はあっ? いちいち僕を巻き込むんじゃねぇっ!

栞遠

文字の大きさ
13 / 39

なんだこれ

しおりを挟む
 暁人の広い部屋には、ものすごい形相をした玲於奈と、暁人の部屋に入れて心底嬉しそうなルイ。
 そして、感情を無にした暁人がいた。
 三人が囲んでいるテーブルには、さっき玲於奈が淹れたお茶が三つ。
 玲於奈がいつまでもルイを睨んでいる。

 その間、暁人はズズッとお茶を飲んでいた。

 「んで……? なぜ貴様は俺の暁人にベッタリなんだ」
 玲於奈が腕を組んでルイに苛立ちを隠しながら聞く。
 ルイはさっきからずっとキョロキョロしている。
 一回ルイが玲於奈を見て、暁人を見る。


 「暁人が好きだから」


 ブフォッ、と暁人は盛大にお茶を吹き出す。
 目の前に座っていた玲於奈にお茶がかかる。まるで漫画みたいな展開になった。
 「ちょっ…………」
 「ごふっ、ごほっ……! あぁ、ごめ、ん……ゲホッ!!」
 お茶が変な場所に入って、咳が止まらない。呼吸が苦しくなって、暁人は背中を丸める。
 暁人の隣に座っているルイが暁人の背中を優しく摩る。
 「だ、大丈夫か? 暁人?」
 ——大丈夫じゃないだろ……っ!?
 ルイが変なこと言うから、暁人はこんなになってるのに。
 「げほっ、ゲホ…………っ!」
 「暁人、もしかして……」
 玲於奈が立ち上がって、リビングに向かって走る。
 「はぁ……はあ……っ!」
 ——落ち着いて、きた……
 「暁人!」
 リビングに走って行った玲於奈が戻ってくる。
 彼の手には、小さな器具が収まっていた。
 「いる?」
 「……っいらない……」
 玲於奈が持ってきたのは呼吸器だった。暁人は生まれつき気管支が弱い。
 「ありがと、玲於奈兄さん……」
 お礼を言うと、玲於奈は目を細めて笑った。


 💫💫💫


 「さっきの、本気で言っているのか?」

 玲於奈の一言でまた部屋が静かになる。
 「は?」
 「お前が言った言葉」
 ルイはよく分からない、といった表情で、玲於奈を見る。
 「あぁ。——本気だよ」
 ——わー、引いてるよ。玲於奈、ドン引いてるよ……
 「友情だよな」
 玲於奈が墓穴を掘る言い方をする。
 暁人の予想したルイの答えはこうだ。

 ——「恋愛感情に決まってんだろ、バーカ」

 これらしい言い方をするに決まっている。
 暁人はため息をついて目を閉じる。迂闊うかつにお茶を飲んではいけない。
 またさっきみたいになる。


 「恋愛感情だよ。バカか、お前」


 ——ほら。な?

 言うと思ったよ、と暁人は心の中で悪態をついた。
 玲於奈を見ると、あからさまに血の気が引いている。
 顔色が悪い。
 「そうじゃなきゃ、ここまで付いてこない」
 ルイは真顔で玲於奈に言葉をぶつける。
 と、急にルイの右腕が暁人に伸びてきた。
 「……?」
 その手に気づいた暁人は、微かに首を傾げる。
 「……………………っ!?」
 ビクッと、暁人の肩が飛び上がる。

 ルイの大きい手が、暁人の股間に伸びてきたのだ。
 玲於奈からこちら側の腰から下は見えない。
 それをいいことに、ルイは調子に乗って暁人に触ってくる。
 ——時と場所を考えろ……っ!
 ルイの触り方がいやらしく、嫌でも声が出てしまいそうになる。

 「…………っ、ぁ…………ん……」

 玲於奈にこんなこと知れられたら、どうなるんだろう。
 暁人は差恥心よりも、玲於奈に見つからないか、という感情の方が大きかった。
 「ゃ……め…………ろ」
 声を抑えて、ルイに止めるように言う。
 でも暁人の声は聞こえていないのか、ルイの手は止まらない。

 「恋愛感情、なのか……?」
 やっとの思いで玲於奈は声を出す。でもその声は、なぜか震えていた。
 「男同士……だぞっ!」
 「知ってる」 

 「ひ……ぅ…………っ!」

 グリッとルイの手が暁人の股間を押す。そのせいで暁人は甲高い声を出す。

 「暁人がかわいそうだ! 暁人の幸せはどうなるっ!」
 「俺が幸せにする」
 「なっ……お、親が許すとでも……」

 「俺の両親は、俺に興味がない」

 「バカか。そんなはずないだろう?」
 玲於奈も片眉を上げてルイの言葉を否定する。
 どこに自分の子供に、興味のない親がいるか。
 玲於奈はそう思っていた。


 「興味があったら、十歳の息子をオークションに出さないだろ」


 ——オークション……?
 一回だけルイの手が止まる。
 また聞き慣れない言葉だった。オークションなんて、テレビでたまに聞くくらいだ。
 人間をオークションに出すって、どう言うことだろう。
 「は?」
 「そこで俺は……えーと、確か……十一億くらいで買われた」
 ルイはまるで他人事のように自分の過去を話す。

 「んで、俺を買ったご主人様に、その日のうちに犯されたんだ」


 💫💫💫


 俺は十歳の時、初めて家出をした。家にいるのが苦しくなって、一日だけ帰らないことを決めた。
 街中を一人で歩いていると、黒で統一されたスーツを着ている男に声をかけられた。
 「……なに?」
 「君、家出?」
 「そうだけど。なんで?」
 男はサングラスをしていて、目元が見えない。
 「楽しいところ、連れて行ってあげる」
 この時、どうして断らなかったのか、自分が怖くなる。
 でもその時は、何も考えていなかったのか、俺は頷いた。
 その後すぐ、強い睡魔が俺を襲って意識を手放した。

 目が覚めたら、薄暗い場所で両手両足には重たい鎖が付いていた。
 「は……………………?」
 俺が声を出すと、辺りがバッと明るくなる。
 俺のいる場所だけにライトが当たる。
 「……っん、だよ……これ……」
 状況が飲み込めない。なんだ、これ。

 「それでは、今からこの少年のオークションを始めます!」

 かなり近くにいる男が声を張り上げる。会場からは、歓声が上がる。


 知らないうちに、俺の価値が決められていく。
 「やだ……怖い………………」
 まだ十歳だ。
 ああ。家出なんてしなきゃよかった。

 「決まりました! 十一億で決定です!」

 俺は十一億もの価値があるのか。
 また頭がボーっとしてくる。バタンっとそこで横に倒れる。
 鎖がジャラジャラと鳴った。


 「っ……?」
 俺がバッと身体を起こすと、今度はちゃんとした部屋だった。
 ベッドの上で寝ていたのか、と俺は思う。

 「おはよう、ルイ」

 ぞわぁぁああっ、と嫌な悪寒が背中を走る。
 振り向くと、全く知らない男が全裸でこっちに近づいてきた。
 「さて。続きをしような」
 「は、や、……やめで…………っ!!」
 男がベッドに乗ると、ギシッとスプリングが軋む。


 俺が掛けられたオークションは、未成年男児を『性奴隷』に出来るという物だった。
 俺を誘った男は、小さい男の子を見つけて連れてくる役だったらしい。
 高値で売り飛ばされた子供は、全員が薬漬けにされる。
 実際俺も、よく分からない薬を一日に五回も飲まされた。

 飲みたくない、シたくない、と言えば暴力を振るわれる。

 ——抵抗なんて、出来なかった。

 俺が十四の時に、ようやく男から解放された。
 「さぁ。今日から君は自由の身だ」
 足首の鎖を外されて、本当に自由になる。
 「出ていいのか」
 声を潜めて言うと、男は笑って、俺を追い出した。
 後々聞くと、コイツらに俺をオークションに出すよう言ったのは、俺の両親だそうだ。
 でも俺はそんなに驚かなかった。

 驚かなかった理由は、分からないが……。
 
 外に出た俺は、さっきまでいた部屋に目を向ける。
 「結局、てめぇだけ楽しんで、捨てんのかよ」
 呆れた。やはりこうなるのか。
 ——予想はしていた。
 どうせ、俺の身体に飽きたら捨てるんだろうなって。
 予想通りで、笑ってしまう。
 でも解放されてよかった。もうあの地獄は見なくて済むからな。

 そうやって解放された俺は、街を転々とした。
 アイツに見つからない場所へ行こうとした。


 そうして歩いて、最終的にここに着いた。


 💫💫💫


 「いいなぁ……この街は。そういうことがなくて……」
 ルイは天井を見てポツリと呟く。
 いつの間にか暁人の股間から手は退いていて、替わりに暁人の手をぎゅっと握っていた。
 「ルイ……」
 「悪かった。んで、話の続きは?」
 ルイが話を変える。
 玲於奈もハッとして、ゴホンと咳き込んだ。
 「暁人を、幸せに……出来るのか……?」
 一番の心配事は、玲於奈の言ったことだった。
 たとえお互いが愛し合っていても、性別で大きな壁があるのに。
 男同士、なんて、世間から見たら格好の餌だ。
 弟である暁人が、世間からうとまれて気を病む、なんてことになったら、玲於奈は許せない。

 でもルイは、そんなこと気にせずに、言い放つ。



 「出来る」



 ドキンッ……と暁人の心臓が高鳴る。
 ——なに、これ……うれしい…………
 ドキドキと、うるさいくらい鳴り響く心臓を服の上からぎゅっと押さえつける。
 でも効果はなく、鳴り止まない。
 ——僕は、本当に……
 『好き』という感情が本気で分かっていれば、よかったのに。
 なぜ今まで恋愛をしてこなかったんだろう。

 「暁人が大好きだから、幸せにする」

 玲於奈もルイの決意に圧倒されて、言葉を失う。


 「世界一、幸せな男にしてやるつもりだ」


 カァーッと暁人の頬が紅潮する。
 「ば、か……」
 暁人の声は、鳥の鳴き声にかき消された。


 「……………………でも、ありがとう……」


 うれしかった。ルイがそんなこと考えてくれていた、なんて。
 まだ出会って、数日なのに。

 ——僕も、おかしくなったかな……?
 ルイが側にいないと落ち着かないし、頭を撫でてほしい。
 優しいキスもして欲しい。

 ——ルイがいないと、僕は……

 怖くなる。
 ——寂しい、な…………
 もうしばらくルイといたら、自分の気持ちが分かるのだろうか。
 もし、この感じが『好き』だったら、うれしいな、と暁人は思う。
 
 
 
 
 
 







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

女性が少ない世界でVTuberやります!

dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉ なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。 ※恋愛大賞の投票ありがとうございました(o´∀`o)参加したみなさんお疲れ様です! 毎週火曜・金曜日に投稿予定 作者ブル

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...