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父に呼び出されたベルーラは、なぜか同行してきた兄ヴィルスとともに、テーブルの上の招待状をじっと見つめていた。
「先ほど、王宮より使者が参った。王女殿下の主催により、十七歳から二十歳ほどの子爵家以上で、未婚令嬢を招いた晩餐会が開かれる。招待状はベルーラ、お前宛てのものだ。同伴者は、家族か婚約者限定だそうだ」
招待状の中には、ベルーラ本人と同伴者用の入場許可書が入っていた。
「・・・・・・」
父の説明に、ベルーラは複雑な表情を浮かべ、無言のまま隣に座る兄へ視線を向けた。するとヴィルスは、腕を組みながら淡々と口を開く。
「令嬢限定の会なんですね。何か意図があるのだろうか」
「さあな。これを受け取ったのはつい先ほどだ。詳しいことまでは私にも分からん。発案者は、マーヴェル王女殿下だ。おそらく、ご自身と年の近い令嬢たちと、気軽に親交を深めたかったのかもしれん」
「親交・・・ですか」
社交場はもちろん、お茶会も苦手なベルーラにとっては、胃の痛くなるような招待状。しかも、王女主催となると簡単に断ることも出来ない。
「あの、ずっと気になっていたのですが、なぜマーヴェル様は婿を取るのではなく、嫁がれてしまう予定なのですか?」
ベルーラの問いに、父は静かに目を細め、難しげに眉を寄せた。
「私も詳しくは知らんのだが、王女殿下には年の離れた弟君がおられるそうだ。しかし、生まれつき体調が優れず、公の場にほとんど姿を見せないとか。今は留学中で、王女殿下のご婚儀に合わせて帰国されるそうだ」
「そうなんですか・・・」
弟君がいたことを知らなかったベルーラは、驚きつつ再び招待状を見つめた。あの日以来、王女を目にすることはなく、嫌でもあの場面が想い出される。
(・・・まあ、流れ作業のような挨拶をして、頃合いを見て帰ればいっか)
話を終えて書斎を出たベルーラは、招待状を手に自室へ向かっていた。廊下を進んでいると、背後からヴィルスがその招待状をひょいと取り上げ、しばらくじっと見つめていた。
「このタイミングで、なんでこんなの開くのかね」
そう呟くと小さく息を吐き、再びベルーラの手元へと返した。
「お兄様は学生時代、キリウ様とマーヴェル様とご一緒に過ごされていたのよね。その・・・お二人って、どんな感じだったの? ほら、表側から見てるのと裏側から見るのとでは違うのかなって」
二人の関係を尋ねることは、ずっと怖くて避けてきた。けれど今の自分なら、もう受け止められるかもしれない・・・そう思い、思い切ってヴィルスに問いかけてみた。
「んー、逆にベルは学生時代のマーヴェル様とキリウはどんな感じだったと思う?」
「へっ?あ、んーー・・・」
ヴィルスに問いかけたものの、なぜか質問を投げ返されてしまった。不満を覚えつつも、ベルーラは思っていることを正直に口にした。
「お二人ともそれはとても神々しい存在だったって、まるで伝説みたいに語られているわ。・・・主従といっても、幼い頃からの仲で同い年でもあるし、きっと強い信頼関係で結ばれているのかなって」
「はは、ベルの中じゃ、ずいぶん二人を美化してるんだな」
「そりゃそうでしょ。だって、あのマーヴェル様とキリウ様よ? 誰だってそう思うわ・・・お二人が並んで歩いているだけで、まるで美しい絵画を見ているようだって聞くし」
婚約者という立場でありながら、そんな思いがよぎる自分がひどく情けなくて、ベルーラは自嘲気味に微笑んだ。
「俺の知ってる姫君は、ベルたちが思ってるような人物像とはちょっと違うぞ。俺たちの前では、豪快に笑ったり、居眠りして机に頭をぶつけたり、何もないとこで転んだり・・・とにかく見てて飽きない人だよ。キリウだって同じさ。俺らの前では、あんなスカしてないし、冗談だって言う」
「えッ!?ちょっと・・・全く想像がつかない・・・」
混乱して頭を抱えるベルーラの姿に、ヴィルスは笑いをこらえながらも、再び話を続けた。
「俺から見りゃ、二人とも普通の奴らだったよ。もちろん、周りに人がいれば、皆が憧れる“理想の人物”を演じざるを得なかったけどな。だから大変だったと思う。自分自身を偽りながらも、周囲の期待や配慮を考えて動かなきゃならなかったんだから」
ヴィルスは歩みを止め、壁に背を預けると、ふと宙を見上げた。
「別に、友人だからってキリウを庇うつもりはないぞ。ただ、あいつはあいつなりにちゃんとベルのことを考えていたと思うけどな。器用そうに見えて不器用な奴なんだよ、本当は」
「そうかしら?私と会っている時のキリウ様は、表情も硬くて会話だってほとんどなかった。しかも、お兄様のお話だと少なくとも二人の前では素の自分が出せていたんでしょ。所詮、私は周りの人間と同じ扱いだったのよ」
ベルーラは口を尖らせ、少し拗ねたような表情でヴィルスを見上げた。
「ははは、それは大変だったな」
「もう!笑いごとじゃないんだから!」
「はは、すまない。俺が言いたかったのはな、ベル自身もキリウの前では“表の顔”でしか接してなかったんじゃないかってことだ。お互いに仮面を被ったままじゃ、本当の気持ちなんて見えやしない。キリウだって、もちろんそうだ。だからベルには、過去のアイツじゃなくて、“今”のキリウを見て、自分をぶつけて欲しい。その上で、今後のことを決めてほしいと思ってる」
「・・・もし私の気持ちが変わらなかったら?」
「その時は、父上にもスクヴェルク家にも、俺が一緒に頭を下げて正式に婚約の解消をお願いしてやるから。心配するな。たとえ婚姻がなくなっても、家の縁まで断たれることはないさ」
「・・・ありがとう、お兄様」
ヴィルスはベルーラの前に立つと、優しく頭に手を置き、穏やかに微笑んだ。
廊下でヴィルスと別れたあと、自室へ戻ったベルーラは、招待状への返書を書くために机に向かった。
「楽しみですね。以前と同様、お嬢様の着飾ったお姿を見たら、きっとキリウ様、放心状態になっちゃうかもしれませんね」
ノアは、ベルーラの衣類の手入れをしながら、嬉しそうに話しかけてきた。
「どうかしら。そもそも、マーヴェル王女様が主催の会だからキリウ様とは、同伴は難しいんじゃないかしら」
ベルーラは、机に置かれた紅茶が注がれたカップを手にし、小さな溜息を吐く。
(それより身体のは、いつなくなるんだろ・・・ドレスの試着の時までには薄くなってるといいんだけど)
ベルーラは、噛まれた薬指の痕を見つめながら、再びため息をついた。するとノアは姿勢を正し、真剣な表情でベルーラの方へ向き直った。
「お嬢様、ご心配には及びません。数日経てばきっと、元のようにきれいなお肌に戻っていますから。ドレスの試着もたくさんできます。それまでは、跡が見えないようなお衣装を私がご用意いたしますので、ご安心ください♡」
ノアの嬉しそうな言葉を聞いた瞬間、ベルーラは口に含んでいた紅茶を盛大に吹き出した。淑女としてはあってはならない振る舞いであることは・・・言うまでもない。
「先ほど、王宮より使者が参った。王女殿下の主催により、十七歳から二十歳ほどの子爵家以上で、未婚令嬢を招いた晩餐会が開かれる。招待状はベルーラ、お前宛てのものだ。同伴者は、家族か婚約者限定だそうだ」
招待状の中には、ベルーラ本人と同伴者用の入場許可書が入っていた。
「・・・・・・」
父の説明に、ベルーラは複雑な表情を浮かべ、無言のまま隣に座る兄へ視線を向けた。するとヴィルスは、腕を組みながら淡々と口を開く。
「令嬢限定の会なんですね。何か意図があるのだろうか」
「さあな。これを受け取ったのはつい先ほどだ。詳しいことまでは私にも分からん。発案者は、マーヴェル王女殿下だ。おそらく、ご自身と年の近い令嬢たちと、気軽に親交を深めたかったのかもしれん」
「親交・・・ですか」
社交場はもちろん、お茶会も苦手なベルーラにとっては、胃の痛くなるような招待状。しかも、王女主催となると簡単に断ることも出来ない。
「あの、ずっと気になっていたのですが、なぜマーヴェル様は婿を取るのではなく、嫁がれてしまう予定なのですか?」
ベルーラの問いに、父は静かに目を細め、難しげに眉を寄せた。
「私も詳しくは知らんのだが、王女殿下には年の離れた弟君がおられるそうだ。しかし、生まれつき体調が優れず、公の場にほとんど姿を見せないとか。今は留学中で、王女殿下のご婚儀に合わせて帰国されるそうだ」
「そうなんですか・・・」
弟君がいたことを知らなかったベルーラは、驚きつつ再び招待状を見つめた。あの日以来、王女を目にすることはなく、嫌でもあの場面が想い出される。
(・・・まあ、流れ作業のような挨拶をして、頃合いを見て帰ればいっか)
話を終えて書斎を出たベルーラは、招待状を手に自室へ向かっていた。廊下を進んでいると、背後からヴィルスがその招待状をひょいと取り上げ、しばらくじっと見つめていた。
「このタイミングで、なんでこんなの開くのかね」
そう呟くと小さく息を吐き、再びベルーラの手元へと返した。
「お兄様は学生時代、キリウ様とマーヴェル様とご一緒に過ごされていたのよね。その・・・お二人って、どんな感じだったの? ほら、表側から見てるのと裏側から見るのとでは違うのかなって」
二人の関係を尋ねることは、ずっと怖くて避けてきた。けれど今の自分なら、もう受け止められるかもしれない・・・そう思い、思い切ってヴィルスに問いかけてみた。
「んー、逆にベルは学生時代のマーヴェル様とキリウはどんな感じだったと思う?」
「へっ?あ、んーー・・・」
ヴィルスに問いかけたものの、なぜか質問を投げ返されてしまった。不満を覚えつつも、ベルーラは思っていることを正直に口にした。
「お二人ともそれはとても神々しい存在だったって、まるで伝説みたいに語られているわ。・・・主従といっても、幼い頃からの仲で同い年でもあるし、きっと強い信頼関係で結ばれているのかなって」
「はは、ベルの中じゃ、ずいぶん二人を美化してるんだな」
「そりゃそうでしょ。だって、あのマーヴェル様とキリウ様よ? 誰だってそう思うわ・・・お二人が並んで歩いているだけで、まるで美しい絵画を見ているようだって聞くし」
婚約者という立場でありながら、そんな思いがよぎる自分がひどく情けなくて、ベルーラは自嘲気味に微笑んだ。
「俺の知ってる姫君は、ベルたちが思ってるような人物像とはちょっと違うぞ。俺たちの前では、豪快に笑ったり、居眠りして机に頭をぶつけたり、何もないとこで転んだり・・・とにかく見てて飽きない人だよ。キリウだって同じさ。俺らの前では、あんなスカしてないし、冗談だって言う」
「えッ!?ちょっと・・・全く想像がつかない・・・」
混乱して頭を抱えるベルーラの姿に、ヴィルスは笑いをこらえながらも、再び話を続けた。
「俺から見りゃ、二人とも普通の奴らだったよ。もちろん、周りに人がいれば、皆が憧れる“理想の人物”を演じざるを得なかったけどな。だから大変だったと思う。自分自身を偽りながらも、周囲の期待や配慮を考えて動かなきゃならなかったんだから」
ヴィルスは歩みを止め、壁に背を預けると、ふと宙を見上げた。
「別に、友人だからってキリウを庇うつもりはないぞ。ただ、あいつはあいつなりにちゃんとベルのことを考えていたと思うけどな。器用そうに見えて不器用な奴なんだよ、本当は」
「そうかしら?私と会っている時のキリウ様は、表情も硬くて会話だってほとんどなかった。しかも、お兄様のお話だと少なくとも二人の前では素の自分が出せていたんでしょ。所詮、私は周りの人間と同じ扱いだったのよ」
ベルーラは口を尖らせ、少し拗ねたような表情でヴィルスを見上げた。
「ははは、それは大変だったな」
「もう!笑いごとじゃないんだから!」
「はは、すまない。俺が言いたかったのはな、ベル自身もキリウの前では“表の顔”でしか接してなかったんじゃないかってことだ。お互いに仮面を被ったままじゃ、本当の気持ちなんて見えやしない。キリウだって、もちろんそうだ。だからベルには、過去のアイツじゃなくて、“今”のキリウを見て、自分をぶつけて欲しい。その上で、今後のことを決めてほしいと思ってる」
「・・・もし私の気持ちが変わらなかったら?」
「その時は、父上にもスクヴェルク家にも、俺が一緒に頭を下げて正式に婚約の解消をお願いしてやるから。心配するな。たとえ婚姻がなくなっても、家の縁まで断たれることはないさ」
「・・・ありがとう、お兄様」
ヴィルスはベルーラの前に立つと、優しく頭に手を置き、穏やかに微笑んだ。
廊下でヴィルスと別れたあと、自室へ戻ったベルーラは、招待状への返書を書くために机に向かった。
「楽しみですね。以前と同様、お嬢様の着飾ったお姿を見たら、きっとキリウ様、放心状態になっちゃうかもしれませんね」
ノアは、ベルーラの衣類の手入れをしながら、嬉しそうに話しかけてきた。
「どうかしら。そもそも、マーヴェル王女様が主催の会だからキリウ様とは、同伴は難しいんじゃないかしら」
ベルーラは、机に置かれた紅茶が注がれたカップを手にし、小さな溜息を吐く。
(それより身体のは、いつなくなるんだろ・・・ドレスの試着の時までには薄くなってるといいんだけど)
ベルーラは、噛まれた薬指の痕を見つめながら、再びため息をついた。するとノアは姿勢を正し、真剣な表情でベルーラの方へ向き直った。
「お嬢様、ご心配には及びません。数日経てばきっと、元のようにきれいなお肌に戻っていますから。ドレスの試着もたくさんできます。それまでは、跡が見えないようなお衣装を私がご用意いたしますので、ご安心ください♡」
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