宙(そら)に舞う。 〜レイとリュウ〜

星野そら

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5 昔なじみ

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 ムッとした顔をしている手下たちを怒鳴りつけてから、男はレイをもう一度見つめる。

「生きてたのか…」
「残念だろうけどね」

 男の口のから小さくもれたつぶやきに、レイが律儀に応えた。

「リュウ、もういいよ。上がっておいで」

 レイはビッグ・ファットの私室兼事務所のソファに腰を落ち着けた。
 こぢんまりとまとまった部屋は、きちんと整頓され、居心地がよさそうだった。
 リュウはレイの後ろに控えて、レイを守るように立った。ボディガードならそうするだろうと思ったのだ。
 レイはそれを見て、ふっと頬をゆるめる。

 ビッグ・ファットは、仕方なさそうにレイの前に腰を落ち着けた。
 身長より横幅の方がある、樽のような体型の男だった。その顔が赤くなったり、青くなったりしている。
 すぐには言葉が出にくそうだ。しばらくして、ようやく言葉を口にする。

「いまごろ、『レパレ』を急襲して、いったい何の用だ」

 ぶっきらぼうな挨拶であった。
 レイのエメラルド・グリーンの瞳がぎらりと光った。鋭い視線で男を黙らせる。

「ご挨拶だね。俺はもう、ここでは歓迎してもらえないってわけだ」

 凍りそうな声音にビッグ・ファットがびくりと大きな身体を縮めた。

「そんなことは…。俺がこれまであんたの頼みを拒んだことがあるか」

 口調は偉そうだが、男の額には汗が浮かんでいた。

「これまでは、なかった。今回もないと信じたいね」

 レイは右手をホルスターにかけながら冷たく言い放つ。
 その様子を見たビッグ・ファットはお手上げだというように両手をあげた。

「わかった、俺も命が惜しい。何の用件だ」
「ここへ来るのにどんな用があると思ってる? 用件はいつもと同じ。俺の宇宙船を修理してもらいたい。最優先で、おまえに。それだけだ。断るなんて言わないよな」

 リュウは、ずいぶん荒っぽい依頼だと思ったが、相手は予想通りというようにうなずく。

「相変わらず強引だ。普通の宇宙船なのか」
「そうだ」
「それで?」
「外壁の損傷とコンピュータ系統の故障」

 レイが簡単に説明する。

「あんたが操縦する船が外壁の損傷か? 戦闘の噂も聞かないのに宇宙船をへこますなんて、どんなヘマを…」

 レイがじろりと睨みつけると、ビッグ・ファットがたじろいだ。

「詮索はやめた方がいい」
「しかし、故障の状況がわからないと…」
「宇宙船を見ればわかる」と吐き捨てたレイだが、気を取り直したように肩をすくめる。
「まあいいか。誤ってインシャラーに入ってしまった。抜け出すのに小惑星をぶっ飛ばして、そのかけらを使って向きを変えた。そのために仕方なくぶつけたんだよ。だから、外壁にダメージを受けた。外壁もコンピュータもおまえに直せないほどの故障じゃないはずだ」

 平然と応えるレイに、インシャラーと聞いたビッグ・ファットの口が開いたままになった。
 しばらくまじまじとレイを見つめた。

「インシャラーから抜け出したなどと。あんた以外の者の口から出たら、でまかせだと思っただろうな。さすがと言うべきか…、無茶は変わらないわけだ」

 無茶という台詞をレイが聞き咎めた。

「ここしばらくはおとなしかった。噂ひとつ聞いてないだろ。
 俺だって、直さずに飛べるなら、いつ昔なじみに出くわすかもしれない危険を冒してまでキケロになんてこなかったさ。『レパレ』にもな。
 ところで…、この件は内密に頼む。おまえも手下の命は大切だろうしな。それに、宇宙船に下手な小細工をするのもなしだ」

 レイは静かな口調で男を脅していた。表情ひとつ変えずに。
 こんな姿は初めてだとリュウは思った。怯えながらも、ビッグ・ファットが言葉を返す。

「見返りは?」

 レイはこの部屋に入ってから初めて、口の端を歪めて笑みを見せた。そして。

「俺はおまえの腕を評価している。正当な費用を支払うよ。しかし、俺を売ったら…、どうなるかはおまえもわかっているよな。いくら欲張っても死んだら金は使えないぞ」

 相手がぎこちなくうなずいた。
 この男を引き渡したらどのくらい儲かるだろうかと考えた心の中をレイに見透かされ、釘を打たれたのだ。

「交渉、成立だな」
「俺の意思など関係なしにな。ああ、成立だ。俺は生きていたいし、あんたに睨まれたくない。しかし…、賞金稼ぎに見つかったらどうなるかまでは、責任は持てんぞ」
「大丈夫だ。俺の顔は名前ほどは売れていないんでね」

 ビッグ・ファットはレイの表情がやわらいだのを見越して質問を投げかける。

「あんた、あの騒ぎの後、何をしてたんだ。どれだけ多くのやつらが、血眼になって探していたか知ってるか」

 そんなことおまえから聞きたくもないというようにレイが手をあげて制した。

「それなのに、見事に行方をくらませて…、それが今頃になって、このキケロに現れるとはな。ここはコスモ・サンダーのお膝元なのに」

 男が話をやめそうもないのにレイが苛立った。

「さっきも言ったけど、あまり詮索しない方がいい。知ってるとしゃべりたくなるだろ。知らない話はできないし、その分、長生きできる」

 レイはぴしゃりと質問を封じた。ビッグ・ファットは大きく溜め息をついた。
 仕方なく話を終らせたビッグ・ファットが、ついでのようにリュウに目を向けた。

「あんたも、宇宙軍の若者をたぶらかすなんていい度胸だ。しかし、ゼクスター様といい、その若者といい、男の趣味はいいな」と、とんでもないことを言う。
「そうさ。俺はいま、まっとうに暮らしているからね。宇宙軍なんて怖くない」

 見当違いな相づちを打ってから、レイはぎょっとしたように男に訊ねた。

「まさか…、マリオンが来てるなんて言わないよな」

 マリオンがキケロにいるなら、クリスタル号を捨ててでも、今すぐ逃げ出したいと思ったレイである。

「いや。ちょっと前に宇宙船の修理を頼まれたが…、入れ違いだな。あんたは残念だろう?」

 余裕を取り戻した相手が言う。

「二度と会いたくないね」
「ふん。今はいい男がいるからってか。ゼクスター様が知ったら激怒するんじゃないか」
「ゼクスター様、か」

 ビッグ・ファットは誤解している、とレイは口には出さなかった。ほかの者もそうかもしれない。
 確かにクール・プリンスに寄り添うように立っていたマリオン・ゼクスターは、精悍で、力のある後見人のように見えただろう。もしくは恋人のように見えたかもしれない。
 しかし、レイにとってマリオンは、厳しい教育係以外の何ものでもなかった。レイはマリオンに鍛えられて一人前になったのだ。

 そして期待に応えなければならない時に裏切った。
 だから、マリオンはレイのことを許さないはずだった。

 二人が会うときは、どちらかが死ぬときだ。マリオンはレイの力を知り尽くしている。そして、認めたくはないが、自分を凌ぐ力を持っているとレイは知っていた。

「俺はおまえと馬鹿話をしているほど、暇じゃない。24番ラインにあるクリスタル号だ。すぐに修理にかかってくれ」

 命令口調で告げると、レイは席を立った。
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