宙(そら)に舞う。 〜レイとリュウ〜

星野そら

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6 小惑星帯を抜ける

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「モーガン! 撃て!」

 目の前に現れた小さな惑星にミサイルを撃ち込めと指示したリュウに、一斉に非難の声があがる。

「無茶だ」
「そんな無謀なことはできない」というのである。

 これまでそんなマネをしたものはいなかったのはわかるが、こんな事態に陥ったことがなかっただけだろう。
 俺以外には…。

「わかっている! しかし、ミサイルを撃ち込まなければ、あの小惑星にぶつかるぞ。ほかにどうしろというんだッ。航路変更ができないんだ。ほかに手があるなら、言ってみろ!」

 もちろん、リュウの声に応えられるものはいない。みな、目を見開いて震えているだけである。

「モーガン、惑星が迫っている。思い切って撃て!」

 カチッ。
 その小さな音がやけに耳に響く。腹をくくったモーガンがミサイルのスイッチを入れたのだ。
 数秒後。
 目の前の小惑星が砕けた。カケラの大群が宇宙船に降りかかり、振動が艦橋にまで伝わる。乗組員は身を固くし、リュウは思わず操縦レバーを握りしめた。
 あの惑星が、砕けるくらいの大きさでよかった!

「大丈夫だ。外壁が傷つきはしても、カケラくらいで宇宙船は壊れやしない。惑星を避けることができないんだ、吹き飛ばすしかないだろう」

 静かな調子である。そう言うリュウもレイがインシャラーで惑星にミサイルをぶち込むという無謀なマネを見ていなかったら、そんな考えは、頭に浮かびもしなかっただろう。
 操縦の効かない宇宙船で惑星を避けようと考え、生き延びることに失敗しただろう。

 レイは少しもためらわなかった。
 『何もしなければ死ぬだけだ。俺は諦めない。やれることは全部やる。おまえは諦めるのか』と言った。今、リュウはレイの言葉を繰り返すだけ。

「何もしなければ死ぬだけだ! 俺は絶対に諦めない。おまえたちを無事に連れて帰る。それが俺の、キャプテンの仕事だからな! モーガン、今だ。撃て!」

 また一発、ミサイルが発射された。
 爆発しやすい鉱物の豊富な惑星だったのだろうか、この小惑星もうまく爆発した。爆発の振動が宇宙船を揺らす。振動が収まると心の中でだけ、ほっとため息をつく。自分までもがビビッている様子をみせたらお終いだと思うから。みな心細くて仕方がない様子だから。不安な顔など見せられない。
 心から不安をシャットアウトして、リュウは冷静に考える。

 ここまでは運が良かった。大きな惑星には出遭わなかったし、ミサイルを打ち込んだ惑星はきれいに砕けてくれた。
 次はなどと心配していても仕方がない。外壁に被害を与えるほどの浮遊物がぶつからないことを神に祈ろう。

「よし! いいぞ、モーガン。砲撃手としては、俺と同じくらいじゃないか」

 緊張をほぐすために軽い台詞を吐いてみるが、誰も乗ってこない。艦橋はシ~ンとした沈黙に包まれたままだ。

「なんだ、なんだ! シケた面しててもしょうがないだろッ。今はやれることをやるしかないぞ!」

 励ましたいのに、ニコラスが

「僕にできることなんて、あるんだろうか…」ボソリとつぶやく。

 いま、そんな後ろ向きのことを言ってほしくない。だが、俺もインシャラーでレイの後ろで固まっていただけだった。リュウはみなにかける言葉を探しあぐねた。


 小惑星帯に突入したときからずっと、エヴァの顔は蒼白であった。
 ものすごいスピードで。操縦が効かなくて。宇宙船での勤務歴が長いエヴァにとっては、いつ死んでもおかしくない状況に思えた。
 身体が強ばって震えが止まらない。

 それなのに。
 初めて宇宙船の指揮を執った男が行動していた。無謀なチャレンジ! うまくいくわけがない。…はずだったのに、見事に困難をクリアしていく。歴戦のキャプテンでさえ手に余るはずの事態に…。
 航路を邪魔する小惑星をミサイルで爆破する。こんな強引なやり方、初めてだ。
 しかし、今のところ不思議なことに生きている。目の前に現れたのがミサイルで吹き飛ばせるくらいの小さな惑星や浮遊物だったから運が良かった。艦橋を震わせる振動はあっても、宇宙船は飛んでいる。

 唖然としている場合か? 宇宙軍に入ったときに死を覚悟したんじゃないのか。誰でもいつかは死ぬ。手も足も出せずに果てるくらいなら…。
 連合宇宙軍にとって宇宙船は貴重な財産である。エヴァには、宇宙船を大切にするという宇宙軍らしい固定観念があった。しかし阿刀野キャプテンは、僕たちの命を救うために、ためらいもなく宇宙船を傷つける方法を採った。惑星や浮遊物を爆破し、宇宙船に降りかかるカケラを浴びるという。

 しかし、自分たちの命は宇宙船より重い! 軍法会議にかけられるとか、上官の非難を浴びるとか、そんなことは後だ。命が助かってから考えればいい。仮にも自分は宇宙軍の下士官だ。キャプテンほどではないけれど、部下を守る責務がある。
 エヴァの反骨心がムクッと沸きあがった。
 宇宙船を傷つけるなんて、普段はやりたくてもできないんだ。この際、操縦席に座っているこの無謀な男と一緒に、試してみてもいいんじゃないか。
 そう、いいじゃないか。
 そこまで考えをめぐらせた頃には、恐怖に強ばっていた身体が軽くなっていた。

「キャプテン、シールドを有効に使えば、砲撃後の衝撃が少しはマシになるんじゃないですか。外壁も小さな浮遊物では傷つかない」

 エヴァの提案に、リュウがにこりとする。

「そうだな。サンキュ! エヴァ」

 これでニコラスに仕事ができる。

「ニコラス、おまえはシールド係だ。次にモーガンがミサイルを撃ち込んだら、遅れずにシールドを張れよ! それから、ダンカン。手持ちぶさたなら惑星のカケラをレーザーで吹き飛ばしてくれ、退屈しのぎになるぞ」
「…はい」
「おう!」

 仕事ができたことでニコラスは一時、恐怖を忘れた。ダンカンも自分を取り戻してくれるだろう。
 みんな息を詰めてスクリーンを見つめているだけじゃ、嫌でも悪い方に考えてしまう。ほかのものにも何か指示をと口を開きかけたとき、

「キャプテン、潰しました!」

 ヒューの報告である。

「うんっ! 何を?」
「ワームの温床をひとつ、潰しました。こいつら増殖スピードが速いんですけど、しばらくなら操縦できるかも…」

 ぐいっと操縦レバーを倒してみる。すると、

「おっ、反応するぞ。範囲は狭いが、少しくらいは旋回できそうだ。でかした、ヒュー。エヴァ、手が震えてないなら操縦するか。俺よりおまえの方が腕がいいからな」

 リュウは操縦士を振り返った。

「失礼ですね、キャプテン。自分はこれでも宇宙軍の操縦士歴8年ですよ。震えてなどいるもんか!」

 視線にしっかり応えてエヴァは軽い返事を寄こす。頼もしい下士官が戻ってきた。

「よし! 代われ。トーマスとカルヴィン、コンピュータが使えるなら最短で小惑星帯を抜ける航路を弾きだせ。それから、モーガン。操縦が効くようになったからといって油断するな。スピードは相変わらずだからな。かわしきれない惑星もあるだろう。いつでも撃てるように準備しておけよ。ダンカンもだ。ニコラスはシールドの用意を」
「はい」
「おう」
「わかりました」

 手動操縦ができるとわかって、みなの顔が明るくなった。通常航行に比べたら大変な状況であることに変わりはないのに、人の心理は不思議なものだ。


 そして。
 悪戦苦闘の末、リュウたちは何とか小惑星帯を抜けることができたのである。
 ふうっと息をついたのもつかの間、カルヴィンが

「キャプテン。目的地からは航路を大きく外れてしまいました。それも、ものすごく寂れた宙域へ出てしまったようです。燃料漏れを起こしているのか、燃料の減りが早い。どこかの惑星に着陸して救援を待った方がいいと思います…」
「そうか。この近くで着陸できそうな惑星を探してくれ。通信の方はどうなってる?」
「通信を阻害するワームは潰しました!」
「そうか、それなら…」
「SOSは出し続けています。小惑星帯の向こう側へは届かないでしょうが、この近くに宇宙船がいれば、呼びかけに応じてくれると思います」

 通信士であるジャグの報告である。向こう側へ届かないということは、『ダイモス』へは連絡できない。近くに宇宙船がいればいいが、こんな航路を外れた小惑星帯の果てを飛ぶ、物好きがいるだろうか。

「待つしか、ないな」

 燃料の減り方が気になるが。ガックリした気持ちを表さないように気を付ける。せっかく、一つ苦境をクリアしたのに、みなの気持ちをしぼませたくない。
 ところが。

「なあ、キャプテン。着陸できる惑星はあるだろうが、スピードが落ちないこの状態で着陸させられるのか?」

 ダンカンのもっともな指摘である。

「つッ…、エヴァ、どう思う?」

 エヴァはかぶりを振っている。そうだよな。

「ヒュー、コンピュータの方はどうだ?」
「すみません。操縦を制御している部分のワームが、手強くて…」

 一生懸命やっているのだ。仕方がない。
 しかし、どうしたらいいんだ。
 リュウは考えこんでしまった。
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