宙(そら)に舞う。 〜レイとリュウ〜

星野そら

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10 メタル・ラダー社

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 降り立ったのは、鉱物を運ぶ貨物宇宙船が留まっているだけの粗末な宙港であった。典型的な鉱業惑星とは、こんな殺風景なものなのだろうか。
 タクシー乗り場に並ぼうとすると、黒塗りのでっかいエアカーが2人の前に滑り込む。お仕着せをきた運転手が聞く。

「阿刀野レイさんですか?」

 うなずくレイに、「遅くなって申し訳ありません。社長からお迎えを申しつかりました」
 
 と声をかける。
 真正面からレイの顔を見上げた途端、運転手は魅せられたように言葉を途切れさせた。レイが小首を傾げると、ハッと我にかえったように運転手は言葉を続けた。

「すみません。10時にベルンを出港されたと聞いて、余裕を持って社を出たのですが。宙港に着いたらもう到着されていると…、慌てました」
「ありがとう。迎えにきてもらえるなんて思ってなかったよ。到着時間も言ってなかったし、気にしないでね」

 やさしい応えに運転手がほっとする。

「お乗りください。社までご案内します」

 運転手がエアカーの扉を開き、レイとルーインを乗せて、走り出した。
 どこまで行っても、土埃しかない殺風景な惑星。だが、ものの十分も走ると、大がかりな掘削現場が現れ、立派な建物が見えてきた。
 看板に掲げてある社名を見たルーインは仰天する。メタル・ラダー社。宇宙でも屈指の大手企業である。しかも、到着した社屋の玄関で、待ちかねていたかのように迎えてくれたのは、なんとメタル・ラダー社の総帥、ケイジ・ラダーその人であった。

「すまないね。休日なのに、わざわざ辺境の惑星に呼びつけて」

 ……ッ! レイさんはメタル・ラダー社と取引のことでもめたんじゃなかったか? それが、社長自らのお出迎えなんて、ものすごいVIP待遇だ。
 総帥の出迎えに驚きもせず、にこやかにあいさつを返している! ルーインの頭にはクエスチョンマークがいくつも飛び交った。

 通されたのは社長室ではなく、大企業らしからぬリビングルーム? だった。ミスター・ラダーが過ごす私室なのだろうか。だが、ルーインは、無造作においてある椅子の価値をたまたま知っていた。人間工学を駆使してつくられた有名なもので、ひとつ百万ギリーはする。もちろん、テーブルや調度にしても、それなりのものなのだろう。
 固くなって、どう振る舞えばいいのか悩んでいるルーインを後目に、レイはさっさと勧められたソファに腰をおろした。そして、

「ルーイン。突っ立ったままでどうしたの」と聞く。

 ミスター・ラダーのそちらは誰という視線に応えてレイが紹介を始めた。

「操縦士助手のルーインです。ルーイン、こちらは、メタル・ラダー社の社長でケイジ・ラダー氏だよ」
「初めまして、ルーインくん。クリスタル号の乗組員はランディくんだけだと思っていたよ。キミが助手として使うなんて、この若者は操縦がうまいのかい?」

 興味深そうに聞くミスター・ラダーにルーインは返す言葉をなくしたが、レイは

「ダメですよ、引き抜こうたって。ルーインは宇宙軍のエリート士官になる男ですから。それも、将来有望なね」
「ほう、彼は宇宙軍にいるのか」

 感心したように言う。
 ルーインの顔がぽっと赤くなった。

「いえ、士官訓練センターで士官予備候補生としてしごかれている最中です。それより、僕なんかがここにいていいんですか。仕事の話があるなら、席をはずしますが…」

 場をわきまえたルーインの礼儀正しい言動に、ミスター・ラダーの相好が崩れる。好印象を持ったのだ。

「いや、心配は無用だ。阿刀野くんが連れてきたんだから信用している。遠慮などいらないよ。ところで、食事を用意させてもらったがまだだろう?」
「ええ、ありがとうございます」
「それじゃあ、楽しみにしてくれたまえ。今日はわたしの専任料理長を連れてきてるんだ」

 ミスター・ラダーが自慢げに言った。
 軽く会話を楽しんだ後、ダイニングルームにうながされる。きちんとした晩餐用の部屋があるところは、さすがに大企業である。テーブルにはアンティークの器や磨き込まれた銀器がさりげなくセットされていた。正式な晩餐に慣れているはずのルーインが一瞬たじろいだほどの、格式の高さ。

 それなのに、レイさんは…。

 客の到着を待ってさりげなく引かれた椅子に臆することもなくすっと座った。そして、にこやかにミスター・ラダーと歓談をはじめた。
 この2人、先ほどからずっと楽しそうに話をしている。普段はあまりおしゃべりをしないレイが、自分から進んで話しているのを見て、ルーインは意外な気がした。

「レイさんとミスター・ラダーが親しいなんて、知りませんでした」
「俺たちが会ったのは今日が二度目だよ。それに、ミスター・ラダーに親しくさせてもらうなんて、俺には10年早い。いや20年かな」

 レイが言う。

「ミスター・ラダーなんて言わないでくれ。ケイジと呼んでくれないか。阿刀野くんは10年早いとか言ったが、そんなに経ったら、わたしは歳をとりすぎてキミと親しくできなくなってしまう。
 わたしこそ、阿刀野くんに親しくさせてもらえて光栄だよ。キミに会いたいと思わなかったら、忙しいときにわざわざこんな辺境までこないからな」
「そうなんですか? それはそれで恐いな。また、俺に無理を言うつもりでしょう?」
「いやいや、キミに無理や脅しが通じないことはわかっているよ」

 にこやかに否定したミスター・ラダーをレイは疑わしそうな目で睨んだ。

「安心してくれ。キミに嫌われるようなことはしないから」

 そこへ、ワインを手にした男が入ってきた。ミスター・ラダーのグラスにワインを注ぐ。テイスティングである。ミスター・ラダーはひとくち味わって、軽くうなずいた。
 給仕の男がレイのグラスにワインを注ぐ。続いて注がれようとするワインを、ルーインは長い指をグラスにかけて制止する。

「僕は水をもらえますか」
「かしこまりました」
「キミは未成年かな。ワインの一杯くらい、おじさんは見逃してあげるよ」

 いいながら、ミスター・ラダーはチラリとレイを盗み見た。
 メタル・ラダー社の総帥は冷酷なやり手だと噂に聞いていたのに。目の前の男は、おどけた調子でウインクまでする。

「いえ。僕はもう21歳ですし、ワインも好きです。でも、今日は帰りに操縦席に座らせてもらえそうなので…」

 万全でいたいという思いは伝わったようだ。

「そうか。阿刀野くんは厳しそうだからな。キミも恐いのか?」

 どうして、キミもなのかは気になったが、ルーインは素直に「はい」とうなずいた。すると、レイはとんでもないと首を振る。

「俺はワインくらいで目くじらを立てたりしませんよ。…でも、ルーインの心意気はうれしいね。ということで、俺は帰りの心配をしないで、心ゆくまで飲ませてもらうよ。ここのワイン、上等そうだしね」

 満面の笑みである。この人を失望させないでよかったとルーインは思った。
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