異世界召喚?そんなこと望んでません!元の世界に帰してください!

翡翠と太陽

文字の大きさ
13 / 94

13.私の家

しおりを挟む
    いろんな意味で村人の皆さんから圧力を感じたノアさんは、すぐに空いてる家に私を案内してくれた。

 マーゴットさんは一度自分の家に戻ると言って、私をノアさんに託していった。

    私は改めてノアさんにご挨拶をした。

    「よろしくお願いします、レイと言います。家族はいません。一人で何でも出来ます。ご迷惑にならないようにします」

    ノアさんは少し驚いたように私を見た。年齢は私より少し上くらい?20代は間違いないと思う。
     私は特別怪しいけど、ノアさんも何か訳有りなのかな。

    「ああ、俺はノアだ。ただのノア、ただのというのは平民ということだ。今はこのメルトル村に流れ着いて、平和なこの村が好きでなんとなく住み着いて管理者をしている。君と同じかもね」

    やっぱりここは平和なんだ。ということは、ノアさんも揉め事や争い事は苦手な人なんだろうな。良かった、私を邪険にする方の人じゃなくて。
    そっか、名字の無い人は平民なんだ。それならあのお城の人たちはたぶん全員貴族だよね。やっぱり名前を確認しないと、うっかり近付き過ぎてまた辛い思いするのは嫌だ。

    ノアさんも何か事情があって住む場所を探してこの村に来たということなのかな。
     それでもノアさんはこの世界の人だけど、私はこの世界の人間じゃないから怪しさが数段違うし、今度機会をみてノアさんには私のことを話しておこう。 

    ノアさんが町の中を案内しながら、目的の家まで歩いた。 

    「ここは緑の家だ。2年ほど空き家だが手入れはされている。村の中心に近いから、安全性も利便性も良い。ここがまずはお勧めかな」

    ノアさんは鍵の束を取り出し、屋根と同じ緑色の鍵で玄関の鍵を開けた。緑の屋根に白い土壁、小さな庭はガーベラのような花が満開に咲いている。
    可愛い!なんて可愛い家なのー!

    中に入ると右にキッチンとダイニング、奥にバスルームがあった。左側は居間のような感じでソファーがあって、その奥に階段がある。
    階段を上がると2階はワンフロアで寝室だった。

    はぁ~何もかも最高~!
    こんな家に憧れていたんだよね。    
    私の家は建て売り住宅だったけど、お母さんが小さな庭をイングリッシュガーデンのようにお洒落に手入れをして、家の中はカントリー調にして穏やかで暖かくて、家に帰るのが楽しみだった。
    その愛すべき家を思い出させるこの家に住めるなんて…

    「あの、本当にこの家に私が住んもで良いんですか?」

振り返り、窓の立て付けを確認しているノアさんに聞く。

    声を掛けた私を見たノアさんが、えっ…と声をあげ、目線を泳がせながらおずおずと近付いてくると、胸ポケットからハンカチを出して私に差し出した。

    涙が溢れていた。家族を思い出すと反射のように涙が溢れてくる。
    人前で涙を流すのはとても恥ずかしいし、本当に泣きたくない。
    でもこの世界に来てからは止めることの出来ない涙を何度も流してしまっていた。

    「すみません、懐かしい家族を思い出すお家だったので…」

    ノアさんは不自然じゃない方向に目線をそらし、涙を流した私を見ないよう気遣ってくれた。

    「家族……   あっ、いや、気に入ってくれたのなら良かった。次の家を見に行こうか」

    ノアさんは視線は反らしたまま階段の方に向かって歩き出した。

    「あっ、ノアさん!私この家が良いです!この家に住ませて欲しいです」
    私が慌てて伝えると、ノアさんは私をジーッと見つめたあと、わかったと言ってこの家の契約をすることになった。

    契約する際に、この世界のお金を持っていなかったことに気付き、土下座する勢いで謝罪すると、

    「何か事情が有りそうだし、いつかその辺も聞かせてもらいつつ、ゆっくり返してくれたらいいよ」

と、ノアさんは全開の笑顔を向けてくれたが、なぜか子供の頃の裕太がいたずらを隠している時の少し悪い顔になっていたような気もした。

    契約手続きが終わると、マーゴットさんが私を迎えに来てくれて、
    「今日は私の家に泊まりな。今日この家で寝るには準備が間に合わないでしょ」
と言ってくれた。優しい。嬉しい。

    お言葉に甘えて可愛いらしいマーゴットさんの家に泊めてもらった。
    マーゴットさんのひとり息子さんは結婚して王都に住んでいるらしい。なんと、ひ孫が生まれて2年経つが、距離が距離だけにまだ会えていないと寂しそうだった。

    旦那さんは5年前に旅立たれたと言うが、部屋のあちこちに旦那さんとの優しい思い出が残っていた。

    夜にマーゴットさんの手作り料理をご馳走になったけど、とても美味しいうえに体中の細胞が喜んでいるような、生きる力が湧き上がり、血が駆け巡っているような感覚があった。

    今まで魔法で食を満たしてきたが、やはりあれは満腹感があっても、必要な栄養はあまり無かったようだ。あのぽっちゃりワガママボディがこんなにほっそりとしてしまったのだから。



    「あ~快適すぎる~幸せ~」
    メルトル村に住み始めて一月経った。
    毎日が平和で穏やかで、私の人生初のひとり暮らしはとても順調で快適だった。

    マーゴットさんや村の人が、どこからか流れ着いた私を物珍しさや若干の警戒心を持ちながら、毎日のように私に声を掛けてくれた。もちろん一番は心配してくれているのだ。

    「レイ!私の家に来ておくれ、水鳥の肉があるけど、食べきれないんだよ!」

    「レイちゃん、これあげるコモモの実、甘くて美味しいよ」

    私が家の外に出ると、必ず誰かが遠くから声を掛けてくれる。いきなり近寄ってきたり、家に突撃してきたりはせず、さりげなく私の様子を見ながら声を掛けてくれるのだ。

    この村の人の優しい距離感が私には嬉しかった。

    この世界に必要だと勝手に呼ばれたと思ったら、いない者のように放置された。その真逆の状況が理解できず怖かった。
    今でも突然私の家の扉をドンドンドンと大きな音で叩いて侵入してきたらどうしようと考えるくらいには、怖かった事実が体に張り付いている感覚がして拭えない。

    心理的にも物理的にもさりげなく適切な距離を保てる人たち。このメルトル村の人たちは、私が生きていくのにもっとも大切な感覚が似ていて心地よかった。

    しかし、私にはお金が無かった。
    お金も無いのに部屋を貸してくださいなんて、正気の沙汰ではない。
    ノアさんに私がこのメルトル村でお金を稼ぐ方法を相談した。

    「私に出来ることであれば何でもやります!仕事をください!お願いします!」

    「うーん、そうだなぁ、仕事といってもここでは皆が自活していて、ほぼ物々交換で生活が成り立ってるんだよなー」

    それぞれが畑を持ち、自分の分、隣近所の分を育てて分けあう。狩りが得意な人と野菜と肉を交換したり、余った分は保存加工をして備蓄するか、月に一度やって来る商人に売ってお金にする。

    そのお金で、村では作れない石鹸や紙、塩などを購入する。ずっとこんな風に生活しているので、私がアルバイトをしてバイト代を稼ぐことは難しいらしい。

    「でも、この村も高齢化が進んでいる。老人たちが出来ることも限界があるんだ。その部分を君が補ってくれたら助かる。この村で一番若いのは俺なんだ、今まではね。君は成人していないよね?子供は成人すると一度は村を出ていってしまうからね。王都への憧れがあるから」

    ノアさんは今27歳だそうだ。私が23歳と言ったらとても驚いていた。

    私は、私を助けてくれたこの村の人たちに恩返しがしたい。私に出来る全てのことをしよう。この村の人たちの役に立つんだ。そう、私には魔法があるんだから!


    
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...