はあっ? いちいち僕を巻き込むんじゃねぇっ!

栞遠

文字の大きさ
23 / 39

文化祭まで残り3日

しおりを挟む
 「……っ、ちょっ…………やめ……」
 放課後の三年四組の教室。
 「あっ……、くっ…………」
 暁人は目を閉じて、必死に声を押し殺している。
 「くっ……ふふっ…………!」
 ついに我慢出来なくなって、暁人は噴き出した。


 「くすぐった…………い、からぁっ!! あはははははっ!」


 ——着替えくらい、一人で……出来るのに……っ
 一ノ瀬と、クラスの腐女子数人の手によって着替えさせられていた。
 腐女子たちは、いつも一緒にいる一ノ瀬と暁人を『オカズ』にしているらしい。
 この間、突然暴露ばくろされた。

 「ちょっ、とめ……っ! 待って……っ」
 「もうちょっと待ってねー」
 一ノ瀬が暁人の頭を優しく撫でて、素早く暁人の前の服のボタンを閉めていく。
 一方、腐女子たちは「キャーッ!」と叫んで、連写していた。
 「ま、まだ……っ!? あははっ!!」
 笑い過ぎて、暁人の目には涙が浮かんでいた。

 暁人は今、三日後に行われる文化祭で着るホストの服を着ていた。
 もうすでに他の男子たちは着替えが済んでいた。
 一番ホスト服を着るのに、苦戦していた暁人を手助けしていた一ノ瀬。
 だが、なぜかそこに腐女子たちが急に入ってきた。
 だから暁人と一ノ瀬の周りは、三、四人の腐女子が囲んでいた。

 「ちょっ、暁人くん……動かないで……」
 「あぅ……っ、ごめ、ん……っ!!」
 笑いたくなくても、くすぐったくてどうしても、笑ってしまう。
 「我慢……する…………っ!」
 「ん。いい子だね。あと一つボタン閉めれば終わるからね」
 一ノ瀬がまた暁人の頭を撫でる。

 「……はい。出来たよ」
 「っありが、と……」

 黒で統一されているホスト服は、採寸したおかげか暁人にピッタリだった。
 所々に刺繍ししゅうが入っており、電気に照らすと、キラキラ光っていた。
 上着は、肩パッドのある場所と繋がっているらしく、どんなに腕を動かしても落ちることはなかった。

 白色の上底ブーツは、暁人の身長を押し上げてくれている。

 「あ、ありがとう」
 「どういたしまして」
 着替え終わった暁人は、自分の服装を見て驚いた。
 ——え? 案外、似合って…………?
 そこまで考えて暁人は、思いっきり頭を振る。
 ——ないない

 「……かわいいっ。かわいいよ、暁人くんっ!!」
 急に動き出した一ノ瀬が、ホスト服に身を包んだ暁人を抱きしめる。
 「は!? ちょっ、離して……っ!」
 「やだ。ねぇ、写真撮っていい!?」
 若干興奮気味に話す一ノ瀬。

 「変態かよっ!!?」

 「暁人くんになら、なんて言われてもいい! とりあえず写真撮るね!?」
 アニメだったら、確実に目がハートになっている勢いで、一ノ瀬は鞄から携帯を取り出す。
 素早い動作で、一ノ瀬は写真を撮る準備をする。
 それに気付いた暁人が、とっさに彼の手を止める。

 「どうして? こんなにかわカッコいい暁人くんは、写真に納めておかないと!」

 「バカじゃないの!? おいド変態っ!」

 二人を取り巻く野次馬たちは、とても楽しそうだ。
 「ちょっ、誰か! この暴君を止めて!!?」
 そうやって呼びかけても、返事は笑い声だった。
 暁人の顔色が悪くなっていく。
 「返事してよぉぉっ!!」
 「いいでしょ、暁人くん!!」
 「ダメだ! お願い、だとしてもダメ!」

 「なんで? ねぇ、一生のお願い!!」


 「こんなことで『一生のお願い』を使うなぁっ!!」


 ドカッと一ノ瀬の胸板を叩くが、ビクともしなかった。
 何回やっても通用しないことは、暁人自身よく分かってる。
 でも、やらないと気が済まないのだ。


 「撮ったらマジ、殺すからな!?」


 「怖いよ暁人くん! でも、撮りたい!」

 「逆にお前が怖ぇよ!!」

 クラスメイトたちは、みんな笑顔だった。いつも仲のいい二人の言い争いは、まるで『痴話喧嘩』みたいだ。

 「写真嫌いなの知ってるでしょ!?」
 「もちろん。でも撮りたい!!」
 「しつこいなぁっ! 諦めるって言葉知らないの!?」

 「知らない!」

 「バカっ!!!!!?」


 二人とも真剣になって叫んでいる。
 だから、肩で息をしていた。
 「お願い! 一枚だけだから」
 ふいに、一ノ瀬の力が弱くなった。
 ——……それでも、嫌なんだよ…………

 幼い頃から暁人は、写真が嫌いだった。撮るのも、撮られるのも嫌い。
 カメラが自分に近付くのが嫌なんだ。
 「ね……?」
 一ノ瀬が頭を少しだけ下げる。
 驚いた暁人は、「分かったって!」と言ってしまった。

 ——………………あ……

 自分の言い放った言葉の重大さを理解した暁人は、顔から表情がなくなった。
 その途端、一ノ瀬の瞳はこれ以上ないくらいキラキラと輝いていた。
 「い、いや……あのね、一ノ瀬……これ、は…………言葉の誤りって……いうか」
 「暁人くんは、嘘つかないよね? そうだよね?」
 「あ、……ちょっ……待ってくれ……っ!」
 ズイズイ迫ってくる一ノ瀬。

 ついに。


 「……………………一枚……だけ…………だからな…………?」
 

 ——暁人が折れた。
 「じゃあ、一枚だけね」
 一ノ瀬は携帯を器用に持って、暁人の横に並ぶ。
 ——……一緒に、撮るんだ……
 ホッとする自分に内心驚きつつも、一ノ瀬に名前を呼ばれて顔を上げた。

 「撮るね、暁人くん」

 「……ん…………」
 コクリ、と頷いたのを確認した一ノ瀬は、指を動かして写真を撮った。
 暁人は無理やり笑顔を作った。


 写真を撮った時、女子の悲鳴が聞こえたのは、気のせいだろう。

 「ありがとう、暁人くんっ!!」
 「わっ……!」
 また一ノ瀬が暁人に抱きついた。
 「はぁーっ。俺は幸せ者だ……」
 「そこまで、なんだ……」
 「暁人くんは写真が嫌いだから、撮れる機会はそんなにないでしょ?」
 ——うん。確かにね
 暁人は、プリクラでさえも嫌いなんだから。

 「ありがとう」

 「なに? お前ら付き合ってんの?」
 クラスのムードメーカー的な存在の男子生徒が、笑いながら冗談を飛ばしてきた。
 「付き合ってない!!」
 思いっきり暁人が否定する。
 「本当かよー?」
 「本当だよ、鷹木たかぎくん」
 鷹木はまじまじと暁人と一ノ瀬を見て、にやり、と笑った。
 「いつも一緒にいるじゃねぇか」
 「俺が勝手に側にいるだけだよ。暁人くんが『邪魔』って言ったら、離れるし」

 「…………嘘つけ……」

 一ノ瀬の『離れるし』という言葉に、暁人の眉はピクリと反応する。
 ——絶対嘘だ。
 ケンカした時も、その日のうちに謝りにくる程の奴だ。
 「へぇ」
 「鷹木くんは、暁人くんと付き合いたいの?」
 唐突な質問に、鷹木は一瞬ポカンとする。
 「なに言ってんだよ、お前……」
 「もしそうだったとしても、暁人くんは渡したくないなぁって思ってね」
 優しく笑う一ノ瀬。

 ドス黒い、優しい笑顔で。


 彼の背後にいる暁人には、一ノ瀬の表情は見えない。


 「…………と、取らない……から……」
 「?」
 ひょこっと覗き込むと、鷹木は顔色が真っ青になっていた。
 ——なんであんなに、顔色悪いの?
 「うん。そうしてね」
 一ノ瀬は鷹木の肩をポンっと叩く。
 「さ。暁人くん。着替えようね」
 「早くない? ねぇ、早くない?」
 ホスト服に身を包んで、わずか十分程度。
 着替えるのが早過ぎやしないだろうか。
 「だって……」
 「…………分かったよ……」
 しゅん、となってしまった一ノ瀬を見て、暁人はため息をつきながらボタンを外していった。
 「俺も着替えるから」
 一ノ瀬も同じように、手際よく着替えていく。



 「——それじゃ、俺たち帰るからね」

 「おう。またな!」

 ——あれ。今日、金曜日……?
 「一ノ瀬ー」
 「どうしたの?」
 「今日って金曜日?」
 最近暁人は、曜日感覚がすっかり抜け落ちてしまっていた。
 「うん。今日は金曜日。文化祭は月曜日だよ」
 やはりそうか。
 「そうか……うん……」
 「どうして?」
 「……最近、曜日感覚抜けててさ」
 「へぇ……」
 文化祭まで二日間の期間があるということか。
 土日の間、文化祭みんなは何をするのだろう。
 暁人のクラスは、その場のノリで出来る物だし。

 劇などをやるなら、土日は潰れる。でもそんな物もない。

 ——ひまに、なるのか
 「一ノ瀬は土日、何するの?」
 「んー? まぁ……遊んで時間を潰すかな」
 「そっか」
 「遊ぶ?」
 「……遊びたいけど、やめておく」
 たしかに一ノ瀬とは遊びたい。
 でもまた、ルイとバッタリ会ってしまったらと思うと怖くなる。
 「うん」
 「ごめんね」
 「ちょっと残念だけど、諦めるね」
 「……おいコラ一ノ瀬」
 ちょっと待て。
 今横にいる男はなんて言った?

 ——『諦める』?

 「なぁに?」
 「今、諦めるって言ったよね?」

 「……………………さぁ帰ろうか」

 絶対はぐらかした。
 ついさっき、暁人に写真を撮ることをお願いしていた時一ノ瀬は、『諦めるっていう言葉は知らない』と叫んでいたはず。
 なのに、今。

 「一ノ瀬? ねぇ僕を見て? 聞いてる?」
 
 「…………」
 暁人が一ノ瀬の前に回り込む。やはり彼と目が合わない。
 「……嘘はダメだと思うな……一ノ瀬」
 「…………ごめんね、暁人くん」
 一ノ瀬は目を閉じて、暁人に謝罪を入れる。

 「……まぁいいや。……またね!」
 「うん。またね、暁人くん」
 暁人は、別に怒っているわけではなかった。
 正門が見えたから、暁人と一ノ瀬はそこで別れた。
 暁人が怒ってないのを理解したのか、一ノ瀬は笑って手を振ってくれた。

 ——月曜日、大丈夫かなぁ……

 ルイに文化祭の話をしたら即答で「行く」と言われた。
 ルイはかなりのイケメンだ。
 ——モテまくったら、どうしよう

 もしかしたら、目移りして他の人の所に行くかもしれない。
 暁人のことなんか捨てて、乗り換えてしまうかもしれない。
 ——ない……。だって、だって……
 暁人にたくさん、「好き」と言ってくれたんだ。
 それを暁人は信じたい。




 「成功、しますように」


 

 
 
 
 
 
 

 
 
 
 

 





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

女性が少ない世界でVTuberやります!

dekoma26+ブル
恋愛
ある日朝起きてキッチンに行くとそこには知らない男性たちが! …え、お父さん⁉ なぜか突然女性の少ない世界に来てしまった少女がVTuberをしたり、学校に通ったりするお話。 ※恋愛大賞の投票ありがとうございました(o´∀`o)参加したみなさんお疲れ様です! 毎週火曜・金曜日に投稿予定 作者ブル

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...