宙(そら)に舞う。 〜レイとリュウ〜

星野そら

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12 不器用?

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 その日。リュウは帰るのが遅くなった。
 さんざんトレーニングをして、走りに走らされた後で、リーダーであるリュウには厳しい叱責が待っていた。先ほどの不服従に対してワン・ペナルティーが科せられたのだ。ペナルティー「1」につき、正課の訓練以外に、実技訓練「2時間」である。寮に入っている者ならまだしも、通いのリュウにとっては、かなりキツい罰である。
 それだけではなく、話をいい加減に聞き流していたように見えたのが教官の気に障ったようで、一週間、毎朝座学が始まる前に1時間の基礎トレーニングを言い渡された。

「くそっ! レイと過ごせるのは朝のほんの短いひとときだけだというのに。朝の時間が俺にとってどれだけ大切なのか教官はわかっていない!」

 それは教官にとっては当然であった。
 反抗する気さえおこらないほど疲れていなければ、リュウはペナルティーが増えるのを承知でくってかかったかもしれない。


 疲れ切って、足を引きずるように家に帰ってきたのは、いつもなら夕食も食べ終わるような時刻だった。

「あれっ、鍵があいてる?」

 レイは今夜は遅くなると言ってたのに…、鍵をかけ忘れるなんて不用心じゃないか。 ぶつぶつ文句を言いながら玄関へ入ると、キッチンの方でガシャンと大きな音がした。

「なに! 空き巣か?」

 リュウは足音を忍ばせてドアの隙間からのぞいてみた。
 そこでは、コットンシャツにジーンズというラフな恰好のレイがエプロン姿でキッチンに立っていた。料理を作ろうとしている、らしいが、今は…。
 やわらかい蜂蜜色の髪を無造作にまとめて、床に屈み込んで割れた器のかけらを集めていた。

「レイ、何してるんだ?」
「あ、お帰り。あんまりリュウが遅いから何か作ろうかと思ってね」
「で?」
「どこにボウルが入っているのかわからなくて、棚を開けたらお皿がね」

 と言ってレイは手を広げてみせた。
「ごめんね」と済まなさそうに謝られて、「あ~あ、その大皿気に入ってたのに」という言葉をリュウは飲み込んだ。大好きなレイを本気で怒る気にはなれないのだ。

「いいよ。それより、怪我しなかった?」

 大丈夫だと首をふりながら不器用な手つきで破片を集めているレイを見ていると疲れが吹っ飛んでしまう。

「手で触ったら怪我をする。掃除機もってくるからじっとしてろよ」

 それから床を片付けて、料理を仕上げたのは結局のところリュウだった。
 でも、前菜にサラダとパスタというメニューを考えて二人分作り始めてくれていたレイに感謝して、遅い夕食となった。
 洗い物の山とおそろしいくらいのキッチンの汚れはこの際、無視しようとリュウは考えた。

「レイ、今日は遅くなるはずだったろ?」
「ん、仕事がひとつ飛んでね。夕方に戻ってきた」

 お気に入りの赤ワインをグラスに注ぎながらレイが応える。
 にしても、ワインだけはちゃんとカラフェに入れて空気に触れさせているところがレイらしいとリュウは思う。

「リュウも飲む?」

 問いかけられてうなずいた。飲むかと聞いてくれるようになったのは、ランディのおかげだった。
 香りがよく、少しクセのあるフルボディの赤ワイン。レイの好みのワインだった。
 リュウはワインをぐっとあおる。すると、レイから非難のまなざしを向けられた。

「いいワインなんだからね。もっと香りや味を楽しんでくれなくちゃ飲ませ甲斐がない」

 レイは酒に関してはうるさい。

「いいだろっ、疲れてくたくただなんだ。喉もかわいてるし、腹も減ってる」

 乱暴に言い放って料理にがっつくリュウを、グラス片手のレイはあきれたように眺めていた。

「早く食べろよ、パスタは冷めたら味が落ちる!」
「わかってるよ。俺も腹は減ってるんだから、言われなくても食べるよ」

 名残惜しそうにグラスを離して、レイはパスタに取りかかった。

「俺が味付けした割には、けっこうおいしい。ね、リュウ」

 にっこり笑いながらの台詞だ。

「うまいよ。でも、腹が減ってるから何でもうまく感じるのかもしれない」
「あ~あ。リュウが素直に誉めてくれたら、時々は作るのにな」
「なら今の言葉は撤回。むちゃくちゃうまい! あっ、でもレイは料理なんかしなくていいよ」
「どうして?」

 リュウはちらりとシンクに目をやる。

「あの残骸を片づけてくれるならいいけど、どうせ後片づけは俺だろ?」
「…そう、かな。酒を飲んでから皿洗いなんかすると割るだけだよね…」

 にっこり微笑んで、小首をかしげるレイは天使のようだ。

「やっぱり! そんなことだと思った」

 リュウは文句を言ったが、レイの笑顔を見ながら、やさしい声を聞きながら食べる夕食はどんなご馳走よりおいしいと思う。しかもレイが作ってくれようとしたのなら、後片づけくらい、リュウにとってはたいしたことではなかった。
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