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「どうなっている、アーシャ」
苦労してつないだ衛星無線機から、苛立ち混じりの声が聞こえてきた。
「申し訳ありません、報告が遅くなりました。こちらは順調に進んでいます」
「そうか。それなら、そろそろ仕掛けていいのか」
たずねる声に、総督代理の待ちきれない思いが伝わる。
「もう少し時間をいただけますか。明日は阿刀野リュウの、プリンスが育てた若者ですが、指揮演習があります。そこでちょっとした事故を起こさせようかと思っています」
「なぜだ? そんなことをして何の意味がある」
問われると思った。自分でもなぜそんなことを仕組むのかわかっていなかったから。
「危機に面したときの阿刀野リュウの力を知りたいと思います。プリンスがどんな風に彼を育てたのか。そして、どれほど彼を大切にしているか…。今度は逃がすわけにかないですから、念のために…」
筋が通っていない、か…。
「下手な細工はやめた方がいい。あいつは勘の鋭い男だ、不審に思われる。それに、その若者が利用できなくなったら、レイモンドを捕まえるのに別の手を考えなければならなくなるんだろう?」
「わかっています。プリンスと接触した時に使えるちょっとした脅し材料を作っておくだけですから、無茶はしません」
総督代理の懐刀と自他ともに認めるアーシャことアレクセイ・ミハイル・ザハロフである。ずるいけれど、自分が進言すれば総督代理は任せてくれると知っていた。
「……いいと思うなら好きにしろ。だが、おまえも知っているだろうが、今度は逃がすわけにはいかない。時間がない」
「よくわかっています」
「そうか。それなら、わたしの方は予定通りに準備をするからな」
「承知しました」
プツリと無線が切れた。
ミハイルは手にしたデータ媒体を握りしめる。宇宙船のコンピュータにワームを埋め込むだけだ。自動操縦が効かなくなるくらいだろう。
初めての宙航でトラブルに見舞われたら、あの若者はどう対処するだろうか。無様に慌てる阿刀野リュウの姿を見ることができたら…、ミハイルは阿刀野リュウを切り捨てる覚悟を固めたいと思っていた。
月曜日である。
ベルン宇宙軍の宙港に、リュウたちスペシャル・クラスの指揮演習に参加するメンバーが集合した。ザハロフ教官の乗る宇宙艦『ダイモス』を含めて4艘。総勢40名以上が整列している。
今回はスペシャル・クラスの半数、つまり3名が指揮演習を行い、他のメンバーはザハロフ教官と一緒に宇宙艦で援護する。援護といっても、敵に襲われたり、トラブルに見舞われる以外は、見守るだけだと言われている。ルーインはこの宇宙艦組に入っていた。
ザハロフ教官によるブリーフィングが始まった。ここでは人員、目的地、途中での指揮訓練の内容など、最低限の項目を確認するだけである。もちろん、リュウの頭の中にはすべて入っていた。
「……出発は30分後。11号機から順に離陸する。以上だ。キャプテンおよび乗組員は準備にかかれ」
ブリーフィング終了とともに、メンバーはそれぞれの宇宙船へ乗り込んでいく。簡単な点検を済ませ、各自が持ち場に着いた頃、『ダイモス』から通信が入った。
「時間だ、準備はいいな。11号機、キャプテン阿刀野、離陸地点へタスキングしろ」
リュウは「ラジャー」と応えて、操縦席に座っているエヴァに指示を出す。エヴァはパネルを見ながら、レバーを操作し始めた。
「通信士! ヒュー、管制官に離陸の許可を取れ」
「はい。こちら連合宇宙軍宇宙船、船舶番号『VU-011』。離陸許可を願います」
「こちら管制塔。3号滑走路からの離陸を許可する。頑張れよ、新米!」
宇宙軍管制官がエールを送る。みな、リュウたちスペシャル・クラスのメンバーが、初めての指揮を執ることを知っているのだ。リュウはみなの注視の中、宙空へと飛び出した。
目の前には、星の瞬く宙空が広がり、パネルにはそれぞれの宇宙船が大きく点滅している。
11号機に続き、12号機、13号機、そしてザハロフ教官率いる宇宙艦『ダイモス』が無事宙空に現れる。
いよいよ、指揮演習の始まりである。
十分に惑星から離れた後、エヴァが宙航士カルヴィンの指示に従って、惑星サイロンへと航路を定めた。
リュウはエヴァの隣に座り、黙って見つめているだけだ。航行慣れした操縦士や宙航士にアドバイスなど必要ない。
エヴァが自動操縦に切り替えて、離陸の第一ステップが終了した。
リュウが持ち場に付いている全員に声をかけた。
「いま、自動操縦に切り替わった。われわれはXX-Aのルートでサイロンに向かう。途中、バレル宙域で行う緊急時訓練も含め、これから約70時間の行程になる。緊急時訓練には総員で取り組むが、後は二交代制を組んでいる。それぞれ確認してくれ。最初の休憩は2時間後。それまでに、各自持ち場を点検し、何かあれば報告しろ。以上だ」
リュウの指示に全員が点検を始める。離陸前に行ったばかりだと文句を言うものはいない。宇宙経験の長いものほど、ほんの小さな整備ミス、点検ミスが自分たちの命に関わることを知っているから。
苦労してつないだ衛星無線機から、苛立ち混じりの声が聞こえてきた。
「申し訳ありません、報告が遅くなりました。こちらは順調に進んでいます」
「そうか。それなら、そろそろ仕掛けていいのか」
たずねる声に、総督代理の待ちきれない思いが伝わる。
「もう少し時間をいただけますか。明日は阿刀野リュウの、プリンスが育てた若者ですが、指揮演習があります。そこでちょっとした事故を起こさせようかと思っています」
「なぜだ? そんなことをして何の意味がある」
問われると思った。自分でもなぜそんなことを仕組むのかわかっていなかったから。
「危機に面したときの阿刀野リュウの力を知りたいと思います。プリンスがどんな風に彼を育てたのか。そして、どれほど彼を大切にしているか…。今度は逃がすわけにかないですから、念のために…」
筋が通っていない、か…。
「下手な細工はやめた方がいい。あいつは勘の鋭い男だ、不審に思われる。それに、その若者が利用できなくなったら、レイモンドを捕まえるのに別の手を考えなければならなくなるんだろう?」
「わかっています。プリンスと接触した時に使えるちょっとした脅し材料を作っておくだけですから、無茶はしません」
総督代理の懐刀と自他ともに認めるアーシャことアレクセイ・ミハイル・ザハロフである。ずるいけれど、自分が進言すれば総督代理は任せてくれると知っていた。
「……いいと思うなら好きにしろ。だが、おまえも知っているだろうが、今度は逃がすわけにはいかない。時間がない」
「よくわかっています」
「そうか。それなら、わたしの方は予定通りに準備をするからな」
「承知しました」
プツリと無線が切れた。
ミハイルは手にしたデータ媒体を握りしめる。宇宙船のコンピュータにワームを埋め込むだけだ。自動操縦が効かなくなるくらいだろう。
初めての宙航でトラブルに見舞われたら、あの若者はどう対処するだろうか。無様に慌てる阿刀野リュウの姿を見ることができたら…、ミハイルは阿刀野リュウを切り捨てる覚悟を固めたいと思っていた。
月曜日である。
ベルン宇宙軍の宙港に、リュウたちスペシャル・クラスの指揮演習に参加するメンバーが集合した。ザハロフ教官の乗る宇宙艦『ダイモス』を含めて4艘。総勢40名以上が整列している。
今回はスペシャル・クラスの半数、つまり3名が指揮演習を行い、他のメンバーはザハロフ教官と一緒に宇宙艦で援護する。援護といっても、敵に襲われたり、トラブルに見舞われる以外は、見守るだけだと言われている。ルーインはこの宇宙艦組に入っていた。
ザハロフ教官によるブリーフィングが始まった。ここでは人員、目的地、途中での指揮訓練の内容など、最低限の項目を確認するだけである。もちろん、リュウの頭の中にはすべて入っていた。
「……出発は30分後。11号機から順に離陸する。以上だ。キャプテンおよび乗組員は準備にかかれ」
ブリーフィング終了とともに、メンバーはそれぞれの宇宙船へ乗り込んでいく。簡単な点検を済ませ、各自が持ち場に着いた頃、『ダイモス』から通信が入った。
「時間だ、準備はいいな。11号機、キャプテン阿刀野、離陸地点へタスキングしろ」
リュウは「ラジャー」と応えて、操縦席に座っているエヴァに指示を出す。エヴァはパネルを見ながら、レバーを操作し始めた。
「通信士! ヒュー、管制官に離陸の許可を取れ」
「はい。こちら連合宇宙軍宇宙船、船舶番号『VU-011』。離陸許可を願います」
「こちら管制塔。3号滑走路からの離陸を許可する。頑張れよ、新米!」
宇宙軍管制官がエールを送る。みな、リュウたちスペシャル・クラスのメンバーが、初めての指揮を執ることを知っているのだ。リュウはみなの注視の中、宙空へと飛び出した。
目の前には、星の瞬く宙空が広がり、パネルにはそれぞれの宇宙船が大きく点滅している。
11号機に続き、12号機、13号機、そしてザハロフ教官率いる宇宙艦『ダイモス』が無事宙空に現れる。
いよいよ、指揮演習の始まりである。
十分に惑星から離れた後、エヴァが宙航士カルヴィンの指示に従って、惑星サイロンへと航路を定めた。
リュウはエヴァの隣に座り、黙って見つめているだけだ。航行慣れした操縦士や宙航士にアドバイスなど必要ない。
エヴァが自動操縦に切り替えて、離陸の第一ステップが終了した。
リュウが持ち場に付いている全員に声をかけた。
「いま、自動操縦に切り替わった。われわれはXX-Aのルートでサイロンに向かう。途中、バレル宙域で行う緊急時訓練も含め、これから約70時間の行程になる。緊急時訓練には総員で取り組むが、後は二交代制を組んでいる。それぞれ確認してくれ。最初の休憩は2時間後。それまでに、各自持ち場を点検し、何かあれば報告しろ。以上だ」
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