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第二章
誓い
しおりを挟む「改めて、当主就任おめでとう。」
エーデルの当主就任パーティー当日、お酒片手にエーデルに声をかけたのは、グランべセル公爵だった。
「グランべセル公爵。ありがとうございます」と返すエーデルに「そう言えば、まだお酒は飲めないのだったな」と残念そうに言う。
就任の祝杯を上げたかったのだろう。
エーデルは「あぁ……」と近くにいる給士に声をかけ飲み物を受け取る。
「ノンアルでよろしければ」
「もちろん」
グランべセルの嬉しそうな声とともに、二人のグラスがぶつかり、キンッと音を立てる。
今回、エーデルの意向で、就任パーティーにはヴァンディリアとより親交の深い家しか招待されておらず、比較的人数も少なくなっている。
リーナからしても、ほぼほぼ見知った顔の人たちなため、今回はそこまで緊張していないだろう。
恐らく、エーデルがそこも配慮したのだろう。
「リヒトは来ていないんですか?」
「リヒトなら来ているよ。ほらあそこに」
そうグランべセル公爵が向ける視線の先に、同世代の子息たちと談笑しているリヒトが見える。
そんなリヒトを見て、まぁあいつが、公爵と仲良く挨拶しに来るわけないか。と「そう言えば……」と話を変える。
しばらく二人が話をする中「ヴァンディリア公爵」と呼ぶ声が聞こえてくる。
声がした方を振り返れば、ヴィルスキン辺境伯がエーデルたちの元へと歩いて来ていた。
エーデルの前まで来ると「改めて、当主就任おめでとうございます」と祝いの言葉を送る。
「ヴィルスキン辺境伯、来てくださったんですね。ありがとうございます」
エーデルの言葉に、グランべセル公爵も「本当。皆んな驚いていたよ。滅多にパーティーに参加しない君が、参加しているってね」と続ける。
「ヴァンディリア公爵の就任パーティーなので。それにこれまでの事を反省して、今年はもう少し、社交力を磨こうと思いまして」
そう真顔で言うヴィルスキン辺境伯に、グランべセル公爵は「その方がいい」と眉を顰め頷き、エーデルは苦笑いを浮かべる。
「そう言えば、シュタイン公子とリーナ公女の姿が見えないようだが、参加はしていないのか?」
そう辺りを見渡し言うグランべセル公爵に、エーデルは「あぁ、二人なら……」と顔を向ける。
丁度その時、会場に入って来たリーナとシュタインがおり、会場内にいる人たちの視線はそちらへと向けられる。
「……っおぉ、これは驚いた。何度か会ったことがあるが、相変わらず、リーナ公女は目を惹かれるほどの美しさだな」
グランべセル公爵だけではなく、会場にいる人々が同じ事を思っているのだろう。
先程まで話に花を咲かせていたものも皆、静まり返り、リーナに視線が釘付けになっている。
「これは、デビュタントが楽しみだな」と頷くグランべセル公爵に「ですね」と返すエーデル。
そんなエーデルたちの元に、リーナとシュタインはやって来ると、シュタインは胸に手を当て、リーナはドレスの裾を掴み「本日はお越し頂きありがとうございます。グランべセル公爵、ヴィルスキン辺境伯」とお辞儀をする。
洗練された二人の動きに、グランべセル公爵は「素晴らしい。ヴァンディリアの未来は明るいな」と称賛する。
「リーナ公女とは、こうしてご挨拶するのは初めてですね。アルベルト・ヴィルスキンです。」
ヴィルスキン辺境伯とは、交流会やクラウスの葬儀で何度か会った事があるリーナだが、正式に挨拶をするのは今日が初めてだった。
リーナはヴィルスキン辺境伯に「リーナ・フォン・ヴァンディリアです。よろしくお願いいたします」と返す。
そんなリーナを見つめるヴィルスキン辺境伯。
リーナは不思議そうに首を傾げると、ヴィルスキン辺境伯は「いえ……」と視線を逸らす。
「おっと。いつまでも新しいヴァンディリア当主を独占していてはいけないな。他の家の者も、新しいヴァンディリア当主と挨拶をしたがっている」
ふと辺りに視線をやり、そう言うグランべセル公爵。
確かに先ほどから、チラチラとエーデルに視線を送っている者たちが居るようだ。
ヴィルスキン辺境伯も「ですね。我々はそろそろ退きましょうか」とエーデルに「ではまた。」と声をかけると、グランべセル公爵とともに歩いて行く。
その瞬間、エーデルたちの元に、他の家の者がやって来、エーデルたちに挨拶をし、当主就任の祝いの言葉を贈る。
「――づがれだぁぁあ」
一通り、パーティーに参加してくれた人たちと挨拶を終えたリーナたちは、少し端に寄り、シュタインはそう言って椅子に座り込む。
そんなシュタインを「お前はただ後ろで立っていただけだろ」と睨みつけるエーデル。
「そうだけど、ずっとお行儀よくニコニコしてるだけってのも疲れんの!」と口を尖らすシュタインに、側を護る騎士団長のラインハルトが「シュタイン様。もう少しお行儀よく座られてください」と注意する。
「はーい……」と姿勢を正すシュタイン。
そんなやり取りを側で見ているリーナに、エーデルは「疲れてないか? 疲れたら遠慮なく言うんだぞ」とシュタインの時とは違い、優しく声をかける。
「待って。リーナにだけ甘くない? 贔屓だ贔屓~」
そうエーデルにヤジを飛ばすシュタインを無視するエーデルに、リーナは「私は大丈夫だよ。エーデルの方が疲れているんじゃない?」と眉を下げる。
「俺は慣れているから平気だよ」
「さすが、ヴァンディリアの当主ね」
そう言って笑い合う二人を見て、シュタインは「ちょっと~! 俺だけのけモノにすんなよな!」と指差す。
そんなシュタインに、エーデルが「先からうるさいぞ、シュタイン」と注意した時だった。
「相変わらず、どこにいてもシュタインは騒がしいね」と声がしたかと思えば、リヒトがエーデルたちの元へとやって来ており「リヒト」とエーデルは名前を呼ぶ。
「見てたけど、当主就任のパーティーは大変そうだね。ずっと挨拶をしなければいけないから。今からでも嫌になるよ」
そう眉を下げ笑うリヒトに、エーデルは「お前が大人しく、笑顔で来賓の相手をしているところは想像できないけどな」と返す。
リヒトはふと、エーデルの隣にいるリーナに視線を向けると「大丈夫? 疲れてない?」と声をかける。
「大丈夫だよ」と返すも、エーデルにも心配されたけど、そんなに疲れているように見えるのかなと思うリーナ。
「そう言えば、皆んな挨拶したがってたよ」
リヒトはそう言ったかと思えば、リーナを見る。
その言葉にエーデルは、何かを察知したのか「あぁー……ったく。だからあいつらを招待するか迷ったのに」とリーナを見て言う。
だが当の本人は何のことかわかっていないのか、リーナは、何か見られてる……と気まずくなり視線を逸らす。
その時、リーナの視線の先に見覚えのある人物がおり、思わず驚いてしまう。
その人物はこちらへと近づいて来ており、リーナたちの前まで来ると「久しぶりだね」と声をかけて来る。
リーナは気まずさから視線を逸らす中、エーデルはその人物を見て「エーヴィッヒ」と名前を呼ぶ。
そう。リーナたちの元にやって来たのは、第一皇子殿下のエーヴィッヒだった。
皇室とも親交が深く、第一皇子殿下であるエーヴィッヒとエーデルは幼馴染なので、招待していたのは知っていたが、いざ会うとやはり気まずくなってしまう。
「エーデル。改めて就任おめでとう。父上も本当は来られるはずだったんだけど、急用で来られなくてね。僕一人ですまない」
そう言うエーヴィッヒは、リヒトとシュタインを見て「君たちも元気そうで何よりだよ」と笑みを浮かべる。
「陛下は近隣国へと行かれたって聞いたけど、お前は行かなくてよかったの?」
リヒトの言葉にエーヴィッヒは「今回はね。それに、アサーナトスの剣であるヴァンディリアの新当主を祝うパーティーに、皇室の人間が一人も参加しないわけにはいかないから」と答える。
そして、リーナのことを見ると「ヴァンディリア令嬢とは、交流会で挨拶をしたきりでしたね」と声をかける。
リーナはまさか、自分に声をかけられるとは思っておらず「は、はい……」と慌ててしまう。
そんなリーナを見て笑みを浮かべると、エーヴィッヒは「あの時は、急でまともにお話しできなかったので、再びお会いできて光栄です」と言う。
ど、どうしていきなり私に……?
そう驚きながら「こ、こちらこそ、光栄ですわ……」と笑みを浮かべリーナは返す。
そんな二人のやり取りを、側で黙って見るエーデルとリヒト。
リーナは気まずさに耐えきれず「あ、あの……! 私、少し疲れてしまったので、向こう……向こうの方で休んできます……!」と突然宣言してしまう。
そんなリーナに驚くエーデルたち。
まずい。あからさますぎたかな……? そう思うも言ってしまったからには戻れないと「で、では失礼致します……」と、エーデルが呼び止める声も聞かず、そそくさとその場を離れる。
「……絶対変に思われたわ」
一人、バルコニーへとやって来たリーナは、バルコニーにある椅子に腰をかけため息をつく。
あからさまな態度をとってしまったため、不敬罪に当たらないかしら……と心配になるも、まぁ、大丈夫でしょうと開き直る。
どうしていきなり私に声なんかかけて来たのかしら……。
ブリューテがいなくて良かったわ。
そう一安心していた時「ヴァンディリア令嬢」と言う声が聞こえ、リーナの心臓は思わず飛び出てしまうのではと思うくらい、跳ね上がる。
な、何でエーヴィッヒ殿下がここに……?
そこには、先ほど別れたエーヴィッヒがおり、リーナはまさか、つけて来たの……? と少し身を引く。
そんなリーナにエーヴィッヒは「申し訳ありません、休んでいる時に……でも少し、二人で話したくて」と言って来る。
私はないです……。と言いたかったが、ブリューテもいないし、断るわけにもいかないので「少しだけでしたら……」と承諾する。
すると、エーヴィッヒは「ありがとう」と嬉しそうに笑みを浮かべる。
「体調が優れなく、ずっと家にいたと聞いていたけど、もう体調の方はよろしいのですか?」
話したいことってそんな事? と思いながらも「えぇ……すっかり良くなりました」と頷くと、エーヴィッヒは「良かった」と優しく笑う。
そして「ずっと、ヴァンディリア令嬢にお会いしたいと思っていたんですけど、体調が優れないと聞いていたので、こうしてまたお話しできて嬉しいです」と言うのだ。
ずっとお会いしたい? こうしてまた? あれ……? 私、エーヴィッヒ殿下とお会いした事あったかしら……?
そう首を傾げるリーナにエーヴィッヒは「ヴァンディリア令嬢は覚えていませんよね。まだ幼かったですし、お話したのも一瞬でしたので」と言う。
エーヴィッヒの話を聞いてもなお、何も思い出せないリーナを見て、エーヴィッヒは笑うと「ヴァンディリア令嬢がまだ、ヴァンディリアに来て直ぐの時です。僕がヴァンディリアに遊びに行った時」と話し出す。
「僕はエーデルたちと庭で遊んでいた時、その時、僕たちをバルコニーから見るヴァンディリア令嬢に気づいて、何してるの? って声をかけたんです」
「そしたら、ヴァンディリア令嬢はあなたは誰? って言って」
エーヴィッヒの話を聞き、何となく思い出すリーナ。
そんな事があったような、なかったような。
「名前を教えると、ヴァンディリア令嬢も名前を教えてくれて。その時、見せてくれた笑顔は今も覚えています」
そう懐かしそうに話すエーヴィッヒに、リーナはまるで他人事のように「そ、うなんですね……」と返す。
そんなリーナに「やはり、覚えてないですよね」と少し寂しそうに言うエーヴィッヒに、リーナは「いえ……! 少し……思い出しました」と慌てて返す。
「気を使わなくて大丈夫です。だけど、今度は僕のこと覚えていて貰えると嬉しいです」
そう笑うエーヴィッヒに「も、もちろんです」と返すリーナ。
そんなリーナを見てふふっと柔らかく笑うと「長話をすみません。夜風に冷えます。僕は後から中に入るので、先に中に入ってください」と言ってくれる。
あ……私がいつ戻ろうって思ってたのに……気を使わせてしまった。
リーナは「ありがとうございます」と言うと、先に中に入って行く。
それからエーデルの当主就任パーティーは終わり、屋敷に戻って来たリーナは、エーデルに談話室に来てと呼び出す。
エーデルは言われるまま談話室に行くと、そこにはアルバートがおり、手には袋に包まれた何かを持っている。
「アルバート?」と驚くエーデルに、アルバートは手に持っている物を渡し、リーナは「開けてみて」と言う。
言われた通り、エーデルが袋を開けると、刃は白く、金色の装飾が施され、真ん中にブルーサファイアが埋められたロングソードが姿を現す。
「ロングソード……? どうして……?」
そう驚くエーデルに、リーナは「当主就任祝いと、それからもう直ぐ叙任式だからそれの祝いに」と笑う。
「元々、公爵様もエーデルの叙任式の祝いで、剣をプレゼントするつもりみたいだったって聞いて、それなら私がって思ったの」
そう話すリーナを驚きながら見るエーデル。
そんなエーデルに「腰にさしてみて」と言うと、エーデルは剣を腰にさす。
リーナの思った通り、とてもよくエーデルに合っており、満足する。
エーデルはしばらく剣を見つめたかと思えば「……ありがとう、リーナ」と震える声で言う。
「父上が叙任式を迎えたら、剣をプレゼントしてくれるって約束してたけど、父上は亡くなって……叶わないと思っていたから……」
そう目を赤くするエーデルを見て、リーナまで泣きそうになる。
そして、やはりエーデルに剣をプレゼントして良かったと思うのだ。
エーデルは「リーナ」と呼ぶと、リーナの前に膝をつく。
その行動に驚くリーナに言う。
「ヴァンディリアの当主として、何があってもリーナの事を守るとこの剣に誓うよ。だから……リーナはただ俺の側で幸せに笑っていて」
そう真剣な表情を浮かべ、胸に手を当てリーナを見上げるエーデル。
そんなエーデルに、リーナは「私も……エーデルの事を守るからね!」と言うと、エーデルは優しく笑みを浮かべ、リーナの手の甲に口付けをするのだった。
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