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第61話 出航

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『ボルビックか? シュタットガルドじゃ』

『おお、連絡を待って居ました翁。どうだった? ヒュドラは居ましたか』
『居たのか? と言う質問に対しては、確かに存在した。しかしそれは、エンシェントドラゴンでは無く。古代遺跡の守護ゴーレムであった』

『と、いう事は? 無力化出来たのですか?』
『いや。今回の依頼は、失敗と言う事で処理して置いてくれ。心配せんでも良い。ヒュドラが直接帝国を襲う事は無い筈じゃ。帝国が再び古代遺跡を力づくで攻略するなどと言い出さない限りはな』

『Sランク三人がかりでも倒せないのですか?』
『倒せるかどうか、と言う話なら倒せるであろう。倒すよりも魅力を感じる事があったと言うだけじゃ』

『それでいいのですか? 金貨4000枚三人なら12000枚の報酬ですぞ?』
『ああ、構わん。これでわしらは一切この依頼から手を引く。ヒュドラがもし帝国を襲う事でもあれば、責任もってわしらが出向かおう』


 ◇◆◇◆ 


 一体どういう事だ。
 被害をもたらさないと約束するなら、依頼達成として処理しても問題無い筈なのに、それを拒むとは……

 取り敢えず、依頼主には連絡しておくか。

 帝都の近衛都督である依頼主のギルバート将軍に、連絡を行った。

「と言う事はだ。あのヒュドラは古代遺跡の守り神で、遺跡の発掘を目的にした軍を襲ったと言う訳なんだな?」
「Sランク冒険者三名の、合同報告ではそう言っております」

「だとしたらだ。もし帝国が古代遺跡の探索でなく、王国に奪われた土地を取り返すために挙兵を行うなら、それをヒュドラが襲って来る事は無いと言う判断で良いんだな?」
「ギルバート将軍。冒険者ギルドは国の枠には基本捕らわれません。国同士の戦争に関わる事も一切ありませんので、そのご質問に対してギルドが返答を差し上げる事は御座いません」

「貴様。帝国に居ながら、帝国の国益を損ねる様な発言をするのか?」
「将軍。勘違いをされては困ります。戦争に関しては冒険者ギルドはこちらも敵対する国も、一律関わる事は出来ないのです。これが守られないと本当に災厄級のモンスターが現れた時、今回の様なSランク冒険者を複数集め対処する事など出来なくなります。冒険者ギルドは国を守る為に、戦争には加担しないと言うだけです。傭兵として冒険者を国が雇う事までは口出ししませんが、仲介は行えないと言うだけです」

「まぁ良い。今回の件は成功報酬は支払わないでいいのだな」
「依頼を受けた三人が同じ意見と言う事ですので、構いません」

「解った」


 ◇◆◇◆ 


「マクレガー大佐。古代遺跡を狙いさえしなければヒュドラは戦争の邪魔をする事は無いと言う事だ。至急軍を纏め、王国に割譲した土地を取り返す為に進軍を行え」
「了解しました。私が現地に潜入した際に確認した王国の守備軍は僅か1000名程でした。これを殲滅後にカール村まで支配領域を広げるのは、許可を頂けますか? やられたまま我慢をするなど出来ませんので」

「それは許可をするが、くれぐれも遺跡方面に手を伸ばして、ヒュドラを刺激するなよ?」
「その件ですが、あの地域の領主代行を名乗るギース子爵が。古代遺跡への調査探索を開始するという情報も入って来ております。彼らにも同じように、ヒュドラからの神罰は下るのでしょうか?」

「解らぬな。ボルビックの言う理論が本当なら、そうなっても不思議はないが」
「王国に気付かれ、援軍を送ってくる前に一気に決着を付けよ。領主代行を名乗るギースとやらは、捕虜として捕らえるのが一番望ましい形だな」

「解りました。進軍の気配を気付かれぬように迅速に奪還作戦を行います」


 ◇◆◇◆ 


αアルファちょっと聞きたいんだけど?」
「何でしょうか? ご主人様」

「カイン様…… αにはご主人様って呼ばれても、駄目って言わないんですね」
「ナディア…… だってαってゴーレムだから、ナディアは大事な仲間だから駄目って言ってるだけだよ」

「そ、それならいいです」

「他のヒュドラって何処にあるとか解るのか?」
「お答えします。古代遺跡には間違いないですけど、古代遺跡の入口は殆ど埋まっておりますし、その当時とは地形も違っておりますので、海底や他の大陸や島である可能性もあります」

「あー、そう言えばレオネアは通商国の古代遺跡の発掘に参加したんだよな?」
「うん。僕がメインで発掘したよ」

「ヒュドラ型ゴーレムとか居なかったの?」
「通商国の古代遺跡は、完全に崩壊してたからね。まだ発掘は全部は終わって無いんだよ。地下を掘るのは大変だしね」

「高軌道型ゴレムは、ヒュドラ型とは限りません」
「まじかα」

「はい」
「ヒュドラ型じゃ無かったら、このΩに接続出来ないとか無いの?」

「それぞれの形態に合わせた、ドッキングスペースが自動制御されます」
「凄いな。それじゃぁさこの箱舟みたいなのは、他にもあるの?」

「お答えします。この箱舟は過去に世界の終焉を迎えた時に、当時の文明を伝えるために建造されました。他の国でも同様の物は作られたかもしれませんが、私は知り得ません」
「そうか。古代遺跡を探して回れば他にも出会えるかもな。もしかしてこの大陸以外の国だと、もうとっくに掘り出して実用化とかしてるかもしれないし」

「夢いっぱいだね」
「まぁ俺はこのΩがあるから、他の飛空船を手に入れるより、食材を手に入れたいな」

「カインはどんな食材が欲しいの?」
「ん? レオネアは食材詳しいのか?」

「パパが食料品の交易をメインでやってたから、大体の国の特産品は解かるよ。この大陸限定だけどね」
「そうか、行く先々で教えてくれ」

「任せて」

 翌朝ヒュドラの休憩時間も十分に取ったので、アケボノへ向けて飛び立った。

 操縦はレオネアに任せてある。
 ヒュドラの稼働時間に余裕を持たせたいので、二日掛けて飛ぶ予定にした。

 途中、獣人国ギャリオンで一泊をする予定だ。

「ギャリオンは人間に対して敵対的であったりしないのか?」
「奴隷を連れてたりしたら駄目だけど、好意的だったらそんな事は無いよお」

「チュールちゃん。情報は正確に伝えなきゃ駄目よ?」
「えっ。メーガンさんその情報違うの?」

「悪意は無くても、とにかく勝負を挑まれるわよ」
「まじかよ。大変だな。じゃぁ立ち寄らずに上空か海で一泊の方がいいか?」

「駄目よカインお兄ちゃん、チュールは久しぶりの祖国なんだから」
「そっか。チュールの出身地はどの辺りなんだ?」

「北側の海沿いの港町」
「それなら海岸線を進んで行くからその辺りになったら教えてくれ。それに勝負を挑まれたら。全部ジュウベエに任せたらいいか」

「うん」
「おい。何で全部俺なんだ」

「魔法でドッカンってわけには行かないだろ?」
「カインが受ける選択は無いのかよ?」

「面倒臭い」

 今日の目的地も決まり、いよいよ出航する事になった。
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