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29.各々の罪 ライル長官①
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大聖女がいなくなったことで、城は騒然となった。
魔法省にも陛下からすぐに大聖女捜索にあたるように指示があった。
召喚の儀により召喚した聖女は、本来一人であるべきところが二人召喚された。
その後、過去の文献を調べても例は無く、魔法塔の魔力保護をかけている更に古い文献も調べている最中だ。
魔力判定で千年に一度召喚される大聖女だと神官長が宣言し、我々の時代に大聖女様が存在することに魔法省一同歓喜した。
しかし、心の底から喜ばしいと思える感情が沸き立たないのは、大聖女様と判定された女性の見た目だ。
私自身は幼い頃から魔法の才が秀でており、天才魔法使いとして若くして魔法省長官となり、その役職から伯爵位を賜っている。生家は侯爵家で生まれながらに貴族だった。
私の魔法の属性は母から受け継いだが、外見は父親似で黒髪黒目でこの国では珍しい。
父の母親、私の祖母の国の色だそうだ。
夜会などに参加すると、常に女性が周りに集まるので、見目も良いのだろう。
上質の衣服を美しく着こなす体型を維持し、優雅で完璧なマナーも幼い頃から教育された賜物でもある。
しかし、召喚された大聖女の見た目は美しいとはとてもじゃないが言い難く、自己管理のなっていない体型は私を大きく失望させた。
なぜあのような怠惰な生活を思わせる身体を晒しているのか。異世界の美の感性は大幅にズレているとしか思えない。
私は魔法研究に没頭すると、つい食事を抜いてしまう時がある。
元から身体の線は細く、無理して食べなければすぐに体重が落ちてしまうため、食事の管理は自分自身で行っているのだ。
体力と魔力は比例し、体力を維持しなければ魔力も減ってしまうため、食事の適性量を守り、過剰にならない程度で剣の鍛練をしている。
そんな私から見た大聖女は、とても尊敬できるような人間では無い。なぜ女神はこのような者を聖女に、しかも千年に一度の大聖女として召喚されたのか。
そのうえ、王族と同じ待遇を望むという強欲な女らしい。醜く欲深いとはいよいよ関わりたくない。
聖女判定により認定されると聖女登録が必要となり、登録には長官である私の立ち会いが必要だ。
聖女像とは程遠い、聖女として相応しいとは思えない女に会わなくてはならない。
大聖女が国王陛下との謁見を終えたタイミングで聖女登録を行った。
前聖女様の魔力量も定期的に測定させて頂いたが、この大聖女の魔力量を測定するのも魔法省長官の私の務めだ。
魔力を測定するのは魔力を発動する指先が一番正確だ。
貴族は伴侶や婚約者以外の肌に触れてはならないが、この魔力測定に関してはそれ以外に方法がないので触れるしかない。
なんとなく私がこの女に触れること自体が腹立たしく、見目の良い私に、要らぬ感情を抱かれるのが最も面倒だ。
しかしこれも貴重な研究材料であり、今後その魔力の使い途を考えるためにも仕方のないことだと割りきる。
不快である表情を隠し、その嫌悪する人間の指に触れると、私でも計り知れない複雑で膨大な魔力を保持していた。
しかも、癒しの魔力を保持しているせいか、僅かに触れただけの魔力なのに私の心が凪いでいくような、柔らかで暖かい、私自身が包まれているような魔力だった。
今までの人生で初めての類いの魔力に触れた。
前聖女様が旅立たれ、今や私が国内最高の魔法使いだ。私に追い付く者など今後十年はいないだろう。
その私が自身の魔法など赤子のそれだと思うほど、大聖女の魔力の質は複雑で豊かで優しいものだった。
なんとか動揺を隠しながら聖女登録を行い、大聖女と目を合わすこともせずその場を逃げるように退室した。
そうなると私の感情もますます複雑になってくる。
国中から天才魔法使いと言われている私の魔法など、取るに足らないちっぽけな魔法だと突き付けられ、自分でも唯一無二の存在だと信じていただけに悔しさと羞恥の入り交じった感情が押し寄せる。
ただそれ以上に、大聖女に触れたときの、柔らかく穏やかな空気に全身が包まれ癒される感覚が忘れられなかった。
あの日からずっと、またあの魔力に触れたいと思う気持ちが日に日に膨れ上がる。依存性があるのか。
それでも、あの魔力を強く欲する思いと、醜い女を嫌悪する感情に、経験したことのない戸惑いと混乱を生じていた。
複雑な心境を抱えながら、大聖女による今後の魔物対策や結界保護などの優先順位をまとめていた。
私に大聖女に関する指示が無いため、教育やマナーの指導が進んでいないのだろうと思っていた。
しかし、あの魔力にまた触れたい思いが欲望のように溢れ、何か都合を付けて大聖女に面会しようと思っていた矢先の出来事だった。
居なくなった大聖女の部屋に入ると、大聖女の強い魔力の残渣を感じた。この僅かな残渣でさえも私の心は震えるような喜びを感じた。
その魔力は複雑で高度な仕組みを折り重ね、魔法にしか興味の無い魔法好きの部下を連れて来ていたが、この魔力残渣ですら緻密で理解し難い魔法だと言い、呆然としながらも、
「でも長官、大聖女様の魔法は何て言うか、癒されるというか気持ちが穏やかになると言うか、この僅かな魔力なのに流石ですね。ぜひともお会いしたいのに行方不明なんて」
私の魔法の才に及びもしない部下ですら感じる大聖女の魔力。
適当な理由を付けてでも会っておくべきだった。居なくなってしまっては、あの魔力に触れることが出来ない。
しかもこの部下に大聖女の魔力を知られてしまい、私と大聖女だけの大切な秘密を知られてしまったような気持ちになった。
あの魔力だ。派手に使えばすぐに私の魔力が反応するだろう。
それから、生存すら不安になってきた頃にようやく感知した。
あの魔力、私が求めた強い癒しの魔力。会いたい、早く会ってその魔力に触れたい。
すぐに陛下に報告し、捜索の陣頭指揮をとることになった。私が見つけ出し、私が保護する。そう思ってメルトル村に出発すると、今度は城に大聖女が現れたと伝書が届いた。
転移の魔法を使って現れたらしい。その魔法構築も興味があるが、私が求める魔力もこの目で見て触れたい。
伝書には、大聖女が本物か確認もする、と書かれており、あの醜い見た目のどこに疑う必要があるのか不可解ではあったが、聖女登録証書を持参し貴賓室に入った。
「陛下、聖女登録の証書をお持ちしました」
大聖女はどこにいる?
ソファーに座っている女性は一人しかいない。座れと言われた目の前にいる女性を見て息を飲んだ───
魔法省にも陛下からすぐに大聖女捜索にあたるように指示があった。
召喚の儀により召喚した聖女は、本来一人であるべきところが二人召喚された。
その後、過去の文献を調べても例は無く、魔法塔の魔力保護をかけている更に古い文献も調べている最中だ。
魔力判定で千年に一度召喚される大聖女だと神官長が宣言し、我々の時代に大聖女様が存在することに魔法省一同歓喜した。
しかし、心の底から喜ばしいと思える感情が沸き立たないのは、大聖女様と判定された女性の見た目だ。
私自身は幼い頃から魔法の才が秀でており、天才魔法使いとして若くして魔法省長官となり、その役職から伯爵位を賜っている。生家は侯爵家で生まれながらに貴族だった。
私の魔法の属性は母から受け継いだが、外見は父親似で黒髪黒目でこの国では珍しい。
父の母親、私の祖母の国の色だそうだ。
夜会などに参加すると、常に女性が周りに集まるので、見目も良いのだろう。
上質の衣服を美しく着こなす体型を維持し、優雅で完璧なマナーも幼い頃から教育された賜物でもある。
しかし、召喚された大聖女の見た目は美しいとはとてもじゃないが言い難く、自己管理のなっていない体型は私を大きく失望させた。
なぜあのような怠惰な生活を思わせる身体を晒しているのか。異世界の美の感性は大幅にズレているとしか思えない。
私は魔法研究に没頭すると、つい食事を抜いてしまう時がある。
元から身体の線は細く、無理して食べなければすぐに体重が落ちてしまうため、食事の管理は自分自身で行っているのだ。
体力と魔力は比例し、体力を維持しなければ魔力も減ってしまうため、食事の適性量を守り、過剰にならない程度で剣の鍛練をしている。
そんな私から見た大聖女は、とても尊敬できるような人間では無い。なぜ女神はこのような者を聖女に、しかも千年に一度の大聖女として召喚されたのか。
そのうえ、王族と同じ待遇を望むという強欲な女らしい。醜く欲深いとはいよいよ関わりたくない。
聖女判定により認定されると聖女登録が必要となり、登録には長官である私の立ち会いが必要だ。
聖女像とは程遠い、聖女として相応しいとは思えない女に会わなくてはならない。
大聖女が国王陛下との謁見を終えたタイミングで聖女登録を行った。
前聖女様の魔力量も定期的に測定させて頂いたが、この大聖女の魔力量を測定するのも魔法省長官の私の務めだ。
魔力を測定するのは魔力を発動する指先が一番正確だ。
貴族は伴侶や婚約者以外の肌に触れてはならないが、この魔力測定に関してはそれ以外に方法がないので触れるしかない。
なんとなく私がこの女に触れること自体が腹立たしく、見目の良い私に、要らぬ感情を抱かれるのが最も面倒だ。
しかしこれも貴重な研究材料であり、今後その魔力の使い途を考えるためにも仕方のないことだと割りきる。
不快である表情を隠し、その嫌悪する人間の指に触れると、私でも計り知れない複雑で膨大な魔力を保持していた。
しかも、癒しの魔力を保持しているせいか、僅かに触れただけの魔力なのに私の心が凪いでいくような、柔らかで暖かい、私自身が包まれているような魔力だった。
今までの人生で初めての類いの魔力に触れた。
前聖女様が旅立たれ、今や私が国内最高の魔法使いだ。私に追い付く者など今後十年はいないだろう。
その私が自身の魔法など赤子のそれだと思うほど、大聖女の魔力の質は複雑で豊かで優しいものだった。
なんとか動揺を隠しながら聖女登録を行い、大聖女と目を合わすこともせずその場を逃げるように退室した。
そうなると私の感情もますます複雑になってくる。
国中から天才魔法使いと言われている私の魔法など、取るに足らないちっぽけな魔法だと突き付けられ、自分でも唯一無二の存在だと信じていただけに悔しさと羞恥の入り交じった感情が押し寄せる。
ただそれ以上に、大聖女に触れたときの、柔らかく穏やかな空気に全身が包まれ癒される感覚が忘れられなかった。
あの日からずっと、またあの魔力に触れたいと思う気持ちが日に日に膨れ上がる。依存性があるのか。
それでも、あの魔力を強く欲する思いと、醜い女を嫌悪する感情に、経験したことのない戸惑いと混乱を生じていた。
複雑な心境を抱えながら、大聖女による今後の魔物対策や結界保護などの優先順位をまとめていた。
私に大聖女に関する指示が無いため、教育やマナーの指導が進んでいないのだろうと思っていた。
しかし、あの魔力にまた触れたい思いが欲望のように溢れ、何か都合を付けて大聖女に面会しようと思っていた矢先の出来事だった。
居なくなった大聖女の部屋に入ると、大聖女の強い魔力の残渣を感じた。この僅かな残渣でさえも私の心は震えるような喜びを感じた。
その魔力は複雑で高度な仕組みを折り重ね、魔法にしか興味の無い魔法好きの部下を連れて来ていたが、この魔力残渣ですら緻密で理解し難い魔法だと言い、呆然としながらも、
「でも長官、大聖女様の魔法は何て言うか、癒されるというか気持ちが穏やかになると言うか、この僅かな魔力なのに流石ですね。ぜひともお会いしたいのに行方不明なんて」
私の魔法の才に及びもしない部下ですら感じる大聖女の魔力。
適当な理由を付けてでも会っておくべきだった。居なくなってしまっては、あの魔力に触れることが出来ない。
しかもこの部下に大聖女の魔力を知られてしまい、私と大聖女だけの大切な秘密を知られてしまったような気持ちになった。
あの魔力だ。派手に使えばすぐに私の魔力が反応するだろう。
それから、生存すら不安になってきた頃にようやく感知した。
あの魔力、私が求めた強い癒しの魔力。会いたい、早く会ってその魔力に触れたい。
すぐに陛下に報告し、捜索の陣頭指揮をとることになった。私が見つけ出し、私が保護する。そう思ってメルトル村に出発すると、今度は城に大聖女が現れたと伝書が届いた。
転移の魔法を使って現れたらしい。その魔法構築も興味があるが、私が求める魔力もこの目で見て触れたい。
伝書には、大聖女が本物か確認もする、と書かれており、あの醜い見た目のどこに疑う必要があるのか不可解ではあったが、聖女登録証書を持参し貴賓室に入った。
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