宙(そら)に舞う。 〜レイとリュウ〜

星野そら

文字の大きさ
66 / 108

11 キャプテン・レイモンド

しおりを挟む
11 キャプテン・レイモンド

 同じ頃、惑星ガーラ。
 海賊団コスモ・サンダーの本部である。
 コンコンと軽いノックの音がして、「失礼します」と爽やかな声がかけられた。
 執務机から背の高い男が立ち上がり、客を迎え入れる。

「わざわざ訪ねてくるなんて珍しいな。何かあったのか」

 スマートにジャンプスーツを着こなしたアレクセイ・ミハイルは、ピシリと足をそろえて不動の姿勢をとった。右拳は敬意を表して、胸の前に斜めに掲げられている。

「ごぶさたしております、総督代理。お元気そうで何よりです」
「ありがとう、アーシャ。そんなに畏まらなくてもいい。長旅だったろう、楽にしなさい」

 そう言って、マリオンは手でソファをすすめた。アレクセイは礼儀正しくお言葉に甘えますと言ってから腰をおろした。

「総督のお加減はいかがですか?」
「正直なところ、よくない。今でも分裂寸前のコスモ・サンダーだが、総督が亡くなられたらどうなるかと思うと気が重い」

 マリオンは深いため息をついた。この一年、総督の病状は一進一退を繰り返しているが、それももう終わろうとしている。今度こそ、最期が近いと医者に告げられたのだ。
 マリオンが動けなくなった総督に代わってコスモ・サンダーをまとめるようになったのは3年前だが、水面下で争いが巻き起こり、ずっと一発触発の危うい状態が続いている。

 手に余る。わたしにはコスモ・サンダーをまとめあげるには力が足りないと、マリオンは思い知らされていたのである。
 それなら誰にコスモ・サンダーの総督が務まるのか。私利私欲の固まりのような司令官やキャプテンたちの、いったい誰に。それならば、自分の方がまだましだと思って、マリオンは総督代理を引き受けていた。

 総督が指示をだせる間はまだよかった。総督代理は単なるメッセンジャーボーイくらいの役割だったから。しかし、最近ではすべての采配を振るわなくてはならなくなっていた。

「アーシャ。おまえを別の任務に就かせていなかったら、今すぐここでわたしの補佐をしてもらいたいくらいだ」

 らしくもない泣き言である。
 マリオンはかなりやつれているように見えた。端正な目元にはクマができ、疲れが身体を蝕んでいる。
 こんな時に、プリンスの話をしても大丈夫だろうか。

「僕にはそんな大役は務まりません。代表権を持つ司令官として、総督代理をいつでも支持しています」

 そんなことはわかっているとでも言うように、マリオンは手をふった。

「前置きはいいよ。どうした。また、何かわたしに対する悪巧みでも聞こえてきたのかい?」

 よくあることとでも言いたげな、諦めきった口調。

「いえ。実は今日は…、あの方の足跡を見つけたんです。キャプテン・レイモンドが生きていると知らせに来ました!」

 ハッ、とマリオンの表情が固まった。

「ほんとう、なのか? わたしはこの10年間、何度もそんな知らせを受け、その度に落胆させられた。まあ、ここ2年ほどは誰もそんな話をもってきたものはいなかったが…」
「確信がなければ総督代理をわずらわせるようなことはしません。先を続けてよろしいですか」

 遠くを見つめる目になったマリオンに注意を促し、アレクセイは言葉を続ける。

「最初に引っかかったのは、惑星キケロでの噂でした。キケロに寄港した時に宇宙船の修理を頼んだ男の話を聞いたんです。ビッグ・ファットに無理を言って、コスモ・サンダーの船よりも自分の船の修理を優先させた男がいると。
 その時はビッグ・ファットは金を積まれたら節操がなくなるからと気にもしなかったんですが…。その男が、金髪でものすごい美貌だということを後から聞きました。しかも、修理をしたのはクリスタル号という小型の宇宙船。金持ちの豪華な船というわけではなかった。調べると、所有者は阿刀野レイだと管制塔の記録に載っていました」

 マリオンは食い入るような鋭い視線をアレクセイに注いでいた。

「それでも、まさかと思っていたんです。コスモ・サンダーが総力を結集したのに捕まえることができなかったでしょう。ここ2~3年は実のある噂ひとつなかった。どこにいるとか。何をしているとかいう話は聞いたことがなかった。だから、キャプテン・レイモンドは追跡中に命を落としたのだと思いこんでいたんです。
 あの時、僕たちはキャプテン・レイモンドが乗っているかも知れないと思ったら無差別に宇宙船を爆破したし、逃げ切れたはずがないと。
 それが…。
 この間の極東地域の話は総督代理も聞かれたでしょう? メタル・ラダー社の一件です。あれはクレイジーが総督代理の命に従わずにメタル・ラダー社に仕掛けたんですが、単なる私設軍程度ならクレイジー、いえ極東地区司令官であるトニーがしてやられるわけがないと思いませんか。あいつはなかなかやりますからね。用意周到でメタル・ラダー社の宇宙艦を囲んだのに、その中から飛び出した一隻の宇宙船が囲みを破って、ミスター・ラダーを乗せて逃げ去ったと。その宇宙船の名がキケロで知ったのと同じクリスタル号でした。トニーが舌を巻くほど大胆不敵だったそうですよ。
 それで興味がわいて詳しく調べたんです。阿刀野レイは『美貌のクーリエ』と呼ばれています。荷物の配達サービスをやっているんですが、どんな危険地域だろうと、どれほど困難だろうと、荷が届かなかったことは一度もない凄腕だという噂です。荷の受け渡しで会ったものは緑の目を持つ、天使のように美しい男だと口をそろえます。美しいだけではなく、高貴で毅然としていて。ちょっかいを出そうものなら、簡単に相手を伸してしまうだけの力があるそうです」

 ミハイルはマリオンにひたと目を据えて、キャプテン・レイモンドだと思いませんかと。

「金髪に緑の瞳か。レイモンドのような気もするが、生きていたとは…」
「外見もですが、操縦の腕は驚くほどだそうですし、あの人ならビッグ・ファットを黙らせることなどわけはない。僕は間違いないと思います」

 マリオンは何か考えているのか、上の空である。

「それで、どうしますか?」
「見つけだして総督の前に引き据える。それは、10年間変わらぬわたしのいちばんの望みだ。レイモンドの命は総督のものだ。あの時ならいざ知らず、宇宙の果てでのたれ死にさせたり、宇宙船ごと爆死させるような甘いことはしない。アレクセイ。居場所を知っているなら、言え」

 突然のキツい命令口調にアレクセイが躊躇する。総督代理の怒りは月日の流れとともに少しは収まったかと期待していたのだが。
 あれだけ完璧にコスモ・サンダーを、そしてマリオンをも裏切ったのだから、総督の前に引きずり出されて、見せしめのために殺されるのは当然だろう。
 アレクセイ・ミハイルはキャプテン・レイモンドが好きだった。クール・プリンスと呼ばれ恐れられてはいたが、ほんとうはやさしい男だと思う。自分が犠牲になっても、人を助けるような…。

 しかし。
 総督に銃を向けコスモ・サンダーから逃げ出し、コスモ・サンダーを根底から揺さぶった、その事実は消えない。

 僕はあの人を殺すために、これほど必死に動静を調べたのだろうか。
 苦い思いが胸に込み上げる。

「阿刀野レイの船、クリスタル号は惑星ベルンで登録されていました。彼は弟と2人で、ベルンに住んでいます」
「惑星ベルン、か。辺境だな。あそこまでは、めったに出向くことがない。それで今まで気がつかなかったのか!」

 マリオンは冷たい調子で吐き捨てた。口もとにはうすい笑みが貼り付いている。

「よく、知らせてくれたな、アーシャ。礼を言うよ」
「当然のことをしたまでです」
「そうだな」

 マリオンは再び、黙り込んだ。こういうときマリオンの頭の中は、フル回転していることをアレクセイは知っていた。
 しばらくして。
 黙って待っていたアレクセイに、マリオンが声をかける。

「レイモンドを捕まえるのは10年前でも大変だった。自分の宇宙船を持つ今では、もっと大変だろう。だが、今度は逃がすわけにはいかない。総督の命があるうちに、何があっても捉えてみせる」
「はい」

 しっかりした返事を寄こす相手にマリオンはにやりと笑ってみせた。

「ところでアーシャ、おまえのことだ。何か策があるんだろう?」

 そう、アレクセイには考えがあった。
 策士と言われる鋭い頭を総動員して真剣に考えたのだ。いくら考えてもプリンスを助ける手だては思いつかなかった。でも、もう一度あの人に会いたいと思う。あの人のためならば、信頼してくれている仲間を裏切ってもいいと思う。

「はい」
「では、訊こうか」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冴えない建築家いずれ巨匠へと至る

木工槍鉋
ファンタジー
「建築とは、単なる箱を作ることではない。そこに流れる『時』を設計することだ――」 かつてそう語り、伝説の巨匠と呼ばれることになる男も、かつては己の名前に怯えるだけの冴えない二級建築士だった。 安藤研吾、40代。独立したものの仕事はなく、下請けとして「情緒のない真四角な箱」の図面を引き続ける日々。そんな彼が恩師に教えられた座標の先で迷い込んだのは、昭和初期を彷彿とさせる、魔法のない異世界だった。 現代の建築知識、そして一釘一釘を大切にする頑固大工との出会い。 「便利さ」ではなく「住む人の幸せ」を求めて、研吾は廃村に時計台を建て、水路を拓き、人々の暮らしを再生していく。 異世界で「百年の計」を学んだ研吾が現実世界に戻ったとき、その設計は現代の建築界をも揺るがし始める。 これは、一人の男が仕事への誇りを取り戻し、本物の「巨匠」へと駆け上がるまでの、ひたむきな再建の記録。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

【完結】魔王を殺された黒竜は勇者を許さない

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
幼い竜は何もかも奪われた。勇者を名乗る人族に、ただ一人の肉親である父を殺される。慈しみ大切にしてくれた魔王も……すべてを奪われた黒竜は次の魔王となった。神の名づけにより力を得た彼は、魔族を従えて人間への復讐を始める。奪われた痛みを乗り越えるために。 だが、人族にも魔族を攻撃した理由があった。滅ぼされた村や町、殺された家族、奪われる数多の命。復讐は連鎖する。 互いの譲れない正義と復讐がぶつかり合う世界で、神は何を望み、幼竜に力と名を与えたのか。復讐を終えるとき、ガブリエルは何を思うだろうか。 ハッピーエンド 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/03/02……完結 2023/12/21……エブリスタ、トレンド#ファンタジー 1位 2023/12/20……アルファポリス、男性向けHOT 20位 2023/12/19……連載開始

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

東京ダンジョン物語

さきがけ
ファンタジー
10年前、世界中に突如として出現したダンジョン。 大学3年生の平山悠真は、幼馴染の綾瀬美琴と共に、新宿中央公園ダンジョンで探索者として活動していた。 ある日、ダンジョン10階層の隠し部屋で発見した七色に輝く特殊なスキルストーン。 絶体絶命の危機の中で発動したそれは、前代未聞のスキル『無限複製』だった。 あらゆる物を完全に複製できるこの力は、悠真たちの運命を大きく変えていく。 やがて妹の病を治すために孤独な戦いを続ける剣士・朝霧紗夜が仲間に加わり、3人は『無限複製』の真の可能性に気づき始める。 スキルを駆使して想像を超える強化を実現した彼らは、誰も到達できなかった未踏の階層へと挑んでいく。 無限の可能性を秘めた最強スキルを手に、若き探索者たちが紡ぐ現代ダンジョンファンタジー、ここに開幕!

処理中です...