猛毒天使に捕まりました

なかな悠桃

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「うわ・・・酷い顔」

鏡を見ると、顔は浮腫み顔色も悪く目の下には薄っすら隈が出来ていた。昨日は家に帰った後の行動を史果は思い出せないくらい泥酔し、気が付くと自室のベッドに眠っていた。

「うわ、何この部屋。私、こんなに飲んだっけ?頭、いた・・・」

テーブル回り、床には呑み干した酒の缶が多く散乱し、飲み残しの缶があったのか床は倒れた缶で濡れていた。史果は顳顬を押さえながら転がっている缶を拾い、濡れた床を布巾で拭った。

「会社・・・休もうかな。確か、有給残ってたはずだし」

拭きながら時計を見ると、長短針は6時20分を指していた。昨日の出来事が走馬灯のように頭を駆け巡らせる。女子社員たちの視線の空気もさることながら、基希の顔を見るのが一番気まずかった。

一先ずシャワーを浴びるため浴室へと向かい、浴び終えた史果は室内に戻り会社に電話を入れた。体調不良で休むことを伝えると特に問題なく話は終わり電話を切った。

「ズル休みなんて高校生以来かも」

史果は小さく自嘲し、冷蔵庫に入れてあった二日酔い用のサプリドリンクを手に取ると一気に飲み干した。

「とりあえず休んだはいいけど何しようかな・・・そうだ、最近服買いに行けなかったから行ってみようかな。今日は平日だから人も少ないだろうし」

史果は気分転換と自分に言い聞かせ何もかも忘れるかのようにせっせと準備を始めた。



☆☆☆
「給料日前なのにちょっと買いすぎちゃったかな」

久しぶりのショッピングでテンションが上がり、両手いっぱいの買いすぎた荷物の重さの疲れとそれにプラスされた歩き疲れも出始めたため近くのカフェへ向かい休憩することにした。


テラスに座った史果は、昨日のことをなるべく思い出さないようにするも、ふと気を抜くと基希の顔が浮かんできては無理矢理消す・・・といった作業に付き纏われた。その都度、彼の“暇つぶし”という言葉がのしかかり気持ちを沈めてゆく。

何とも想っていない彼の言葉に何故こんなにも心が不安定になるのか・・・佐伯の時には現れなかった感情の靄つきに押しつぶされてしまいそうになる。

「はぁ・・・。なんで私、こんな凹んでんだろう」

店員に運ばれて来たメロンソーダーを口にし落ち着かせるも、心のもやもやが抜け切れず結局スッキリしないまま家路へと向かうことにした。



☆☆☆
「史果っ!!!」

アパートに着き、鞄の中にしまってあった鍵を探していると大きな声で自分を呼ぶ声が聞こえ、驚きのあまり身体が大きく跳ねた。振り向くとそこには以前のような爽やかな印象とは違い陰りを纏う雰囲気の佐伯が此方にゆらりゆらりと近づいてきた。

「さ・・・えき、さん?なんで、うちが・・・」

史果は佐伯を自宅アパートには招いたことはなかった。勿論、住所も教えてない。それなのに彼が目の前にいる恐怖に史果は身体が動かず硬直してしまった。

「電話しても繋がらないし、寂しかったよ・・・俺ね、妻と離婚したんだ。会社もね、子会社に異動になっちゃった。史果、やり直そ?俺にはもうキミしかいないんだ」

「きゃっ!やめてくださいっ!手、放してください!」

片手を佐伯に掴まれ思わず手に持っていた荷物を床に落としてしまった。史果は佐伯から離れようとするも力が強く、押さえ込まれてしまった。

「史果、史果・・・俺を見捨てないで」

「い、や・・・佐伯、さ・・・ん、やめ」

ドアに押し付けられ彼の顔がどんどん近づき、史果は顔を背け目をぎゅっと瞑った。

キスされる・・・半ば諦めるかのように、でも口唇は一文字のようにぎゅっと結び小さな抵抗を見せるも一向に唇が触れる気配はなかった。気がつけば彼に掴まれていた手は自由になっている、史果はゆっくりと目を開けると彼の姿はなかった。・・・いや、なかったわけではなく彼は、何故か床に身体を押さえつけられ小さく呻き声を上げていた。

「はあ、はあ、・・・佐伯さん、あんたほんとどうしようもねーやつだな。会社クビにならなかっただけでもありがたいと思えよ。もしここで彼女襲ったら今度こそぶち込まれて人生終わるぞ」

「いたたたっ!!離せよっ!お前、この前のっ!そもそもお前が、」

腕を押さえ込まれ寝技を掛けられた状態の佐伯は痛みに苦しみながらも技を掛ける男に鬼の形相の如く睨みつけた。

「そんなんだから奥さんに愛想尽かされるんだ。あんたがやったことは企業にはたいした支障をもたらす内容じゃなかったにしろ周りを傷つけたことには変わりないんだからな。もし、これ以上彼女に付き纏うよなことがあったら今度こそタダじゃ済まないからな!」

腕の力が抜けると佐伯は瞬時に起き上がりネクタイを直すと苦虫を噛み潰したような険しい表情を向け無言で足早に帰って行った。

「はあー・・・」

史果は一気に力が抜けたようにズルズルと崩れるように床に座り込んだ。時間にして数分、それなのに今見た状況はまるで何時間も起こった現象のような錯覚に陥り疲労が一気に襲って来た。

「大丈夫か?」

伏し目がちにドア越しに凭れ俯いていると頭上から声が降り、史果はゆっくりと顔を上げた。額に汗をかき、高そうなネクタイはよれ少し形が崩れた基希が心配そうな表情で史果を見つめていた。

「・・・なんで、藤さんが?」

「とりあえず、ここじゃなんだから中入れてくんない?」

基希は、史果の散らばってしまった鞄の中身を拾いながら鍵を取り出すと、彼女を抱き起し部屋へと連れて行った。
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