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ヴィルスが領地に戻った数日後、スクヴェルク家の使者が訪れ、キリウの容態が回復したとの報せを受けた。
ベルーラとノアは、すぐに身支度を整えると、使者が乗ってきたスクヴェルク家の馬車に乗り込んだ。
使者によれば、目を覚ましたのは一週間前のことだったという。容態に異常がないと確認され、ようやくベルーラたちに報せを出せる状況になったとのことだった。
「では、キリウ様とはお話しできる状態なのですね」
「然様でございます。しかしながら、目を覚ましてからまだ日が浅いため、心身に負担を強いることは控えて欲しいと医師から伝えられております」
ベルーラは、キリウの意識が戻ったことの安堵と喜びが心を包み込む。だが同時に、あの話以来の再会を前に、複雑な不安も胸の奥に潜んでいた。
☆☆☆
「わざわざ足を運ばせてしまって、すまなかったね。本来ならすぐに連絡すべきだったんだが、まずは本人の体調を確認し、精密検査で異常がないかを調べていたものだから」
「いいえ、お気遣いありがとうございます。キリウ様の快復を日々切実に願っておりましたので、本当に安心いたしました」
ベルーラは、出迎えてくれたスクヴェルク侯爵夫妻に挨拶を済ませると、そのまま使用人の案内の下、キリウの部屋へと通された。
(はあー、なんか変な緊張感が・・・)
「キリウ様、ベルーラ様をお連れ致しました」
使用人が扉の前で言葉を告げると、入室を許す声が内側から返ってきた。あの日以来の声の主に、ベルーラの心臓は激しく打ち、思わず背筋が伸びた。
「失礼致します」
使用人は静かに扉を開け、ベルーラに中へ入るよう促した。恐る恐る室内に足を踏み入れると、意識が回復したことへの安堵以上に、複雑な感情が胸に広がり、足取りは自然と重くなった。
「ベルーラ様?」
背後で不思議そうな眼差しを向けるスクヴェルク家の使用人をよそに、状況を把握しているノアは黙ったまま複雑な表情でベルーラを見つめる。
(しっかりしなさい、ベル―ラ!)
自身を奮い立たせるように心の奥で活を入れ、寝台のある部屋へと足を踏み入れた。そこには医師と、彼の身の回りの世話をする使用人が二人、寝台の近くに控えていた。ベルーラが入ってくると、彼らは寝台から距離を取り、彼女を招き入れるように道を開けた。
「ご気分は、如何ですか?目を覚まされたと聞き、本当に安心いたしました。まだ意識が戻られたばかりでしょうから、どうかご無理なさらないでくださいね」
寝ている間も手入れが行き届いていたのか、キリウの身なりは以前と変わらなかった。キリウは寝台から起き上がり、ベルーラを射抜くように見つめた。だが、すぐにキリウが微笑んだため、逆にそれがまた恐ろしくも感じられた。
「え・・・っと、キリウ様?」
あまりの唐突な笑みにベルーラも引き攣りながら、笑顔を返す。このよくわからないひと時を迎えた後、皆気を遣ってか寝室から離れようとした刹那、キリウはベルーラに話し掛けた。
「ありがとう。随分と寝ていたみたいだな。身体の節々が痛いよ」
キリウは首のあたりに手をやり、左右に頭を動かしながら筋肉をほぐすような動作をした。
「然様でございましたか・・・。キリウ様、お身体の具合はいかがですか?落ちた時の衝撃で痛む箇所はありませんか?」
普段と違い終始穏やかな表情で話すキリウに、ベルーラは少々違和感を覚えながらも、彼の様子を労わるように問いかけた。
「ああ、今のところは特に問題はなさそうだ。医師も言ってたが、日頃から鍛えていたこともあって特に問題はないらしい」
「然様でございますか。それを聞き安心いたしました」
(んーー・・・みんながいるからかしら。いつものキリウ様と何となく雰囲気が違うような・・・まあ、いずれ落ち着けば、元の仏頂面に戻るのかもしれないけど)
何となく違和感を覚えつつも、ベルーラはキリウと普通に会話できていることに少し安堵した。
「ところで・・・」
会話がひと通り終わると、キリウはベルーラに微笑みかけ、ある言葉を口にした。その瞬間、ベルーラを含むその場の全員が、一瞬で凍り付いた。
「キミは一体・・・誰?」
ベルーラとノアは、すぐに身支度を整えると、使者が乗ってきたスクヴェルク家の馬車に乗り込んだ。
使者によれば、目を覚ましたのは一週間前のことだったという。容態に異常がないと確認され、ようやくベルーラたちに報せを出せる状況になったとのことだった。
「では、キリウ様とはお話しできる状態なのですね」
「然様でございます。しかしながら、目を覚ましてからまだ日が浅いため、心身に負担を強いることは控えて欲しいと医師から伝えられております」
ベルーラは、キリウの意識が戻ったことの安堵と喜びが心を包み込む。だが同時に、あの話以来の再会を前に、複雑な不安も胸の奥に潜んでいた。
☆☆☆
「わざわざ足を運ばせてしまって、すまなかったね。本来ならすぐに連絡すべきだったんだが、まずは本人の体調を確認し、精密検査で異常がないかを調べていたものだから」
「いいえ、お気遣いありがとうございます。キリウ様の快復を日々切実に願っておりましたので、本当に安心いたしました」
ベルーラは、出迎えてくれたスクヴェルク侯爵夫妻に挨拶を済ませると、そのまま使用人の案内の下、キリウの部屋へと通された。
(はあー、なんか変な緊張感が・・・)
「キリウ様、ベルーラ様をお連れ致しました」
使用人が扉の前で言葉を告げると、入室を許す声が内側から返ってきた。あの日以来の声の主に、ベルーラの心臓は激しく打ち、思わず背筋が伸びた。
「失礼致します」
使用人は静かに扉を開け、ベルーラに中へ入るよう促した。恐る恐る室内に足を踏み入れると、意識が回復したことへの安堵以上に、複雑な感情が胸に広がり、足取りは自然と重くなった。
「ベルーラ様?」
背後で不思議そうな眼差しを向けるスクヴェルク家の使用人をよそに、状況を把握しているノアは黙ったまま複雑な表情でベルーラを見つめる。
(しっかりしなさい、ベル―ラ!)
自身を奮い立たせるように心の奥で活を入れ、寝台のある部屋へと足を踏み入れた。そこには医師と、彼の身の回りの世話をする使用人が二人、寝台の近くに控えていた。ベルーラが入ってくると、彼らは寝台から距離を取り、彼女を招き入れるように道を開けた。
「ご気分は、如何ですか?目を覚まされたと聞き、本当に安心いたしました。まだ意識が戻られたばかりでしょうから、どうかご無理なさらないでくださいね」
寝ている間も手入れが行き届いていたのか、キリウの身なりは以前と変わらなかった。キリウは寝台から起き上がり、ベルーラを射抜くように見つめた。だが、すぐにキリウが微笑んだため、逆にそれがまた恐ろしくも感じられた。
「え・・・っと、キリウ様?」
あまりの唐突な笑みにベルーラも引き攣りながら、笑顔を返す。このよくわからないひと時を迎えた後、皆気を遣ってか寝室から離れようとした刹那、キリウはベルーラに話し掛けた。
「ありがとう。随分と寝ていたみたいだな。身体の節々が痛いよ」
キリウは首のあたりに手をやり、左右に頭を動かしながら筋肉をほぐすような動作をした。
「然様でございましたか・・・。キリウ様、お身体の具合はいかがですか?落ちた時の衝撃で痛む箇所はありませんか?」
普段と違い終始穏やかな表情で話すキリウに、ベルーラは少々違和感を覚えながらも、彼の様子を労わるように問いかけた。
「ああ、今のところは特に問題はなさそうだ。医師も言ってたが、日頃から鍛えていたこともあって特に問題はないらしい」
「然様でございますか。それを聞き安心いたしました」
(んーー・・・みんながいるからかしら。いつものキリウ様と何となく雰囲気が違うような・・・まあ、いずれ落ち着けば、元の仏頂面に戻るのかもしれないけど)
何となく違和感を覚えつつも、ベルーラはキリウと普通に会話できていることに少し安堵した。
「ところで・・・」
会話がひと通り終わると、キリウはベルーラに微笑みかけ、ある言葉を口にした。その瞬間、ベルーラを含むその場の全員が、一瞬で凍り付いた。
「キミは一体・・・誰?」
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