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何があろうとなかろうと日々は進む。基希が出張先から戻る日が迫る中、史果は昼休みを利用し歩生から紹介を受けていた物件の書類に目を通していた。
『今の会社を辞めて俺の業務を手伝う・・・っていう名目で一旦本社に籍を置いてもらう。“灯台下暗し”ってやつ。まさかこっちにいると思いもしないだろ?勿論その間の給料は今以上を保障する』
彼の発案は今の会社は表向き一旦退職し、その間は基希の父親の会社に籍を置く。とは言っても会社に出勤するわけではなく在宅で賄えるため素性を探られる心配もない。業務内容も主に歩生がやっている事務処理や細々とした業務をパソコンに入力するという簡単な内容だった。
『でも、私は今の仕事が好きです。正直自分の感情のために今ある大事な仕事を放ることは出来ません』
『アンタのためだけじゃない、美園のためでもある。・・・遅くても今月中には婚約が成立するだろう。そうなれば今までのように基希の我儘は通用しないし強制的に本社に連れ戻される。仮にそれを拒めばどうなるかくらいあいつだってわかるはずだ。あんたには基希の前から消えてもらいたい・・・そうなればあのバカも嫌でも諦められるだろ』
・
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(とはいえ、以前それやって大変な目にあってるんだけどな・・・はは・・・・・・はぁ)
歩生との会話を想い出しながら会社の屋上にあるベンチに腰掛け深い溜息を吐く。一向に出口の見えない迷路を彷徨い、いつ出れるのかと途方に暮れていると横に置いてあった自身のスマートフォンから着信が鳴り響きそれに目を向けると同僚の名が表示されていた。
『瀬尾さん、今受付から連絡入ってでロビーにお客様来てるって言うんだけど、社内にいる?』
「え?お客様・・・?あ、はい。いるので今向かいます」
(今更女装で歩生さんが来るはずないし・・・)
電話口の内容では女性だということはわかったが、自分を尋ねる相手に見当もつかず悶々としながら史果はロビーへと向かった。
「すみません、瀬尾ですが御待ちのお客様って」
「あちらの方です」
一階へ到着した史果は受付に訊ねると彼女は相手へ視線を向け史果に伝えた。その相手の顔を見た瞬間、史果は心臓を握り潰されるような思いと衝撃に思わず口元を左手で覆った。
「お仕事中にお呼び立てしてすみません。わたくし、神野美園と申します。初対面で大変失礼を承知で瀬尾さん、貴方にお聞きしたいことがありまして・・・。少しで良いのでお時間頂けないでしょうか?」
まさかのいきなりの訪問に史果の脳内はクラッシュしてしまい、そのせいで適正な判断ができず咄嗟に頷いてしまった。美園は史果の応えに少し安堵したような表情を浮かべ会社近くの喫茶店へと向かう羽目になってしまった。
☆☆☆
この光景に似た状況を二度味わっているが、流石に本丸と対峙するはめになるとは・・・史果は目の前に注文したホット珈琲を口にする余裕すらなく向かいに座る美園へ視線を合わすことも出来ずにいた。
対照的に美園は自身が注文したアイスカフェオレを美味しそうにストローで飲んでいた。
「いきなり伺って本当にごめんなさい。基くんに会社へは来ちゃダメって言われてたんだけど・・・」
先程会社に訊ねてきた時より少し幼げな言葉遣いになった美園に史果が少し顔を上げると彼女と目が合ってしまった。居心地悪さから逸らそうにもニコリと微笑み返された史果はあまりの可愛らしさに同性だがドキリと心臓が跳ね逸らすことが出来なかった。
「これ以上ウジウジ悩むの嫌なので単刀直入に訊きますね。その・・・彼のことどう想ってるんですか?本当はこんなことしたって困らせるだけだし彼が私のことどう想ってるのかも・・・わかってるつもりです。カッコ好いから女の人寄って来ることは昔から多々あったけど相手にしてないのわかってたし我慢も出来たんです。でも、最近様子とか態度が何となくおかしいなって思って調べてもらったら瀬尾さんが現れてからだってわかりました。貴方といる時・・・普段と違って自分を曝け出しているように見えた。私には向けてくれなかった表情を貴方には惜しげもなく向けてた」
「・・・・・・」
美園の問い掛けに何も応えられずいると彼女はアイスカフェオレを一口含み再び話し出した。
「・・・実は、私の初恋の相手なんです。ずっと好きで自分なりに気持ち伝えてきたけどいつもかわされちゃってて・・・向こうは私と同じ想いじゃないってわかってます。だから好意を向けられている瀬尾さんが羨ましいし、正直・・・憎い」
ついさっき見せた表情が一変するかのように哀し気に力なく微笑む美園に初めて相手の辛さを目の当たりにした史果は思いっきり頭を鈍器で殴られたような気分を味わい頭が真っ白になった。
「ごめんなさい、こんなこと瀬尾さんに言ったって仕方ないのに・・・。私は今の関係が壊れないならこの状況を受け入れようと覚悟は決めてたんです。でも、あんな表情見たら居ても立ってもいられなくなって・・・」
自分に会いに来ることの覚悟がとてつもない勇気を出していたんだと・・・気丈に振る舞いつつも美園の少し震えている小さな肩が物語り改めて彼女の強い意志さえも感じ取った。
(私は自分のことしか考えてなかったんだ。基希さんの傍から離れなきゃって思ってるだけで彼の想いに甘えて・・・こんな可愛くて一途に想ってる女性を傷つけて・・・私は愚かだ)
「それは誤解です。私たちは美園さんが想う気に病むような関係ではないです。それにもう関わることは無くなると思うので安心して下さい。あ、そろそろ休憩が終わっちゃうんですみませんがここで失礼します」
「え?あ、瀬尾さん!?」
史果はテーブルに置いてあった伝票を掻っ攫う様に手に取るとそそくさと会計を済ませ逃げるように店を飛び出した。美園には失礼な態度とわかっていたが、あのまま彼女の前にいるだけで自分が壊れてしまいそうな感覚に恐怖を覚えていた。
史果は唇を引き締め心が決まったかのように力強く足早に歩み出す。自分の今出した決断がこれで皆幸せになってくれるという想いを抱きながら。
『今の会社を辞めて俺の業務を手伝う・・・っていう名目で一旦本社に籍を置いてもらう。“灯台下暗し”ってやつ。まさかこっちにいると思いもしないだろ?勿論その間の給料は今以上を保障する』
彼の発案は今の会社は表向き一旦退職し、その間は基希の父親の会社に籍を置く。とは言っても会社に出勤するわけではなく在宅で賄えるため素性を探られる心配もない。業務内容も主に歩生がやっている事務処理や細々とした業務をパソコンに入力するという簡単な内容だった。
『でも、私は今の仕事が好きです。正直自分の感情のために今ある大事な仕事を放ることは出来ません』
『アンタのためだけじゃない、美園のためでもある。・・・遅くても今月中には婚約が成立するだろう。そうなれば今までのように基希の我儘は通用しないし強制的に本社に連れ戻される。仮にそれを拒めばどうなるかくらいあいつだってわかるはずだ。あんたには基希の前から消えてもらいたい・・・そうなればあのバカも嫌でも諦められるだろ』
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歩生との会話を想い出しながら会社の屋上にあるベンチに腰掛け深い溜息を吐く。一向に出口の見えない迷路を彷徨い、いつ出れるのかと途方に暮れていると横に置いてあった自身のスマートフォンから着信が鳴り響きそれに目を向けると同僚の名が表示されていた。
『瀬尾さん、今受付から連絡入ってでロビーにお客様来てるって言うんだけど、社内にいる?』
「え?お客様・・・?あ、はい。いるので今向かいます」
(今更女装で歩生さんが来るはずないし・・・)
電話口の内容では女性だということはわかったが、自分を尋ねる相手に見当もつかず悶々としながら史果はロビーへと向かった。
「すみません、瀬尾ですが御待ちのお客様って」
「あちらの方です」
一階へ到着した史果は受付に訊ねると彼女は相手へ視線を向け史果に伝えた。その相手の顔を見た瞬間、史果は心臓を握り潰されるような思いと衝撃に思わず口元を左手で覆った。
「お仕事中にお呼び立てしてすみません。わたくし、神野美園と申します。初対面で大変失礼を承知で瀬尾さん、貴方にお聞きしたいことがありまして・・・。少しで良いのでお時間頂けないでしょうか?」
まさかのいきなりの訪問に史果の脳内はクラッシュしてしまい、そのせいで適正な判断ができず咄嗟に頷いてしまった。美園は史果の応えに少し安堵したような表情を浮かべ会社近くの喫茶店へと向かう羽目になってしまった。
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この光景に似た状況を二度味わっているが、流石に本丸と対峙するはめになるとは・・・史果は目の前に注文したホット珈琲を口にする余裕すらなく向かいに座る美園へ視線を合わすことも出来ずにいた。
対照的に美園は自身が注文したアイスカフェオレを美味しそうにストローで飲んでいた。
「いきなり伺って本当にごめんなさい。基くんに会社へは来ちゃダメって言われてたんだけど・・・」
先程会社に訊ねてきた時より少し幼げな言葉遣いになった美園に史果が少し顔を上げると彼女と目が合ってしまった。居心地悪さから逸らそうにもニコリと微笑み返された史果はあまりの可愛らしさに同性だがドキリと心臓が跳ね逸らすことが出来なかった。
「これ以上ウジウジ悩むの嫌なので単刀直入に訊きますね。その・・・彼のことどう想ってるんですか?本当はこんなことしたって困らせるだけだし彼が私のことどう想ってるのかも・・・わかってるつもりです。カッコ好いから女の人寄って来ることは昔から多々あったけど相手にしてないのわかってたし我慢も出来たんです。でも、最近様子とか態度が何となくおかしいなって思って調べてもらったら瀬尾さんが現れてからだってわかりました。貴方といる時・・・普段と違って自分を曝け出しているように見えた。私には向けてくれなかった表情を貴方には惜しげもなく向けてた」
「・・・・・・」
美園の問い掛けに何も応えられずいると彼女はアイスカフェオレを一口含み再び話し出した。
「・・・実は、私の初恋の相手なんです。ずっと好きで自分なりに気持ち伝えてきたけどいつもかわされちゃってて・・・向こうは私と同じ想いじゃないってわかってます。だから好意を向けられている瀬尾さんが羨ましいし、正直・・・憎い」
ついさっき見せた表情が一変するかのように哀し気に力なく微笑む美園に初めて相手の辛さを目の当たりにした史果は思いっきり頭を鈍器で殴られたような気分を味わい頭が真っ白になった。
「ごめんなさい、こんなこと瀬尾さんに言ったって仕方ないのに・・・。私は今の関係が壊れないならこの状況を受け入れようと覚悟は決めてたんです。でも、あんな表情見たら居ても立ってもいられなくなって・・・」
自分に会いに来ることの覚悟がとてつもない勇気を出していたんだと・・・気丈に振る舞いつつも美園の少し震えている小さな肩が物語り改めて彼女の強い意志さえも感じ取った。
(私は自分のことしか考えてなかったんだ。基希さんの傍から離れなきゃって思ってるだけで彼の想いに甘えて・・・こんな可愛くて一途に想ってる女性を傷つけて・・・私は愚かだ)
「それは誤解です。私たちは美園さんが想う気に病むような関係ではないです。それにもう関わることは無くなると思うので安心して下さい。あ、そろそろ休憩が終わっちゃうんですみませんがここで失礼します」
「え?あ、瀬尾さん!?」
史果はテーブルに置いてあった伝票を掻っ攫う様に手に取るとそそくさと会計を済ませ逃げるように店を飛び出した。美園には失礼な態度とわかっていたが、あのまま彼女の前にいるだけで自分が壊れてしまいそうな感覚に恐怖を覚えていた。
史果は唇を引き締め心が決まったかのように力強く足早に歩み出す。自分の今出した決断がこれで皆幸せになってくれるという想いを抱きながら。
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