍀
「ぼくが山から街へ下りてきたのは、十年前かな。
映画館で、たまたま隣の席にみどりが来た。
最初からかなり強引な女の子だった。
でもはじめて会ったその日、ぼくはひと目で彼女を気に入ったよ。
みどりはぼくの田舎臭い所がいいと言った。
ぼくはぼくで彼女の都会の匂いに惹かれた。
付き合おうよ。そうしようか。
すぐ決まったね。
その日にぼくはアパートへ転がり込んだ。
みどりは計画的だったよ。
アパートには、赤ちゃんのあかりがいた。
この子のお父さんになってくれない? ときたもんだ。
ぼくはまあ、別にかまわないなと思った。
みどりは美人だし、金持ちだったし。
バツ1こぶつきでも、ぜんぜん魅力的。
オッケー。お父さんになるよー。軽く約束しちゃった」
「でも、二年くらいしか続かなかった。
ぼくのせいだ。ぼくがまともに働かなかったからな。
ギャンブルで借金も作ったし浮気もした。
あげくに逃げた。
後悔、そりゃしてるよ。人間らしくってむずかしいよ。
街には誘惑があまりにも多すぎたんだ。
ぼくがたぬきとして山で暮らしていた頃と、訳が違った。
言い訳。そう、言い訳だね。
ぼくは化け狸だからね。ずるいんだね。
とにかく、ぼくは君が探すべき人じゃなかったってこと。
ちなみにあかりの本当のお父さんは、立派な人間だったらしいよ。
きっと今でも、どっかでちゃんとしてる。
平日に、公園で遊んでたりはしないと思う。
ああ、あかり、名前を覚えてなくてほんとに悪かったね。
仕方ないじゃないか。たった二年だった。
でも君たちとの暮らしは悪くなかったよ。
みどりは綺麗で小遣いをくれたし。あかりはおりこうで可愛かったし」
🍀
「本当のお父さんじゃないんですね」
「みどりは今?」
「病気で、死にかけです。」
「へえ。可哀想に」
「わたし、もう天涯孤独って訳です」
「おい。泣くな」
「お母さん、ううっ」
「仕方ないなあ」
たぬきちはポケットから葉っぱを出した。
「これね、特別な葉っぱ。使うと変化の術が解ける」
「ど、どういうこと」
「君、あかりじゃない。みどりだろう」
たぬきちがあかりの頭に葉っぱを乗せた。
あかりの姿がたちまち少女ではなくなった。
「連れ戻しに来たんだろ。いいよ。帰るよ」
「うん。今度はお互い、ちゃんとしようね」
「もう嘘つくなよ」
「わかった。たぬきちもね」
🍀
みどりは公園まで車で来ていた。
たぬきちは運転席側のドアを開けた。
助手席で待っていたあかりが笑う。
「あなたがわたしのパパ?」
了
(引用/YOASOBI『怪物』)
あとがき
初稿は一二〇〇字ジャストでした。冬にnoteで発表した作品を、アルファポリス版として修正しました。(どこらへんをか、わかった?笑)
当時執筆のモチベーションを上げてくれたnoteのピリカさんと、インスピレーションを与えてくれたYOASOBIに感謝しています。
ありがとーございましたあ🤤
アポロ
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