甘い嘘と罪悪な恋

なかな悠桃

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4 追憶

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今年は暖冬というニュースが流れていたためか雪は積もらず、時折チラチラと空から降り落ちる程度で歩くのに苦労することはなかった。


「澪さん、あれから進展は?」

「・・・・・・なしです」

澪は放課後、生徒会に所属する倫から頼まれたプリントにホッチキスを留めながら目の前で同じくプリントを纏める端正な顔立ちの男に深い溜息を吐かれながら手伝っていた。

「だって・・・やっぱ無理だよー」

「そんなこと言ってたらマジで取られるぞ?澪だってあの噂聞いてるだろ?」

「・・・ん、まぁ」


事の発端は数週間前、今まで全くと言っていいほど異性との噂がなかった昇多に同じ学年で女子バレー部の女子生徒の一人と体育準備室で抱き合っていたという噂が流れた。


「あのじょバレの、割と人気あるみたいでさ。俺的にはもうちょっと肉付きがある子の方がいいから興味ないけど・・・ってまぁそれはいいとして、結構前から親しそうに話してるとこ目撃されてんだよね。元々昇多って、澪とは仲良いけどそれ以外の女とは喋んないだろ。それなのにその子とは割と喋るみたいでさ」

「・・・・・・」

「本人に聞いても何にも言わないし噂の域だけど、火のないところに煙は立たないって言うし・・・まぁ、今ならまだ付き合うとかそういう段階ではなさそうだけどな。てか、“ クリスマスに誘え!”って言ったのに結局行動移さないし」

「・・・だって倫も一緒に、って誘ったのに断るから」

「はっ?当たり前でしょー。しかも俺、もうその日から正月まで女の子たちとのデートでスケジュール埋まってたんだから無理、無理」

「協力してくれるって言ったのにー」

澪は目の前の薄情男を睨みながら口を尖らせブスっとした表情で見つめると倫は呆れたよう表情を向け小さく溜息を吐く。

「あのねー、俺がいたら意味ないでしょ?そんなんじゃ昇多みたいな鈍感、澪の気持ちなんて一生わかんないよ、とにかく最後のイベントはバレンタインデーしか残ってねーんだから頑張れよ澪っ!」

「うーーーん・・・」

正論を叩きつけられ発破をかけられながら澪は返す言葉が見つからず深い溜息を吐いた。視線を変え、煮え切らない心情を紛らわすように窓の外から見える薄茜色の空を眺めた。




――――――――――
特に進展もないままあっという間にバレンタインデー当日となった。澪は鞄に忍ばせた昇多へのチョコ菓子、それと一緒に渡すラッピングされた袋を確認すると足早に学校へと向かった。



「倫ーっ、私の愛が籠ったチョコだよー♡」

「和坂くん♡これ貰って」

「倫くん食べてくれたら嬉しいな♡」



「マジ嬉しいっ♪ありがとなー♡」


生徒玄関、教室内と女子生徒に囲まれ、ありとあらゆるかわいいラッピングに包まれた箱を貰う倫を横目に澪は自席へと着いた。

「おはよ、相変わらず倫はすげーな」

「中学の時もそうだけど昇多の場合、断るからないだけで貰ってたらいい勝負だと思うよ」

先に来ていた昇多に話しかけられた澪は、自身の鞄に入っているチョコを彼にどう渡そうか・・・気もそぞろになっていると大量のチョコが入った大きな袋がドスンと目の前に置かれた。

「はよー、置く場所どっかねーかな?ってか昇多食う?」

倫は自席へと座り一番上に置かれていた箱を取り出し昇多に差し出すが、昇多は呆れた表情で首を横に振った。

「倫宛の想いが籠ったチョコ食えるかよ」

「そうだよ、みんな倫のことを想って渡してんだからそんなことしたら失礼だよ」

「それより澪さんは今年誰かに渡すんですかー?」

わかっているのにわざと悪戯な表情を向けながら話す倫に澪は思わず睨みつけた。

「別に倫には関係ないでしょ」

倫の誘導するような言い方をあしらいながら鞄から教科書などを取り出し机の中へ入れた。

「そういえば澪、今日委員会だよな?俺も委員会の集まりあるから一緒に帰るか?ちょっと話したい事もあるし」

「あー、うん。そしたら教室で待ち合わせしようか」

「了解」

タイミングよく昇多の誘いに二人っきりになるチャンスができ、澪は逸る気持ちを抑えながら昇多にいつもと同じような表情を向けた。澪はそんな状況に一番茶々を入れそうな倫を一瞥すると、此方を見ているのに視点が合わない瞳が心なしか感情の見えない冷血な視線に感じとられ、動揺から思わず視線を逸らした。



☆☆☆
「では委員会を終了します。お疲れ様でした」

皆それぞれ帰る準備を始め、澪は自身の教室へ向かうため筆記用具などを鞄に詰めた。

(結構暗くなったな)

外を見ると天気が悪いからか普段の時間よりも暗くなり明かりのない教室などは暗闇と化していた。

“今終わった。教室で待ってる”

澪はスマホのディスプレイを見ると昇多から30分程前にメッセージ通知が届いていたのに気づき、今から向かうことを返信しようとした時、

「澪?」

後ろから自分を呼ぶ声に呼び止められ振り向くと既に帰ったはずの倫が朝よりも増えたチョコの袋を持ってうんざりした表情で立っていた。

「うわ、更に増えてる・・・ってかもうとっくに帰ったのかと思った」

「うーん、そのつもりだったんだけど・・・こんな状態だからさ電車にも乗り難くて。で、寂しそうな独身の担任に寄付しに戻ってきた」

「ははっ、何それ・・・それじゃあ私からのはいらないか」

「え?あんの?」

澪は鞄から可愛くラッピングされた小さな箱を取り出し差し出しすと倫はそれを受け取った。

「去年は用意してなかったからあげれなかったけど。まぁ、倫が貰ったチョコに比べたら歪だし美味しくないと思うけど、自分なりに上手に出来たやつ選んだからよかったら食べてよ」

「ありがと、澪から手作り貰えると思ってなかったから吃驚した」

暗い廊下でよく見えなかったが先ほどの冷たい表情とは違い、仄かに倫の頬が紅くなっているような印象が見受けられた。が、普段の彼からそんなことはあり得ない、と脳内で頭を横に振り自身の思いを否定した。

「そうだ、俺も渡すもんあったんだ」

倫はリュックからがさごそと取り出し小さなラッピング袋を澪に手渡した。

「澪、今日誕生日だろ、昇多からじゃなくて残念だろうけど使ってよ」

「何言ってんのよ!ってリップだ♡かわいい♪ちょうど切れてて買わなきゃって思ってたから嬉しい!倫、ありがとう」

ラッピング袋を丁寧に開けるとピンクの可愛らしいデザインのリップグロスが入っていた。澪はその場で付けて倫に見せるも暗くていまいちわからず二人で苦笑いをした。

「あっ!倫ごめん、昇多待たせてるからもう行くね」

「・・・言うの?」

「うん、もう今日くらいしかチャンスないし、ダメかもしれないけど頑張ってみる」

「そっか、大丈夫だよ。澪ならうまくいくって」

澪の頭にポンと手を乗せ優しく微笑む倫に励まされたことで心強くなり、澪は大きく深呼吸をし倫にこぼれんばかりの笑みを返し倫と別れた。





「・・・澪、ごめん」

薄暗い廊下で澪の見えなくなった姿を見つめ倫は自分にしか聞こえない小さな声で呟いた。
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