今日でお別れします

なかな悠桃

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「―――ってな感じでさー、ほんと俺の友だちってバカばっかなんだよねー・・・って碧ちゃん聞いてる?」

「あ、は、はい。聞いてます」
(やっぱ兄弟なんだよねー、少し強引なとことか似てるかも・・・ちょっと前まで貴斗ともこんな感じで話してたのにな)

再び阿部家へと向かう中、智広の大学での話や友人とのやり取りなどを一方的に聞かされながら要所要所貴斗と似ているところを見つけるたび思い出し胸がチクリと痛んだ。

「そうだ、さっきコンビニ限定のチョコ買ってさ。ほいっ、口開けてー」

「えっ、あっ、んっ」

智広はガサゴソと小さなビニール袋に手を突っ込むと中から正方形の一口サイズチョコを碧の返事を聞く前に口内へと放り込んできた。甘い味が口一杯に広がり思わず顔が綻んでいるとその様子を隣で満足げな表情で碧を見つめた。

「まあ、俺が色々言うことじゃないけど貴斗は、しっかりしてるようで不器用なヤツなんだよね。だからさ、見捨てないでやって欲しいんだ。そんなに二人のことを知らない俺でも碧ちゃんのこと本当に大事にしてるのわかるくらいだからさ」

智広自身も口内へチョコを放り込みニカっと笑顔を向けてきた。

「はい。ありがとうございます」

状況を知らないはずなのに自分たちの現状を見据えたような智広の言葉に心がキュッと締め付けられたと同時に少し軽くなったような気がした。そんな何気ない会話をしていると阿部家へと近づき碧は歩みを止めた。

「碧ちゃん?」

碧の行動に智広は不思議そうな表情を向けると彼女から小さく頭を下げられた。

「やっぱり今日は帰ります。向こうも今忙しいの知ってますし無理させてしまうのも申し訳ないので」

碧の言葉に一瞬躊躇うも智広は目を細め微笑むと小さく頷いた。

「そっか、わかった。そしたらちょっと待っててよ、車で送るから。流石に一人で帰したら俺が貴斗に殺される」

「えっ!?い、いや、そんなだいじょ、」

智広の言葉に申し訳なさから断りの言葉を言おうとするも最後まで聞くこともなく冗談ぽく笑いながらさっさと門を開け中へと消えて行ってしまった。

(うぅ・・・智広さんに迷惑掛けちゃった)

薄暗くなった空を見上げながら智広が来るのを待っていると碧が佇む方向に向かってくる気配に気づきふと視線を向けた。着替えを持って行っていたのか制服姿ではない貴斗が碧を見つけ驚いた表情を向け一瞬立ち止まった。

「な、なんで・・・。俺・・・今日会えないって言ったよね。こういうのちょっと困るんだけど」

「ごめん。ダメだってわかってたけど少しでも話せたらと思って・・・」

散々自分はしておきながら・・・と言いたい言葉を喉元でグッと抑え唇を引き締め貴斗を見つめた。だが、貴斗は碧に視線を向けることなく表情も硬いまま、明らかに碧を避けるような態度に心が抉られるような気分に陥る。貴斗は少し気怠そうに髪をかき上げ碧の前に向かい合うように立った。

「あのね、貴斗に聞きたいことがあって」

「はあ・・・、じゃあその前に俺も話したい事あるから先いい?」

普段ではありえない貴斗から少し煩わしそうな表情を自分に向けられ一瞬怯みながらも先に話しを譲った。

「最近やっぱ俺と碧じゃあなんか合わないなって思うようになっててさー、なんか思ってたのと違うっつーか。ほら、そもそもの発端は中学の時がきっかけだったろ。こんなこと言ったら嫌味にしか聞こえないかもしんないけど俺、女から振られたことなかったんだよね、女にああいう態度取られたのも初めてだったし物珍しかったっていうかさ。今までにない女だったから興味出たけど、正直飽きちゃった」

流暢に話す貴斗の言葉がまるで呪文のように聞こえ、碧の頭には全く入ってこなかった。
茫然と立ち尽くし言葉を発さない彼女の様子に貴斗は視線を逸らし背を向けた。

「最近会わなかったのもそれ、熱が冷めたっつーか。元々俺、一人の女に執着するタイプじゃないんだよねー。碧との付き合いは例えるなら、んー“ゲーム”みたいなもんだったんだよ。ミッションどんどんクリアしてコンプリートする、みたいな。それが終わったから俺の中ではもう“完了”したって感じ。だから、もう俺に構わなくていいよ。そもそも碧だって最初俺に付き纏わられて迷惑してたろ?嘘までついてさ。だし、これで終わりにしようよ」

「・・・・・・」

言葉が出なかった・・・『何故?』、『どうして?』そんな疑問符がつくような言葉すらも出てこない。脳内の思考が一気に停止し考えることを放棄してしまったような気分に陥った。

無意識に身体全体から小刻みな震えを感じながらもどうすることも出来ない。足元が地についていない感覚を覚えながらも震える唇をゆっくり開けた。

「い、いくらアポなしで来たからってそんな冗談いくらなんでも酷くないっ!?・・・はは、まあ今回は許すけど次はこんなこと冗談でもダメだからね!」

碧は伏せていた視線を貴斗の背に向け、振り絞るように大袈裟な明るい声色で言葉を投げかけるも貴斗は碧に振り向くことはなくしばし沈黙が流れる。


『嘘だよー-っ♪でもこんな碧を試すような冗談言うのは最低だよな、ほんとごめんなさい』

ありえないとわかっていながらもそんな言葉を待ち続けるが彼からは何の反応も見受けられない。沈黙の辛さから碧が貴斗の腕をひっぱり無理やり此方に向けさせるとそこには目の前にいる人物が本物の貴斗と認識するのに脳内がついていかない程の別人のようだった。
目の奥は全く読めない程仄暗く、闇に染まるような冷たさを碧に向け


“いい加減勘弁してくれよ”


と言わんばかりの表情で見下ろされ溜息を吐かれた。

「俺、正直今クタクタなんだよね。出来れば家入りたいんだけど、そろそろ解放してくんない?」

碧が掴んだ手を払い除けるように離し、貴斗は勝手に話を終わらせてしまった。

「・・・わかった。でもこのままじゃ納得いかないから貴斗の都合つく日あったら教えて欲しい。ちゃんと話し合いたい」

「はあー、これ以上の話なんてないんだけどな。俺、しつこい女嫌いなんだよねー」

冷たい声色と共に再び大きな溜息を吐かれ、碧の身体が畏縮した。そんな様子に構うことなく貴斗は門を開け振り向くことなく中へ入り碧の前から姿を消してしまった。

残ったのはいつも好んでつけている貴斗の香りと別に以前嗅いだことのある別の香りを碧に刻みつけるのみだった。
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