異世界召喚?そんなこと望んでません!元の世界に帰してください!

翡翠と太陽

文字の大きさ
18 / 94

18.それぞれの思い込み

しおりを挟む
    「来たか、そこに座れ。体調はどうだ?」

    父上の執務室に呼ばれソファーに座った。執務室ということは何かあったのか。

    「はい、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。そろそろ社交に携わることも再開しようと思っています」

    そうか、と言うと父上が私の顔を見つめる。いつも何の感情も表さない深い濃い青色の瞳で相手の感情を探るのだ。

    「聖女がいなくなった」

    は?それはそうだ帰還の儀で帰ったのだから。
    あの少女のことを思い出したが、もう心は痛まない。
    ん?    違う、なんだこの違和感は。

    「お前が思っている娘ではない。聖女判定で正式に大聖女と登録された方だ」

    そうだ、あの女だ。
    あの醜い女、今の今まで忘れていた。違和感はそれか。でも忘れていたお陰で、あの少女のことも良い思い出となっているような気がする。

    あの女がいなくなった?王族の地位を望んだ強欲な女が?

    「あの醜い強欲な女ですよね?何故です?王族を望んでいたはずなのに」

    父上はソファーにゆっくり背中を預け静かに目を閉じ、一度ため息を吐くと正しく座り直した。

    「フェリクス、そこがすべての間違いだったのだ。あの大聖女は王家など望んでいない。王族に準じた生活を保証すると言った宰相に、それは不要だと言ったのだ。元いた世界に帰りたいから、その待遇は必要ないと。それを何思って勘違いしたのかお前は、準王族では満足しない強欲な女として作り上げてしまった。
    仕方の無い部分はある、あの体型にあの見た目だ。そして、一緒に召喚されたのが、前聖女を思わせる美しい容姿。それがさらにお前の思い込みを深めた」

    なんだって?俺の思い込み?あの醜い女は贅沢したいだけの女じゃなかった?
    「父上、私は…」

    「愚かなのは私だ。お前の話しを鵜呑みにし、確かめもせずお前にあの大聖女を丸投げしたのだ。そして、贅沢をさせるなと指示を出し、晩餐にも招待しなかった、ただの一度も。この国の誰よりも必要な存在である大聖女様を、だ」

    心臓が跳ね上がった。
    何かとても恐ろしいことが起きているということはわかった。指先が少しずつ冷えてくる感覚がした。

    「父上、いなくなったというのは…」

    表情を一切変えない父上が殊更に恐ろしかった。両肘を自身の太ももの上に乗せ、組んだ手に顎を乗せた。そして真っ直ぐに私の目を射貫くように見る。

 「聖女判定のあと、お前はどうしていた?」

    あの時…    あの少女が聖女じゃないことに衝撃を受けて…

    「私は、あの少女が聖女ではなかったことにひどく動揺し、あの時の記憶はあまり定かではありません…     ただ、少女が帰ってしまった悲しみと、あの女が私の正妃になるという絶望感で冷静ではいられませんでした」

    父上は私の目を探るようにじっと見つめると、
    「お前はあの時、大聖女をどうするかという指示を仰いだ側近の一人に、しばらくほっとけと言ったんだ」

    っ…!その言葉を思い出し息を飲む私を見て、わずかに顔をしかめた父上は初めて少しの感情を見せた。

    「あ…あれは、私のことをほっておいて欲しくて、まさか…それが…」

 「お前の側近は実に忠実な犬だ。その言葉の通り、それから2ヶ月間大聖女を放置した。あの離れに、誰ひとり、行っていない」

    言葉が出なかった。
    それがどういうことなのか理解し始めると、震えと冷えた指先が痺れ眩暈がした。

    「お前ばかりを責めているわけではない。あらゆる不幸が重なったのだ。私が愚かだったこと、お前が寝込んでしまったこと、側近がお前の指示をすべの使用人に伝え、第一王子に忠実な者たちはその指示に従ったこと。
    さすがに少し心配になったが、宰相が指示を出しているだろうと思っていた、と言っていたよ。
    宰相は宰相で、この度の召喚の儀はお前が執り行う事になっていた国家行事だ、聖女に関することはお前が指示を出していると思っていたと言っていた」

    なんてことを… !  
    しかもあの離れは簡単に近付くことの出来ない場所で、私の指示がなければ誰も行くことが出来ないのだ。

    「メイドは!あの時付けたメイドは護衛は?護衛もどうしたんです!?」

    聖女と認定されたらすぐにあの少女に似合うドレスを着せ、ティータイムをとろうと思っていた。
    だから、メイド3人と護衛2人を用意したんだ

    「あのメイドたちは、大聖女様に暴力的な行為と暴言を吐いて護衛に下がるように指示され、護衛がお前と侍女長に報告すると言った途端、王宮から逃げた。もちろん捕まえたよ」

    冷たい汗がとまらず、吐き気もする。私の選んだメイドと侍女長から薦められた二人のメイドが、なんて愚かなんだ。

    「ひとりは大聖女様に直接的に乱暴な行為を行い、あと2人は終始侮辱する言葉を聞こえるように言っていたそうだ。だが大聖女様は聞こえないふりをしていたらしい。そして、その2人は公爵家のリリアーナ嬢が潜り込ませたメイドだった。聖女を王宮から出ていくように仕向けろという指示だったらしい」

    リリアーナが!?    まさか、まさかそんなことを…     私もリリアーナも浅はかでなんて愚かなことを…

    「その、大聖女様は無事なのでしょうか?」

    「ライル長官が部屋を調べたところ、大聖女様はご自身で魔法を習得されたようで、最終的には転移魔法でこの城を去ったようだと言っていたよ」

    「…っ!転移!?…神の魔法ではないですか!この世界中誰も使うことのできない…千年前の大聖女様しか使えなかった、神の魔法…」

    「ああ、我らの大聖女様は凄いお方だ。誰の何の指導もなく魔法を習得されたのだ。ただ、それはご自身の生命の危機を回避するために、偶然魔法を知ることになったのではとライルが言っていた。飲む水さえなく、1ヶ月2ヶ月知らない世界で放置されるとは、どれ程の恐怖だったろうな」

    体がガクガクと震え、涙が流れていることさえも気が付かなかった。

    「護衛からも話しを聞いたが、私との謁見の際、わざと粗末な菓子を置いておいた。そして、私は大聖女様を1時間以上も待たせたのだ。大聖女様がまさか食事をとっていないとは思わず、用意した粗末な菓子が綺麗に無くなっていた皿を見て心底軽蔑したよ。
    だが、大聖女様は前日からまったく飲食していなかったんだ。可哀想に腹が減っていただろう。護衛に食べて良いかを確認したそうだ。護衛が否と言ったのを食べて良いと思ったらしく、ものの数分で完食したそうだ。そのあと護衛に申し訳なかったと頭を下げて謝ったらしい。
    大聖女様がこの王宮で唯一食べたものが、私が用意させた粗末な菓子だったなんて。私は…なんて愚かことを……」

    そう言うと父上は執務室の奥に下がってしまった。
    私はもう自力で立つこともままならず、護衛に支えられ私室に戻ると、気を失うようにベットに倒れた。


しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。

SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない? その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。 ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。 せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。 こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

聖女の、その後

六つ花えいこ
ファンタジー
私は五年前、この世界に“召喚”された。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

処理中です...