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ぼくたちのたぬきち物語(Episode12)【最終回】
ショートショート・たぬきちの手紙
しおりを挟むみどりへ
まずはみどりに謝らなければならない。
とつぜん家出しちゃって、悪かったね。
君から逃げたみたいで、まじゴメンね。
みどりが嫌いになったんじゃないんだよ。
いや、そのへんを言い訳するつもりじゃなくて。
伝えておいた方がいいかな、と思うことをこの手紙に書くことにした。ぼくの家出が謎のままだと、みどりは自信なくすかもだし。笑
ぼくはいま、元気よく働いてる。たぬき工場っていう工場で、楽しくやってます。
仕事のあとは、工場で仲良くなった人が国語を教えてくれるの。
たぬきちくんは天才的だよ~なんて、褒めてくれるから、調子良くまいにち勉強してんだよ。
漢字を書けるようになったし、最近は、なんと化け狸の小説を書いてみたりしてる。
ぼくとみどりがでてくるお話。
あかりもちょっとでてくるの。
それを読んでくれる友だちが、いっぱいできました。
いいお話だねって褒めてくれる人もいます。
物語を書きながらみどりに会いたいなあって思うこともあるけど、やっぱりぼくらはお互い、別々がいい。
ここから書くのは、そう思う理由。
今だから言えるけど、みどりにほかの男がいること、実はちゃんと気づいてた。
君は欲張りだから、ぼくともうひとりの人、どっちともうまくやろうとしてたんだよね。
でも、さすがにそれはむりだと思う。
あの人のこと、家出の前に、たぬき探偵事務所ってところへ依頼して調べてみました。
それからみどりには悪いと思ったけど、いちど殴るつもりで会いに行ってみたのだ。
しかしそれが、話してみたら、わりとちゃんとした人間だった。
みどりにはあかりっていう娘がいるんですけど知ってましたか、って訊いた。
そしたら、たぬきちさんみたいな人がいることも娘さんがいることも知らなかった、だけどそれでも私はみどりがいないとダメなんです、だって。
みどりも私といたほうが良いと思う、だからたぬきちさんはみどりと別れてくださいって。堂々と言われたよ。
でもぼく、これはラッキーじゃないか? と思った。
だって君みたいなバツイチこぶつき嘘つき化け狸なんかのために、なかなか気合いの入ったこと言うじゃないの。
さらに聞いたところによると、みどりと結婚するために、奥さんとは離婚調停中なのだという。
いいかげんなぼくとはちがう。
みどりのこと大事にしてくれそうだ。
彼は大人で何だかお金持ちそうだし。(!)
ぼくはひとりでも大丈夫だから、わかりましたって言っておいた。
まあ、そんな感じだった。説明おわり。
そっちはそっちで、うまくやっておくれ。
何しろ今でも君たちの幸せを願ってるよ。
それと、ぼくの心配はいらないよ。
追伸
もうすぐあかりの誕生日。おめでとう。
お給料が出たから、お金を少し同封しておきます。
この手紙は、読み終わったら破って捨てておいてちょうだい。
ぬきちより🐾
🍀
「むー。たぬきちのスーパーまぬけ」
「ママー。何でパパ帰ってこないの?」
「うーん。説明がむつかしい・・・手紙がわけわからん。
うわあ・・・嘘でしょ。自分の名前の「た」がぬけてる。
ママのストーカーにだまされたのかも。別れさせ屋っていうのかしらね。美人はつらいわ」
「わたし、もうパパの顔、忘れそう」
「あははは! 忘れちゃだめだよ。そのうち帰ってくるから。今、パパのお友だちに探してもらってるのよ。アポロ君ってゆうやつ。」
「大丈夫かなあ。ぽんぽこ」
「大丈夫よー。ぽんぽこ」
「ママはパパのこと、好き?」
「うん。死ぬほど」
「じゃあ、たぬきのかにさまにお祈りしとこう」
「うん。かみさまね」
「ママ、手をつないで」
「はいはい」
それからこたぬきあかりがたぬきちパパと再会する日まで、七年。
みどりママは近所のたぬきスーパーで一生懸命働きながら、女手一つで娘あかりを立派に育てたのであった。
ちなみに、たぬきちの手紙に同封されていたお金は二百円であった。
おしまい
(→ショートショート・みどりのあかりへ🐾)
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