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第三話 新種のスライム

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 彼は、この洞窟のスライムを皆殺しにすることにした。
「目に入るスライムは不快感を覚えるため、消したい」という本能的な理由だ。

 そんな欲望を叶えるように、狂気じみた目で、スライムを殺していく。
踏みつぶす。石を投げる。魔法で燃やす。
その三通りで、洞窟内のスライムの数を減っていった。

 スライム殺しをしながら、散策をしていると、扉らしき物を見つけた。
冒険者たちの発言どおりに、ここが最深部ならば、
この扉しか出口がないと考えられる。

 一応のため、触ってみるものの、ビクともしない。
それは、まるで岩壁に描かれた絵のようだった。
予想はしていたことなので、あまり落ち込む事は無かったが、
深いため息を彼は吐いた。

───シュン!

 突如、扉に魔法陣が現れた。

「まさか、救助が!」

 その瞬間、魔法陣からスライムが流れ出てくる。
それも何百匹という量ではない。千匹を超えていた。

 とっさに、避けようとするが、スライムの量と勢いに負けて、
彼の体は、スライムの波に流されていく。
スライムをかき分けて、泳ぐように出ようとするが、
いくら泳いでも、終わりが見えない。

(い、息が......)

 もちろん、呼吸はできなかった。
必死にもがく彼は、他人から見れば滑稽だ。

 さらに、スライムが吸収しようとしているのせいなのか、
肌がヒリヒリと痛み始める。
皮膚が少しずつ解け始めているのが、わかる。
目は開けることが激痛でできなくなった。

 それでも、もがき続けていると、いつの間にか息が苦しくなくなった。
息はしていないのに、気管に空気が通っていく感覚がある。

 体が解けていく激痛に耐えていると、スライムの集合体は平たく伸び始めて、
顔を空気にさらすことができるようになる。
やがて地面に足をつけることも出来るようになり、
スライム達の水位は、ひざ下ぐらいまで下がってきた。

 目を開くと、スライムが洞窟全体に広がっていて、
最初の数十倍の量となっている。
そんな情景を見た彼は、無性に殺したくなり、魔法を行使する。

 最初に使った魔法とは、威力が異なっていた。
魔法の対象であるスライムが多くなり、
一回の魔法で大量のスライムを焼き払った。
そこらにいるスライムは、悲鳴や鳴き声などを出さずに、煙と化す。

 とりあえず、ではあるが、己の陣地を形成する。
その場所に侵入するスライムは、すぐさま殺した。

「はぁ、はぁ......。ステータス......」

─────────────────────────────────────
名前未設定 レベル5

肉体強化:60
魔力:120
魔法行使力:140

行使魔法:火属性攻撃魔法
スキル:魔力変換(体力・空気) 攻撃魔法対象範囲の拡張
─────────────────────────────────────

 彼が思った通り、レベルは上がっている。
あれだけの量をスライムを倒したので、妥当な値ではある。
スキルは新たに、魔力変換に空気が含まれている。
呼吸が必要ないという事だ。

 そして、追加されたもう一つのスキルが【攻撃魔法対象範囲の拡張】。
先ほどの魔法のように、攻撃範囲が広くなったそうだ。

 その後も、スライムの量を減らしていると、また扉に魔法陣が現れる。
洞窟のスライムの補充だ。

 だが、それを彼は待っていた。
少し離れた位置で、扉に掌を向ける。

「はぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 タイミングを合わせるように魔法を使った。
今までで、一番大きな魔法陣だ。
魔法陣からあふれ出すスライムは、一瞬で焼き払われる。
魔法陣からスライムが出尽くした後、倒れるように、その場で眠った。



 次の日なのかは、彼にとしては分からないが、
大量のスライムの中で目を覚ました。

(き、気持ち悪!)
 
 彼が眠っている間にも、スライムは補充されている。
長い間眠っていたので、スライムの水位は高かった。

 さっそく、スライムを掃除した後、扉の前で、待ち構えた。
そして、現れる魔法陣。が、今回は色が違った。
それに、大きさも、かなりビックサイズである。

 警戒はしつつも、負けないようにと大きな魔法陣を出して、攻撃する。
だが、彼の放った炎の中に突っ込んでくるのは、
今までのように、水色のスライムではない。

 黄色の体色で、電気のようなものを発していた。
「色違いだ!」と言って、捕まえようとする人は、普通いないだろう。

 炎を突き抜けてきたスライムたちは、彼を包む。
感電などとは言いようがない現象であり、痛みは感じない。
ただ、体の自由が無くなり、目は開けることが出来ない。
それでも、筋肉が痙攣している事だけが分かった。

 彼が、死を覚悟してきた中でも、
衝撃が入り交じっているため、一番の恐怖心となる。
けれど、彼は生き延びようと思考した。

(火が効かないならどうすれば!)

 その答えを出すかのように、無意識に彼の手から広がる魔法陣。
あふれ出すスライムに対抗するように、水が放出された。

 水に触れるだけで、スライムは煙へ化していくため、
青色のスライムより弱い印象を持ってしまう。
大量の電気スライムは、黄色の粘液だけを残して、
目の前で溶けるように、消え去っていく。

 彼は「ふぅー」と、一息ついて、扉を見ると、
またもや色の違う魔法陣が映し出されていた......
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