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第二章
第六話
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「「「「ワーワーワーワーワーワー!!」」」」
「「「「キャーキャーキャーキャー!!」」」」
ユニコーンに乗る一人の勇者。その様は正に威風堂々。そんな彼女を、多くの民衆が口々に讃えている。
「ありがとう。ありがとう!」
それに応えるように、手を振る勇者。その姿に民衆のボルテージは上がっていく。今、この世界で最も熱いのは此処だろう。そう思わせるような熱気がそこにあった。
と、突然。勇者に殺到していた人垣が二つに裂ける。そこから現れたのは……
「陛下!?エルダ様!?」
(どうしてお二方が!?)
慌ててユニコーンから降りる勇者。すぐに二人の前で跪く。
「跪く必要はありませんよ」
そう言って微笑む女王は勇者の手を取り、優しく立たせる。
(ぁ‥‥キレイ……)
女王を間近で見つめる形になった勇者は、思わず見惚れてしまう。
「大丈夫か?顔が赤いようだが?」
「え……?あ、はい!だいじょーぶでふ!」
(凛々しい……素敵)
勇者の意識はあちこちへと飛んでいる。憧れの人を前に、この勇者が平静でいられるはずが無かった。
たとえ二人の顔に白い靄みたいなものが掛かっていたとしても。
「勇者アリア。この度は魔王討伐の任お疲れ様でした」
「良くやった、アリア。私も先輩として鼻が高いよ」
「……っ!あ、あ、ありがとうございます!」
(うぅ‥‥もう死んでも良いぃぃ!!)
魔王戦は辛かった。どこがどう辛かったかは詳しく言葉に出来ないが、兎に角辛かった。しかし、それも二人の労いの言葉一つで吹っ飛んだ。
(あぁ‥‥‥‥夢みたい)
はい。夢です。
「夢ですよ」
「夢だな」
「え?」
そして、世界が真っ白に染まる。
とある母娘の、とある日の朝の出来事。
はしたなく口の端から涎を垂らし、『でへへへ……』と気味の悪い笑みを浮かべながら眠る少女の額に、拳骨が振り下ろされた。
「でへ、でへへっ!?~~~~っ!?」
声にならない悲鳴を上げながら、のた打ち回る少女。
(痛い!?何!?)
痛みが引いた頃、恐る恐る目を開け周りを見て見れば、傍には少女の母が。少女には、それが魔王に見えた。
「お、お母さん……!?」
「ったく。いつまで寝てんだい、アンタは。今日は大事な日だろう?」
「……?‥‥‥‥あ」
サァーっと青褪める少女。慌てて飛び起き、母に詰め寄る。
「今何時!?」
「五時半だよ」
「……え?全然大丈夫じゃん」
「このお馬鹿!」
ゴッと再度振り下ろされる拳骨。
伝えられた時間に安心し、どこか非難するように母親を見た少女は、脳天への衝撃に蹲る。
「~~~っ!おぉぅ……」
「あたしが起こさなかったら、何時までも寝てただろうが!」
「だ、だって、夢が~‥‥‥えへへへへ」
夢の内容を思い出し、痛みを忘れ相好を崩す。
「また、この娘は……」
少女は妄想逞しい娘であった。所構わず妄想し、好きな妄想を夢でまで見れるようになっていた。
栗色の髪の美少女の悪癖だった。
「陛下がぁ~‥‥」
「分かったから飯食って、支度しな!」
「えへへへへ‥‥は~い」
夢の内容を母に語る少女。食事中もその口は止まらない。
「それでね!」
「ハイハイ。分かった。分かったから」
「でもねぇ~、やっぱりお顔が上手く想像出来ないんだよねぇ~」
少女の妄想にはいつも、オリアナレイナやエルダを初めとする勇者序列上位の者が登場した。しかし、知っているのは名前と伝え聞いた格好ぐらいである為、その妄想に登場する彼女達には一様に白い靄が掛かっていた。
「そりゃあ、見た事無いなら当然だろうさ」
「そうなんだけどぉ~~はぁ~」
「そんな深い溜息吐く程かい……なら、早く支度して学院に行くんだね。入学早々遅刻は恥ずかしいよ」
「!やっぱり会えるかな!?」
この少女、今日から勇者学院の生徒だった。つまり、見習い勇者となる訳である。
「それは知らないよ……勇者様方も忙しいだろうしね」
この少女の目的は、学院に通って勇者になる事、では無く勇者に会う事であった。勿論勇者になるという目標はある。だが、そんな事よりも勇者序列上位の者に会う、いや、一目で良いからお目に掛かりたい。それが本音だった。
「誰に会えるかな!?えへへへへ‥‥」
「……はぁ~」
(育て方間違えたかね)
娘の止まらない妄想に溜息が止まらない。
妄想に耽る娘を、時折叩きながら支度を手伝う母。学院に通い出せば、長期休暇以外では滅多な事では帰って来れない。だから娘の様子に溜息吐きながらも、甲斐甲斐しく世話を焼く。そんな母親の表情は楽しそうでもあったが、どこか寂しそうでもあった。
「ほら!時間だよ!」
「あわわわわっ!?」
娘の尻に蹴りを入れるように外へ蹴り出す母親。娘は勢い良く外へ飛び出し、母親もそれに続く。
家の向では、老婦人が花に水やりをしていた。
「おや、アリアちゃん。おはよう」
「あ、おばあちゃん。おはよう!」
「サリアちゃんもおはよう」
「おはようございます。何度も言いますがちゃん付けは……」
家の中でのものと違う母親サリアの態度。礼儀正しく、腰も折って挨拶している。ただ、ちゃん付けは受け入れ難いらしい。苦虫を噛み潰したような顔になっている。
さて、この老婦人別に二人の親戚という訳では無い。サリアの母親、アリアの祖母という訳では無いのだ。では、両者の関係は?というと、家が向かいのご近所さん。サリアが夫と主にこの家に越してきた時からのご近所さんなのである。
子に恵まれなかったこの老婦人夫婦は、サリア達を大層可愛がった。まるで我が子のように。そして、アリアもまた孫のように。
サリアにとって老婦人夫婦は、いつも気に掛けてくれる、感謝の絶えない両親のような存在であり、アリアにとっても紛れも無く祖母であった。
「もう行くのかい?」
「うん!」
「そうかい‥‥寂しくなるねぇ」
「大丈夫だよ!偶に帰ってくるから!」
サリアはそんな二人のやり取りに、胸が締め付けられる思いをする。『あぁ‥‥‥本当に旅立ってしまうのか』と、今更ながらに深く実感。気が緩めば溢れ出しそうな涙を、必死に堪えていた。
「それでもねぇ‥‥頑張るんだよ!」
「うん!頑張って、立派な勇者になる!」
「アリア」
「ん?お母さん?」
いつになく、いつも以上に、見た事無いくらいに。真面目な表情をした母の姿に、自然娘も顔を引き締める。
「良いかい?辛くなったら何時でも帰って来るんだよ?魔族との戦いは、お前が思っている以上に過酷だからね」
「‥‥うん」
ハンターをしていた父と違い、母はそういう事には疎いはず。しかし、母の表情にはその言葉を否定出来ない何かがあった。
「逃げた、と言われるかもしれない。気にする必要は無いよ。そん時はあたしが守ってやるさ。母親だからね」
「うん‥‥うん」
いつも通り、自分を思っての言葉。アリアは感極まって、サリアに抱き付く。
「……そいじゃあ、行ってきな!」
「うん!行ってきます!」
どれだけの時間そうしていたか。長かったような短かったような。母に背中を押され、アリアは一歩進む。もうその顔に涙は無かった。
「「行ってらっしゃい!」」
二人は、何度も振り返り手を振るアリアの姿を、見えなくなるまでいつまでも、いつまでも見続けていた。
「‥‥‥行ってしまったねぇ」
「はい‥‥。あ、すみません。見送りまで」
「水やりのついでだから気にする必要無いよ。それに偶然とは言え、わたしも可愛い孫の旅立ちに立ち会えてとても満足してるからねぇ」
事実、老婦人にとっては水やりのついでだった。アリアが家を出る時間を知っていた訳でも無いから。ただ水やりの時間がいつもと違っていたり、水をやり過ぎて植木が水浸しになっていたりするのだが。それでも、偶然ったら偶然なのである。
「ありがとうございます」
サリアは万感の思いを込めて、感謝の言葉を口にした。
そんな会話を交わしながらも、二人の視線は未だにアリアの向かった方向に固定されていた。
「良かったのかい?あの事は伝えなくて」
「……あの娘はあの娘。下手に伝えて、変な影響が出ると困りますから」
「‥‥」
「‥‥」
「‥‥」
「……ぬぅぉぉぁぁぁあああああ!?」
老婦人の家の中から響いてきた奇声が、二人の間に降りた妙な沈黙を切り裂いた。
「やれやれ」
「アリアちゃんは!?」
家から転がり出るように飛び出したのは、白髪の老人。老婦人の夫だった。
この老人もまた老婦人と同様に、アリアの事を孫の如く可愛がっていた。
「もう行ってしまったよ」
「ぬぅがぁぁぁああああ!なぜ‥‥何故、起こさんかった!?」
「あら、私は何度も起こしましたよ。あなたが起きなかったんじゃありませんか」
「おおぉぉぉぉぉ‥‥‥。あぁ~~~~……」
悔し涙を流しながらその場に蹲り、地面を叩く老人。老人の言動を老婦人が諫め、窘める。いつも通りと言えば、いつも通りの光景だった。
「あはははは」
見慣れた光景にサリアは苦笑い。次第に口喧嘩という体でイチャイチャし始めた老夫婦。サリアはそっとその場を後にし、自宅へと戻った。
「‥‥」
いつもなら掃除や洗濯等の家事を始め、一通り終われば昔馴染みがやっている店に出勤。なのだが‥‥
(……あんた)
「今日、アリアが家を出たよ」
サリアが話しかける先に人は居ない。ただ剣があるのみ。毎日磨かれてるのでは?と思うくらいに、ピカピカな剣が一振り。
「まさか、勇者に適性があるとはね」
アリアが勇者に憧れているのは知っていた。いつも妄想を垂れ流していたから。それでも、親としてはあんな危険な勇者をして欲しくない気持ちがあった。だから、昔の自分の事も教えなかった。
「『聖樹の枝』も余計な事をしてくれたよ」
『聖樹の枝』それは文字通り、勇者を選別する『聖樹』の枝。各国・各都市・各街に配られたそれは、勇者の雛を、清く正しい心の持ち主を見抜き、触れた者に勇者の資質があった場合は光り輝くように聖力が溢れた。これまでも、多くの小年少女・青年淑女達老若男女が触れたきたモノだった。
アリアもまた、その『聖樹の枝』に触れた一人。その結果、勇者になるという決意を固めたのだった。彼女の場合、他にも理由がありそうだが。
勿論、『聖樹の枝』が反応したからといって、必ずしも勇者になれる訳ではない。その逆もまた然り。人の心は移ろい易く、変わらぬ人間などいないという事だ。
「あたしはどうすべきかね、カルロス」
剣に問い掛けても答えは返って来ない。
この剣の持ち主カルロスは、サリアの夫だった。魔獣と呼ばれる、謎に包まれた凶暴な生物を狩るハンターという仕事をしていたカルロス。サリアもまた同じくハンターだった。その仕事の過程で二人は出会い、結婚にまで至ったのだった。
やがて子を身籠ったサリアは引退し、カルロスは一家の大黒柱となった。妻の為、生まれてくる子の為。自分が支えていくんだ、という意志の元無理に無理を重ね、あっさりと死んだ。
あの日、サリアの元に帰って来たのは、剣とそれを握った片腕。そして結婚一年目に安全祈願としてプレゼントした、ネックレスのみだった。
夫の死を悲しむ間もなくアリアが生まれ、今日まで駆け抜けてきた。そのアリアが自分の元を離れ、サリアは己の中が空っぽになった感覚を覚えていた。
(……本当は分かっているんだけどね)
そう、サリアは分かっていた。何がしたいか、何をすべきか、何を求めているかを。しっかりと理解していた。
「‥‥覚悟、か」
呟くサリアの視線は、カルロスの剣の隣。埃被りながらも、決して褪せる事の無い白き輝きを放つ、一対の双剣に向けられていた。
「うん‥‥‥やろうじゃないか。もう一度」
そう言ってサリアは、埃塗れの双剣を手にする。その瞬間、双剣の輝きが僅かに増した。
(敵討ちなんて立派なものじゃない。これはただの復讐。そして、母としての務めだ)
徐々に輝きが増していく双剣。その双剣は一片の疑いようも無く、紛れも無い『聖剣』そのものだった。
勇者学院入学式。学院は多くの老若男女でごった返している。
例外を除き、歳は12歳以上でバラバラ。男女も貴賤も関係無く、国籍も人種も関係が無い。今年は例年より多くの者達が入学を望んでやって来たのだった。
その一人たるアリアも、学院に到着していた。
≪憤怒≫の魔王を討ったエルダの影響もあるのだろう。新入生の中には、『いずれ私も、俺も』と野望を瞳に宿している者が多い。彼らは知らない。勇者になるのがどれほど難しいのかを。勇者として卒業する者よりも、勇者を諦めて卒業する者が圧倒的に多いという事を。
違った野望を胸に早々と妄想に耽っていたアリアは、人波に流され、流され、流されて、気付けば入学式会場の講堂に座っていた。
(はれ?ここは……?)
周りを見れば、自分と同じ新入生と思われる人達と後ろの方には一部保護者と思われる人々が、皆前を向いて座っていた。
訳の分からないまま、取り敢えずアリアも背筋を伸ばして前を向き、壇上に目をやって固まった。
「‥‥綺麗‥‥‥‥美しい……」
そんな感想が頭の中をグルグルと回る。それ以外の言葉が出無い事に、アリアは己の貧相な語彙力を恨んだ。
その人物は全てが黄金に輝いていた。実際にはそんな事無いのだが、少なくともアリアにはそう見えた。
当然紹介はあったのだろう。しかし、妄想に耽っていたアリアは聞いていないため、あの壇上で話をする人物が誰かなんて分かっていない。しかし、直感が囁いていた。あの人物が誰であるかを。
(……あの御方が陛下)
アリアだけでは無い。この講堂にいた人間、ほぼ全員が見惚れていた。
「あぁ‥‥」
アリアは自らの愚かさを知る。
(恐れ多い。あの御方で妄想を楽しもうだなんて‥‥。私は何て愚かな事を)
しかし、この妄想少女は逞しかった。
(陛下は少しだけにしよう‥‥‥)
自らを愚かとしながら、これである。逞しいというより、図太かった。
(あぁ!後ろにいるのは!?)
既にアリアの意識は移り、オリアナレイナの後ろに立つ勇者へ。その少女は当然、勇者序列一位エルダ。『勇者新聞』で外見の特徴はそれとなく知っていたので、アリアにはすぐ分かった。
(お姉様‥‥‥)
それまで分からなかったエルダの顔。今初めて見たエルダの顔は、凛々しくそして美しかった。そしてそこに立っているだけで、立ち姿だけで彼女が自分の理想であると、そう感じたアリアはエルダに対し、強烈な憧れを抱く。
(でへへへ‥‥。陛下‥お姉様‥‥)
先程の殊勝な思いはどこへやら。あっという間に妄想の世界へ。どういう神経をしているのか、周りが引くほどだらしない顔に。真に残念な娘である。
「‥‥‥‥―――――けで新入生の皆さんも、弛まぬ努力と研鑽を積み、立派な勇者になる事を願っています」
「「「「「「「「「「ワァァァァァッ!!!」」」」」」」」」」
女王の祝辞が終わり礼をするまで静まり返っていた講堂が、我に返ったように沸く。これには流石のアリアも、妄想から引き戻される。
(何?何?何なの!?)
慌てて周りを見てそれとなく合わせて拍手もするが、付いて行けていない。
やがて、何時までも壇上を離れない女王の姿に疑問を感じたのだろう。徐々に歓声や拍手が小さくなっていく。
「‥‥‥それでは、最後に私の方から、新任の教師の方の紹介をさせて頂きます」
「え‥‥?」
「陛下が‥‥?」
ザワザワと、静けさを取り戻しつつあった講堂が、再び騒がしくなる。それもその筈、新任教師の紹介はこれまで学院長であるエンリチェッタがしていた事だ。それを女王がするなど前代未聞。新任教師の重要性が際立つ。ザワつくのも仕方が無い。
「お静かに」
決して大きな声では無かったが、不思議と講堂内に響き渡った。あっという間に静けさが戻る。
そして、目にしたのは壇上に上がる一人の男。燃えるように赤い髪と、恐ろしい程に美しく整った顔の男。
「新任教師のデウスです。彼には訓練や実習などの実践教科と、勇者と魔族・魔王に関する知識教科を担当していただきます。それと、この方は≪色欲≫の魔王でもあります。色々と気を付けるようにしてください。余程の事でない限り、彼と何かあっても自己責任です」
『え?』
漏れたのは誰の声か。それとも講堂内の人間の心の声が重なったか。女王の言葉に誰もが呆ける。
「ふむ。紹介にあった通り、これから勇者を育てる事になったデウスだ。≪色欲≫の魔王とも呼ばれておる。覚悟すると良い。余は厳しいぞ?」
堂々たる宣言に、呆然としている者しかいない。皆が理解不能に陥っていた。
そんな講堂内の反応を気にも止めず。デウスはさっさと講堂を去って行く。慌てたようにオリアナレイナとエルダが追っていくその姿に、皆呆気に取られていた。
長期休暇も終わりが近付き、チラチラと人が増え始めた勇者学院。その廊下を荒々しい足取りで進む女性が一人。
彼女の名は、イネス。勇者序列四位にして、ブレイブ王国西の守護者。跋扈単語する魔獣や隣国から王国を守る、守護者の一角である。当然強い。
そんな彼女の歩く姿に、その形相に、すれ違う生徒達は小さい悲鳴を上げる。鬼の形相なんて可愛く見える、修羅の形相。泣く子も黙ることだろう。気絶して。そしてイネスは、目的地に辿り着くと扉を蹴破った。
「ババアッ!テメェ、どういうつも‥り‥‥‥‥んなっ!?」
敬意の欠片も無い言葉遣いが尻すぼみになり、目の前の光景に唖然とする。
いつもなら椅子にふんぞり返り、『妾はまだピチピチじゃ!』などと喚くはずの部屋の主がいない。いや、居るには居るのだが目の前の光景を受け入れられないでいた。
「‥‥あむ‥‥んぅ……ちゅ‥‥‥れあ‥‥」
見覚えのある童女が、見覚えの無い男と濃厚な口付けを交していた。童女は男の腿に座り背中を預け、首だけで後ろを振り向くようにして。男は童女の小柄な体に後ろから右腕を回し、左手で右側の自身の方へ童女の顔を向けるようにして。二人は濃厚な口付けを交していた。
(っ!!)
男の方と目が合い、息を呑む。その暗く昏く冥く闇い瞳の闇に、呑み込まれそうな錯覚に陥る。
しかし目が合ったというのに、男は気にした風も無く行為を続ける。寧ろ、見せ付けるように童女、エンリチェッタの口を貪っていく。
誘うように、挑発するように。男はイネスの眼を見詰めながら、エンリチェッタと激しく口付けを交す。
「んむぅ‥‥ちゅる‥‥‥はむっ‥‥」
舌と舌が絡み合い、唾液と唾液が混じり合う。修羅もいつしか鳴りを潜め、羞恥に染まっている。それなりに経験のあるイネスだったが、自らの中にある経験・知識が幼稚に思える程の淫靡な光景に、魅入ってしまっていた。
「‥‥ふむ。エンリ、客人のようだぞ」
「‥‥ぁ‥やぁ、もっとぉ‥‥でうすぅ」
デウスが口を離してそう言うが、エンリチェッタには聞こえていないようで、寂しげに男、デウスを求める。『ババア』と敬意の欠片も無い呼び方で呼びながらも、学生だった頃から尊敬していた学院長の痴態に、イネスは愕然とする。
「あむぅ‥‥ちゅ‥女よ、暫し待て」
「っ!」
男の声に我に返ったイネスは、エンリチェッタの様子に尋常ではない事態だと判断する。取り敢えずデウスと呼ばれた男の手から、エンリチェッタを助けようと足に力を入れ―――
「動くな」
(っ!?なっ!)
―――踏み出そうとした所で、背後から掛けられた声に身を強張らせる。気付けば首にも手が、鋭く伸びた爪が添えられていた。
(オ、オレが背後を取られた?こんなに容易く?)
確かに、目の前の淫靡な光景に見入っていたというのもあるだろう。しかし、それでも有り得ない失態だった。
「んっ、ちゅぷ、あぁ、じゅるっ、っ!」
二人の口付けが更に激しくなる。息をする暇も与えぬほどに、デウスが攻め立てる。こうなれば、最早≪色欲≫の魔王たるデウスの独壇場。エンリチェッタは一方的に快楽を与えられるだけになってしまう。
「ちゅるっ、ふむっ、~~~っんんんんっ!!」
「!」
口付けの合間に漏れていた甘い喘ぎ声とは違う、何かに耐える声。エンリチェッタの背は反り返り、足先までピンッと伸びている。
「あむぁ……」
二人の口は離れるが、ツーッと銀色の糸では繋がったまま。ただただ厭らしかった。
(クソッ、何だこれは‥‥!)
イネスは見ている事しか出来ない。下手に動けば命が無い事は明白。久々に圧倒的敗北感を味わっていた。出来るのはデウスを睨み付ける事だけだった。
「はぁ……」
イネスの睨み付ける先では、エンリチェッタが満足そうな蕩けた顔でデウスに身を預けていた。デウスはデウスで、エンリチェッタを優しく慈しむように優しく撫でていた。
「エミリア」
「はっ」
イネスを牽制していた者、エミリアがそっと離れる。
「っ!……はっ‥はっ」
それまで殆ど息をしていなかった為か、イネスの体が酸素を欲しがる。そして一気に緊張が解け、体から力が抜け膝から崩れ落ちる。
(クソッ、クソッ‥‥!)
「……して、貴様は誰だ?」
デウスは少々不愉快さを覚えていた。いつもなら形だけでもする謝罪をしない程に。
「‥っ!クソッ、テメェこそ誰だ!ババアに何してやがるっ!」
(ほう。余に怯えていながら噛みつくか)
「ふむ。随分と気性の荒い女だ。生理では無いようだが‥‥口汚いだけか」
当然デウスには、女の生理を察する事など容易い。それどころか、排卵日なども当てられる。伊達や酔狂で≪色欲≫を司ってはいない。紛れも無く性のスペシャリストだ。
「生……!こ、この変態めっ!ロリコンがっ!」
(ロリコン……確か幼い少女に欲情する者の事だったか?アカネが異世界の言葉だと言っていたが‥‥)
「嘆かわしいな。エンリは身体こそ幼いが、立派な淑女だ。それは侮辱であろうて」
「くっ!」
「そろそろ貴様が誰か知りたいのだがな。エンリよ、エンリチェッタ起きよ。其方の客では無いのか?」
ポ~っとした顔でデウスに甘えていたエンリチェッタの頬を、デウスが軽くぺちぺちと叩く。それすらも嬉しいのか、にへらとだらしない顔になるエンリチェッタ。勇者学院・学院長としての威厳は一切無かった。
「……ほへ?」
仕方ないとばかりに、デウスによって強制的にイネスの方に顔を向けられる、そうして初めて、エンリチェッタはデウスとエミリア以外の存在を認識する。
「ぁ‥‥‥‥イ、ネス‥?」
「……よぉ、ババア。暫く見ねぇ内に随分と堕ちたなぁ‥‥?」
「‥~~~~っ!」
エンリチェッタは漸く、己の状況を理解する。
デウスと熱い口付けを交し蕩け切っていた姿を、嘗ての教え子に見られたかもしれない。自殺モノの恥ずかしさだ。一気に顔を赤くし、口をパクパクと開閉する。
「い、いちゅ、いいいつから‥‥!?」
「テメェが熱心に、その男を求めていた所からだよ。一体その男は、こいつらは何モンだぁ!?ババア、てめぇ!?」
突如現れた黒い影が、イネスに襲い掛かる。
「忘れるのじゃ~!!!」
(ふむ。案外やるな。エミリアに反応は出来ていなかったのは、余とエンリの行為に見惚れていたか)
黒い影の攻撃を躱し、打ち倒していくイネス。武器は持たず、徒手格闘。両手両足に身に着けてある武具が、彼女の『聖剣』だ。
(クソッ、何だこれは!?強くなってやがる!?)
一見危なげなく対処しているが、内心そんなに余裕はない。そして。正確にエンリチェッタの変化を感じ取っていた。
「ふむ。そこまでだ。エンリ」
「ふぁぁ!?」
エンリチェッタの服の中に差し込まれたデウスの手が、彼女の胸の突起を摘まむ。突然の快感に甘い声を漏らし、同時に黒い影が霧散する。
(聞かれた‥‥。完全に聞かれたのじゃ‥‥)
堪え切れず漏らした喘ぎ声を、デウスのみならず元教え子にも聞かれるという恥辱。エンリチェッタの体が羞恥で、プルプルと震えだす。
「エンリ。この程度で恥ずかしがるな」
「な、何がこの程度じゃ!?い、い、いきなり妾のち、ちく……胸を摘まみおって!」
『乳首』が言え無いようだ。流石にイネスも半眼になる。
「分かっておらぬな」
「何がじゃ!?」
「余は抱くぞ?例え人前であろうとな。余の女なれば、どこであろうと受け入れよ」
暴君がここにいた。≪色欲≫の魔王。色事に関しては暴君らしい。あまりの言い分に、エンリチェッタも呆気に取られる。
「安心せよ。見せる者は選ぶし、時と場所も選ぶ。ただ、それくらいの覚悟はしておけという話よ。其方は余の女であるのだからな」
「!う、うむ!分かっておるのじゃ!ちょっと吃驚しただけじゃ!」
『余の女』その言葉にエンリチェッタは嬉しさを隠し切れない。アホ毛も犬の尻尾より激しく、左右に揺れている。
「クソ……何なんだよ」
「して、貴様は誰だ?」
先程と同じ質問。しかし今回は、威圧感が違った。
「ぐっ‥変態に名乗る名なんて無ぇ!」
「‥‥こうも正面から変態と何度も罵られるのは、新しいな。新鮮さがある」
≪色欲≫の魔王に対して暴言を吐くのは、同じ魔王か愚か者だけ。魔族はその身に宿す魔力量により、ある程度の力量を見抜ける。魔王クラスともなれば力量差は歴然で、逆らうのは身の程知らずだけ。
故に、デウスにとっては罵倒の言葉も新鮮であるらしい。
「イネスよ。滅多な事を言うものじゃないのじゃ。この御方は魔王じゃよ」
「は?」
ババアが遂にボケた。イネスの顔にはそう書いてある。
「ババア……遂にボケたか?」
言葉にもした。このイネスという女、本当に口が悪い。
「ボケてはおらぬのじゃ!相変わらず失礼な奴じゃ。≪色欲≫の魔王デウス。それがこの方の正体じゃ」
「‥‥」
嘘には見えない。長い付き合いだ。自分をおちょくる時と、そうでない時の違いくらい分かる。
「止めておけ」
「っ!?」
(体が!動かない!?)
魔王を討つべく踏み出そうと力んだ所で、気付く違和感。見れば闇に体か拘束されていた。
「は‥はは……ははは」
全く相手にならない。勇者序列四位の自分が子供、いや赤子扱い。最早イネスも笑うしか出来ない。
「今回イネスを呼んだのは、頼みがあっての事じゃ」
「はっ‥‥その変態の相手でもしろってか!?本当に堕ちたなぁ!?エンリチェッタ!!」
(オレがそう簡単に言いなりになると思うなよ!?)
尊敬していた学院長はもういない。目の前にいるのは≪色欲≫に屈したアバズレだけ。言葉にこそしないものの、イネスの眼はそう言っていた。
「‥‥儂まだ処女なのに、この扱い。ちょっと傷付くのじゃ……」
「エンリ。頼みという事は、こ奴が例の?」
デウスは平常運転。後で時間がある時にでも慰めればいい、そう考えるデウスは目の前の事にだけ意識を向ける。
「……そうじゃ。イネスよ。お主に頼むのは」
(クソがっ!オレは絶対に屈しねぇ!)
「この学院で教員をするデウスのサポートじゃ」
(オレは勇者だ。≪色欲≫何かに屈して堪る‥‥‥は?)
「は?」
「「「「キャーキャーキャーキャー!!」」」」
ユニコーンに乗る一人の勇者。その様は正に威風堂々。そんな彼女を、多くの民衆が口々に讃えている。
「ありがとう。ありがとう!」
それに応えるように、手を振る勇者。その姿に民衆のボルテージは上がっていく。今、この世界で最も熱いのは此処だろう。そう思わせるような熱気がそこにあった。
と、突然。勇者に殺到していた人垣が二つに裂ける。そこから現れたのは……
「陛下!?エルダ様!?」
(どうしてお二方が!?)
慌ててユニコーンから降りる勇者。すぐに二人の前で跪く。
「跪く必要はありませんよ」
そう言って微笑む女王は勇者の手を取り、優しく立たせる。
(ぁ‥‥キレイ……)
女王を間近で見つめる形になった勇者は、思わず見惚れてしまう。
「大丈夫か?顔が赤いようだが?」
「え……?あ、はい!だいじょーぶでふ!」
(凛々しい……素敵)
勇者の意識はあちこちへと飛んでいる。憧れの人を前に、この勇者が平静でいられるはずが無かった。
たとえ二人の顔に白い靄みたいなものが掛かっていたとしても。
「勇者アリア。この度は魔王討伐の任お疲れ様でした」
「良くやった、アリア。私も先輩として鼻が高いよ」
「……っ!あ、あ、ありがとうございます!」
(うぅ‥‥もう死んでも良いぃぃ!!)
魔王戦は辛かった。どこがどう辛かったかは詳しく言葉に出来ないが、兎に角辛かった。しかし、それも二人の労いの言葉一つで吹っ飛んだ。
(あぁ‥‥‥‥夢みたい)
はい。夢です。
「夢ですよ」
「夢だな」
「え?」
そして、世界が真っ白に染まる。
とある母娘の、とある日の朝の出来事。
はしたなく口の端から涎を垂らし、『でへへへ……』と気味の悪い笑みを浮かべながら眠る少女の額に、拳骨が振り下ろされた。
「でへ、でへへっ!?~~~~っ!?」
声にならない悲鳴を上げながら、のた打ち回る少女。
(痛い!?何!?)
痛みが引いた頃、恐る恐る目を開け周りを見て見れば、傍には少女の母が。少女には、それが魔王に見えた。
「お、お母さん……!?」
「ったく。いつまで寝てんだい、アンタは。今日は大事な日だろう?」
「……?‥‥‥‥あ」
サァーっと青褪める少女。慌てて飛び起き、母に詰め寄る。
「今何時!?」
「五時半だよ」
「……え?全然大丈夫じゃん」
「このお馬鹿!」
ゴッと再度振り下ろされる拳骨。
伝えられた時間に安心し、どこか非難するように母親を見た少女は、脳天への衝撃に蹲る。
「~~~っ!おぉぅ……」
「あたしが起こさなかったら、何時までも寝てただろうが!」
「だ、だって、夢が~‥‥‥えへへへへ」
夢の内容を思い出し、痛みを忘れ相好を崩す。
「また、この娘は……」
少女は妄想逞しい娘であった。所構わず妄想し、好きな妄想を夢でまで見れるようになっていた。
栗色の髪の美少女の悪癖だった。
「陛下がぁ~‥‥」
「分かったから飯食って、支度しな!」
「えへへへへ‥‥は~い」
夢の内容を母に語る少女。食事中もその口は止まらない。
「それでね!」
「ハイハイ。分かった。分かったから」
「でもねぇ~、やっぱりお顔が上手く想像出来ないんだよねぇ~」
少女の妄想にはいつも、オリアナレイナやエルダを初めとする勇者序列上位の者が登場した。しかし、知っているのは名前と伝え聞いた格好ぐらいである為、その妄想に登場する彼女達には一様に白い靄が掛かっていた。
「そりゃあ、見た事無いなら当然だろうさ」
「そうなんだけどぉ~~はぁ~」
「そんな深い溜息吐く程かい……なら、早く支度して学院に行くんだね。入学早々遅刻は恥ずかしいよ」
「!やっぱり会えるかな!?」
この少女、今日から勇者学院の生徒だった。つまり、見習い勇者となる訳である。
「それは知らないよ……勇者様方も忙しいだろうしね」
この少女の目的は、学院に通って勇者になる事、では無く勇者に会う事であった。勿論勇者になるという目標はある。だが、そんな事よりも勇者序列上位の者に会う、いや、一目で良いからお目に掛かりたい。それが本音だった。
「誰に会えるかな!?えへへへへ‥‥」
「……はぁ~」
(育て方間違えたかね)
娘の止まらない妄想に溜息が止まらない。
妄想に耽る娘を、時折叩きながら支度を手伝う母。学院に通い出せば、長期休暇以外では滅多な事では帰って来れない。だから娘の様子に溜息吐きながらも、甲斐甲斐しく世話を焼く。そんな母親の表情は楽しそうでもあったが、どこか寂しそうでもあった。
「ほら!時間だよ!」
「あわわわわっ!?」
娘の尻に蹴りを入れるように外へ蹴り出す母親。娘は勢い良く外へ飛び出し、母親もそれに続く。
家の向では、老婦人が花に水やりをしていた。
「おや、アリアちゃん。おはよう」
「あ、おばあちゃん。おはよう!」
「サリアちゃんもおはよう」
「おはようございます。何度も言いますがちゃん付けは……」
家の中でのものと違う母親サリアの態度。礼儀正しく、腰も折って挨拶している。ただ、ちゃん付けは受け入れ難いらしい。苦虫を噛み潰したような顔になっている。
さて、この老婦人別に二人の親戚という訳では無い。サリアの母親、アリアの祖母という訳では無いのだ。では、両者の関係は?というと、家が向かいのご近所さん。サリアが夫と主にこの家に越してきた時からのご近所さんなのである。
子に恵まれなかったこの老婦人夫婦は、サリア達を大層可愛がった。まるで我が子のように。そして、アリアもまた孫のように。
サリアにとって老婦人夫婦は、いつも気に掛けてくれる、感謝の絶えない両親のような存在であり、アリアにとっても紛れも無く祖母であった。
「もう行くのかい?」
「うん!」
「そうかい‥‥寂しくなるねぇ」
「大丈夫だよ!偶に帰ってくるから!」
サリアはそんな二人のやり取りに、胸が締め付けられる思いをする。『あぁ‥‥‥本当に旅立ってしまうのか』と、今更ながらに深く実感。気が緩めば溢れ出しそうな涙を、必死に堪えていた。
「それでもねぇ‥‥頑張るんだよ!」
「うん!頑張って、立派な勇者になる!」
「アリア」
「ん?お母さん?」
いつになく、いつも以上に、見た事無いくらいに。真面目な表情をした母の姿に、自然娘も顔を引き締める。
「良いかい?辛くなったら何時でも帰って来るんだよ?魔族との戦いは、お前が思っている以上に過酷だからね」
「‥‥うん」
ハンターをしていた父と違い、母はそういう事には疎いはず。しかし、母の表情にはその言葉を否定出来ない何かがあった。
「逃げた、と言われるかもしれない。気にする必要は無いよ。そん時はあたしが守ってやるさ。母親だからね」
「うん‥‥うん」
いつも通り、自分を思っての言葉。アリアは感極まって、サリアに抱き付く。
「……そいじゃあ、行ってきな!」
「うん!行ってきます!」
どれだけの時間そうしていたか。長かったような短かったような。母に背中を押され、アリアは一歩進む。もうその顔に涙は無かった。
「「行ってらっしゃい!」」
二人は、何度も振り返り手を振るアリアの姿を、見えなくなるまでいつまでも、いつまでも見続けていた。
「‥‥‥行ってしまったねぇ」
「はい‥‥。あ、すみません。見送りまで」
「水やりのついでだから気にする必要無いよ。それに偶然とは言え、わたしも可愛い孫の旅立ちに立ち会えてとても満足してるからねぇ」
事実、老婦人にとっては水やりのついでだった。アリアが家を出る時間を知っていた訳でも無いから。ただ水やりの時間がいつもと違っていたり、水をやり過ぎて植木が水浸しになっていたりするのだが。それでも、偶然ったら偶然なのである。
「ありがとうございます」
サリアは万感の思いを込めて、感謝の言葉を口にした。
そんな会話を交わしながらも、二人の視線は未だにアリアの向かった方向に固定されていた。
「良かったのかい?あの事は伝えなくて」
「……あの娘はあの娘。下手に伝えて、変な影響が出ると困りますから」
「‥‥」
「‥‥」
「‥‥」
「……ぬぅぉぉぁぁぁあああああ!?」
老婦人の家の中から響いてきた奇声が、二人の間に降りた妙な沈黙を切り裂いた。
「やれやれ」
「アリアちゃんは!?」
家から転がり出るように飛び出したのは、白髪の老人。老婦人の夫だった。
この老人もまた老婦人と同様に、アリアの事を孫の如く可愛がっていた。
「もう行ってしまったよ」
「ぬぅがぁぁぁああああ!なぜ‥‥何故、起こさんかった!?」
「あら、私は何度も起こしましたよ。あなたが起きなかったんじゃありませんか」
「おおぉぉぉぉぉ‥‥‥。あぁ~~~~……」
悔し涙を流しながらその場に蹲り、地面を叩く老人。老人の言動を老婦人が諫め、窘める。いつも通りと言えば、いつも通りの光景だった。
「あはははは」
見慣れた光景にサリアは苦笑い。次第に口喧嘩という体でイチャイチャし始めた老夫婦。サリアはそっとその場を後にし、自宅へと戻った。
「‥‥」
いつもなら掃除や洗濯等の家事を始め、一通り終われば昔馴染みがやっている店に出勤。なのだが‥‥
(……あんた)
「今日、アリアが家を出たよ」
サリアが話しかける先に人は居ない。ただ剣があるのみ。毎日磨かれてるのでは?と思うくらいに、ピカピカな剣が一振り。
「まさか、勇者に適性があるとはね」
アリアが勇者に憧れているのは知っていた。いつも妄想を垂れ流していたから。それでも、親としてはあんな危険な勇者をして欲しくない気持ちがあった。だから、昔の自分の事も教えなかった。
「『聖樹の枝』も余計な事をしてくれたよ」
『聖樹の枝』それは文字通り、勇者を選別する『聖樹』の枝。各国・各都市・各街に配られたそれは、勇者の雛を、清く正しい心の持ち主を見抜き、触れた者に勇者の資質があった場合は光り輝くように聖力が溢れた。これまでも、多くの小年少女・青年淑女達老若男女が触れたきたモノだった。
アリアもまた、その『聖樹の枝』に触れた一人。その結果、勇者になるという決意を固めたのだった。彼女の場合、他にも理由がありそうだが。
勿論、『聖樹の枝』が反応したからといって、必ずしも勇者になれる訳ではない。その逆もまた然り。人の心は移ろい易く、変わらぬ人間などいないという事だ。
「あたしはどうすべきかね、カルロス」
剣に問い掛けても答えは返って来ない。
この剣の持ち主カルロスは、サリアの夫だった。魔獣と呼ばれる、謎に包まれた凶暴な生物を狩るハンターという仕事をしていたカルロス。サリアもまた同じくハンターだった。その仕事の過程で二人は出会い、結婚にまで至ったのだった。
やがて子を身籠ったサリアは引退し、カルロスは一家の大黒柱となった。妻の為、生まれてくる子の為。自分が支えていくんだ、という意志の元無理に無理を重ね、あっさりと死んだ。
あの日、サリアの元に帰って来たのは、剣とそれを握った片腕。そして結婚一年目に安全祈願としてプレゼントした、ネックレスのみだった。
夫の死を悲しむ間もなくアリアが生まれ、今日まで駆け抜けてきた。そのアリアが自分の元を離れ、サリアは己の中が空っぽになった感覚を覚えていた。
(……本当は分かっているんだけどね)
そう、サリアは分かっていた。何がしたいか、何をすべきか、何を求めているかを。しっかりと理解していた。
「‥‥覚悟、か」
呟くサリアの視線は、カルロスの剣の隣。埃被りながらも、決して褪せる事の無い白き輝きを放つ、一対の双剣に向けられていた。
「うん‥‥‥やろうじゃないか。もう一度」
そう言ってサリアは、埃塗れの双剣を手にする。その瞬間、双剣の輝きが僅かに増した。
(敵討ちなんて立派なものじゃない。これはただの復讐。そして、母としての務めだ)
徐々に輝きが増していく双剣。その双剣は一片の疑いようも無く、紛れも無い『聖剣』そのものだった。
勇者学院入学式。学院は多くの老若男女でごった返している。
例外を除き、歳は12歳以上でバラバラ。男女も貴賤も関係無く、国籍も人種も関係が無い。今年は例年より多くの者達が入学を望んでやって来たのだった。
その一人たるアリアも、学院に到着していた。
≪憤怒≫の魔王を討ったエルダの影響もあるのだろう。新入生の中には、『いずれ私も、俺も』と野望を瞳に宿している者が多い。彼らは知らない。勇者になるのがどれほど難しいのかを。勇者として卒業する者よりも、勇者を諦めて卒業する者が圧倒的に多いという事を。
違った野望を胸に早々と妄想に耽っていたアリアは、人波に流され、流され、流されて、気付けば入学式会場の講堂に座っていた。
(はれ?ここは……?)
周りを見れば、自分と同じ新入生と思われる人達と後ろの方には一部保護者と思われる人々が、皆前を向いて座っていた。
訳の分からないまま、取り敢えずアリアも背筋を伸ばして前を向き、壇上に目をやって固まった。
「‥‥綺麗‥‥‥‥美しい……」
そんな感想が頭の中をグルグルと回る。それ以外の言葉が出無い事に、アリアは己の貧相な語彙力を恨んだ。
その人物は全てが黄金に輝いていた。実際にはそんな事無いのだが、少なくともアリアにはそう見えた。
当然紹介はあったのだろう。しかし、妄想に耽っていたアリアは聞いていないため、あの壇上で話をする人物が誰かなんて分かっていない。しかし、直感が囁いていた。あの人物が誰であるかを。
(……あの御方が陛下)
アリアだけでは無い。この講堂にいた人間、ほぼ全員が見惚れていた。
「あぁ‥‥」
アリアは自らの愚かさを知る。
(恐れ多い。あの御方で妄想を楽しもうだなんて‥‥。私は何て愚かな事を)
しかし、この妄想少女は逞しかった。
(陛下は少しだけにしよう‥‥‥)
自らを愚かとしながら、これである。逞しいというより、図太かった。
(あぁ!後ろにいるのは!?)
既にアリアの意識は移り、オリアナレイナの後ろに立つ勇者へ。その少女は当然、勇者序列一位エルダ。『勇者新聞』で外見の特徴はそれとなく知っていたので、アリアにはすぐ分かった。
(お姉様‥‥‥)
それまで分からなかったエルダの顔。今初めて見たエルダの顔は、凛々しくそして美しかった。そしてそこに立っているだけで、立ち姿だけで彼女が自分の理想であると、そう感じたアリアはエルダに対し、強烈な憧れを抱く。
(でへへへ‥‥。陛下‥お姉様‥‥)
先程の殊勝な思いはどこへやら。あっという間に妄想の世界へ。どういう神経をしているのか、周りが引くほどだらしない顔に。真に残念な娘である。
「‥‥‥‥―――――けで新入生の皆さんも、弛まぬ努力と研鑽を積み、立派な勇者になる事を願っています」
「「「「「「「「「「ワァァァァァッ!!!」」」」」」」」」」
女王の祝辞が終わり礼をするまで静まり返っていた講堂が、我に返ったように沸く。これには流石のアリアも、妄想から引き戻される。
(何?何?何なの!?)
慌てて周りを見てそれとなく合わせて拍手もするが、付いて行けていない。
やがて、何時までも壇上を離れない女王の姿に疑問を感じたのだろう。徐々に歓声や拍手が小さくなっていく。
「‥‥‥それでは、最後に私の方から、新任の教師の方の紹介をさせて頂きます」
「え‥‥?」
「陛下が‥‥?」
ザワザワと、静けさを取り戻しつつあった講堂が、再び騒がしくなる。それもその筈、新任教師の紹介はこれまで学院長であるエンリチェッタがしていた事だ。それを女王がするなど前代未聞。新任教師の重要性が際立つ。ザワつくのも仕方が無い。
「お静かに」
決して大きな声では無かったが、不思議と講堂内に響き渡った。あっという間に静けさが戻る。
そして、目にしたのは壇上に上がる一人の男。燃えるように赤い髪と、恐ろしい程に美しく整った顔の男。
「新任教師のデウスです。彼には訓練や実習などの実践教科と、勇者と魔族・魔王に関する知識教科を担当していただきます。それと、この方は≪色欲≫の魔王でもあります。色々と気を付けるようにしてください。余程の事でない限り、彼と何かあっても自己責任です」
『え?』
漏れたのは誰の声か。それとも講堂内の人間の心の声が重なったか。女王の言葉に誰もが呆ける。
「ふむ。紹介にあった通り、これから勇者を育てる事になったデウスだ。≪色欲≫の魔王とも呼ばれておる。覚悟すると良い。余は厳しいぞ?」
堂々たる宣言に、呆然としている者しかいない。皆が理解不能に陥っていた。
そんな講堂内の反応を気にも止めず。デウスはさっさと講堂を去って行く。慌てたようにオリアナレイナとエルダが追っていくその姿に、皆呆気に取られていた。
長期休暇も終わりが近付き、チラチラと人が増え始めた勇者学院。その廊下を荒々しい足取りで進む女性が一人。
彼女の名は、イネス。勇者序列四位にして、ブレイブ王国西の守護者。跋扈単語する魔獣や隣国から王国を守る、守護者の一角である。当然強い。
そんな彼女の歩く姿に、その形相に、すれ違う生徒達は小さい悲鳴を上げる。鬼の形相なんて可愛く見える、修羅の形相。泣く子も黙ることだろう。気絶して。そしてイネスは、目的地に辿り着くと扉を蹴破った。
「ババアッ!テメェ、どういうつも‥り‥‥‥‥んなっ!?」
敬意の欠片も無い言葉遣いが尻すぼみになり、目の前の光景に唖然とする。
いつもなら椅子にふんぞり返り、『妾はまだピチピチじゃ!』などと喚くはずの部屋の主がいない。いや、居るには居るのだが目の前の光景を受け入れられないでいた。
「‥‥あむ‥‥んぅ……ちゅ‥‥‥れあ‥‥」
見覚えのある童女が、見覚えの無い男と濃厚な口付けを交していた。童女は男の腿に座り背中を預け、首だけで後ろを振り向くようにして。男は童女の小柄な体に後ろから右腕を回し、左手で右側の自身の方へ童女の顔を向けるようにして。二人は濃厚な口付けを交していた。
(っ!!)
男の方と目が合い、息を呑む。その暗く昏く冥く闇い瞳の闇に、呑み込まれそうな錯覚に陥る。
しかし目が合ったというのに、男は気にした風も無く行為を続ける。寧ろ、見せ付けるように童女、エンリチェッタの口を貪っていく。
誘うように、挑発するように。男はイネスの眼を見詰めながら、エンリチェッタと激しく口付けを交す。
「んむぅ‥‥ちゅる‥‥‥はむっ‥‥」
舌と舌が絡み合い、唾液と唾液が混じり合う。修羅もいつしか鳴りを潜め、羞恥に染まっている。それなりに経験のあるイネスだったが、自らの中にある経験・知識が幼稚に思える程の淫靡な光景に、魅入ってしまっていた。
「‥‥ふむ。エンリ、客人のようだぞ」
「‥‥ぁ‥やぁ、もっとぉ‥‥でうすぅ」
デウスが口を離してそう言うが、エンリチェッタには聞こえていないようで、寂しげに男、デウスを求める。『ババア』と敬意の欠片も無い呼び方で呼びながらも、学生だった頃から尊敬していた学院長の痴態に、イネスは愕然とする。
「あむぅ‥‥ちゅ‥女よ、暫し待て」
「っ!」
男の声に我に返ったイネスは、エンリチェッタの様子に尋常ではない事態だと判断する。取り敢えずデウスと呼ばれた男の手から、エンリチェッタを助けようと足に力を入れ―――
「動くな」
(っ!?なっ!)
―――踏み出そうとした所で、背後から掛けられた声に身を強張らせる。気付けば首にも手が、鋭く伸びた爪が添えられていた。
(オ、オレが背後を取られた?こんなに容易く?)
確かに、目の前の淫靡な光景に見入っていたというのもあるだろう。しかし、それでも有り得ない失態だった。
「んっ、ちゅぷ、あぁ、じゅるっ、っ!」
二人の口付けが更に激しくなる。息をする暇も与えぬほどに、デウスが攻め立てる。こうなれば、最早≪色欲≫の魔王たるデウスの独壇場。エンリチェッタは一方的に快楽を与えられるだけになってしまう。
「ちゅるっ、ふむっ、~~~っんんんんっ!!」
「!」
口付けの合間に漏れていた甘い喘ぎ声とは違う、何かに耐える声。エンリチェッタの背は反り返り、足先までピンッと伸びている。
「あむぁ……」
二人の口は離れるが、ツーッと銀色の糸では繋がったまま。ただただ厭らしかった。
(クソッ、何だこれは‥‥!)
イネスは見ている事しか出来ない。下手に動けば命が無い事は明白。久々に圧倒的敗北感を味わっていた。出来るのはデウスを睨み付ける事だけだった。
「はぁ……」
イネスの睨み付ける先では、エンリチェッタが満足そうな蕩けた顔でデウスに身を預けていた。デウスはデウスで、エンリチェッタを優しく慈しむように優しく撫でていた。
「エミリア」
「はっ」
イネスを牽制していた者、エミリアがそっと離れる。
「っ!……はっ‥はっ」
それまで殆ど息をしていなかった為か、イネスの体が酸素を欲しがる。そして一気に緊張が解け、体から力が抜け膝から崩れ落ちる。
(クソッ、クソッ‥‥!)
「……して、貴様は誰だ?」
デウスは少々不愉快さを覚えていた。いつもなら形だけでもする謝罪をしない程に。
「‥っ!クソッ、テメェこそ誰だ!ババアに何してやがるっ!」
(ほう。余に怯えていながら噛みつくか)
「ふむ。随分と気性の荒い女だ。生理では無いようだが‥‥口汚いだけか」
当然デウスには、女の生理を察する事など容易い。それどころか、排卵日なども当てられる。伊達や酔狂で≪色欲≫を司ってはいない。紛れも無く性のスペシャリストだ。
「生……!こ、この変態めっ!ロリコンがっ!」
(ロリコン……確か幼い少女に欲情する者の事だったか?アカネが異世界の言葉だと言っていたが‥‥)
「嘆かわしいな。エンリは身体こそ幼いが、立派な淑女だ。それは侮辱であろうて」
「くっ!」
「そろそろ貴様が誰か知りたいのだがな。エンリよ、エンリチェッタ起きよ。其方の客では無いのか?」
ポ~っとした顔でデウスに甘えていたエンリチェッタの頬を、デウスが軽くぺちぺちと叩く。それすらも嬉しいのか、にへらとだらしない顔になるエンリチェッタ。勇者学院・学院長としての威厳は一切無かった。
「……ほへ?」
仕方ないとばかりに、デウスによって強制的にイネスの方に顔を向けられる、そうして初めて、エンリチェッタはデウスとエミリア以外の存在を認識する。
「ぁ‥‥‥‥イ、ネス‥?」
「……よぉ、ババア。暫く見ねぇ内に随分と堕ちたなぁ‥‥?」
「‥~~~~っ!」
エンリチェッタは漸く、己の状況を理解する。
デウスと熱い口付けを交し蕩け切っていた姿を、嘗ての教え子に見られたかもしれない。自殺モノの恥ずかしさだ。一気に顔を赤くし、口をパクパクと開閉する。
「い、いちゅ、いいいつから‥‥!?」
「テメェが熱心に、その男を求めていた所からだよ。一体その男は、こいつらは何モンだぁ!?ババア、てめぇ!?」
突如現れた黒い影が、イネスに襲い掛かる。
「忘れるのじゃ~!!!」
(ふむ。案外やるな。エミリアに反応は出来ていなかったのは、余とエンリの行為に見惚れていたか)
黒い影の攻撃を躱し、打ち倒していくイネス。武器は持たず、徒手格闘。両手両足に身に着けてある武具が、彼女の『聖剣』だ。
(クソッ、何だこれは!?強くなってやがる!?)
一見危なげなく対処しているが、内心そんなに余裕はない。そして。正確にエンリチェッタの変化を感じ取っていた。
「ふむ。そこまでだ。エンリ」
「ふぁぁ!?」
エンリチェッタの服の中に差し込まれたデウスの手が、彼女の胸の突起を摘まむ。突然の快感に甘い声を漏らし、同時に黒い影が霧散する。
(聞かれた‥‥。完全に聞かれたのじゃ‥‥)
堪え切れず漏らした喘ぎ声を、デウスのみならず元教え子にも聞かれるという恥辱。エンリチェッタの体が羞恥で、プルプルと震えだす。
「エンリ。この程度で恥ずかしがるな」
「な、何がこの程度じゃ!?い、い、いきなり妾のち、ちく……胸を摘まみおって!」
『乳首』が言え無いようだ。流石にイネスも半眼になる。
「分かっておらぬな」
「何がじゃ!?」
「余は抱くぞ?例え人前であろうとな。余の女なれば、どこであろうと受け入れよ」
暴君がここにいた。≪色欲≫の魔王。色事に関しては暴君らしい。あまりの言い分に、エンリチェッタも呆気に取られる。
「安心せよ。見せる者は選ぶし、時と場所も選ぶ。ただ、それくらいの覚悟はしておけという話よ。其方は余の女であるのだからな」
「!う、うむ!分かっておるのじゃ!ちょっと吃驚しただけじゃ!」
『余の女』その言葉にエンリチェッタは嬉しさを隠し切れない。アホ毛も犬の尻尾より激しく、左右に揺れている。
「クソ……何なんだよ」
「して、貴様は誰だ?」
先程と同じ質問。しかし今回は、威圧感が違った。
「ぐっ‥変態に名乗る名なんて無ぇ!」
「‥‥こうも正面から変態と何度も罵られるのは、新しいな。新鮮さがある」
≪色欲≫の魔王に対して暴言を吐くのは、同じ魔王か愚か者だけ。魔族はその身に宿す魔力量により、ある程度の力量を見抜ける。魔王クラスともなれば力量差は歴然で、逆らうのは身の程知らずだけ。
故に、デウスにとっては罵倒の言葉も新鮮であるらしい。
「イネスよ。滅多な事を言うものじゃないのじゃ。この御方は魔王じゃよ」
「は?」
ババアが遂にボケた。イネスの顔にはそう書いてある。
「ババア……遂にボケたか?」
言葉にもした。このイネスという女、本当に口が悪い。
「ボケてはおらぬのじゃ!相変わらず失礼な奴じゃ。≪色欲≫の魔王デウス。それがこの方の正体じゃ」
「‥‥」
嘘には見えない。長い付き合いだ。自分をおちょくる時と、そうでない時の違いくらい分かる。
「止めておけ」
「っ!?」
(体が!動かない!?)
魔王を討つべく踏み出そうと力んだ所で、気付く違和感。見れば闇に体か拘束されていた。
「は‥はは……ははは」
全く相手にならない。勇者序列四位の自分が子供、いや赤子扱い。最早イネスも笑うしか出来ない。
「今回イネスを呼んだのは、頼みがあっての事じゃ」
「はっ‥‥その変態の相手でもしろってか!?本当に堕ちたなぁ!?エンリチェッタ!!」
(オレがそう簡単に言いなりになると思うなよ!?)
尊敬していた学院長はもういない。目の前にいるのは≪色欲≫に屈したアバズレだけ。言葉にこそしないものの、イネスの眼はそう言っていた。
「‥‥儂まだ処女なのに、この扱い。ちょっと傷付くのじゃ……」
「エンリ。頼みという事は、こ奴が例の?」
デウスは平常運転。後で時間がある時にでも慰めればいい、そう考えるデウスは目の前の事にだけ意識を向ける。
「……そうじゃ。イネスよ。お主に頼むのは」
(クソがっ!オレは絶対に屈しねぇ!)
「この学院で教員をするデウスのサポートじゃ」
(オレは勇者だ。≪色欲≫何かに屈して堪る‥‥‥は?)
「は?」
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かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます
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魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
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どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
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それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
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こちらも頑張って下さい。応援してます
エタっていますか?頑張って下さい!
遅くなってしまい申し訳ありません_(_^_)_
エタってはいないないつもりですが、リアルが忙しくて手が出せていません(;^ω^)
もう少ししたら落ち着くはずですので、それまで今しばらくお待ちを……
なろうからです
更新頑張ってください
感想ありがとうございます。
『殺し屋の女難』共々、ありがとうございます。
こちらは1~2週間ペースで更新していくつもりです。3週間は空けません…多分(;^ω^)