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「あの時とは雲泥の差だな。初めっから歩生さんに頼んだ方がすんなりいったのかしら」
「あれ?もう終わったんだ」
「はい。元々そんなに荷物もなかったのであっという間に」
新しい新居に基希の部屋から運び出した自身の家財類を設置してもらい、それらが一通り終わると引っ越し業者たちは次の引っ越し先へと向かって行った。買い出しから戻って来た歩生は、頼まれていた飲料などを冷蔵庫に詰め後片付けをしている史果にお茶のペットボトルを手渡した。
「俺がピックアップした部屋だが・・・もっとマシなのあったろ?まあ俺が一応選んだ部屋だしちっさい部屋とはいえ住めないことはないだろうけど」
「いやいや、一人なのに2LDKって充分ですよ!しかも駅近で広いっ!!以前私が住んでいた社宅用アパートなんてこの部屋の半分もないですよ」
行動を起こせばトントン拍子に進み基希が帰って来る前には史果の荷物も会社の退職もあっさりと終わっていた。
「とりあえず表面上退職にはなってるが事が終わり次第、戻せるように手配出来てるからそこは安心してくれ。あとここの家賃は社宅扱いになってるからそこも気にしなくていいぞ」
「何から何までありがとうございます」
「礼を言われる筋合いはねーよ。寧ろ振り回してるこっちが頭下げるレベルだよ。ほんとアンタにはすまないと思ってる」
深々と頭を下げる歩生に慌てるように史果は顔を上げるよう促した。
「本当に気にしないで下さい。私はもう大丈夫ですから」
「ん、まあそれはそうとあんだけ渋ってたのに急に行動に移ったのは何でなんだ?」
「それは・・・・・・」
史果は言葉に詰まり口籠っていると歩生はそれ以上訊いてくることはせず帰り支度をするとそのまま玄関へと向かった。
「あとは一人で何とかなるだろ。なんかあったら連絡してくれ。それと仕事は落ち着いたら頼むと思うから」
「あ、はい。いろいろとありがとうございました。あと暫くの間、ご迷惑かけないようにするのでよろしくお願いします」
帰る歩生の後を追いかけると史果は深々と頭を下げ顔を上げたと同時、史果は歩生にパチンと軽く中指で額を弾かれた。
「ばーか。何度も言ってるだろ、別にアンタのためにやってんじゃねーって。だから気にすんな」
史果は弾かれ薄っすら赤くなった額を擦りながら歩生に視線を向けると優しい笑みを浮かべそのままドアの外へと消えて行った。
自分以外いなくなった部屋で史果は複雑な表情のまま歩生が出て行ったドアを見据え動けずにいた。
――――――――――
「・・・あのー、その変な気遣いとかいいですよ」
「はっ?」
引っ越してから数週間が経ち、慣れない仕事ながらなんとか歩生の迷惑にならないよう熟していると毎度のことながら突然呼び出され会員制の小洒落たレストランへと連れて行かれた。
「別にそんなんじゃねーよ。そもそもお前、出不精だろ、こっちが何かしなきゃずっと籠ってそうだし」
「・・・まあ否定はしませんけど」
雰囲気あるBARのようなレストランは全個室となっており他の客の姿はわからない造りになっているためリラックスして食事が出来るようになっていた。
「一つ伺いたいのですが・・・その、基希さん・・・もう出張から帰って来てると思うんですが」
言葉を終えた史果は落ち着きなく視線を泳がせながらグラスに入ったノンアルコールのワインを口にし俯き加減でゆっくりとテーブルへと置いた。
「ああ、そうだな。帰って来たなりの時は俺のとこに引っ切り無しで鬼電してきてた。まあ生憎あいつが帰って来た日から今度は俺がこっちにいなかったから会社や家に突撃される心配はなかったけど」
歩生から淡々とした表情と口調で告げられた史果は心臓をぎゅっと掴まれたような痛みに襲われた。以前の携帯電話は番号を変更したため基希から掛かってくることは無かった。流れはどうであれ自分のことを想って色々手助けしてくれた基希に何も告げず勝手に家を出て行った罪悪感と未だどうしようもない感情が残っている不甲斐ない自分に嫌悪感が芽生えていた。
「・・・俺はいなかったから直接は聞いてないが、基希が帰って暫くしてから両家で食事会が開かれたみたいだ。それからあいつからの連絡はなくなったから観念したんだろ」
「・・・・・・そうですか」
(そうよね・・・私とのことなんてすぐ忘れられるような関係だったし・・・うん、これで良かったんだよね・・・美園さんだって苦しまなくて済むし・・・うん、そう・・・うん・・・・・・)
史果は自身に言い聞かせるように心の中で呟き残っていたワインを一気に喉へと流し込んだ。その様子に歩生は何か言いかけようとするも言葉を呑み込み史果を視界から消すようにそのまま視線を窓へと向けた。歩生は窓から見える夜の景色に憂いを纏わせた表情でじっと眺めていた。
店を出てしばらく街路樹を歩きながら歩生の停めてあったコインパーキングに到着し車に乗り込んだ。
「そうだ、言い忘れてたがこの前のスイーツ、再来月に実施されることが決まったよ。アンタのおかげで良いイベントになりそうだ。ありがとな」
「そうなんですね、お役に立てて良かったです・・・あ、もう着いてたんだ。送ってくださりありがとうございました。ごはんも美味しかったです。それと仕事の件ですが、明日の昼までにはデータ送ります・・・じゃあ、おやすみなさい」
気付けば歩生の車は家のエントランス付近に停車していた。史果は運転席の歩生に礼を伝え助手席のドアハンドルに手を掛けようとした刹那、歩生に右手を摑まれじっと見据えられた。
「心配しなくてもほんと大丈夫ですから。だからそんな表情しないで下さい」
先程までとは違う神妙な表情を歩生に向けられた史果は、掴まれた腕をそっと離しニコリと微笑んだ。
その表情の内心を感じ取りながらも歩生は小さく「ああ、そうだな」と呟き、車から降りドアを閉めた史果に別れを告げると車を走らせた。
「私を心配するのは自分と重ねてるからですか?歩生さんの方がよっぽど心配ですよ」
誰に伝えるわけでもない言葉を吐きながら史果は姿なき歩生へ問い掛けた。
「あれ?もう終わったんだ」
「はい。元々そんなに荷物もなかったのであっという間に」
新しい新居に基希の部屋から運び出した自身の家財類を設置してもらい、それらが一通り終わると引っ越し業者たちは次の引っ越し先へと向かって行った。買い出しから戻って来た歩生は、頼まれていた飲料などを冷蔵庫に詰め後片付けをしている史果にお茶のペットボトルを手渡した。
「俺がピックアップした部屋だが・・・もっとマシなのあったろ?まあ俺が一応選んだ部屋だしちっさい部屋とはいえ住めないことはないだろうけど」
「いやいや、一人なのに2LDKって充分ですよ!しかも駅近で広いっ!!以前私が住んでいた社宅用アパートなんてこの部屋の半分もないですよ」
行動を起こせばトントン拍子に進み基希が帰って来る前には史果の荷物も会社の退職もあっさりと終わっていた。
「とりあえず表面上退職にはなってるが事が終わり次第、戻せるように手配出来てるからそこは安心してくれ。あとここの家賃は社宅扱いになってるからそこも気にしなくていいぞ」
「何から何までありがとうございます」
「礼を言われる筋合いはねーよ。寧ろ振り回してるこっちが頭下げるレベルだよ。ほんとアンタにはすまないと思ってる」
深々と頭を下げる歩生に慌てるように史果は顔を上げるよう促した。
「本当に気にしないで下さい。私はもう大丈夫ですから」
「ん、まあそれはそうとあんだけ渋ってたのに急に行動に移ったのは何でなんだ?」
「それは・・・・・・」
史果は言葉に詰まり口籠っていると歩生はそれ以上訊いてくることはせず帰り支度をするとそのまま玄関へと向かった。
「あとは一人で何とかなるだろ。なんかあったら連絡してくれ。それと仕事は落ち着いたら頼むと思うから」
「あ、はい。いろいろとありがとうございました。あと暫くの間、ご迷惑かけないようにするのでよろしくお願いします」
帰る歩生の後を追いかけると史果は深々と頭を下げ顔を上げたと同時、史果は歩生にパチンと軽く中指で額を弾かれた。
「ばーか。何度も言ってるだろ、別にアンタのためにやってんじゃねーって。だから気にすんな」
史果は弾かれ薄っすら赤くなった額を擦りながら歩生に視線を向けると優しい笑みを浮かべそのままドアの外へと消えて行った。
自分以外いなくなった部屋で史果は複雑な表情のまま歩生が出て行ったドアを見据え動けずにいた。
――――――――――
「・・・あのー、その変な気遣いとかいいですよ」
「はっ?」
引っ越してから数週間が経ち、慣れない仕事ながらなんとか歩生の迷惑にならないよう熟していると毎度のことながら突然呼び出され会員制の小洒落たレストランへと連れて行かれた。
「別にそんなんじゃねーよ。そもそもお前、出不精だろ、こっちが何かしなきゃずっと籠ってそうだし」
「・・・まあ否定はしませんけど」
雰囲気あるBARのようなレストランは全個室となっており他の客の姿はわからない造りになっているためリラックスして食事が出来るようになっていた。
「一つ伺いたいのですが・・・その、基希さん・・・もう出張から帰って来てると思うんですが」
言葉を終えた史果は落ち着きなく視線を泳がせながらグラスに入ったノンアルコールのワインを口にし俯き加減でゆっくりとテーブルへと置いた。
「ああ、そうだな。帰って来たなりの時は俺のとこに引っ切り無しで鬼電してきてた。まあ生憎あいつが帰って来た日から今度は俺がこっちにいなかったから会社や家に突撃される心配はなかったけど」
歩生から淡々とした表情と口調で告げられた史果は心臓をぎゅっと掴まれたような痛みに襲われた。以前の携帯電話は番号を変更したため基希から掛かってくることは無かった。流れはどうであれ自分のことを想って色々手助けしてくれた基希に何も告げず勝手に家を出て行った罪悪感と未だどうしようもない感情が残っている不甲斐ない自分に嫌悪感が芽生えていた。
「・・・俺はいなかったから直接は聞いてないが、基希が帰って暫くしてから両家で食事会が開かれたみたいだ。それからあいつからの連絡はなくなったから観念したんだろ」
「・・・・・・そうですか」
(そうよね・・・私とのことなんてすぐ忘れられるような関係だったし・・・うん、これで良かったんだよね・・・美園さんだって苦しまなくて済むし・・・うん、そう・・・うん・・・・・・)
史果は自身に言い聞かせるように心の中で呟き残っていたワインを一気に喉へと流し込んだ。その様子に歩生は何か言いかけようとするも言葉を呑み込み史果を視界から消すようにそのまま視線を窓へと向けた。歩生は窓から見える夜の景色に憂いを纏わせた表情でじっと眺めていた。
店を出てしばらく街路樹を歩きながら歩生の停めてあったコインパーキングに到着し車に乗り込んだ。
「そうだ、言い忘れてたがこの前のスイーツ、再来月に実施されることが決まったよ。アンタのおかげで良いイベントになりそうだ。ありがとな」
「そうなんですね、お役に立てて良かったです・・・あ、もう着いてたんだ。送ってくださりありがとうございました。ごはんも美味しかったです。それと仕事の件ですが、明日の昼までにはデータ送ります・・・じゃあ、おやすみなさい」
気付けば歩生の車は家のエントランス付近に停車していた。史果は運転席の歩生に礼を伝え助手席のドアハンドルに手を掛けようとした刹那、歩生に右手を摑まれじっと見据えられた。
「心配しなくてもほんと大丈夫ですから。だからそんな表情しないで下さい」
先程までとは違う神妙な表情を歩生に向けられた史果は、掴まれた腕をそっと離しニコリと微笑んだ。
その表情の内心を感じ取りながらも歩生は小さく「ああ、そうだな」と呟き、車から降りドアを閉めた史果に別れを告げると車を走らせた。
「私を心配するのは自分と重ねてるからですか?歩生さんの方がよっぽど心配ですよ」
誰に伝えるわけでもない言葉を吐きながら史果は姿なき歩生へ問い掛けた。
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