猛毒天使に捕まりました

なかな悠桃

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※今回は会話文が多い上、長い部分もあるので読み難いかもしれませんが、ご了承ください。
※誤字脱字等チェックしておりますが、見落としがあるかもしれません。(。-人-。) 




★―――――――――――――――――★
蛇に睨まれた蛙・・・まさにこの言葉が今の空間で一番ふさわしいと心の中で感じつつ、史果は突き刺さるような視線を向かいに座る美園に浴びせられ困惑と同時に身体を硬直させた。

(話が・・・全く見えない。ただもの凄ーくこの場から逃げ出したいことだけは理解出来るッッ!!)

先程の衝撃的な現場から一転、行きつけの焼き鳥屋に向かった四人は楽し気に騒めく周りとは真逆に何とも言えない空気感が史果たちのテーブル席を漂わせていた。史果と歩生は理解出来ない状況下、只々気まずそうな表情を浮かべるもただ一人、基希だけが対照的に普段と変わらない様子で美味しそうに頬張っていた。

「美園、腹減ってんだろ?食えよ、ここのハツめちゃくちゃ美味いから」

「どうやって食べるかわかんない!」

美園は不機嫌そうな表情で自身のテーブルに置かれた皿の串を睨みつけながら斜め向かいに座る基希に口を尖らせ言葉を返した。

「流石に美園に串のままは無理だろ。ほら皿よこせ、箸で外してやるから」

隣に座る歩生は美園の前にある串が乗った皿を自身の手元へ置き器用に箸で肉を串から外していた。その光景を目の当たりにした史果は自分とは全く違った環境の中で育った女性なんだと改めて痛感した。

(過保護というか・・・ほんとお嬢様なんだな)

史果は茫然としながら目の前で繰り広げられている光景を見つめ串のまま食べていると美園とふいに視線が鉢合ってしまった。その瞬間、美園は再び史果を鋭く睨みつけてきた。

「そんなことしなくていい!教えてくれれば私だって一人で食べれるし!!」

美園は歩生から強引に皿を取り返すと肉が付いた串をそのまま口元へ持っていった。その間、史果に視線を向け敵愾心剥き出しな表情を浴びせていた。

「はいはい、美園もそんな鬼の形相でいないの。折角の可愛い顔が台無しだよ」

宥めるように諭す基希に美園も一瞬眉間の皺を緩めるも再び唇を前へと突き出し不服そうな表情を浮かべた。

「・・・気に病むような関係じゃないって言ってたのに・・・お友だちだと思ってたのに・・・会社まで辞めて二人でコソコソと。信じてたのに・・・・・・嘘つき」

大きな瞳からぼろぼろと涙が溢れ泣き出す美園に周りにいた客も“何事だ!?”といった視線を一瞬向けるもただの酔っ払いの光景と思ったのか再び気にすることなく視線を戻していた。

「おい、こんなとこで泣くなって」

歩生は隣で泣き出す美園に慌てたようにスーツのポケットからハンカチを取り出し彼女に手渡そうとするも跳ね除けられてしまった。それと同時に美園は基希が飲んでいたビールジョッキを奪うとそのまま勢いに任せるようにゴクゴクと飲みだした。

「あ、バカ!勝手に飲むな!しかも酒飲めないくせに!!」

「煩い!煩い!!歩くんも基くんも大っ嫌いっ!ほっといて!!」

手に負えずオロオロとする歩生を後目に基希は呆れた表情を浮かべながら美園の手からビールジョッキを取り上げた。その三人の様子を戸惑いながらも黙ってじっと見つめていた史果は意を決して口を開いた。

「あのー、お取込み中申し訳ないのですが、ちょっと確認してよろしいでしょうか?美園さんの想い人って、その・・・基希さんですよね?でも今の状況を見ているとそのー・・・歩生さん関係で私に腹を立てているような雰囲気が伝わってしまうのですが・・・」

困惑しながらも美園の態度がいまいち掴めない史果は恐る恐る彼女に視線を向けた。

「なんで私の想い人が基くんなの・・・?」

史果の問い掛けに顔を上げた美園は首をかしげる仕草で全く理解出来ないといった表情を浮かべ訝しげに史果を見返した。

「まあ、とりあえず俺が納得いくよういちからちゃんと説明するから一旦この話は終了っ」

互いの話がいまいち噛み合わないせいか史果は更に脳内が混乱しているとその状況を見透かすように基希が話しに割り込み一旦会話を中断させた。

「ほらほらお前ら、早く疑問を解決したいならさっさと食って俺ん家行くぞ」

基希の言葉通り急かすように食べさせられた三人は全く状況を飲み込めぬまま一先ず黙々と皿に置かれた焼き鳥を食べ続けた。



――――――――――
「ほい、美園は砂糖とミルク淹れれば良かったっけ?」

基希からの問い掛けに美園は小さく頷くとホット珈琲を受け取り一口啜った。基希と美園はソファに座り、その前にあるローテーブルを挟んで向かいに正座で座る史果、少し離れたダイニングテーブルの椅子に歩生が腰を下ろしていた。

「どこから話せばいいかなー」

基希は珈琲を一口飲みそのままカップをテーブルに置いた。ソファに背を凭れながら頭の中で整理しそれが終わると不安げな表情で座る史果に視線を向けた。

「なんで俺の把握してないところで史果が美園と接点を持ったのかはこの際置いといて、俺と美園の関係は・・・知ってるんだよな?」

「・・・はい」

史果の返事と共に基希はチラリと歩生の方へ一瞥するも彼からは気まずそうな表情で視線を逸らされ呆れて思わず溜息を溢した。

「じゃあ、美園の好きな男は?」

その答えを言わせようとする基希の神経に一瞬憎しみが込み上げるも史果は基希を真っ直ぐ見つめ言葉を放った。

「それは・・・基希さんでしょ?幼い頃からの仲で・・・将来のパートナ、」

「はあっ!?なんでそうなるの?私の好きな人が基くんなわけないでしょっ!そもそも私がずっと好きなのは後にも先にもいないし!!」

史果の言葉に我慢出来なかったのか美園はテーブルを思いきり両手で叩きつけると興奮した様子で食い気味に遮った。

「・・・んっ??」

その勢いに押されるも今度は史果が理解出来ないといった表情をソファに座る二人とその奥に座る歩生へ交互に向け茫然としていた。

「そういうこと。確かに俺らがガキの頃、親同士が勝手に決めた結婚相手だけど当の本人たちは全く以て認めちゃいない。ガキの頃は大人が勝手に言った戯言だと思ってあしらってたけど勝手にどんどん悪い方へと進めるもんだから猶更親たちは乗り気になるし。流石にこのまま黙ってるわけにもいかなくなってね」

「当たり前だろっ!!俺は会社のために」

基希の言葉に反論するかのように今度は歩生が声を荒げた。ずっと冷静な態度でいた基希だったが、首を少しだけ背後へ向けると冷ややかな表情で歩生を睨みつけた。

「あっ?何が会社のためだよ、自分の為だろうが。美園のこと好きなのにいつまでも女々しく諦めきれなくて。自分の感情殺すために俺らの意思無視して勝手に進めるような段取りつけていきやがって。お前の言動一つ一つが美園を毎回傷つけてるんだぞ!何でわかんねーんだよっ!!」

初めこそ感情を殺すように淡々と話していた基希だったが、視線をふと美園へと向けると哀し気に小さく座る姿に歩生に対しふつふつと苛立ちが込み上げ声を荒げた。

「・・・俺は、今でも美園が幸せに出来るのは基希しかいないと思ってる」

それでも尚頑なな歩生に美園は我慢できず、彼の元へと歩み涙目で睨みつけた。

「そんなの歩くんが決めることじゃないッッ!!私はずっと子どもの頃から歩くんしか好きじゃないのに・・・なんで」

その場で崩れるようにへたり込んだ美園は両手で顔を覆い子供のように泣き崩れた。歩生は無意識に手を伸ばし彼女に触れようとするも躊躇い手を引っ込めた。

(ん?え?ちょっと待って!?・・・一旦整理しよ。えーっと、基希さんと美園さんは婚約してるけど美園さんは子どもの頃から歩生さんが好きで、歩生さんも美園さんが好きで・・・でも美園さんの幸せを想って自分は身を引き基希さんとの婚姻を進めていた・・・てこと?)

話の流れ的に蚊帳の外とは言え、何とか思考を動かしながら史果はこの修羅場の中小さく手を挙げ恐る恐る口を開いた。

「あのー、部外者が口を挟んでいいのかわかりませんが、そもそもお二人の気持ちが通じ合っているのならそれをご両親にお伝えすればいいんじゃないでしょうか。神野家にとって歩生さんも基希さん同様幼い頃からの付き合いで安心する相手だと思いますし家柄的にも問題ないのでは・・・」

「そうそう、史果の言う通り」

史果の言葉に大きく頷く基希に苛立ちをぶつけるように歩生はダイニングテーブルを拳で力強く叩き勢いよく立ち上がった。

「何勝手なことを!そもそも親会社は基希の父親が社長をやってるんだ!跡を継ぐのは基希なんだしそうなれば必然的に神野グループにとってふさわしい相手が誰なのかわかるだろっ!!」

歩生は我慢していたものを吐き出すかのように怒りを纏い興奮気味で捲し立て声を荒げた。その様子を目の当たりにした基希は軽く息を吐くと歩生に向かってニヤリと微笑んだ。

「あー、それね。まあ、前々から考えてたしそれとなくは言ってたけど改めて今日親父に会社継ぐ気がないことと美園とは結婚する意思がないこと伝えて納得してもらった。そもそも親父は世襲制にこだわっちゃいねーしそれこそ歩生が継いでくれたって構わないと思ってるくらい。あと叔父さんにも歩生を後釜にしたいのか確認したらこっちも同じく全く考えてないってよ。寧ろ聖さんから俺にこのまま子会社こっちで社長になって欲しいって言われたぐらいだしな。ってことで結果この縁談にお前が言うようなメリットはなんもないってこと」

「は!?何だよ、それ」

思考が混乱しているのか基希の言葉に歩生は左手で口元を押さえ尻餅をつくかのように勢いよく椅子へと腰を落とした。

「美園のご両親にも二人で俺らの気持ちは全部伝えてきた。結婚の意思もないし互いに想う相手がいることも・・・兎に角、歩生っ!!お前がまずやることは美園とちゃんと話をすること!そのあとは二人で美園のご両親に会って気持ちを伝えること!!いい加減側でぐちゃぐちゃウジウジされてるの鬱陶しいんだよっ!!」

先ほどの勢いから一転、伏し目がちで気まずそうな表情をする歩生の胸倉を基希は両手で掴み上げそのまま壁に押し付けた。再び一触即発な雰囲気が部屋を立ち込め緊張感が走るも基希は口角を上げニコリと微笑み掴んだ両手をパッと離し右手で拳を作ると歩生の右胸付近を軽く小突いた。

「・・・すまない」

「謝る相手が違うだろうが」

歩生は泣き腫らす美園の元へ向かい彼女を優しく立たせると自身が座っていた椅子へと座らせた。そのまま歩生は前で跪き涙で濡れた美園の両手を自身の手で包み込むと頭を下げ額に当てた。

「俺はずっと美園が笑っていられるようにしたかっただけなんだ。でも俺がしていたことは逆に傷つけていたんだな。気持ちを出さなければ忘れられると思ってた・・・基希との正式な結婚が決まれば前に進めると思ってた・・・でも逆だった。基希の言う通り女々しいんだよ、俺。・・・美園は本当にこんな俺で良いのか?」

「ふふ、そんなの小っちゃい頃から知ってるよ。いっつも基くんの後ろに隠れてオロオロしてるのに私に何かあるとすぐ飛んできて護ってくれて私を温かい気持ちにしてくれる・・・そんな歩くんが大好きでずっと一緒にいたいと想った。基くんでも他の誰でもない、歩くんにしかこんな気持ちにならないよ」

美園は歩生の両頬を優しく包み顔を上げさせると涙顔で笑顔を向けた。その光景に歩生も愛おし気に目を細め笑みを溢した。

「はいはい、とりあえず一件落着したんだしさっさと帰った帰った。ったく、ここまで拗らせやがって、だからな!」

そんな二人の様子をもらい泣きで目を潤ませる史果を余所に基希は両手をパンパンと叩き現実へと引き戻す。基希から呆れた口調と表情を向けられた二人は見つめ合い互いに照れ臭そうにはにかんだ。

「ああ、わかってるよ。・・・瀬尾、色々と巻き込んですまなかった」

「え、い、いえ。そんな・・・私こそ、なんかすみま、って、わっ!?」

歩生に頭を下げようとした刹那、勢いよく向かって来た美園に腕を掴まれ壁際まで連れて行かれると二人に聞こえないように史果の耳元へ囁いてきた。

「さっきは色々とごめんなさい。私がアポなしで会いに行った時、ちゃんと伝えていればややこしい感じにならずに済んだのよね。歩くんのことで頭いっぱいだったとはいえ・・・ほんとごめんなさい」

先程までの敵意むき出しだった表情から一転、まるで小動物のように小さく消沈した表情の美園に慌てるように史果は頭を左右に振った。

「そんな、謝らないで下さい。結果的にそうであったとしても、もし美園さんが基希さんに好意があったのなら私は取り返しがつかない行為をして貴女を傷つけていたんです、私こそごめんなさい。・・・・・・あと歩生さんのことは何とも想ってませんからご心配なさらず。そもそも私には歩生さんの比じゃない程の重い想いをくれる基希さんひとしか見えてませんから」

最後、二人には聞こえないよう耳打ちする史果の言葉に美園は吹き出しそれに釣られ史果も笑みを溢した。
二人は今日初めて互いに笑みを向け合い、その表情のまま美園は歩生の元へと小走りで戻って行った。



☆☆☆
「基くん、今回の件含め改めて歩くんと一緒に鹿島家へご挨拶に伺うわ」

「ああ、わかった。その時は俺も顔出すから決まったら教えてくれ・・・それより美園、ほんと良か、っイテッ」

玄関先で美園に告げられた基希は頷き美園の頭にポンと手を置こうとした刹那、歩生からかなり強めに手を払い除けられ弾かれてしまった。

「もう婚約者じゃないんだ。気安く未婚の女性に触るな」

基希を鋭い視線で睨みつける歩生に基希は呆れた表情でジト目を向け大きく溜息を吐いた。

「はあ?お前に言われたかねーよ!散々、史果を連れ回して余計なこと吹き込んでたくせに。早く帰れ、帰れ」

基希は右手でしっし、と追い払うように歩生へ向けると歩生と美園は笑みを浮かべながら基希のマンションを後にした。


「なんだかんだ遠回りはしましたが、二人が上手くいって本当に良かったですね・・・て、ことで、じゃ、じゃあ私もそろそろお暇しま・・・」

二人がいなくなり隣に立つ基希に安堵の表情を向けた刹那、史果は自身が置かれている状況を思い出し、少しずつ自身の靴へと足を近づけた。しかし伸びてきた基希の大きな手が肩をがっしりと掴んできたため動きを阻まれてしまった。

「どーこ行こうとしてんのー?そもそもマンションここは史果の家でもあるだろー?久しぶりだしゆーーっくりお話ししたいなー♡」

「・・・あ、ははは・・・・・」

史果は油の切れたブリキの玩具のようにギシギシと音が鳴りそうな程のぎこちない首の動きで基希の表情を捉えた。基希の明るめに話す声色と仄暗い表情のミスマッチさが更に恐怖心を煽り史果は引き攣った笑みを向けるのに精一杯だった。
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