異世界召喚?そんなこと望んでません!元の世界に帰してください!

翡翠と太陽

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75.私が守るもの

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 あれから一年経った。

 「美麗、おはよう。今日はすごく良い天気だ。あとで庭に散歩に行こう。少し寒くなってきたから、暖かくして行こうね」

 目覚めない美麗に話しかけることも、動かない美麗を抱き抱えることも、それが当たり前の日常になっていた。

 動くときには必ず私が抱き抱え、もちろん散歩にも私が抱えてゆっくりと花の周りを歩く。
 
 「美麗、バラの季節ももう終わりだ。また来年咲いたら……美麗…?」

 抱えている美麗の身体に僅かに力が入る。その場にしゃがみ込み、片手で美麗の頬を撫でる。

 「美麗…?俺だよ、ハルバードだ…」

 瞼の下の目が微かに動く。

 「美麗、美麗…?起きて良いんだよ?」

 おでこと頬を撫でている手を美麗の手に移し、優しく握ると美麗の指が動いている。

 「美麗?俺だ、ハルバードだ、俺の手だよ?俺の手を握って?」

 弱々しいが俺の手を握り返してくる。

 「……!美麗……、美麗…気が付いた?起きて良いんだよ、もう大丈夫だから…… 俺がいる、もうそばを離れないから、俺が美麗を…守る…から、だから、お願い、美麗…うっうぅっ…」

 「……ハル……泣いてるの…?」

 美麗の顔や胸の上にポタポタと涙の粒が落ちる。

 「……美麗、美麗、うん、嬉しくて…でも、美麗が、美麗がずっと……眠っていて……うっ…寂しかった……っ!」

 「…ハル、ごめんね、私…もう、つらくて……眠りたかったの」

 「うん、つらい思いさせて…ご…ごめんね、うぅぅっ…!今度は、ずっと…絶対にそばに……いるから!うっ、俺が……守るから…」

 「ハル、ありがとう……大すきだよ……」

 「ううっ……、美麗…あぁーっっ…美麗!わぁぁ…っ、ううっ……」

 俺の泣き声に集まった城の者は、美麗が俺の首に両腕を回し抱き着いていることに驚き、喜びと嬉しさで泣き出す者や叫び出す者などで大騒ぎとなった。

 ブリジットやハンナたちメイドは、号泣しながら美麗の部屋を整え、美麗の世話を始めた。
 
 ほぼ一年眠っていたにもかかわらず、すぐに起きて歩いたのには驚いた。それはやはり大聖女の所以たるものだろう。

 ただ、あんなに食べることが好きだったのに、食が細くなりそれだけが心配だった。

 デザートでも良いから食べるように言うと、そこからはデザートばかりを食べ続けた。

 そして、メルトル村からお見舞いに来てくれたカイルさん夫婦が持ってきたミートパイを見ると、食べることを思い出したかのように食べ出した。

 美麗の持つ大聖女の力は失われていなかったが、それを積極的には使いたがらず、王宮を破壊した記憶が美麗を苦しめていた。

 「人質にされた人たちは?無事だった…?」

 「美麗はあの時、王宮にいた王族を除く全員を結界で保護してたでしょ?怪我した人は一人もいなかったんだよ?人質に取られていた領民も無事だった」

 「そう…でもあの城で働いていた人は仕事ができなくなったでしょ?」

 「それは大丈夫だよ、今はノアのお兄さんのエルドレッド殿が引き受けて、城の文官や使用人たちを雇用してくれたから」

 さすが帝国である。
 あの破壊された城の跡地はすぐに更地にし、帝国仕様の機能的な城を3ヶ月で造り上げた。

 人材の使い方、合理的な費用の計上など、エルドレッド殿の優秀さに安心感とともに少しの恐怖を感じる。

 遅かれ早かれこの国はザイカラル帝国に飲み込まれていただろう。それに抗う能力も知恵も持たない王族だったのだから。

 あの者たちは今なお全員地下牢に収監されている。
 サイラスだけは人がやっと足を曲げて寝れる独房に入っている。

 この状況になってもまだ己の愚かな行いを理解しておらず、時折思い出したように騒いでいるそうだ。

 コイツらに割く時間はないと、エルドレッド殿も放置しているが、美麗が目覚めるのを待っているのではとも思う。

 「ハル、私ね、ハルがアイツのせいで痛いとか苦しいとか、嫌な思いをすることが許せなかった。いつまであの人たちはこんなこと続けるんだろうってウンザリしたの。どこまで私の大切な人を場所を奪っていくのだろうって、ものすごく腹がたった」

 美麗は大きな目に涙を溜め、唇を噛み締めた。

 「美麗、美麗があの時俺を助けてくれたお陰で俺は無事だったんだよ?
 アイツらはね、自分たちは特別ということをはき違えているんだ。
 王族で特別ではあるが、人を自分の意のままに従わせることが出来ると、なんでも自分たちの思い通りになると当たり前に思っているんだ。愚かな奴らだ。そんな奴らが王族なんて国民が可哀想だ」

 美麗の目から溢れた涙をハンカチで拭き、そっと抱き締める。

 「美麗の怒りは当然だ。王子や王女のことだってもっと怒ってもよかったくらいだよ?アイツらはもうただの罪人だ。これから罰を与えられるが、美麗に与えた害はもちろんだが、国を奪われた王族はもれなく処刑と決まっている」

 美麗が処刑の言葉にビクッと反応する。

 「ハル、私はあの人たちにすごく辛い目に遭わされて、本当に大嫌いで、私が殺してやるって思ったけど、その、処刑までは望んでない。
 あいつらが処刑される瞬間に私を思い出したら怖い… 最後に私を思い出して恨んで死なれるのが…嫌… 
 だってあの人たち何が悪かったのかきっとかわからないでしょ?
 変なこと言ってごめんなさい。
 あんなにお城を壊した私が言うことじゃないけど…」

 傷付く必要の無い心を、あり得ないほど打ちのめされた。
 美麗の心の傷を理解出来るものはいないだろう。

 「あとはエルドレッド殿に任せよう。美麗を害するヤツはもういない。あとは美麗が元気になって、幸せに生活できるように俺に手伝わせて?」

 美麗は涙で濡れたまつ毛を光らせ、私を見つめている。

 「ハル、ありがとう…」

 美麗を幸せにするのは俺しかいない。
 この俺の唯一を生涯守り大切にする、それが俺の使命でもあり喜びだ。

 「美麗、愛してる。俺は美麗がいてくれて本当に幸せだ」

 美麗は目尻からポロッと涙をこぼすと、泣き顔をフニャッとさせ笑った。
 その顔がまた愛おしくて、ゆっくりと抱き締めた。


 俺はこの一年、目覚めない美麗を思いながらどうやってアイツらを生きながらにして死ぬほどの恐怖と苦痛と絶望を味あわせてやるかを考えていた。

 なのでこの美麗の提言は願ったり叶ったりだった。
 私はアイツらを処刑などで簡単に殺さない。簡単に死なれては、美麗の味わった苦痛や絶望をアイツらは一生理解出来ない。 

 私に対する罪も。


 あの時、俺を王宮に呼び出した文官から聞いた話しに、俺は体中の血が逆流するかと思うほどの怒りで目眩がした。
 「あの女、俺の手で殺してやる…!」
思わず呟いた言葉に、その文官は苦痛で顔を歪めた。 
 
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