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13 怒らせたくない男
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「ね、ワインが残ってるから、チーズでも出そうか?」
「それって、飲むのに付き合えって言ってるのか?」
「嫌ならいいけど」
「嫌なわけないだろっ。珍しくおとな扱いしてくれるんだなって思っただけ」
「……、リュウも18歳だからね」
「それってどっかで聞いた台詞だけど。俺のこと、まだ子どもだと思ってるくせに」
ふふっと笑ったレイは、組んだ手の上にあごを乗せてリュウを見た。
「ねえ、士官訓練センターには慣れた? 厳しいらしいけど…」
心配そうに尋ねるレイに、リュウは弱音を吐くことができなかった。それに、小さい頃から武器の扱いや素手での闘い方を覚えさせられたおかげで、仲間が苦労しているところを涼しい顔で見ていられるのだ。
「どうってこと、ないよ。もうしばらくしたら、レイに負けないくらい強くなる」
「そう、楽しみだね。でも、強さは力じゃないよ。力なら今でも、俺よりリュウの方があるはずだし」
わかってる? とすました顔でレイは言ってのけた。
「じゃあ、襲ってみようかな」
「いいよ。負けないとは思うけどね、やってみたらいい」
余裕の返事にリュウはムッとする。で
も、これまで一度だってレイに勝てたためしがないから仕方がないのも事実だった。
「士官訓練センターではどんなトレーニングをしてるの?」
「まだ基礎トレーニングばっかだよ。走ったり、泳いだり、ウエイトトレーニングとか。武器の扱い方もやるけど、俺はレイにたたき込まれてるからね。…そうだなあ、物理学やコンピュータのほかに、兵法っていうの、集団での闘い方なんかの座学もある」
「ふ~ん」
「それにっ、来週からは宇宙船の操縦も始まるんだ!」
リュウの声が少し弾んだ。
「どの宙域で? 近寄らないようにしなくちゃ」
「それ、どういう意味だ?」
考えようによっては、ひどい台詞だとリュウは思う。
「安心していいよ。最初はバーチャルで、士官訓練センターの中にあるマシーンでやる。宙域に出るのは、ある程度慣れてからなんだ。本物の宇宙船にはなかなか乗せてもらえないってわけ」
「そう」
「ゲームセンターにあるやつを、もっとリアルにした感じ、らしいよ」
「何だか、楽しそうだね♡」
「でもない。クラス担当が操縦の主任教官なんだ。ちょっと前まで連合宇宙軍でも名の通った操縦士だったらしい。俺はその教官に睨まれてるからね」
「なんで? 子どもみたいに教官に逆らってばっかいるんじゃない。軍では上からの命令は絶対だよ。いくら不本意なことされても、反抗するんじゃないよ。……リュウは我慢がないから心配だな」
「そんなこと言うけど、レイは俺よりもっと我慢がないだろっ」
「俺はおとなだから、立場はわきまえてる」
リュウはへえ~という顔をしてみせた。
「レイが誰かに頭を下げてるところなんて、見たことないし、想像もつかない」
「俺も、もう誰かに命令される立場はごめんだけどね」
レイは、くすっと笑って静かに言い切った。
「そんなことだと思った。そう言えば、同じクラスにルーインってやつがいるんだけどさ、細身できれいな顔してて…。体力もあって何でもできる。
そいつがね、理不尽なことがあると仲間にでも教官にでも、ためらいもせずに反抗するんだ。熱くなるんじゃなくて、理詰めの静かなる反抗。いつもレイに似てるなあ、って思ってた」
「どこが俺に似てるって。教官に反抗するところ?」
レイはリュウをぎっと睨んでみせた。エメラルド・グリーンの瞳が冷たくて、リュウは声を詰まらせる。
「それもあるけど。なんだろう、毅然としているというか。ひとりでスクッと立ってて…、カッコイイなと思ってた」
「思ってた? 過去形だね」
「うん。最近はさ、教官に反抗するより、俺に突っかかってる方が多い。嫌われたのかもしれないけど…」
「教官に睨まれて、仲間に嫌われてるんだ?」
リュウはとんでもないと否定する。
「自分で言うのもなんだけど、俺、人望はあるよ。嫌われてるのはルーインの方だ。あいつは全然、仲間のことなんて考えやしない。訓練についてこれないやつは辞めさせられて当然だって公言してるし。自分がデキるからって、ひとを下に見るなんて許されないと俺は思うんだけど…。
それに、話しかけようとしても冷たい目で睨むし、口を開ければ痛烈な皮肉ばっか、笑った顔なんて見たことない。付き合いにくい男だよ」
ルーインは最初からほかの仲間とはどこか違っていたとリュウは思う。でも、誰も寄せつけないところに興味を持ってしまうのだ。レイと同じニオイがするから…。
「ふ~ん。冷たい目で睨むところが俺に似てるって。それとも付き合いにくいところ?」
「んなこと、言ってないだろっ」
レイは台詞を蒸し返し、思い切りこだわった。リュウはあわててフォローを入れる。
──もしかして、『この男だけは怒らせたくない』と感じさせるところが似ているのかもしれない。
それに、見た目じゃ強いなんて考えられないところとか、女が放っておきそうにない美貌だとか…、ダメだ。
そんなこと考えてるなんて知られたら、よけいに怒らせてしまう──
「俺はレイは好きだけど、ルーインはどちらかというと遠慮したい。好き嫌いの少ない俺が言うんだからね、いやなやつなんだ。雰囲気は似ててもレイとは違うって」
レイはよくわからないという顔をした。リュウは二人が違うってことで決着を付けた。
「いろいろあるだろうけどさ、連合宇宙軍のトップパイロットに教えてもらえるなんて、めったにない経験だからね。チャンスだと思って、しっかり鍛えてもらうんだよ」
うなずきながらも、比べるまでもなく、レイに鍛えてもらった方がうまくなりそうな気がするリュウであった。
「それって、飲むのに付き合えって言ってるのか?」
「嫌ならいいけど」
「嫌なわけないだろっ。珍しくおとな扱いしてくれるんだなって思っただけ」
「……、リュウも18歳だからね」
「それってどっかで聞いた台詞だけど。俺のこと、まだ子どもだと思ってるくせに」
ふふっと笑ったレイは、組んだ手の上にあごを乗せてリュウを見た。
「ねえ、士官訓練センターには慣れた? 厳しいらしいけど…」
心配そうに尋ねるレイに、リュウは弱音を吐くことができなかった。それに、小さい頃から武器の扱いや素手での闘い方を覚えさせられたおかげで、仲間が苦労しているところを涼しい顔で見ていられるのだ。
「どうってこと、ないよ。もうしばらくしたら、レイに負けないくらい強くなる」
「そう、楽しみだね。でも、強さは力じゃないよ。力なら今でも、俺よりリュウの方があるはずだし」
わかってる? とすました顔でレイは言ってのけた。
「じゃあ、襲ってみようかな」
「いいよ。負けないとは思うけどね、やってみたらいい」
余裕の返事にリュウはムッとする。で
も、これまで一度だってレイに勝てたためしがないから仕方がないのも事実だった。
「士官訓練センターではどんなトレーニングをしてるの?」
「まだ基礎トレーニングばっかだよ。走ったり、泳いだり、ウエイトトレーニングとか。武器の扱い方もやるけど、俺はレイにたたき込まれてるからね。…そうだなあ、物理学やコンピュータのほかに、兵法っていうの、集団での闘い方なんかの座学もある」
「ふ~ん」
「それにっ、来週からは宇宙船の操縦も始まるんだ!」
リュウの声が少し弾んだ。
「どの宙域で? 近寄らないようにしなくちゃ」
「それ、どういう意味だ?」
考えようによっては、ひどい台詞だとリュウは思う。
「安心していいよ。最初はバーチャルで、士官訓練センターの中にあるマシーンでやる。宙域に出るのは、ある程度慣れてからなんだ。本物の宇宙船にはなかなか乗せてもらえないってわけ」
「そう」
「ゲームセンターにあるやつを、もっとリアルにした感じ、らしいよ」
「何だか、楽しそうだね♡」
「でもない。クラス担当が操縦の主任教官なんだ。ちょっと前まで連合宇宙軍でも名の通った操縦士だったらしい。俺はその教官に睨まれてるからね」
「なんで? 子どもみたいに教官に逆らってばっかいるんじゃない。軍では上からの命令は絶対だよ。いくら不本意なことされても、反抗するんじゃないよ。……リュウは我慢がないから心配だな」
「そんなこと言うけど、レイは俺よりもっと我慢がないだろっ」
「俺はおとなだから、立場はわきまえてる」
リュウはへえ~という顔をしてみせた。
「レイが誰かに頭を下げてるところなんて、見たことないし、想像もつかない」
「俺も、もう誰かに命令される立場はごめんだけどね」
レイは、くすっと笑って静かに言い切った。
「そんなことだと思った。そう言えば、同じクラスにルーインってやつがいるんだけどさ、細身できれいな顔してて…。体力もあって何でもできる。
そいつがね、理不尽なことがあると仲間にでも教官にでも、ためらいもせずに反抗するんだ。熱くなるんじゃなくて、理詰めの静かなる反抗。いつもレイに似てるなあ、って思ってた」
「どこが俺に似てるって。教官に反抗するところ?」
レイはリュウをぎっと睨んでみせた。エメラルド・グリーンの瞳が冷たくて、リュウは声を詰まらせる。
「それもあるけど。なんだろう、毅然としているというか。ひとりでスクッと立ってて…、カッコイイなと思ってた」
「思ってた? 過去形だね」
「うん。最近はさ、教官に反抗するより、俺に突っかかってる方が多い。嫌われたのかもしれないけど…」
「教官に睨まれて、仲間に嫌われてるんだ?」
リュウはとんでもないと否定する。
「自分で言うのもなんだけど、俺、人望はあるよ。嫌われてるのはルーインの方だ。あいつは全然、仲間のことなんて考えやしない。訓練についてこれないやつは辞めさせられて当然だって公言してるし。自分がデキるからって、ひとを下に見るなんて許されないと俺は思うんだけど…。
それに、話しかけようとしても冷たい目で睨むし、口を開ければ痛烈な皮肉ばっか、笑った顔なんて見たことない。付き合いにくい男だよ」
ルーインは最初からほかの仲間とはどこか違っていたとリュウは思う。でも、誰も寄せつけないところに興味を持ってしまうのだ。レイと同じニオイがするから…。
「ふ~ん。冷たい目で睨むところが俺に似てるって。それとも付き合いにくいところ?」
「んなこと、言ってないだろっ」
レイは台詞を蒸し返し、思い切りこだわった。リュウはあわててフォローを入れる。
──もしかして、『この男だけは怒らせたくない』と感じさせるところが似ているのかもしれない。
それに、見た目じゃ強いなんて考えられないところとか、女が放っておきそうにない美貌だとか…、ダメだ。
そんなこと考えてるなんて知られたら、よけいに怒らせてしまう──
「俺はレイは好きだけど、ルーインはどちらかというと遠慮したい。好き嫌いの少ない俺が言うんだからね、いやなやつなんだ。雰囲気は似ててもレイとは違うって」
レイはよくわからないという顔をした。リュウは二人が違うってことで決着を付けた。
「いろいろあるだろうけどさ、連合宇宙軍のトップパイロットに教えてもらえるなんて、めったにない経験だからね。チャンスだと思って、しっかり鍛えてもらうんだよ」
うなずきながらも、比べるまでもなく、レイに鍛えてもらった方がうまくなりそうな気がするリュウであった。
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