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スクヴェルク邸に到着した二人はすぐさま使用人に案内され、キリウの自室の前へとやって来た。
(そういえば私、この部屋に入るの子供の時以来だ。その後は応接室に通されてたし・・・まあ、親しい人以外入れたくないか)
少し落ち着きを取り戻したベルーラは、ふとそんなことに思いを巡らせ、物思いに沈んだ表情を浮かべた。
使用人が静かにノックし、ベルーラの到着を告げると、扉の向こうから入室を許す声が返ってきた。
静かに扉を押し開けると、少しずつ室内の景色がベルーラの視界に流れ込んできた。書斎としても使用されているらしく、重厚な執務机の上には書類の束が山のように積まれ、壁際の大きな本棚には目眩がしそうなほど分厚い書籍がぎっしりと並んでいた。
(流石は侯爵家嫡男、経済学書や言語学書・・・ありとあらゆる分野の本が並んでる。全ての知識を得ようなんて相変わらず博学多才だわ)
予定外に部屋へ足を踏み入れたベルーラだが、キリウにとっては不本意だろうと思うと、複雑な感情が駆け巡った。
ベルーラたちは使用人の後について行き、寝室へ通じる開いた扉の前に着いた。
室内には家族の姿はなく、数名の使用人と、専属医師らしき中年の男性が寝台を囲む光景が見受けられた。
使用人の話によると、両親は折悪しく旅行中。ベルーラと同じ年の弟も短期留学で家を離れているとのことだった。
ノアに寄り添われながら、ベルーラは恐る恐る寝台へ歩み寄った。そこには、この部屋の主であるキリウが静かに眠っていた。
常にキリウの凛々しい姿しか知らなかったベルーラは、目の前で横たわる弱々しい姿に現実を突きつけられ、愕然と立ち尽くす。
「先ほどまで高熱に魘されておりましたが、現在は点滴の効果か、安静に眠っておられます。幸い大きな外傷はなく、脳にも異常は認められませんでした。ただ、意識が戻らないことには、今後の経過については何とも申し上げられません」
医師は室内にいた面々に説明を続けていたが、ベルーラには医師の言葉がほとんど届かなかった。そんな傷心気味のベルーラが寝台へ近づくと、周囲の者たちは気を利かせ、そっと身を引き、距離を保ってくれた。
キリウの額には傷があるのかガーゼが当てられ、その上に濡れたタオルが乗せられていた。頬は熱のせいか紅く色づき、呼吸も浅く苦しげに上下していた。
(キリウ様・・・)
ベルーラは黙ったままそばの椅子に腰掛け、キリウの手に触れようと手を伸ばした。しかし、包帯で覆われているのを見て、そっと手を下ろすしかなかった。
「もし今、安定してるのであれば、少しの間だけでもいいので、キリウ様のお側にいてもよろしいでしょうか?」
ベルーラは、近くにいたスクヴェルク家の使用人にそっと伝え、傍にいる医師の顔色を伺った。医師が頷くのを確認すると、ベルーラ以外の人物は、静かに部屋を退出した。
「キリウ様・・・」
誰もいなくなった部屋には、自身とベッドで静かに眠るキリウだけ。心配そうな表情を浮かべたベルーラは、ぽつりと名を呟く。
もっと早くに伝えることができたなら、もっと早く解消できていれば、ここにいるのは自分ではなくマーヴェル王女だったかもしれない。
未練と葛藤が複雑に絡み合い、べルーラの心はかき乱される。
(私がこの場にいること、きっと貴方は望んでいないんでしょうね)
べルーラは、頬を伝う涙を手で拭うと、眠るキリウに優しく微笑み、淡く儚い恋心を深く閉じ込めた。
(そういえば私、この部屋に入るの子供の時以来だ。その後は応接室に通されてたし・・・まあ、親しい人以外入れたくないか)
少し落ち着きを取り戻したベルーラは、ふとそんなことに思いを巡らせ、物思いに沈んだ表情を浮かべた。
使用人が静かにノックし、ベルーラの到着を告げると、扉の向こうから入室を許す声が返ってきた。
静かに扉を押し開けると、少しずつ室内の景色がベルーラの視界に流れ込んできた。書斎としても使用されているらしく、重厚な執務机の上には書類の束が山のように積まれ、壁際の大きな本棚には目眩がしそうなほど分厚い書籍がぎっしりと並んでいた。
(流石は侯爵家嫡男、経済学書や言語学書・・・ありとあらゆる分野の本が並んでる。全ての知識を得ようなんて相変わらず博学多才だわ)
予定外に部屋へ足を踏み入れたベルーラだが、キリウにとっては不本意だろうと思うと、複雑な感情が駆け巡った。
ベルーラたちは使用人の後について行き、寝室へ通じる開いた扉の前に着いた。
室内には家族の姿はなく、数名の使用人と、専属医師らしき中年の男性が寝台を囲む光景が見受けられた。
使用人の話によると、両親は折悪しく旅行中。ベルーラと同じ年の弟も短期留学で家を離れているとのことだった。
ノアに寄り添われながら、ベルーラは恐る恐る寝台へ歩み寄った。そこには、この部屋の主であるキリウが静かに眠っていた。
常にキリウの凛々しい姿しか知らなかったベルーラは、目の前で横たわる弱々しい姿に現実を突きつけられ、愕然と立ち尽くす。
「先ほどまで高熱に魘されておりましたが、現在は点滴の効果か、安静に眠っておられます。幸い大きな外傷はなく、脳にも異常は認められませんでした。ただ、意識が戻らないことには、今後の経過については何とも申し上げられません」
医師は室内にいた面々に説明を続けていたが、ベルーラには医師の言葉がほとんど届かなかった。そんな傷心気味のベルーラが寝台へ近づくと、周囲の者たちは気を利かせ、そっと身を引き、距離を保ってくれた。
キリウの額には傷があるのかガーゼが当てられ、その上に濡れたタオルが乗せられていた。頬は熱のせいか紅く色づき、呼吸も浅く苦しげに上下していた。
(キリウ様・・・)
ベルーラは黙ったままそばの椅子に腰掛け、キリウの手に触れようと手を伸ばした。しかし、包帯で覆われているのを見て、そっと手を下ろすしかなかった。
「もし今、安定してるのであれば、少しの間だけでもいいので、キリウ様のお側にいてもよろしいでしょうか?」
ベルーラは、近くにいたスクヴェルク家の使用人にそっと伝え、傍にいる医師の顔色を伺った。医師が頷くのを確認すると、ベルーラ以外の人物は、静かに部屋を退出した。
「キリウ様・・・」
誰もいなくなった部屋には、自身とベッドで静かに眠るキリウだけ。心配そうな表情を浮かべたベルーラは、ぽつりと名を呟く。
もっと早くに伝えることができたなら、もっと早く解消できていれば、ここにいるのは自分ではなくマーヴェル王女だったかもしれない。
未練と葛藤が複雑に絡み合い、べルーラの心はかき乱される。
(私がこの場にいること、きっと貴方は望んでいないんでしょうね)
べルーラは、頬を伝う涙を手で拭うと、眠るキリウに優しく微笑み、淡く儚い恋心を深く閉じ込めた。
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