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2 心配
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トン、トン…、とノックの音。
思わず椅子に座り直して、「入れ」と声をかける。
ルーインの姿を見た途端に、阿刀野だったらという淡い希望を抱いた自分にスティーブは腹を立てた。
今日のスティーブはどうしようもなく機嫌が悪くて、クラスにいつもの倍くらいキツいペナルティーを与えたのだ。リーダーである阿刀野に代わって、ルーインが訓練終了の報告にきたのだろう。
「教官、トレーニングが終わりました」
「よし。あがれ」
いつもなら、きびすを返すようにさっさと部屋を後にするはずのルーインが、珍しくためらっていた。
「教官。お訊きしたいことがあるのですが、よろしいですか」
教官とも、クラスの仲間とも距離を置いているルーインが…、珍しいこともあると何も考えずに応えたスティーブだった。
「なんだ。言ってみろ」
「阿刀野のことですが…」
その名が出た途端、スティーブはしまったと思った。
自分の胸に収めてさえいれば、まだなんとかなるかもしれないなどとこの後に及んでも考えていたのだ。他の訓練生なら警戒したが、ルーインが阿刀野リュウのことを気にするとは思わなかったのである。
ルーインは言いにくそうに言葉を選びながら、
「今日で一週間になります。阿刀野はみなが言うように無断欠席なんですか。教官に連絡はなかったんですか」
「おまえがひとのことを気にするとは思わなかったな」
厳しい口調で吐き出すように言った。これであきらめるかと思ったが、ルーインは視線を外さない。返事を聞き出すまでは引きそうもない様子に、スティーブはあきらめた。
「ああ、連絡はない」
ルーインの整った顔がわずかに歪んだ。
「阿刀野は退校するんですか」
いつもは平坦な声音が震えている。退校などしてほしくないというルーインの気持ちが伝わってくるようだ。
スティーブにしてもそうだ。スティーブは時計にチラリと目をやって考える。
もう阿刀野は俺の手を離れた。退校させるかどうかを決めるのは校長だ。
それとも、阿刀野自身と言い換えるべきか。
「わからない。連絡がないからな」
「そうですか」
「ほかに用がないなら、戻れ」
ルーインの挑むような目に、それでいいのかという非難が現れていた。
どうにかできるものなら、俺だってどうにかしたい。
「わかりました。失礼します」
ルーインが部屋を後にしようとした、その時。通話機が鳴り始めた。
チラリと時計を見た。今日、何度目だろう。もう定時はすぎている。
「はい、第4教官室」
「トンプソン教官ですか」と女の声。総括部門の受付からだ。
張りつめていた糸がプツリと切れた。
もしかしたら、阿刀野リュウからの連絡かもしれないと思った自分が馬鹿みたいに思える。
まあ、今、連絡があっても遅すぎるが…。
「定時はすぎているが、緊急の用件なんでしょうね」
スティーブは声が荒くなるのを押さえようともしなかった。
受付の女性はとまどったように口ごもる。それでも気を取り直して、
「申し訳ありません。あの…、訓練生の阿刀野リュウから音声通話が入っています。断ったんですが、どうしても教官につないでほしいと頼まれまして、ご都合を聞いてみるからと待たせています。
やはりご迷惑ですわね。時間外だと言って断ります」
阿刀野からだと!
スティーブの身体中をアドレナリンが駆けめぐった。今にも通話を切ろうとする女性をあわてて押しとどめる。
スティーブは上官への反抗から辺境の士官訓練センターへ飛ばされた。それゆえ、ここへ来てからは規則や規律には厳しく従ってきた。そして、相手にも厳格に規律を守るように要求してきた。
融通の利かない固い教官として知られているから、受付はそんなに簡単にスティーブに通話をつながないはずだった。
阿刀野が無理を言ったに違いない。あいつはどういうわけか無理を押し通すことができる。知らないうちに人を思い通りに動かしている。
こんな時にそんなくだらないことを考えている自分をあざ笑いながら…。
「つないでください」
「えっ、よろしいんですか」
いいも何も…。
この一週間、スティーブが待ち望んでいた阿刀野からの連絡だった。
たとえ、退校猶予の期限が過ぎた直後にかかってきた通話だとしても。
スティーブは息を整えて、落ち着いた声を出した。
「阿刀野もあなたも、定時を過ぎていることはわかっているでしょう。それでも阿刀野はつなげと言い張ったのでしょうし、あなたは通話をつなごうと思われた。あなたの判断を尊重します」
「ありがとうございます。ではおつなぎします」ほっとしたような女の声。
思わず椅子に座り直して、「入れ」と声をかける。
ルーインの姿を見た途端に、阿刀野だったらという淡い希望を抱いた自分にスティーブは腹を立てた。
今日のスティーブはどうしようもなく機嫌が悪くて、クラスにいつもの倍くらいキツいペナルティーを与えたのだ。リーダーである阿刀野に代わって、ルーインが訓練終了の報告にきたのだろう。
「教官、トレーニングが終わりました」
「よし。あがれ」
いつもなら、きびすを返すようにさっさと部屋を後にするはずのルーインが、珍しくためらっていた。
「教官。お訊きしたいことがあるのですが、よろしいですか」
教官とも、クラスの仲間とも距離を置いているルーインが…、珍しいこともあると何も考えずに応えたスティーブだった。
「なんだ。言ってみろ」
「阿刀野のことですが…」
その名が出た途端、スティーブはしまったと思った。
自分の胸に収めてさえいれば、まだなんとかなるかもしれないなどとこの後に及んでも考えていたのだ。他の訓練生なら警戒したが、ルーインが阿刀野リュウのことを気にするとは思わなかったのである。
ルーインは言いにくそうに言葉を選びながら、
「今日で一週間になります。阿刀野はみなが言うように無断欠席なんですか。教官に連絡はなかったんですか」
「おまえがひとのことを気にするとは思わなかったな」
厳しい口調で吐き出すように言った。これであきらめるかと思ったが、ルーインは視線を外さない。返事を聞き出すまでは引きそうもない様子に、スティーブはあきらめた。
「ああ、連絡はない」
ルーインの整った顔がわずかに歪んだ。
「阿刀野は退校するんですか」
いつもは平坦な声音が震えている。退校などしてほしくないというルーインの気持ちが伝わってくるようだ。
スティーブにしてもそうだ。スティーブは時計にチラリと目をやって考える。
もう阿刀野は俺の手を離れた。退校させるかどうかを決めるのは校長だ。
それとも、阿刀野自身と言い換えるべきか。
「わからない。連絡がないからな」
「そうですか」
「ほかに用がないなら、戻れ」
ルーインの挑むような目に、それでいいのかという非難が現れていた。
どうにかできるものなら、俺だってどうにかしたい。
「わかりました。失礼します」
ルーインが部屋を後にしようとした、その時。通話機が鳴り始めた。
チラリと時計を見た。今日、何度目だろう。もう定時はすぎている。
「はい、第4教官室」
「トンプソン教官ですか」と女の声。総括部門の受付からだ。
張りつめていた糸がプツリと切れた。
もしかしたら、阿刀野リュウからの連絡かもしれないと思った自分が馬鹿みたいに思える。
まあ、今、連絡があっても遅すぎるが…。
「定時はすぎているが、緊急の用件なんでしょうね」
スティーブは声が荒くなるのを押さえようともしなかった。
受付の女性はとまどったように口ごもる。それでも気を取り直して、
「申し訳ありません。あの…、訓練生の阿刀野リュウから音声通話が入っています。断ったんですが、どうしても教官につないでほしいと頼まれまして、ご都合を聞いてみるからと待たせています。
やはりご迷惑ですわね。時間外だと言って断ります」
阿刀野からだと!
スティーブの身体中をアドレナリンが駆けめぐった。今にも通話を切ろうとする女性をあわてて押しとどめる。
スティーブは上官への反抗から辺境の士官訓練センターへ飛ばされた。それゆえ、ここへ来てからは規則や規律には厳しく従ってきた。そして、相手にも厳格に規律を守るように要求してきた。
融通の利かない固い教官として知られているから、受付はそんなに簡単にスティーブに通話をつながないはずだった。
阿刀野が無理を言ったに違いない。あいつはどういうわけか無理を押し通すことができる。知らないうちに人を思い通りに動かしている。
こんな時にそんなくだらないことを考えている自分をあざ笑いながら…。
「つないでください」
「えっ、よろしいんですか」
いいも何も…。
この一週間、スティーブが待ち望んでいた阿刀野からの連絡だった。
たとえ、退校猶予の期限が過ぎた直後にかかってきた通話だとしても。
スティーブは息を整えて、落ち着いた声を出した。
「阿刀野もあなたも、定時を過ぎていることはわかっているでしょう。それでも阿刀野はつなげと言い張ったのでしょうし、あなたは通話をつなごうと思われた。あなたの判断を尊重します」
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