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第二十七話 再び馬車の中
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二日後の早朝。
めでたく(?)命名された少年───キルスは、ギルドに申請を行なった後は、
冒険者としての仕事は一切しなかった。
久しぶりの休日ではあるが、特にやる事もなく、だらんとした日を過ごす。
そして、今日、ミコラの町を出る事となった。
遠くなっていくミコラの町を、マリは馬車の中でじっと眺める。
馬車は、乾いた黄土色の土を走り始め、町は地平線に消えていった。
マリは体制を戻して、椅子に座る。
「キリナの町に、居るといいですね」
キルスの顔をのぞくように、マリは言った。
何やら考え事をしているらしく、少しの間を開けて、「そうだな」と反応を示す。
二人が言っているのは、言わずとも分かりきっている、
キルスを陥れた冒険者二人を指していた。
馬車は乗客用四台、最後部に飲食等の生活必需品が一台といった
ように繋がれている長い馬車となっている。
キルスの町は、明日の昼に着く予定であるからだ。
マリは、暇を持て余していたが、キルスは悩まし気に、
外を見つめるばかりで、その場に、会話は無かった。
相談したいといった様子ではなく、マリは心配そうに、時々チラリと見るだけ。
その日は、マリにとって、とても長く感じる一日だった。
その日の夜は、ガイドさんのような人が火を焚いて、
何やら鍋料理というものを作っている。
マリは、おいしそうに食していたが、キルスがボケー、と火だけを見つめる。
マリは、直接問いただす事を決心した。
そして、馬車の中。
椅子が変形して出来たベットの上。
壁の木目をじっと目線でなぞっていたキルスに、
マリが抱いていた疑問をぶつけられた。
「先輩、何で、元気ないんですか?」
小さくマリは問う。キルスは、寝返りをうつように振り返ってマリの方を向く。
マリが「近っ」と小さくこぼして赤面するが、
キルスの精気がない顔は、みじんも変化を見せない。
数秒経って、ようやく言葉の意味を理解し終えたようで、ボソッと口を開く。
「あぁ、俺がこの世界に来た意味ってなんだろうってな......」
ゆっくりとキルスは、目を閉じる。マリは瞑想に入り始めた事を察して、
会話が途切れないように、話を続けた。
「なんで、そんな事を?」
唐突な哲学的みたいな話の根源を、マリが首を傾げて訊いた。
キルスがそんな事を考え始めたのは、名前を命名された日の夜、
本来の名前を思い出そうとした時からだ。
そこから、元に居た世界の事を気にかけるようになる。
「まぁ、何にしても、あいつらに一泡ふかせてからだな」
マリを心配させないようにと、打った一芝居は見事であり、目元まで笑っていた。
しかしながら、マリには、心から笑っていない事が見え透いてしまう。
それでも、騙されたように、マリはいつもの笑みで返してあげた。
次の日の朝。
御者の掛け声で、乗客たちは目を覚まし、馬車は走り始める。
昨晩の短い会話でも、キルスは元気を取り戻したようで、マリは少し安楽となる。
その日は、キルスの方から話を始めた。
「マリのステータスって、ちゃんと見たことないなぁ」
一見、独り言のような発言であるが、マリは反応する。
「ステータス」
ステータスは、本人の顔の近くに現れるが、
マリの頭は、キルスのふとももの上にあるので、安易に読む事が可能であった。
─────────────────────────────────────
クイーンズ・ラリファット・マリエル レベル17
肉体強化:210
魔力:330
魔法行使力:410
行使魔法:全属性攻撃魔法・浄化魔法・解除魔法・放射魔法(火・氷)
魔力結界魔法
スキル:魔力変換(体力・空気) 攻撃魔法の連発
暗眼 毒耐性 感電耐性 乗っ取り耐性
─────────────────────────────────────
「へぇー。マリって、俺よりレベル高いんだな」
「先輩は、レベル1からですから、仕方ないですけどね」
いつもなら、マリが自信満々に「そうですよ!」という場面であるが、
今にも睡眠状態に入りそうである上、
肉体強化は男女の差という事もあり負けているため、あえて相手の立場を上げた。
「この放射魔法っていうのは?」
「攻撃魔法とは違って......私が霊に乗っ取られている時に使った魔法ですよ」
「あぁ、あれか」とキルスは、呼び起した記憶を目に浮かべる。
そんな中、「あの時、意識あったんだ」という新たな発見も果たした。
「へー」と領得の声を上げながら、キルスは、マリの頭を撫で始める。
キルスは、完全に無意識であった。
「私の髪、好きなんですか?」
マリがそう言うと、ハッと目を覚ましたように、キルスは手を放す。
「いや、いいですよ。私も落ち着きますから」
実際に、ふにゃー、と猫のような甘い声でマリが言う。
マリは、懐かしい記憶を呼び起こされるような感覚を味わっていた。
了承を得たキルスは、今度は自覚ありで、頭撫でを遠慮なく続ける。
「マリの髪って、綺麗でサラサラしてるよな」
一本一本が細いマリの髪を持ち上げるように、キルスは指ですくった。
指から落ちる髪は、液体のように滑らかな動きをする。
しばらく髪をもてあそんでいたキルスは、次に耳たぶへと手を伸ばした。
親指と人差し指で挟まれ、柔らかそうに伸びる。
誰が見ても、ムニュムニュといった擬態語を想像しそうなほどの、弾力であった。
「耳は、許可してないですよー」と、ふにゃー、とした萌え声で、マリが言う。
許可はしていなくとも、まったく拒否していなかった。
一見、「リア充爆発しろ」という感想をもたれそうな雰囲気を漂わせながら、
キルスの町の城門は開かれ、馬車は町へと入って行った。
めでたく(?)命名された少年───キルスは、ギルドに申請を行なった後は、
冒険者としての仕事は一切しなかった。
久しぶりの休日ではあるが、特にやる事もなく、だらんとした日を過ごす。
そして、今日、ミコラの町を出る事となった。
遠くなっていくミコラの町を、マリは馬車の中でじっと眺める。
馬車は、乾いた黄土色の土を走り始め、町は地平線に消えていった。
マリは体制を戻して、椅子に座る。
「キリナの町に、居るといいですね」
キルスの顔をのぞくように、マリは言った。
何やら考え事をしているらしく、少しの間を開けて、「そうだな」と反応を示す。
二人が言っているのは、言わずとも分かりきっている、
キルスを陥れた冒険者二人を指していた。
馬車は乗客用四台、最後部に飲食等の生活必需品が一台といった
ように繋がれている長い馬車となっている。
キルスの町は、明日の昼に着く予定であるからだ。
マリは、暇を持て余していたが、キルスは悩まし気に、
外を見つめるばかりで、その場に、会話は無かった。
相談したいといった様子ではなく、マリは心配そうに、時々チラリと見るだけ。
その日は、マリにとって、とても長く感じる一日だった。
その日の夜は、ガイドさんのような人が火を焚いて、
何やら鍋料理というものを作っている。
マリは、おいしそうに食していたが、キルスがボケー、と火だけを見つめる。
マリは、直接問いただす事を決心した。
そして、馬車の中。
椅子が変形して出来たベットの上。
壁の木目をじっと目線でなぞっていたキルスに、
マリが抱いていた疑問をぶつけられた。
「先輩、何で、元気ないんですか?」
小さくマリは問う。キルスは、寝返りをうつように振り返ってマリの方を向く。
マリが「近っ」と小さくこぼして赤面するが、
キルスの精気がない顔は、みじんも変化を見せない。
数秒経って、ようやく言葉の意味を理解し終えたようで、ボソッと口を開く。
「あぁ、俺がこの世界に来た意味ってなんだろうってな......」
ゆっくりとキルスは、目を閉じる。マリは瞑想に入り始めた事を察して、
会話が途切れないように、話を続けた。
「なんで、そんな事を?」
唐突な哲学的みたいな話の根源を、マリが首を傾げて訊いた。
キルスがそんな事を考え始めたのは、名前を命名された日の夜、
本来の名前を思い出そうとした時からだ。
そこから、元に居た世界の事を気にかけるようになる。
「まぁ、何にしても、あいつらに一泡ふかせてからだな」
マリを心配させないようにと、打った一芝居は見事であり、目元まで笑っていた。
しかしながら、マリには、心から笑っていない事が見え透いてしまう。
それでも、騙されたように、マリはいつもの笑みで返してあげた。
次の日の朝。
御者の掛け声で、乗客たちは目を覚まし、馬車は走り始める。
昨晩の短い会話でも、キルスは元気を取り戻したようで、マリは少し安楽となる。
その日は、キルスの方から話を始めた。
「マリのステータスって、ちゃんと見たことないなぁ」
一見、独り言のような発言であるが、マリは反応する。
「ステータス」
ステータスは、本人の顔の近くに現れるが、
マリの頭は、キルスのふとももの上にあるので、安易に読む事が可能であった。
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クイーンズ・ラリファット・マリエル レベル17
肉体強化:210
魔力:330
魔法行使力:410
行使魔法:全属性攻撃魔法・浄化魔法・解除魔法・放射魔法(火・氷)
魔力結界魔法
スキル:魔力変換(体力・空気) 攻撃魔法の連発
暗眼 毒耐性 感電耐性 乗っ取り耐性
─────────────────────────────────────
「へぇー。マリって、俺よりレベル高いんだな」
「先輩は、レベル1からですから、仕方ないですけどね」
いつもなら、マリが自信満々に「そうですよ!」という場面であるが、
今にも睡眠状態に入りそうである上、
肉体強化は男女の差という事もあり負けているため、あえて相手の立場を上げた。
「この放射魔法っていうのは?」
「攻撃魔法とは違って......私が霊に乗っ取られている時に使った魔法ですよ」
「あぁ、あれか」とキルスは、呼び起した記憶を目に浮かべる。
そんな中、「あの時、意識あったんだ」という新たな発見も果たした。
「へー」と領得の声を上げながら、キルスは、マリの頭を撫で始める。
キルスは、完全に無意識であった。
「私の髪、好きなんですか?」
マリがそう言うと、ハッと目を覚ましたように、キルスは手を放す。
「いや、いいですよ。私も落ち着きますから」
実際に、ふにゃー、と猫のような甘い声でマリが言う。
マリは、懐かしい記憶を呼び起こされるような感覚を味わっていた。
了承を得たキルスは、今度は自覚ありで、頭撫でを遠慮なく続ける。
「マリの髪って、綺麗でサラサラしてるよな」
一本一本が細いマリの髪を持ち上げるように、キルスは指ですくった。
指から落ちる髪は、液体のように滑らかな動きをする。
しばらく髪をもてあそんでいたキルスは、次に耳たぶへと手を伸ばした。
親指と人差し指で挟まれ、柔らかそうに伸びる。
誰が見ても、ムニュムニュといった擬態語を想像しそうなほどの、弾力であった。
「耳は、許可してないですよー」と、ふにゃー、とした萌え声で、マリが言う。
許可はしていなくとも、まったく拒否していなかった。
一見、「リア充爆発しろ」という感想をもたれそうな雰囲気を漂わせながら、
キルスの町の城門は開かれ、馬車は町へと入って行った。
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