ヒーラーズデポジット

池田 蒼

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3章

15話 地下鉄の地下

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 俺たちは深夜2時に首都圏地下鉄の浅草駅改札で落ち合った。木曜の深夜と聞いていたが、木曜に日が変わったAM2時の事なのか、それとも金曜日の事なのかが曖昧であったため直前で佐竹に聞いた。正解は後者だったようだ。
 今回は京都の時同様、俺、佐竹、友梨の3名だ。そういえば里奈は率先して出張るタイミングが未だかつてない。運動音痴で体を動かす事が億劫なのだろうか。

 佐竹の情報収集力は高い。今回の情報に加えて、入り口は線路に降りて向かう必要があるという追加情報を仕入れていた。
 俺たちは、ホームから線路に降り暗がりのなかを懐中電灯を照らしながら進んだ。

「なんか、いつもは線路に降りて歩くことなんてできひんから、おもろいな~。」

「お前ら子供はこんな場面でもお気楽なもんだぜ。。」

「なんや、茜ちゃんともこんな風に遊んでたんか。」

「たから、遊びじゃねぇっていってんだろうが。というのも前も言ってた気がする・・。」

「あっははは。まあでも、明るくいったほうがええやん。」

「それはそうだが・・。」

 俺のお化け恐怖症の発作が今にも起こりそうだったが今回は佐竹もいて心強い。なるべく考えないようにしていた。

 その後俺たちは線路の脇にある扉を見つけては借りていたマスターキーを使い開く。そして、その中の部屋を物色する。しかし見つかったものは、駅内で電車を動かしたり管理したりする指令系統の設備や、電気設備ばかりだ。一つも八百屋につながる手がかりとなるものが見当たらなかった。
 隣駅近くまで探索を行い、それでも見つからずいったんは浅草へ戻り、さらに逆方向へも同様の調査を行ったが見つけることは出来なかった。
 2度目に浅草駅ホームへ引き返した時にはすでに時間は3時を回り、各々に疲労の色が見えだした。

「はぁ~。疲れたわ~。ほんまにこんな駅とかに、なんかあんのかいな。」

「・・・。」

 佐竹は無言だった。もしかしたら自身の情報の誤りを恐れて焦っているのかもしれない。佐竹らしくはないが。
 唐突に友梨が何かを発見した。

「あれ、こんな所にも扉あんで。」

 線路側から見て初めて見える作りとなっているが、友梨の言うようにホームの下部に扉があった。

「ここ、なんか怪しいやん!いこうや!」

「あぁ。ただ、こんなにすぐ見つかるような所にあるとは思えねぇがな。」

 俺たちはこれが最後になるだろうと半ば意気消沈しながらもその扉から中に入った。想像した通り、そこはおそらくは整備士や清掃員の休憩室のような作りとなっている狭い部屋で、秘密裏にここで何かが行われているような様子は無かった。

「なぁんや、なんもないなぁ。今回は手がかりなしかあ・・、っとっととぉ!」

ズダン!!

 友梨が何かにつまづいて豪快に転んだ。

「あいったたた・・・なんや、もう。」

 床に敷き詰められている正方形のタイルの一部が浮き上がり、そこに躓いたようだ。

「こういうの危ないねんから~。ちゃんと、直さんと。」

 そういって、出っ張った部分を大きく踏み込む。

ダン!!

 何かのコントでもしているように、その反動でもう片側が再度浮き上がった。友梨はあきらめて手で直そうと屈み、パズルのように枠へ綺麗に嵌めこもうと顔を近づけた。

「ん?あれ、この下なんかあんで。」

 そう言って、おもむろにタイルを剥がそうとするが重くて友梨には難しかったようだ。佐竹がすかさず手を貸し、タイルが剥がされてその下にあるものが露わとなった。

「隠し階段や。あは。思いっきりそれっぽいやん♪うちお手柄やな。」

「あぁ。まぁでもそれと決まったわけではないが、行くしかねぇな。」

「せやな。」

 俺たちは狭いその階段を下りた。明かりはなく、懐中電灯で照らす。狭いせいもあってそれなりに全体が照らされるが先は見えない。かなり深い階段になっているようだ。
 5分ほど下っただろうか、前方に扉が見える。扉の前までたどり着きドアノブをガチャガチャするが鍵がかかっている。駅員より預かっているマスターキーを差し込むがどうやら合わないようだ。よく見ると右手の壁にICカードリーダーのような四角い箱があるのが目についた。

「ここに、なにかかざさないとあかねぇみたいだな。どうする。蹴破ってみるか?」

「賢明ではありませんね。」

 佐竹が制した。

 そういえば里奈から預かった鍵のうち最後の一枚はカードキーだった。まさかとは思ったが、それをかざしてみる事にする。

ピ。

カチャ・・・。

 開いた。

「あれ。どういう事だ。これは3人目の能力者に会うために使う鍵のはずじゃぁ・・。」

「まぁ、ええやん。とにかく開いたんやし、中入ろうや。」

「あぁ、そうだな。」

 友梨に諭されて俺たちは中に入った。電灯があり明かりが来てる。かなり広い円形の空間で中心には大きなパソコンのような機械が置かれている。軽く車くらいの大きさはあるだろうか。少し離れたところにあるせいでサイズ感が掴めない。また、天井からモニターが吊るされていた。

「なんだここは・・・・。」

「電車の管理用の設備では無さそうですね。」

 中心の機械の手前にはスイッチのような大きなボタンが複数あり、パソコン同様に電源のシンボルが記載されているものもある。友梨がすかさずそれを見つけ、駆け寄り、俺たちに断りもなく押した。俺は友梨に怒鳴る。

「おい!こら!勝手にさわんじゃねぇ!」

ヴン・・・カチカチカチカチ

 起動音もパソコンのそれに近しいが、機体が大きいこともありその音量はかなりのものだ。モニターにブルーバックの画面が映り、おもむろに画面に文字が自動でゆっくりとタイプされた。

『ワタシ は アスクレピオス』

 俺たちはそこに書かれている文字に驚きと喜びを隠せずにいた。

「おー!ビンゴやん!」

 友梨は喜んだ。

「ああ。しかしこんなに安易に見つかっていいのか・・」

「小田切さん、友梨さん、見てください。また、何か書かれます。」

『アナタ の オノゾミ はなんですか』

「あなたのお望みはなんですか?だと。なんだこれは。」

 俺がそうつぶやくと再度文字が進む。

『アナタ の オノゾミ を はなしてください』

 佐竹が言った。

「これは、私たちの言葉をモニタして返答するチャットボットみたいなものですかね。質問を投げかけてみます。アスクレピオス 、お前は何者だ。どこにいる?」

 そう佐竹が言うと、モニタに返答が表示された。

『ワタシ は アスクレピオス。カミ です。コタイ としてのソンザイはありません。』

「個体として存在していない、、こいつAIか何かみたいだな。」

 俺が考え込んでいる横で躊躇なく佐竹が質問を続けた。

「何が望みだ!?」

さらに表示が進む。

『セカイ の チリョウ です』

「どういう意味だ!?」

『セカイ の チリョウ です』

「なぁんや、図体だけでかいだけであんまし頭良さそうちゃうなぁ。今時スマホのほうがよっぽど高性能やわぁ。」

 俺たちが少しの間、質問を投げずにいるいるとまた元のメッセージが現れた。

『アナタ の オノゾミ はなんですか』

 佐竹が再度口火を切る。

「京都で会った八百屋の男が俺に言った。浅草に行けと。それはお前に会えという事だったのか?もしそうだったとして、さらに聞く。こうしてお前の目の前にやってきた俺にお前は何を求める。」

『セカイ の チリョウ です。』

「世界・・世界か。」

 佐竹の顔色が変わった。

「世界なんてものは、狂っている!人はみな利権に酔い、自らの幸福のみに目を向け、そして他人がどうなろうがおかまいなしだ。」

 佐竹の口調も変わり始めた。丁寧ではあるが今までに聞いた事のない語気に俺と友梨は驚いた。

「世界を私の望む姿に戻すことなど到底できない。せめて目の前にいる他人を救うことで精いっぱいだ。それを超越して世界をすべて救うなどできるわけがない。それをお前はやれるというのか!?手も足も出せない、単なる機械の分際で!」

『ワタシ たち は ブツリテキ にも セイシンテキ にも すべてをナオシます。カンゲンする チカラをツカッテ』

「かんげん、だと!?還元するというのか?世界を!」

『ハイ カンゲン します モウスグ カンセイ します。サタケ コウタ サン にもできます。イッショにやりますか?』

「お前などにそんなこと出来るはずがない!出来てたまるか!」

『イッショ に イキマセンカ』

「俺はお前とは行かない!」

 佐竹はそう言って、その機械を壊そうと体当たりしようとしている。俺は佐竹を制した。

「おいおいおい!待てよ!佐竹!手がかり見つける前に壊しちまってどうするんだよ。」

「やかましい!私が望む世界をこんな機械ごときに・・。」

「ちょっと待て!何熱くなってるんだよ。どうしちまったんだ。正気を取り戻せよ!」

「・・・。」

 佐竹はその場に崩れ落ちて俺に寄りかかった。目はうつろだ。佐竹が倒れないように肩を押さえながら俺は叫んだ。


「くそっ!・・・なんなんだ・・・おい、アスクレピオス!わかった今度は俺が聞く!」
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