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第一話 始まりの洞窟

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 ひんやりとした硬い地面。そして、流れる空気。
「ポトン......ポトン......」と、水のはねる音。

 まぶたから伝わる光は薄暗かったが、少年は眩しそうに、重たく目を開けた。
天井は、岩場のようで、暗めの青色が、何色かに細かく分けられて塗られている。
背中にわずかな痛みを感じて、上半身を起き上げてみると、
いつものように、古着したジャージを着ていた。

「ここはどこだ?」
それこそ、どこかで聞いたことがあるような、彼はセリフを言った後、
ふと、手の中の小さな異変に気付く。

「なんだ、これ?」
覚えのない折りたたまれた紙を、無自覚に手で握っていたので、
奇妙に思いながらも、丁寧に紙を開いた。

────────────────────────────────────
少年へ

 あなたは、異世界に転生しました。
不幸に見舞われて、短く一生を終えてしまったからです。

 なので、この世界で、新たな人生を築いてください。
あなたに幸せな人生が訪れることを願っています。

追記
 まずは、「ステータス」と唱えて、
自分のステータスを確認する事をおすすめします!

                           女神マルフィエルより
─────────────────────────────────────

 どうやら、彼は異世界転生をしたそうだ。
手紙は活字であることに、近代化を感じるが、
ステータスなんてものがあるのは、異世界らしい印象だ。

「ステータス」
早速、ステータスが気になる。

─────────────────────────────────────
名前未設定 レベル1

肉体強化:10
魔力:25
魔法行使力:20

行使魔法:特になし
スキル:特になし
─────────────────────────────────────

 彼が思っていたような、攻撃、防御、体力といったステータスとは異なり、
項目は、たったの5個しかない。

 たしかに、レベルが上がっただけで、力が強くなったり、
ダメージをあまり食らわなくなったりするのは、よくある謎ではある。
だが、元々の肉体の力に、強化されるという考えなら、なんら不思議ではない。

 使える魔法や、スキルが特にないという事を、
彼は少し残念だったが、これから増えていく可能性を期待した。

 ステータスの確認をした後、その場にスッと立ち上がった。
辺りを見渡すかぎり、薄暗い岩場が広がっている。
その情景からは、安易に洞窟の中だと認知できる。

 軽い散策をしながら、奥らしき、奥に進んだ。
物音一つしない中に、足音を響かせながら歩いた。

 しばらく歩くと、暗い道の奥に、宝箱が現れた。
実際に、宝が入っているかは分からないにしても、
海賊が持っていそうなイラスト通りの物であるので、宝箱とする。

 プレゼントを開く時のような表情で、宝箱を開ける。
彼は、RPGをしているような気分になっていた。

「お、おぉぉぉぉぉ!」

 中身は、期待を裏切らない、黒色の光沢がある剣。
持ちての装飾は、シンプルではあるが、神秘的だ。

 高価そうなその剣に、感動しながら
見入っていると、どこからか話声が聞こえ始めた。
足音も聞こえ始め、それも次第に大きくなって聞こえる。

「やっと、最深部に来れたな」
「あぁ。これで、黒龍剣が手に入るぜ」

 冒険者らしき格好をした二人組だ。
びっくりして、剣を持ち上げ、慌てて隠れようとした時の動作が、
小石に蹴りとして入ってしまった。

 本来は、小さな音ではあるのだが、
この洞窟では、大きく反響してしまい、冒険者たちは彼の存在に気づく。

「おい、誰かいるぞ!」
「って、黒龍剣! 俺たちより先に来てる奴がいるとは!」

 黒龍剣とは、彼が持っている剣を言っている。
冒険者たちは、この剣を目的として、ここに来たらしい。
少しの不安のせいか、剣を強く握りしめた。

「あ、あぁ。驚かせてすまなかったね。
僕たちより先に、ダンジョンに来ていた人がいたからビックリしたんだよ。」
「本当におめでとう。僕らにも、その剣、見せてくれないかな?」

 最初の印象とは異なり、意外にも冒険者らは、彼にとって好印象だった。
苦労もしないで、その剣を手に入れたことに、申し訳なさを感じながらも、
ステータスをレベル1から始めるハンデとして、貰ってもバチは当たらないはず。
「見せるだけなら。」と、小さく呟き、彼は手渡した。

 その瞬間、彼に強い腹痛が走る。
全身の骨にまで響いた衝撃は、呼吸を数秒止めた。
その場に、ひざまずき、顔を床に擦り付け、
意識もうろうする中、彼の耳には、笑い声が入ってくる。

「何こいつww ザコッww」
「簡単に騙されすぎだろww」
(騙された? そうか、こいつらが......)

 防御や回避をするどころか、彼は攻撃すら見えなかった。
手から放してしまった剣を拾い上げる
「キィィィィィィ!」という不快音がこの洞窟で響いた。

「さっきのトラップ発動させて逃げようぜww」
「出口も魔法でふさいでおくかww」
(トラップ? 出口? 俺は、こんなところで死んでしまうのか?)

 冒険者の笑い声を後にして、彼の意識は遠くなり......



 目を覚ますと、辺りはスライムだらけになっていた。
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