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キリウは無意識に口元を押さえ、躊躇いの表情を浮かべた。しかし、それでも覚悟を決め、再び口を開き話し始めた。
「暫くして雲行きが怪しくなり、少し当たる程度の小雨が降り始めてきた。感情が落ち着いた私は、使用人と一緒にベルを迎えに先ほどの場所へ戻ったんだ」
だが、ベルーラの姿はどこにも見当たらず、忽然と消えていた。キリウは名を呼びながら周囲を駆け回り、視線を茂みへと走らせた。すると、先ほど摘んでいた花の束が地面に散らばり、無惨にも踏みつけられた花が痛々しく散っていた。
その瞬間、茂みの奥からベルーラの甲高い叫び声が響き渡ってきた。危険を察知したキリウは、使用人にすぐ護衛を呼ぶよう伝えると、自身は声のする方へ駆け出した。
「あの時のベルの声・・・今でも耳から離れない」
「キリウ様・・・」
これまで遭遇しなかっただけで、害獣の存在がゼロなわけではない。小さな子どもを餌にされて連れ去られたのでは・・・。最悪の考えが、キリウの冷静さを奪った。彼は腰帯に忍ばせていた短剣を取り出し、攻撃に備えた。
『いやーーーッッ!!!!!!!!』
『うるせー!おい少し黙らせろ』
『馬鹿野郎!王女なんだから、ある程度丁重に扱わねーと。怪我させて売値が下がっちまったらどうすんだよ!』
(人間か)
キリウは咄嗟に木々の間に身を隠し、周囲の様子を窺った。幸い害獣ではなかったと安堵しつつも、どう動くべきか頭の中で作戦を巡らせる。
(護衛が来る前に、先回りして挟み撃ちにすれば、敵の逃げ場を塞げる。その間に護衛が倒してくれれば、俺がその隙にベルを助けることができる)
作戦は決まったが、実戦未経験のせいか緊張で心拍が上がり、短剣を握る手が無意識に震えていた。それに気づいたキリウは、手の震えを抑え込むように、深く息を吸い込み、短剣をしっかり握り直した。
キリウは気づかれぬように腰を低くし、気配を殺しながらジリジリと進んだ。だが、雨で泥濘んだ足元に足を滑らせ、思わず小さな音を立ててしまった。
『おい、今そこで何か音がしなかったか?ちょっと見てこいよ』
『どうせ、動物か何かだろうよ。ったく、めんどくせーな』
ベルーラの口を押さえながら抱える男は、キリウが隠れている方向に顎先をそっと向け、無言で進めと合図した。
もう一人の男は、ぶつぶつ文句を言いながら面倒くさそうに近づこうとした。
その瞬間、ベルーラを抱えていた男は大きなうめき声を上げ、彼女を土の地面に叩き落とした。
(今なら俺だけでもいけるっ!)
突発的なアクシデントを受け、キリウは咄嗟の判断で作戦を変更した。
『おい、どうし──』
自分に近づこうとした男が、叫ぶ男の方へ振り向いた瞬間、キリウは茂みから飛び出し、男の脛めがけて勢いよくスライディングした。
『っぐあッッ!!』
『ベルッッ!!!こっちへ来いッッッ!!!!』
『キリィューーーッッ』
倒れ込んだ男を無視し、キリウは走りながらベルーラの名を叫び、こちらへ来るよう促した。
ベルーラは泣きながら必死に立ち上がると、キリウのもとへ向かおうとする。しかし、噛まれた男は彼女の髪を掴み、行く手を遮った。
『きゃーーー、いやぁーーー!!』
キリウは泣き叫ぶベルーラの光景に我を忘れ、忍ばせていた短剣を髪を掴む腕めがけて思い切り振り下ろした。男は先ほどの男以上の叫声を上げると、ベルーラの髪を離し蹲っていた。
『こんの糞ガキがあーーっ!』
男は、痛みに顔を歪めながら切りつけられた腕を押さえ、キリウを鋭い眼光で睨みつけた。
「無我夢中だった・・・という記憶だけで、あの瞬間のことは正直あまり覚えてないんだ。ただ・・・初めて人間の腕に短剣を突き刺し、切りつけた感触だけは・・・今も鮮明に覚えてる」
そこから賊たちに追われながらも、ベルーラの手を取り森を駆け抜けた。だが、慣れない道とパニックで足元がおぼつかず、ベルーラはつまずいて転んでしまった。
『ベルッ!!』
『ふえーーんッ』
キリウは何とか泣きじゃくるベルーラを立たせ、再び逃げようとした。だが、大人の足には敵うわけもなく、すぐに追いつかれてしまった。
『多少大人しくなるようにしとくか』
先ほどキリウから刺された男は、目を血走らせベルーラにナイフを振り下ろした瞬間、キリウは咄嗟に彼女を庇うように覆い被さった。ナイフの刃先がキリウの背中を切りつけた。
『ぐッ・・・!!』
『は・・・はっ・・・は・・・』
キリウの苦しそうな呻き声が、ベルーラの耳元に届いてきた。ベルーラは荒い息をつき、過呼吸気味になりながら、蒼白の顔を涙でぐしゃぐしゃにしていた。
『ふんッ、ガキがませたことしやがって。お姫様を護る騎士にでもなったつもりか?』
キリウは男に近くへと放り投げられ、ベルーラから引き離されてしまった。
『くっ・・・べ、ベルから・・・は、離れ─、ンがッ!!』
キリウが手を伸ばそうとした刹那、上から大きな足に踏みつけられ、痛みから思わず声が漏れ出た。そこには、先ほどスライディングされた男が彼を見下ろし、ニヤリと嗤った。
『坊や、さっきは痛かったぞー。足の骨が折れたかと思ったぜ』
キリウは男に腹部を思い切り蹴り上げられ、勢いよく吹き飛ばされた。
『ぐはっっ!!!』
『いやーーーーーッッ!!!』
ベルーラの叫び声と同時に、男は嗤いながらキリウの髪を掴むと、思い切り頬を殴った。
『なあ、此奴の身なりも結構なもんじゃねーか?』
『そうだな、よく見りゃー綺麗な顔してやがるしな。これはこの王女と同等な値で売れるんじゃねーか?いや・・・顔だけ見りゃあ、王女以上だな』
キリウに短剣で刺された男は、血走る目をさらに赤く光らせると、流れ出た自身の血を舌先で舐め取り、荒々しい息を漏らした。
『キ、キリ・・・ぅ、・・・しゃま・・・』
ベルーラは四つん這いになりながらぐったりと項垂れるキリウに近づくと、そのまま彼を抱き締めた。
背中に手を回すと、ぬるりとした感触が伝わった。
ベルーラは、恐る恐る自分の手に視線を落とした。擦りむき、傷だらけの小さな掌は、キリウの血で赤く染まり、気づけば身体の震えとショックで声も出せなくなっていた。
しばらくその場で呆然とした意識の中、血の匂いと痛み、現実の残酷さを幼いベルーラへ突きつけていた。
抵抗する力も残されていないべルーラは、再び男に腕を引っ張られキリウから離されてしまった。
『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんな・・・・・・』
失声な上、気を失っているキリウには届かないとわかっていながら、ベルーラはぐったりと項垂れるキリウを見つめ、涙でぐちゃぐちゃになった顔で声なき声をあげ、何度も謝った。
再びベルーラが抱え上げられ連れ去られそうになった刹那、護衛騎士がタイミングよく駆けつけ、二人は間一髪で救われた。
・
・
・
・
・
「・・・・・・」
衝撃的な話を聞いたベルーラは、言葉を失った。記憶の中にその出来事はまったく残っておらず、先ほどキリウから告げられた“記憶障害”の言葉が、頭の中で何度も反響した。
(いくら幼かったとはいえ、こんな壮絶な記憶を丸々覚えていないことなんてあり得るの?・・・いや、壮絶だったからこそ、幼い私は記憶を閉じ込めたのかもしれない)
しかし、自分のせいでキリウが大怪我をしたという事実は、たとえ記憶が抜け落ちていたとしても、言葉にできない感情として、今のベルーラに重くのしかかった。
「ベルーラは全身を強く打ち、数週間にわたって安静を余儀なくされたんだ。加えて、過度なストレスからくる高熱がしばらく続き、意識がはっきりしない状態が続いた」
もちろん、重傷の度合いで言えばキリウの方がはるかに深刻で、場合によっては命を落としかねない状態だった。ただ、剣術以外にも体術を身につけていたためか、無意識のうちに急所を避ける動きを取っており、致命傷に至ることはなかった。
それから数週間後、周囲の懸命な看病の甲斐あって、ベルーラはようやく目を覚ました。だが、精神的負荷が原因で心因性発声障害を発症しており、一時的に声を出すことができなくなっていた。
「ベルの身体は、ゆっくりではあるけれど回復に向かっていた。・・・一部の記憶がごっそり抜け落ちていた以外は」
家族や子爵邸で働く使用人たちのことははっきりと覚えていたものの、それ以外の出来事や外部の人間に関する記憶は、きれいさっぱり失われていた。もちろん、キリウの存在も例外ではなかった。
「で、でも・・・キリウ様のことは幼い頃から知っていたんですよね。それなのに、どうして忘れて・・・?」
「殿下の件があったおかげで、よく顔を合わせるようになっていたけれど、それ以前はほとんど話したことがなかったんだ。キミは人見知りで、いつも家族の後ろに隠れているような子だったからね。それに、私自身もどう接すればいいのかわからず、距離を置いていたところがあった」
その後、診療医の診察を受けた際、あの出来事を無理に思い出させることは、医師を含め家族の誰もが望まないという結論に至った。
幸いにも日常生活に支障はなく、ベルーラは少しずつ、元の生活を取り戻していった。だが、あの日以前の記憶はきれいさっぱり抜け落ち、初めてできた友人の存在も、彼女の中から消えていた。
「暫くして雲行きが怪しくなり、少し当たる程度の小雨が降り始めてきた。感情が落ち着いた私は、使用人と一緒にベルを迎えに先ほどの場所へ戻ったんだ」
だが、ベルーラの姿はどこにも見当たらず、忽然と消えていた。キリウは名を呼びながら周囲を駆け回り、視線を茂みへと走らせた。すると、先ほど摘んでいた花の束が地面に散らばり、無惨にも踏みつけられた花が痛々しく散っていた。
その瞬間、茂みの奥からベルーラの甲高い叫び声が響き渡ってきた。危険を察知したキリウは、使用人にすぐ護衛を呼ぶよう伝えると、自身は声のする方へ駆け出した。
「あの時のベルの声・・・今でも耳から離れない」
「キリウ様・・・」
これまで遭遇しなかっただけで、害獣の存在がゼロなわけではない。小さな子どもを餌にされて連れ去られたのでは・・・。最悪の考えが、キリウの冷静さを奪った。彼は腰帯に忍ばせていた短剣を取り出し、攻撃に備えた。
『いやーーーッッ!!!!!!!!』
『うるせー!おい少し黙らせろ』
『馬鹿野郎!王女なんだから、ある程度丁重に扱わねーと。怪我させて売値が下がっちまったらどうすんだよ!』
(人間か)
キリウは咄嗟に木々の間に身を隠し、周囲の様子を窺った。幸い害獣ではなかったと安堵しつつも、どう動くべきか頭の中で作戦を巡らせる。
(護衛が来る前に、先回りして挟み撃ちにすれば、敵の逃げ場を塞げる。その間に護衛が倒してくれれば、俺がその隙にベルを助けることができる)
作戦は決まったが、実戦未経験のせいか緊張で心拍が上がり、短剣を握る手が無意識に震えていた。それに気づいたキリウは、手の震えを抑え込むように、深く息を吸い込み、短剣をしっかり握り直した。
キリウは気づかれぬように腰を低くし、気配を殺しながらジリジリと進んだ。だが、雨で泥濘んだ足元に足を滑らせ、思わず小さな音を立ててしまった。
『おい、今そこで何か音がしなかったか?ちょっと見てこいよ』
『どうせ、動物か何かだろうよ。ったく、めんどくせーな』
ベルーラの口を押さえながら抱える男は、キリウが隠れている方向に顎先をそっと向け、無言で進めと合図した。
もう一人の男は、ぶつぶつ文句を言いながら面倒くさそうに近づこうとした。
その瞬間、ベルーラを抱えていた男は大きなうめき声を上げ、彼女を土の地面に叩き落とした。
(今なら俺だけでもいけるっ!)
突発的なアクシデントを受け、キリウは咄嗟の判断で作戦を変更した。
『おい、どうし──』
自分に近づこうとした男が、叫ぶ男の方へ振り向いた瞬間、キリウは茂みから飛び出し、男の脛めがけて勢いよくスライディングした。
『っぐあッッ!!』
『ベルッッ!!!こっちへ来いッッッ!!!!』
『キリィューーーッッ』
倒れ込んだ男を無視し、キリウは走りながらベルーラの名を叫び、こちらへ来るよう促した。
ベルーラは泣きながら必死に立ち上がると、キリウのもとへ向かおうとする。しかし、噛まれた男は彼女の髪を掴み、行く手を遮った。
『きゃーーー、いやぁーーー!!』
キリウは泣き叫ぶベルーラの光景に我を忘れ、忍ばせていた短剣を髪を掴む腕めがけて思い切り振り下ろした。男は先ほどの男以上の叫声を上げると、ベルーラの髪を離し蹲っていた。
『こんの糞ガキがあーーっ!』
男は、痛みに顔を歪めながら切りつけられた腕を押さえ、キリウを鋭い眼光で睨みつけた。
「無我夢中だった・・・という記憶だけで、あの瞬間のことは正直あまり覚えてないんだ。ただ・・・初めて人間の腕に短剣を突き刺し、切りつけた感触だけは・・・今も鮮明に覚えてる」
そこから賊たちに追われながらも、ベルーラの手を取り森を駆け抜けた。だが、慣れない道とパニックで足元がおぼつかず、ベルーラはつまずいて転んでしまった。
『ベルッ!!』
『ふえーーんッ』
キリウは何とか泣きじゃくるベルーラを立たせ、再び逃げようとした。だが、大人の足には敵うわけもなく、すぐに追いつかれてしまった。
『多少大人しくなるようにしとくか』
先ほどキリウから刺された男は、目を血走らせベルーラにナイフを振り下ろした瞬間、キリウは咄嗟に彼女を庇うように覆い被さった。ナイフの刃先がキリウの背中を切りつけた。
『ぐッ・・・!!』
『は・・・はっ・・・は・・・』
キリウの苦しそうな呻き声が、ベルーラの耳元に届いてきた。ベルーラは荒い息をつき、過呼吸気味になりながら、蒼白の顔を涙でぐしゃぐしゃにしていた。
『ふんッ、ガキがませたことしやがって。お姫様を護る騎士にでもなったつもりか?』
キリウは男に近くへと放り投げられ、ベルーラから引き離されてしまった。
『くっ・・・べ、ベルから・・・は、離れ─、ンがッ!!』
キリウが手を伸ばそうとした刹那、上から大きな足に踏みつけられ、痛みから思わず声が漏れ出た。そこには、先ほどスライディングされた男が彼を見下ろし、ニヤリと嗤った。
『坊や、さっきは痛かったぞー。足の骨が折れたかと思ったぜ』
キリウは男に腹部を思い切り蹴り上げられ、勢いよく吹き飛ばされた。
『ぐはっっ!!!』
『いやーーーーーッッ!!!』
ベルーラの叫び声と同時に、男は嗤いながらキリウの髪を掴むと、思い切り頬を殴った。
『なあ、此奴の身なりも結構なもんじゃねーか?』
『そうだな、よく見りゃー綺麗な顔してやがるしな。これはこの王女と同等な値で売れるんじゃねーか?いや・・・顔だけ見りゃあ、王女以上だな』
キリウに短剣で刺された男は、血走る目をさらに赤く光らせると、流れ出た自身の血を舌先で舐め取り、荒々しい息を漏らした。
『キ、キリ・・・ぅ、・・・しゃま・・・』
ベルーラは四つん這いになりながらぐったりと項垂れるキリウに近づくと、そのまま彼を抱き締めた。
背中に手を回すと、ぬるりとした感触が伝わった。
ベルーラは、恐る恐る自分の手に視線を落とした。擦りむき、傷だらけの小さな掌は、キリウの血で赤く染まり、気づけば身体の震えとショックで声も出せなくなっていた。
しばらくその場で呆然とした意識の中、血の匂いと痛み、現実の残酷さを幼いベルーラへ突きつけていた。
抵抗する力も残されていないべルーラは、再び男に腕を引っ張られキリウから離されてしまった。
『ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんな・・・・・・』
失声な上、気を失っているキリウには届かないとわかっていながら、ベルーラはぐったりと項垂れるキリウを見つめ、涙でぐちゃぐちゃになった顔で声なき声をあげ、何度も謝った。
再びベルーラが抱え上げられ連れ去られそうになった刹那、護衛騎士がタイミングよく駆けつけ、二人は間一髪で救われた。
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「・・・・・・」
衝撃的な話を聞いたベルーラは、言葉を失った。記憶の中にその出来事はまったく残っておらず、先ほどキリウから告げられた“記憶障害”の言葉が、頭の中で何度も反響した。
(いくら幼かったとはいえ、こんな壮絶な記憶を丸々覚えていないことなんてあり得るの?・・・いや、壮絶だったからこそ、幼い私は記憶を閉じ込めたのかもしれない)
しかし、自分のせいでキリウが大怪我をしたという事実は、たとえ記憶が抜け落ちていたとしても、言葉にできない感情として、今のベルーラに重くのしかかった。
「ベルーラは全身を強く打ち、数週間にわたって安静を余儀なくされたんだ。加えて、過度なストレスからくる高熱がしばらく続き、意識がはっきりしない状態が続いた」
もちろん、重傷の度合いで言えばキリウの方がはるかに深刻で、場合によっては命を落としかねない状態だった。ただ、剣術以外にも体術を身につけていたためか、無意識のうちに急所を避ける動きを取っており、致命傷に至ることはなかった。
それから数週間後、周囲の懸命な看病の甲斐あって、ベルーラはようやく目を覚ました。だが、精神的負荷が原因で心因性発声障害を発症しており、一時的に声を出すことができなくなっていた。
「ベルの身体は、ゆっくりではあるけれど回復に向かっていた。・・・一部の記憶がごっそり抜け落ちていた以外は」
家族や子爵邸で働く使用人たちのことははっきりと覚えていたものの、それ以外の出来事や外部の人間に関する記憶は、きれいさっぱり失われていた。もちろん、キリウの存在も例外ではなかった。
「で、でも・・・キリウ様のことは幼い頃から知っていたんですよね。それなのに、どうして忘れて・・・?」
「殿下の件があったおかげで、よく顔を合わせるようになっていたけれど、それ以前はほとんど話したことがなかったんだ。キミは人見知りで、いつも家族の後ろに隠れているような子だったからね。それに、私自身もどう接すればいいのかわからず、距離を置いていたところがあった」
その後、診療医の診察を受けた際、あの出来事を無理に思い出させることは、医師を含め家族の誰もが望まないという結論に至った。
幸いにも日常生活に支障はなく、ベルーラは少しずつ、元の生活を取り戻していった。だが、あの日以前の記憶はきれいさっぱり抜け落ち、初めてできた友人の存在も、彼女の中から消えていた。
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