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9 魔法のワード
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訓練センターの寮の部屋。
窓を開けていると寒いくらいになった夜、バスから出たルーインが窓辺で濡れた髪を乾かしているとカチャリと部屋のドアが開いて、リュウが疲れ切った表情で入ってきた。
「遅かったな。訓練に今までかかったのか」
「ああ、どうしても集団行動にならない。みな俺の言うことなど、まともに聞いてくれないからな」
ふうっ、とため息をついたリュウの口から、情けない言葉がもれた。
たった10名あまりの兵士をまとめるのがこんなに難しいとは思わなかった。点呼でさえ無視される有様である。
「毎日、俺には人の上に立つ力がないと思い知らされてるよ」
リュウとルーインがスペシャル・クラスに在籍するようになって、3週間である。
クラスでの個人トレーニングや座学ではさほど遅れを取っているとは思わないが、それぞれが受け持つ軍事基地の兵士たちの扱いとなるとひとり取り残されている気がするリュウであった。
「ルーインやみんなが隊員をうまくまとめているのを見ると、いやになるよ。コツがあったら教えてほしいくらいだ」
「キミだけじゃない、みんな苦労してる。レイさんの病気で遅れてきただろう。隊員たちから反感を買ったから仕方ない。受け持ったメンバーも悪かったし…」
たまには苦労するんだねと冷静に断じてくれたルーインを見返しながら、リュウは再度のため息だ。
確かに、スタートが悪かった。
これから半年、小隊長として一緒に過ごすことになるメンバーと出会う日にレイの看病で士官訓練センターへ来ることができなかった。
リュウにとっては、士官訓練センターとレイでは比べモノにならないくらいレイの存在の方が重い。休むことに躊躇などなかったのだが…、1週間近く遅れて現れたリュウを待っていたのは、兵士たちの冷やかな視線であった。
いや、リュウにもよくわかっていた。
自分たちがどんな兵士を受け持つのか不安であるのと同じように、兵士たちもこれから半年付き合わざるを得ない上官がどんな男か(それも養成所の生徒である)、いくばくかの期待と大きな不安を持って待っていたということは。
不安、いや不満だろうか?
不満という点では、百戦錬磨の兵士たちが、何の経験もない若い訓練生を上官に仰がねばならないのだから当然である。そのお見合いの日に、顔を出さないというのは失礼千万。彼らにとっては、若いなりにも上官として立ててやらなくてはという思いを粉々に打ち砕くほどの裏切りであった。
簡単に言うと、1週間もほったらかした、自分たちのことをないがしろにしたとリュウは恨まれているのである。
しかも。
割り当てられた隊員たちが悪かった。兵士として訓練を始めたばかりの若者から、艦隊で持てあまし、鍛え直すようにと基地に送り返された歴戦の兵士たちまで、さまざまな男が混在していたのである。
本来ならば、1年飛ばしで上のクラスにあがったリュウなどが受け持つことはないはずだが、当日いなかったために、誰も持ちたがらなかったその問題ありの隊を押しつけられてしまったのだ。
誰が担当しても手こずるはずだというルーインの言葉は、その通りなのであるが…。
「簡単な訓練メニューでさえ、やらせるのが大変だよ」
「キミの小隊にはクセのあるやつが多いからな」
「ああ、真っ向から反発してるダンカンや自分の腕に酔っているモーグは困りもんだ。それに、下士官があののらりくらりとしたエヴァだろう。手を焼いてる」
士官になるつもりも、宇宙軍に入るつもりもないリュウにとって、兵士たちをまとめることなど無意味に等しい。自分を鍛えられればそれでいい。レイに認められるだけの操船技術と宙航に必要な知識、技能を身につけられればそれでいいと思っているのに。
「スペシャル・クラスに入るなどと言わなければよかったかな」
小さな独り言をルーインが聞き咎めた。
「何を言ってるんだ! たかが、10人程度の兵士をまとめられなくてどうする。士官として宇宙船に乗る資格がないぞ」
「いいさ。俺は人の上に立ちたいなんて思ってない。兵士を指揮したいなんて思ったこともないぜ」
士官になる意志を少しも見せないリュウにルーインが焦れた。
「そのやる気のなさが隊のメンバーに伝わるんだ! 最初に休んだから反感は買ってただろうが、キミがもっと必死だったら、メンバーもそれなりに付いてくるようになるはずだろっ! このままだと、もうすぐ始まる宇宙船演習や指揮演習にも支障がでる」
珍しい怒鳴り声。
「わかってるさ、そんなこと。それより驚きだな。ルーインがそんなに熱くなるなんて。どうしたんだ?」
関係ないだろうと言うリュウに、ルーインはいやな顔をした。
どうしたんだ、などと訊くなよ。僕はキミと一緒に士官学校へ上がりたいんだ。キミを宇宙軍に引っ張るつもりなんだから…。
だけど、ルーインはそんな胸の内をひとことも漏らさない。
「僕たちをスペシャル・クラスに推してくれたトンプソン教官に迷惑をかけるし、何より…、レイさんが嘆くだろっ」
その言葉に、ようやくリュウが反応した。
「レイが? 嘆くかなあ?」
ルーインはリュウを動かす魔法のワードを得た気がした。ここ2週間、ルーインはリュウの態度が気になっていたのだ。
兵士たちに反発されても無視されても、それほど落ち込むでもなし。淡々と毎日を送っている。スペシャル・クラスでの個人トレーニングはそれなりに頑張っているのだが、士官としての教練となるといつもと違ってひたむきさが感じられない。
リュウには、ひとに一目置かせる何かが備わっている。レイほどではないが、ひとを魅きつける力があるとルーインは思っていたのだ。
「もちろん! レイさんはキミがここで一生懸命やってると思ってるからな。それなのに、最初からあきらめてると知ったら…」
「ルーインッ! ここでのことをレイに言うなよっ」
「言われて困るなら、そんな態度は改めた方がいい」
リュウはぐうの音もでなかった。
「レイさんだったら、どんな兵士でも簡単に言うことを聞かせられる。隊員をうまくまとめるコツなら、あの人に聞いたらどうだ」
それは確かに。レイに逆らおうなんて誰が思うだろう。
でも、どうしてだ。どうして誰も逆らおうと思わないんだ?
「なあ、ルーイン。俺がレイの言いつけを守るのは当然としても、どうしてあんたが言うことを聞くんだ? 上官でもない、赤の他人なのに」
「レイさんには力があるし、逆らえない雰囲気がある。経験に裏付けられた威厳だろうな。言うことは的を得ているし、僕のこともよくわかってくれてる。
そうだなあ、何より…。厳しくても、僕のことを考えた上での言葉だとわかるからかな。それに、レイさんは他人にも厳しいけど、自分にはもっと厳しいだろ」
「ふ~ん。そうか?」
「そうだ」
考えこんでいるリュウに、
「今週は帰るのか」とルーインが聞く。
「いや。病気で伏せってたから、レイは週末も忙しいらしい。今週は遠くまで行くから、日曜日も帰ってこられるかどうかわからないって言ってた」
「病気はよくなったんだな。仕事の方も順調そうでよかった。久しぶりに、トレーニングに連れて行ってもらおうかと思ったのに、残念だ」
「へえっ、ルーインは元気だな」
リュウはあきれた声を出した。
「俺なんか、クラスのメニューと教練でバテバテだぜ」
「それは僕も同じだけどね、レイさんのトレーニングはキツいけど、やってると僕も知らない力、自分の中に眠っている力が出せる。というか、そうしないと付いていけないだろ?
おかげで、自分にこんなに力があったんだ、こんなこともできるんだとわかるし、自分に自信が持てる。教練をするのにも役立つような気がするんだ。…しばらく、あのとんでもないメニューをやってないから、懐かしいのかもな」
「あんたはマゾか。レイに苛められて喜ぶなんて」
キミもなのに、そんな言い方があるかと気色ばんだルーインを、まあまあとなだめながら、リュウは笑い出した。
レイにしごかれてへばっているルーインの姿を思い出したのだ。士官訓練センターでは絶対にお目にかかれない情けない姿を。そして、その隣には同じようにへばっている自分の姿が見えた。
レイは…。俺を鍛えるときに、相手にならないからと手を抜いたりしなかった。まだ小さな子どもの時ですら。俺が強くなるように、そして持てるだけの力を出し尽くすまで、できる限りのことをさせた。
俺の力を俺よりよく知っていた。叱り飛ばすのは、俺をより強くするため。それって、気にかけてくれている証拠じゃないか。
俺はずっと、レイに大切にされてきた!
士官訓練センターへ戻ってから、どうにも晴れなかった気持ちが、心の中にしこっていたマリオンの亡霊が浄化されていく気がした。
笑っている俺を何だこいつという目で見ていたルーインに、
「悪い、思い出し笑いだ」
と断りながら、にっこり微笑んでやった。
つられて笑んだルーインが、
「キミは笑ってる方がいいな。ここしばらく、しかめツラしか見なかった」
「そうか。そうだったな」
ひとの上に立つ気はなくとも、俺は今、指示を出す立場だった。教練を行う立場なのだ。
目の前にあるやるべきことを投げ出すなんて、レイはしない。俺がそんなことをしたらルーインが言うようにレイは嘆くだろう。
スペシャル・クラスはもう始まってしまったのだ。3月までのあと5カ月、いやでも隊員と付き合わねばならない。だとしたら、俺にできる精一杯のことをするのが務め。
俺には何の意味もなくても、兵士としての訓練を必要とする隊員がいるのだ。
彼らは宇宙軍兵士として、さまざまな惑星に行かなければならない。個人としてはもちろん、集団で事に当たる場面は限りなくあるだろう。
その時に命を落とさぬように、そして少しでも力を出せるように鍛えるのが上官としての仕事。責任ある立場だったのに、俺は自分のことしか考えていなかった。
2週間を無駄にしたな。
明日の教練からは隊のメンバーをしっかり見よう。いいところも、悪いところも。
俺は誰がどれだけ力があるのかさえ知らない。どんな仕事に向いているのかも。何ができるのか、何ができないのか。まずは、そこからだ。リュウは決心していた。
「ルーイン、ありがとう」
へっ、という顔をした同居者に照れることなく告げる。
「あんたと話して、吹っ切れたよ」
窓を開けていると寒いくらいになった夜、バスから出たルーインが窓辺で濡れた髪を乾かしているとカチャリと部屋のドアが開いて、リュウが疲れ切った表情で入ってきた。
「遅かったな。訓練に今までかかったのか」
「ああ、どうしても集団行動にならない。みな俺の言うことなど、まともに聞いてくれないからな」
ふうっ、とため息をついたリュウの口から、情けない言葉がもれた。
たった10名あまりの兵士をまとめるのがこんなに難しいとは思わなかった。点呼でさえ無視される有様である。
「毎日、俺には人の上に立つ力がないと思い知らされてるよ」
リュウとルーインがスペシャル・クラスに在籍するようになって、3週間である。
クラスでの個人トレーニングや座学ではさほど遅れを取っているとは思わないが、それぞれが受け持つ軍事基地の兵士たちの扱いとなるとひとり取り残されている気がするリュウであった。
「ルーインやみんなが隊員をうまくまとめているのを見ると、いやになるよ。コツがあったら教えてほしいくらいだ」
「キミだけじゃない、みんな苦労してる。レイさんの病気で遅れてきただろう。隊員たちから反感を買ったから仕方ない。受け持ったメンバーも悪かったし…」
たまには苦労するんだねと冷静に断じてくれたルーインを見返しながら、リュウは再度のため息だ。
確かに、スタートが悪かった。
これから半年、小隊長として一緒に過ごすことになるメンバーと出会う日にレイの看病で士官訓練センターへ来ることができなかった。
リュウにとっては、士官訓練センターとレイでは比べモノにならないくらいレイの存在の方が重い。休むことに躊躇などなかったのだが…、1週間近く遅れて現れたリュウを待っていたのは、兵士たちの冷やかな視線であった。
いや、リュウにもよくわかっていた。
自分たちがどんな兵士を受け持つのか不安であるのと同じように、兵士たちもこれから半年付き合わざるを得ない上官がどんな男か(それも養成所の生徒である)、いくばくかの期待と大きな不安を持って待っていたということは。
不安、いや不満だろうか?
不満という点では、百戦錬磨の兵士たちが、何の経験もない若い訓練生を上官に仰がねばならないのだから当然である。そのお見合いの日に、顔を出さないというのは失礼千万。彼らにとっては、若いなりにも上官として立ててやらなくてはという思いを粉々に打ち砕くほどの裏切りであった。
簡単に言うと、1週間もほったらかした、自分たちのことをないがしろにしたとリュウは恨まれているのである。
しかも。
割り当てられた隊員たちが悪かった。兵士として訓練を始めたばかりの若者から、艦隊で持てあまし、鍛え直すようにと基地に送り返された歴戦の兵士たちまで、さまざまな男が混在していたのである。
本来ならば、1年飛ばしで上のクラスにあがったリュウなどが受け持つことはないはずだが、当日いなかったために、誰も持ちたがらなかったその問題ありの隊を押しつけられてしまったのだ。
誰が担当しても手こずるはずだというルーインの言葉は、その通りなのであるが…。
「簡単な訓練メニューでさえ、やらせるのが大変だよ」
「キミの小隊にはクセのあるやつが多いからな」
「ああ、真っ向から反発してるダンカンや自分の腕に酔っているモーグは困りもんだ。それに、下士官があののらりくらりとしたエヴァだろう。手を焼いてる」
士官になるつもりも、宇宙軍に入るつもりもないリュウにとって、兵士たちをまとめることなど無意味に等しい。自分を鍛えられればそれでいい。レイに認められるだけの操船技術と宙航に必要な知識、技能を身につけられればそれでいいと思っているのに。
「スペシャル・クラスに入るなどと言わなければよかったかな」
小さな独り言をルーインが聞き咎めた。
「何を言ってるんだ! たかが、10人程度の兵士をまとめられなくてどうする。士官として宇宙船に乗る資格がないぞ」
「いいさ。俺は人の上に立ちたいなんて思ってない。兵士を指揮したいなんて思ったこともないぜ」
士官になる意志を少しも見せないリュウにルーインが焦れた。
「そのやる気のなさが隊のメンバーに伝わるんだ! 最初に休んだから反感は買ってただろうが、キミがもっと必死だったら、メンバーもそれなりに付いてくるようになるはずだろっ! このままだと、もうすぐ始まる宇宙船演習や指揮演習にも支障がでる」
珍しい怒鳴り声。
「わかってるさ、そんなこと。それより驚きだな。ルーインがそんなに熱くなるなんて。どうしたんだ?」
関係ないだろうと言うリュウに、ルーインはいやな顔をした。
どうしたんだ、などと訊くなよ。僕はキミと一緒に士官学校へ上がりたいんだ。キミを宇宙軍に引っ張るつもりなんだから…。
だけど、ルーインはそんな胸の内をひとことも漏らさない。
「僕たちをスペシャル・クラスに推してくれたトンプソン教官に迷惑をかけるし、何より…、レイさんが嘆くだろっ」
その言葉に、ようやくリュウが反応した。
「レイが? 嘆くかなあ?」
ルーインはリュウを動かす魔法のワードを得た気がした。ここ2週間、ルーインはリュウの態度が気になっていたのだ。
兵士たちに反発されても無視されても、それほど落ち込むでもなし。淡々と毎日を送っている。スペシャル・クラスでの個人トレーニングはそれなりに頑張っているのだが、士官としての教練となるといつもと違ってひたむきさが感じられない。
リュウには、ひとに一目置かせる何かが備わっている。レイほどではないが、ひとを魅きつける力があるとルーインは思っていたのだ。
「もちろん! レイさんはキミがここで一生懸命やってると思ってるからな。それなのに、最初からあきらめてると知ったら…」
「ルーインッ! ここでのことをレイに言うなよっ」
「言われて困るなら、そんな態度は改めた方がいい」
リュウはぐうの音もでなかった。
「レイさんだったら、どんな兵士でも簡単に言うことを聞かせられる。隊員をうまくまとめるコツなら、あの人に聞いたらどうだ」
それは確かに。レイに逆らおうなんて誰が思うだろう。
でも、どうしてだ。どうして誰も逆らおうと思わないんだ?
「なあ、ルーイン。俺がレイの言いつけを守るのは当然としても、どうしてあんたが言うことを聞くんだ? 上官でもない、赤の他人なのに」
「レイさんには力があるし、逆らえない雰囲気がある。経験に裏付けられた威厳だろうな。言うことは的を得ているし、僕のこともよくわかってくれてる。
そうだなあ、何より…。厳しくても、僕のことを考えた上での言葉だとわかるからかな。それに、レイさんは他人にも厳しいけど、自分にはもっと厳しいだろ」
「ふ~ん。そうか?」
「そうだ」
考えこんでいるリュウに、
「今週は帰るのか」とルーインが聞く。
「いや。病気で伏せってたから、レイは週末も忙しいらしい。今週は遠くまで行くから、日曜日も帰ってこられるかどうかわからないって言ってた」
「病気はよくなったんだな。仕事の方も順調そうでよかった。久しぶりに、トレーニングに連れて行ってもらおうかと思ったのに、残念だ」
「へえっ、ルーインは元気だな」
リュウはあきれた声を出した。
「俺なんか、クラスのメニューと教練でバテバテだぜ」
「それは僕も同じだけどね、レイさんのトレーニングはキツいけど、やってると僕も知らない力、自分の中に眠っている力が出せる。というか、そうしないと付いていけないだろ?
おかげで、自分にこんなに力があったんだ、こんなこともできるんだとわかるし、自分に自信が持てる。教練をするのにも役立つような気がするんだ。…しばらく、あのとんでもないメニューをやってないから、懐かしいのかもな」
「あんたはマゾか。レイに苛められて喜ぶなんて」
キミもなのに、そんな言い方があるかと気色ばんだルーインを、まあまあとなだめながら、リュウは笑い出した。
レイにしごかれてへばっているルーインの姿を思い出したのだ。士官訓練センターでは絶対にお目にかかれない情けない姿を。そして、その隣には同じようにへばっている自分の姿が見えた。
レイは…。俺を鍛えるときに、相手にならないからと手を抜いたりしなかった。まだ小さな子どもの時ですら。俺が強くなるように、そして持てるだけの力を出し尽くすまで、できる限りのことをさせた。
俺の力を俺よりよく知っていた。叱り飛ばすのは、俺をより強くするため。それって、気にかけてくれている証拠じゃないか。
俺はずっと、レイに大切にされてきた!
士官訓練センターへ戻ってから、どうにも晴れなかった気持ちが、心の中にしこっていたマリオンの亡霊が浄化されていく気がした。
笑っている俺を何だこいつという目で見ていたルーインに、
「悪い、思い出し笑いだ」
と断りながら、にっこり微笑んでやった。
つられて笑んだルーインが、
「キミは笑ってる方がいいな。ここしばらく、しかめツラしか見なかった」
「そうか。そうだったな」
ひとの上に立つ気はなくとも、俺は今、指示を出す立場だった。教練を行う立場なのだ。
目の前にあるやるべきことを投げ出すなんて、レイはしない。俺がそんなことをしたらルーインが言うようにレイは嘆くだろう。
スペシャル・クラスはもう始まってしまったのだ。3月までのあと5カ月、いやでも隊員と付き合わねばならない。だとしたら、俺にできる精一杯のことをするのが務め。
俺には何の意味もなくても、兵士としての訓練を必要とする隊員がいるのだ。
彼らは宇宙軍兵士として、さまざまな惑星に行かなければならない。個人としてはもちろん、集団で事に当たる場面は限りなくあるだろう。
その時に命を落とさぬように、そして少しでも力を出せるように鍛えるのが上官としての仕事。責任ある立場だったのに、俺は自分のことしか考えていなかった。
2週間を無駄にしたな。
明日の教練からは隊のメンバーをしっかり見よう。いいところも、悪いところも。
俺は誰がどれだけ力があるのかさえ知らない。どんな仕事に向いているのかも。何ができるのか、何ができないのか。まずは、そこからだ。リュウは決心していた。
「ルーイン、ありがとう」
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