公爵家の養女

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第一章

再会

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 (……皆んな、本当に若返っていて驚いたわ)



 支度を終えたリーナは、食事まで時間があるので、回帰してき少し新しくなった邸宅内を、散策していた。

 その最中に、使用人らと会ったリーナは、自身と同じように少し若くなっている使用人を見て、改めて過去に戻ってきた事を実感する。



 (みんな若返っていると言うことは、執事長のアルバートも若返っていると言うことよね? 見に行かなくちゃ……!)



 そう嬉々として、軽い足取りでアルバートを探しに行こうと、後ろを振り返った時だった。

 ――ドンッと誰かにぶつかってしまい、じんじんと痛む鼻に、少し涙を浮かべながら「ごめんなさい……」と顔を上げると、リーナは「あ……」と、まるで時が止まったかのように固まる。



 (エーデル……!)



 ぶつかってしまった相手を見て、リーナは(わぁ……! 幼いエーデルだ……!)と目を輝かせる。

 そんなリーナに無表情で「……大丈夫か?」と尋ねてくる彼は、リーナの義兄のエーデルで、何故か目を輝かせながら自身を見てくるリーナに、エーデルは困惑した表情を浮かべる。



 エーデル・フォン・ヴァンディリア

 帝国の剣と呼ばれるヴァンディリア公爵家の長男で、リーナの義兄である彼は、ヴァンディリア家の象徴である純白の髪に、美しい深い青色の瞳を持ち、帝国三大美男のうちの一人に選ばれる程の整った容姿を持っている。


 その上、帝国の剣と呼ばれるヴァンディリア家の長男に相応しく、剣の腕は帝国で一、二を競う程で、数多の令嬢たちが彼に恋心を抱いているのは言うまでもない。



 (私が13歳ってことは、エーデルは15歳よね? 15歳のエーデルってこんなに可愛かったかしら? 5年後のエーデルはまるで人を寄せ付けない猫のように、いつもツンっとしているのに)



 (5年でこんなに変わるなんて……)と、エーデルの顔をまじまじと見つめるリーナと、エーデルの視線が絡む。


 その瞬間、リーナは自身の状況を思い出し、我に帰り「ご、ごめんなさい!」と慌ててエーデルから離れようとするも、急に動いてしまった事により、バランスを崩し転けてしまいそうになる。

 だが、瞬時にエーデルがリーナの体を支え、何とか倒れずに済んだ。



 「先から変だぞ、何かあったか?」



 リーナの体勢を整わせながら、そう尋ねてくるエーデルに、リーナは目をぱちぱちとさせながら、驚いたようにエーデルを見る。



 (エーデルが私にそんな事を聞いてくるなんて……過去にあったかしら?)



 エーデルとリーナは、公爵邸で約11年共に過ごしたが、互いにあまり話す事はなく、エーデルはリーナに無関心と言った態度を取っていた。

 そんなエーデルが〝何かあったか〟と尋ねてきたため、リーナは驚きが隠せない様子。


 何も答えないリーナに、エーデルは「リーナ?」と顔を覗き込むと、リーナは「……ううん! 何もないよ! 支えてくれてありがとう、エーデル!」と笑う。

 その瞬間、今度はエーデルが目を見開き驚いた表情を浮かべる。



 「エーデルって……」

 「うん?」



 首を傾げるリーナを見て、エーデルは「いや……」と顔を背けると、先を歩き出す。

 そんなエーデルの後ろ姿を見たリーナは(そう言えば、この時はまだエーデルの名前を読んだ事なかったっけ……)と思い出す。



 (お義兄ちゃんって呼ぶと凄い嫌がられて、それからエーデルの事を呼びづらくなって、あまり私からも話しかけなくなったのよね)

 (気づいたら、エーデルって呼ぶようになっていたけど、いつからだったかしら?)



 リーナは過去の記憶を思い出すため「うーん」と頭を悩ませていると、エーデルは振り返り「何をしているんだ?」と声をかけてくる。



 「シュタインを出迎えに行くんじゃないのか?」

 「え……?」



 エーデルは「……行きたくないなら、別にいいけど」と再び前を向き、歩き始める。

 そんなエーデルの後を、リーナは「私も行く……!」と急いで追う。



 アルバートの元へと行くはずだったが、まるでエーデルに一緒にシュタインを出迎えに行こうと言われているみたいで、そんな事は初めてで、リーナは嬉しくなったのだ。



 (アルバートは後で見に行けばいいか)



 嬉しそうな表情を浮かべ、エーデルの後をついて行くリーナ。

 二度目の人生の目的、義兄弟と仲良くなると言う目標へと、ほんの少しだが近づけた気がしたのだった。







 リーナとエーデルが玄関へと向かうと、楽しそうな声が聞こえて来る。

 その中でも、人一倍大きな声を聞き(この声……)と、リーナは嬉しくなる。



 「シュタイン」



 隣を歩くエーデルが、使用人らの中心で楽しそうに話をする少年の名前を呼ぶと、少年は「兄貴!」と嬉しそうに笑顔を向ける。



 「兄貴、久しぶりだね! 元気にしてた……」



 久しぶりに、兄に会えて嬉しそうにエーデルに話しかける途中で少年は、隣にいるリーナの存在に気づき、段々と声が小さくなって行く。

 そして、リーナを指さすと「何でお前がいんだよ……!!」とエーデルによく似た、猫のような目を大きく見開き、声を上げるのだった。



 シュタイン・フォン・ヴァンディリア


 ヴァンディリア家の次男であり、リーナの義弟。

 と言っても実際は、リーナと同い年なのだが、リーナの方が誕生日が早いので、義弟となっている。

 尚、シュタインはリーナの義弟だと認めず、自身の方が兄だと言い続けているのだ。


 そんな彼も、ヴァンディリアの象徴である、少し黄身が混ざった白色の髪に、明るい青色の瞳をしており、兄のエーデルに比べれば、まだまだ幼いが、とても整った顔立ちをしている。



 指を指してくるシュタインを見て、リーナは(わぁ……! こう言ったシュタインの反応、懐かしいわ……!)とニコニコと笑みを浮かべては、微笑ましそうにシュタインを見る。

 その事が逆に気に障ったのか「何笑ってんだ! そんな微笑ましそうな目で見るな!!」と、リーナに突っかかる。



 「うるさい」

 「いって……! 何で叩くんだよ……!」



 エーデルに頭を手刀打ちしゅとううちのように叩かれ、頭を抑えるシュタイン。

 エーデルは「帰ってきて早々、突っかかるんじゃない」とシュタインを注意する。



 「何だよ……。お前のせいで、兄貴に叱られたじゃないか!」



 懲りもせず再びリーナに突っかかるシュタインに、リーナは微笑ましそうにしていると、何処からか「騒がしいと思えば、子どもたちが揃っていたのか」と言う声が聞こえてくる。

 その声は、低く、だが落ち着きがありリーナの心に、安心感を与える。



 使用人らは頭を下げると、シュタインは階段の上を見上げ「父上!」と、先ほどまでリーナに突っかかっていたとは思えない笑顔を向ける。


 光の加減からなのか、少し青がかったように見える純白の髪に、エーデルの瞳より、更に深く濃い青い瞳。

 その瞳は、鋭さと優しさを併せ持ち、リーナはその瞳が大好きだった。


 なので、再び会えた事がまるで夢のようで、リーナの心臓はドクッ――と音を立てる。

 その男性は、大きな玄関につながる階段を降り、リーナたちの前までやって来ると「リーナもシュタインの事を出迎えてくれたのだな」と嬉しそうに笑みを浮かべる。


 リーナは嬉しそうに笑うと「公爵様、おはようございます」と挨拶をする。


 彼は、両親を亡くしてしまった幼いリーナを、公爵邸へと迎え入れてくれた、この公爵邸の主人、ヴァンディリア公爵。



 リーナに話しかける公爵を見て、シュタインは「別に、出迎えに来てって頼んでねぇし……」と拗ねたように言う。

 そんなシュタインとリーナの頭に、公爵は手を置くと「出迎えは多ければ多いほどいいだろう? お帰りシュタイン」と優しく言う。



 ヴァンディリア公爵は、リーナとシュタインが16歳、エーデルが18歳の時、事故に巻き込まれ39歳と言う若さで命を落としてしまう。

 両親を亡くし、寂しい思いをしていたリーナの心を溶かしてくれた、優しく、穏やかな公爵が大好きだったリーナは、公爵が亡くなった時、エーデルやシュタインよりも涙を流した。


 そして、そんな公爵に会えない事を悲しんだ。

 だがこうしてまた、公爵に会えた事が嬉しく、リーナは今度は嬉し涙を流しそうになるのだった。
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