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「レイ! 客が来るんだから、早めに切り上げて帰って来てくれよ」
久々に戻った自宅で、くつろぐヒマもなく忙しく立ち働くリュウがルーインを連れてトレーニングに出かけようとするスラリとした後ろ姿に声をかける。
淡いパープルのウエアに身を包んだレイが振り返った。
「わかってるって。隊のメンバーが遊びに来るんだろう。だから、おまえをトレーニングに連れ出すのを諦めたんだ。早めに帰ってくるよ」
と返事を寄こしておいて、
「ということで、今日はスピードアップしようね」
とかなんとか犠牲者に向かって言葉をかけた。ギクッと固まったルーインの肩をぽんと叩く。
「行ってきます!」
レイは元気に出ていった。
ご愁傷さま。この分じゃ、ルーインはかなり泣かされるだろう。でも、レイにしごかれるのを楽しみにしているのは、ほかならないあいつなのだから、そのくらいは耐えてもらおう。
俺は二人が帰ってくるまでに、部屋を片付けて、買い物に行って、料理を作って。こちらもスピードアップしなくちゃならない。
リュウは、休日に自宅へ戻りたくても、遠すぎて戻れない兵士たちに家庭の雰囲気を味あわせてやりたくて声をかけたのだ。
自分は隊員たちに愛着を感じてきたのに、距離が縮まらないのが気になっていた。軍基地と違って自宅ならば、もっと気楽に付き合えるかと考えて。
教練以外の時間は兵士たちともっと近い関係でいたい。自分のことを認めて、喜んで命令に従ってくれるならいいが…、隊長だと言うだけでいやいや従ってもらってもうれしくも何ともない。
「ピンポ~ン」
のんびりとチャイムが鳴って、隊のメンバーがやって来たのが4時頃。レイとルーインが戻ってきたのは、4時半をまわった頃だった。
「ただいま~」
上気したのか、頬を染めたレイが部屋に入ってきた途端、リビングにいるみなの視線が釘付けになる。ダンカンなどは、息をするのも忘れて? 食い入るように見つめていた。
「いらっしゃい。遅くなってごめんね。急いでシャワーを浴びてくるから!」
みんなのまとわりつくような視線をものともせず、こういう視線には慣れっこだが…、レイはにこやかに挨拶してバスルームに消えていった。
その艶やかな姿が消えた途端、ルーインが「ふう」と息をついて、床にへたり込んだ。
「どうしたんですか?」という兵士の声に片手をあげるだけで済ませている。よほど、キツかったのだろう。
「遅かったな。この時間じゃ、いつもと変わらないじゃないか」
荒い息を整えながらルーインが応える。
「僕もそう思っているところだ。出掛けにキミが早く帰ってこいなんて言うから…、いつもの倍のペースだったんだぞ。それなのにこの時間だろう、堪えるさ」
「それはそれは、ご愁傷さま」
おどけたやりとりを聞いていた兵士のひとり、ニコラスがつぶやいた。
「アドラー隊長がへばっている姿を見るのは初めてです。教練の時には、いつも颯爽としてるのに…」
どうやら、ここにもルーインのファンがいるようだ。眉目秀麗、家柄も抜群。そのうえ腕も伴っている。冷淡なところが玉にキズだが、それもクールでカッコイイと兵士たちに思われているのである…。
当のルーインは苦笑をもらし、
「僕だって颯爽としていたいけどな、疲れ果ててなりふり構っていられない。それに余裕があるなんて思われたら次はどれほどしごかれるか…、考えるだけでも恐ろしい」
さらりと吐かれた言葉に下士官のエヴァが反応する。
「しごかれるって、さっきの美しい方にですか?」
「ああ、阿刀野のお兄さんだ。美しいっていうのは確かだが、あの人より恐いひとなんか、いないぞ」
「えっ~!」
というみんなの反応に、やっぱりなと納得したのはリュウだ。
ルーインもそうだったが、誰もがレイの姿に惑わされる。美貌の上にスレンダーだから仕方ないが、自分で闘いそうには見えない。誰かに大切に守られているように思ってしまう。
たとえ闘う相手として認識したとしても、美女も顔負けの男に、力などあるはずがないと。
兵士たちの誤りに気づいたルーインが、きっちりと訂正する。
「きみたち、普通スクール出身の阿刀野が、これほど体力や戦闘能力があるのはどうしてだと思ってるんだ。みんな、あの人が阿刀野を鍛えたからだぞ。なあ」
とこちらにふってくる。まだ、納得のいかない顔をしているみんなに、
「おう。操縦や銃はもちろん、俺は体力でも格闘技でも、レイには勝てない…」
と言った台詞の最後をダンカンに取られた。
「隊長が、あの人に格闘技で勝てない! まさか」
まるっきり信じていない。
そうだな、レイがどれほどの力を持っているかなんて、聞かされただけで信じられるはずがない。俺だって、寝ぼけ眼でふわっと微笑むレイを見ていると、未だに何をしても勝てないのが不思議に思えるのだから。
そんなことを考えていると、ルーインが余計な口出しをした。
「まさかと思うなら試してみたらどうだ、ダンカン。僕はキミより確実にレイさんの方が強いと確信している。なあ、阿刀野。構わないだろう?」
あおるような言葉に、いや、ルーインは真実を告げただけなのだが、ダンカンの顔色が変わった。
「それは、構わないだろうけど…。部屋の中で銃をぶっ放すのはやめてくれよ。それから、やるなら本気でかかった方がいい。レイを押さえつけるつもりなら…、ダンカン一人じゃなくて、全員で力を合わせたらどうだ?」
リュウの親切なアドバイスはダンカンを怒らせただけ、だった。
「おまえだけじゃ相手にならないと思ったら、助けてやるよ」
くくっと笑いを含んだエヴァの挑発にますますダンカンは頭に来た。
「本当に本気で襲ってもいいんですね、隊長。怪我させても責任は持たないからな」
「なあ、ダンカン。おまえの腕を見くびるわけじゃないが、レイは何をやらせても超一流だよ。俺は、ルーインと2人でかかっても、素手で押さえ込む自信はない」
言い聞かせようとするが、すでにダンカンは舞い上がっている。リュウの言葉など少しも耳に入ってはいない。白兵戦のプロとしての自負があるのだろう。
「卑怯な気がするが、隊長がそこまで言うなら、お兄さんが入ってきたら不意打ちさせてもらう」
憮然とした表情で宣言した。
これ以上言っても無駄か!
「わかったよ」
というリュウの返事に、ダンカンが無言で力こぶをためた。
久々に戻った自宅で、くつろぐヒマもなく忙しく立ち働くリュウがルーインを連れてトレーニングに出かけようとするスラリとした後ろ姿に声をかける。
淡いパープルのウエアに身を包んだレイが振り返った。
「わかってるって。隊のメンバーが遊びに来るんだろう。だから、おまえをトレーニングに連れ出すのを諦めたんだ。早めに帰ってくるよ」
と返事を寄こしておいて、
「ということで、今日はスピードアップしようね」
とかなんとか犠牲者に向かって言葉をかけた。ギクッと固まったルーインの肩をぽんと叩く。
「行ってきます!」
レイは元気に出ていった。
ご愁傷さま。この分じゃ、ルーインはかなり泣かされるだろう。でも、レイにしごかれるのを楽しみにしているのは、ほかならないあいつなのだから、そのくらいは耐えてもらおう。
俺は二人が帰ってくるまでに、部屋を片付けて、買い物に行って、料理を作って。こちらもスピードアップしなくちゃならない。
リュウは、休日に自宅へ戻りたくても、遠すぎて戻れない兵士たちに家庭の雰囲気を味あわせてやりたくて声をかけたのだ。
自分は隊員たちに愛着を感じてきたのに、距離が縮まらないのが気になっていた。軍基地と違って自宅ならば、もっと気楽に付き合えるかと考えて。
教練以外の時間は兵士たちともっと近い関係でいたい。自分のことを認めて、喜んで命令に従ってくれるならいいが…、隊長だと言うだけでいやいや従ってもらってもうれしくも何ともない。
「ピンポ~ン」
のんびりとチャイムが鳴って、隊のメンバーがやって来たのが4時頃。レイとルーインが戻ってきたのは、4時半をまわった頃だった。
「ただいま~」
上気したのか、頬を染めたレイが部屋に入ってきた途端、リビングにいるみなの視線が釘付けになる。ダンカンなどは、息をするのも忘れて? 食い入るように見つめていた。
「いらっしゃい。遅くなってごめんね。急いでシャワーを浴びてくるから!」
みんなのまとわりつくような視線をものともせず、こういう視線には慣れっこだが…、レイはにこやかに挨拶してバスルームに消えていった。
その艶やかな姿が消えた途端、ルーインが「ふう」と息をついて、床にへたり込んだ。
「どうしたんですか?」という兵士の声に片手をあげるだけで済ませている。よほど、キツかったのだろう。
「遅かったな。この時間じゃ、いつもと変わらないじゃないか」
荒い息を整えながらルーインが応える。
「僕もそう思っているところだ。出掛けにキミが早く帰ってこいなんて言うから…、いつもの倍のペースだったんだぞ。それなのにこの時間だろう、堪えるさ」
「それはそれは、ご愁傷さま」
おどけたやりとりを聞いていた兵士のひとり、ニコラスがつぶやいた。
「アドラー隊長がへばっている姿を見るのは初めてです。教練の時には、いつも颯爽としてるのに…」
どうやら、ここにもルーインのファンがいるようだ。眉目秀麗、家柄も抜群。そのうえ腕も伴っている。冷淡なところが玉にキズだが、それもクールでカッコイイと兵士たちに思われているのである…。
当のルーインは苦笑をもらし、
「僕だって颯爽としていたいけどな、疲れ果ててなりふり構っていられない。それに余裕があるなんて思われたら次はどれほどしごかれるか…、考えるだけでも恐ろしい」
さらりと吐かれた言葉に下士官のエヴァが反応する。
「しごかれるって、さっきの美しい方にですか?」
「ああ、阿刀野のお兄さんだ。美しいっていうのは確かだが、あの人より恐いひとなんか、いないぞ」
「えっ~!」
というみんなの反応に、やっぱりなと納得したのはリュウだ。
ルーインもそうだったが、誰もがレイの姿に惑わされる。美貌の上にスレンダーだから仕方ないが、自分で闘いそうには見えない。誰かに大切に守られているように思ってしまう。
たとえ闘う相手として認識したとしても、美女も顔負けの男に、力などあるはずがないと。
兵士たちの誤りに気づいたルーインが、きっちりと訂正する。
「きみたち、普通スクール出身の阿刀野が、これほど体力や戦闘能力があるのはどうしてだと思ってるんだ。みんな、あの人が阿刀野を鍛えたからだぞ。なあ」
とこちらにふってくる。まだ、納得のいかない顔をしているみんなに、
「おう。操縦や銃はもちろん、俺は体力でも格闘技でも、レイには勝てない…」
と言った台詞の最後をダンカンに取られた。
「隊長が、あの人に格闘技で勝てない! まさか」
まるっきり信じていない。
そうだな、レイがどれほどの力を持っているかなんて、聞かされただけで信じられるはずがない。俺だって、寝ぼけ眼でふわっと微笑むレイを見ていると、未だに何をしても勝てないのが不思議に思えるのだから。
そんなことを考えていると、ルーインが余計な口出しをした。
「まさかと思うなら試してみたらどうだ、ダンカン。僕はキミより確実にレイさんの方が強いと確信している。なあ、阿刀野。構わないだろう?」
あおるような言葉に、いや、ルーインは真実を告げただけなのだが、ダンカンの顔色が変わった。
「それは、構わないだろうけど…。部屋の中で銃をぶっ放すのはやめてくれよ。それから、やるなら本気でかかった方がいい。レイを押さえつけるつもりなら…、ダンカン一人じゃなくて、全員で力を合わせたらどうだ?」
リュウの親切なアドバイスはダンカンを怒らせただけ、だった。
「おまえだけじゃ相手にならないと思ったら、助けてやるよ」
くくっと笑いを含んだエヴァの挑発にますますダンカンは頭に来た。
「本当に本気で襲ってもいいんですね、隊長。怪我させても責任は持たないからな」
「なあ、ダンカン。おまえの腕を見くびるわけじゃないが、レイは何をやらせても超一流だよ。俺は、ルーインと2人でかかっても、素手で押さえ込む自信はない」
言い聞かせようとするが、すでにダンカンは舞い上がっている。リュウの言葉など少しも耳に入ってはいない。白兵戦のプロとしての自負があるのだろう。
「卑怯な気がするが、隊長がそこまで言うなら、お兄さんが入ってきたら不意打ちさせてもらう」
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