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3 待ち望んだ連絡
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待っている時間が、永遠とも思えるほど長く感じられた。
足を止めたルーインが許可を求めるようにスティーブの顔を見た。軽くうなずいたスティーブに勇気を得て、ルーインは部屋の端に移り、静かに成り行きを見守ることにしたようだ。
「教官、阿刀野です。連絡が遅くなって申し訳ありません。いま、宙港に着いたばかりで…。あの、俺は…」
せっぱ詰まった口調。言いたいことがスムーズに口から出ないようである。
その声を聞いているうちにスティーブは冷静になってきた。
どうやら阿刀野は、士官訓練センターを辞めるという雰囲気ではなさそうだ。心の中でためていた息を大きく吐き出した。
「阿刀野。一週間の無断欠席がなにを意味するかはお互いにわかっている。どうした、退校の連絡か?」
通話機の向こうで、リュウが声をなくした。
「あの…、やっぱり俺は退校になるんですか? 理由があれば…、少しは考慮してもらえるんでしょうか」
退校すると言われれば、スティーブは言葉を尽くして引き留めようと思っていた。この一週間ずっと、居場所がわかるなら首に縄を付けてでも連れ戻したいと考えていたのだ。
しかし、スティーブはそんな胸の内をおくびにも出さない。
「よほどの理由があれば、な。それも、期限が過ぎているから俺だけでは判断できなくなった。無理に帰ってこなくていいぞ。士官訓練センターから逃げ出すいい機会だ。明日になったら退校手続きは終わっている」
リュウは言葉を継ぐことができないようで、その息づかいだけが伝わってくる。
煽るようなことを言ったが、あいつはほんとうに帰ってくるつもりなのか?
こんなことを言って大丈夫なのか?
通話機を握りしめる手が震えていたのは、リュウだけではない。
「俺は…、」
ごくりと唾を飲み込んで言葉を続ける。
「逃げ出すなんてしません。これからすぐ、士官訓練センターに戻ります。待っていてもらえませんか。直接会って理由を話します。話を聞いた上で、俺が訓練生として不適格だと教官が判断されたら、その場で退校手続きを取ります。
教官! 俺に一度だけチャンスをください、お願いします」
真摯な口調だった。
リュウは士官訓練センターを辞めたくはなかった。もっともっと力をつけなければならないのだ。レイを守るだけの力をつけるなら、ここで訓練を続けることがいちばんの近道だと思う。
どんな宙域でも、たとえそれがインシャラーでも、自分の身くらい守れなければレイには一人前だと認めてもらえない。
どんな状況に陥っても、自分の身に代えてもレイを守れなければ、抱きしめる資格などない。
もう、俺はレイに抱きしめてもらえるほど幼くはないのだ。このままでは、いつか離れなければならなくなる。
あれから。レイのそばにいると言い張ったのに、無理やり星間連絡船に乗せられて、ベルンに送り返された。
気持ちはうれしいけれど、士官訓練センターに戻るのがおまえの勤めだと諭された。それなのに、ここを辞めさせられたなどと言えるわけがない。
でも…。
俺のミスで魔の宙域に入り込んで、あやうく二人とも死ぬはめになったと教官に正直に話したら…。
それはそれで、宇宙軍士官には向いていないと不合格の烙印を押され士官訓練センターを放り出されるかもしれない。それに、キケロでのことは誰にも話せない。レイが身体を張って自分を救ってくれたことは…。
レイを傷つけたのは、俺が背負うべき重荷であり、責任だとリュウは思っていた。
「勤務時間後まで、いちいち訓練生の相手をしているほど暇じゃないんだがな。宙港からすぐに来るなら、7時まで待ってやる。一分でも遅れたら…」
リュウはスティーブの言葉を遮り、
「ありがとうございます。一時間で行きます」と言って、通話を終らせた。
おいおい、いくら何でも宙港から一時間は無理だろう。
それでも、急いで飛んでくるという阿刀野の言葉に、スティーブは久しぶりに笑みをもらした。
全神経を傾けて通話を聞いていたらしいルーインは、辛抱強く話しかけられるのを待っていた。
「戻ってくるそうだ」
「そうですか」
いつもと変わらぬ口調だが、ほっとした表情が浮かんでいる。
「一週間も無断欠席したんだ、納得できる理由があればいいがな」
厳しい口調で退校をにおわせたスティーブに、
「僕の心配分も罰に上乗せしておいてください」
ルーインは軽く口にした。
スティーブがリュウを辞めさせるはずがないと、ルーインは知っているようだ。
「そうだな。これだけ気を揉ませたやつを簡単に退校になどさせるつもりはない。俺の気がすまない。どんな理由があろうと無断欠席など許されないと思い知らせてやる。自分から辞めたいと思うくらい厳しく罰してやるから安心しろ。…なんなら、おまえもつき合うか?」
「ご遠慮させていただきます。この2~3日、ご存じでしょうけど、教官は僕たちに格別、キツかったですから」
「そう、だったか…。しかし、おまえも変わったな。ひとのことまで考えられるようになった」
「いえ。僕は自分のことしか考えていません。僕は阿刀野を踏み台にして、自分を鍛えたいと思っているだけです」
なれるものなら。阿刀野が僕に似ていると言ってくれた、あの印象的な男みたいになりたい。
「そうか。逆に、踏み台にされないようにしろよ。まあ、あいつは他人を利用するようなやつではないがな」
ルーインは顔を赤らめた。
「…それでは、失礼します」
部屋を後にしようとするルーインを、今度はスティーブが呼び止めた。
「ああ。そうだ、ルーイン。おまえは寮の部屋をひとりで使っていたな」
「はい」
「しばらく、阿刀野を置いてやれ。家に帰るヒマはないはずだ」
「……わかりました」
にやりと笑ったスティーブの顔を見上げて、ルーインもかすかに笑みを浮かべた。
足を止めたルーインが許可を求めるようにスティーブの顔を見た。軽くうなずいたスティーブに勇気を得て、ルーインは部屋の端に移り、静かに成り行きを見守ることにしたようだ。
「教官、阿刀野です。連絡が遅くなって申し訳ありません。いま、宙港に着いたばかりで…。あの、俺は…」
せっぱ詰まった口調。言いたいことがスムーズに口から出ないようである。
その声を聞いているうちにスティーブは冷静になってきた。
どうやら阿刀野は、士官訓練センターを辞めるという雰囲気ではなさそうだ。心の中でためていた息を大きく吐き出した。
「阿刀野。一週間の無断欠席がなにを意味するかはお互いにわかっている。どうした、退校の連絡か?」
通話機の向こうで、リュウが声をなくした。
「あの…、やっぱり俺は退校になるんですか? 理由があれば…、少しは考慮してもらえるんでしょうか」
退校すると言われれば、スティーブは言葉を尽くして引き留めようと思っていた。この一週間ずっと、居場所がわかるなら首に縄を付けてでも連れ戻したいと考えていたのだ。
しかし、スティーブはそんな胸の内をおくびにも出さない。
「よほどの理由があれば、な。それも、期限が過ぎているから俺だけでは判断できなくなった。無理に帰ってこなくていいぞ。士官訓練センターから逃げ出すいい機会だ。明日になったら退校手続きは終わっている」
リュウは言葉を継ぐことができないようで、その息づかいだけが伝わってくる。
煽るようなことを言ったが、あいつはほんとうに帰ってくるつもりなのか?
こんなことを言って大丈夫なのか?
通話機を握りしめる手が震えていたのは、リュウだけではない。
「俺は…、」
ごくりと唾を飲み込んで言葉を続ける。
「逃げ出すなんてしません。これからすぐ、士官訓練センターに戻ります。待っていてもらえませんか。直接会って理由を話します。話を聞いた上で、俺が訓練生として不適格だと教官が判断されたら、その場で退校手続きを取ります。
教官! 俺に一度だけチャンスをください、お願いします」
真摯な口調だった。
リュウは士官訓練センターを辞めたくはなかった。もっともっと力をつけなければならないのだ。レイを守るだけの力をつけるなら、ここで訓練を続けることがいちばんの近道だと思う。
どんな宙域でも、たとえそれがインシャラーでも、自分の身くらい守れなければレイには一人前だと認めてもらえない。
どんな状況に陥っても、自分の身に代えてもレイを守れなければ、抱きしめる資格などない。
もう、俺はレイに抱きしめてもらえるほど幼くはないのだ。このままでは、いつか離れなければならなくなる。
あれから。レイのそばにいると言い張ったのに、無理やり星間連絡船に乗せられて、ベルンに送り返された。
気持ちはうれしいけれど、士官訓練センターに戻るのがおまえの勤めだと諭された。それなのに、ここを辞めさせられたなどと言えるわけがない。
でも…。
俺のミスで魔の宙域に入り込んで、あやうく二人とも死ぬはめになったと教官に正直に話したら…。
それはそれで、宇宙軍士官には向いていないと不合格の烙印を押され士官訓練センターを放り出されるかもしれない。それに、キケロでのことは誰にも話せない。レイが身体を張って自分を救ってくれたことは…。
レイを傷つけたのは、俺が背負うべき重荷であり、責任だとリュウは思っていた。
「勤務時間後まで、いちいち訓練生の相手をしているほど暇じゃないんだがな。宙港からすぐに来るなら、7時まで待ってやる。一分でも遅れたら…」
リュウはスティーブの言葉を遮り、
「ありがとうございます。一時間で行きます」と言って、通話を終らせた。
おいおい、いくら何でも宙港から一時間は無理だろう。
それでも、急いで飛んでくるという阿刀野の言葉に、スティーブは久しぶりに笑みをもらした。
全神経を傾けて通話を聞いていたらしいルーインは、辛抱強く話しかけられるのを待っていた。
「戻ってくるそうだ」
「そうですか」
いつもと変わらぬ口調だが、ほっとした表情が浮かんでいる。
「一週間も無断欠席したんだ、納得できる理由があればいいがな」
厳しい口調で退校をにおわせたスティーブに、
「僕の心配分も罰に上乗せしておいてください」
ルーインは軽く口にした。
スティーブがリュウを辞めさせるはずがないと、ルーインは知っているようだ。
「そうだな。これだけ気を揉ませたやつを簡単に退校になどさせるつもりはない。俺の気がすまない。どんな理由があろうと無断欠席など許されないと思い知らせてやる。自分から辞めたいと思うくらい厳しく罰してやるから安心しろ。…なんなら、おまえもつき合うか?」
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「そう、だったか…。しかし、おまえも変わったな。ひとのことまで考えられるようになった」
「いえ。僕は自分のことしか考えていません。僕は阿刀野を踏み台にして、自分を鍛えたいと思っているだけです」
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「そうか。逆に、踏み台にされないようにしろよ。まあ、あいつは他人を利用するようなやつではないがな」
ルーインは顔を赤らめた。
「…それでは、失礼します」
部屋を後にしようとするルーインを、今度はスティーブが呼び止めた。
「ああ。そうだ、ルーイン。おまえは寮の部屋をひとりで使っていたな」
「はい」
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