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4 節操のない男
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その時。
「無理だな。レイに軍人は務まらない」
ランディの冷静なお言葉。
「どうしてですか?」
エヴァが聞き返す。
「おまえら知らないだろうけど、こいつほど宇宙軍に似合わない男はいないぜ。宇宙船の操縦にかけては天才だけど。操縦士としてではなく、上官としてだろう?
レイは規則正しい生活とかけ離れてるからなぁ。規則は破るもんだと思ってるし。もしくは自分が規則だ、とか。
例を挙げろと言われると…、夜遊びはする、朝は起こしても起きない。連絡を付けたいときにはいない。きっとレイが現れた頃には、大切な作戦が終わっちまってるぜ」
あんまりな台詞である。
「失礼な! ランディ、それって俺がめちゃめちゃだらしなくって、我がままだって言ってない?」
「そりゃあ、なっ」
ランディはリュウに同意を求めた。
そんなところで、話をふられても…。言葉に詰まってなかなか相づちを打たないリュウを見て、ランディがとんでもないことを言い出す。
「それじゃあ聞くけど、そもそも俺たちが、なんであんな辺境の小惑星帯にいたと思う?」
「あの時ですか?」
みんなが首を捻った。
「それは不思議でした。普通はあんな場所は飛びませんから」
宙航士のカルヴィンがみなを代表して応える。
そりゃあ、普通の人にとって小惑星帯は鬼門だが、レイは断じて普通じゃない!
「あれは…、近道しようと思って。それに、普通の宙域飛んでたら、飽きるじゃない」
リュウには相変わらずの言い草であったが、免疫がない隊員たちは目を剥いた。
「俺はな、なんで、近道するはめになったかわかるかって、訊いてるんだ」
「……?」
「レイが前の晩、お遊びが過ぎてな。起こしても起こしても、起きてくれなくてさ。普通の航路じゃ、間に合わなくなった」
「俺は、仕事はちゃんとやってるつもりだけど!」
「ああ、あの時でさえ間に合った。『美貌のクーリエ伝説』を守り抜いたんだから、今のところパーフェクトだよな。だけどな、宇宙へ出た時のレイの私生活は俺でも面倒みきれないね。真面目なのはベルンにいるときだけだからな~」
という言葉にかぶせてレイが文句を吐いた。
「あのね、リュウがいるのに、変なこと吹き込まないでくれる?」
「何言ってんだ。ちっちゃい子どもじゃあるまいし、リュウは立派な大人だぜ。それに、レイのお盛んなのは今にはじまったことじゃないだろ。
まあ…、心配しなくてもリュウに聞かせられないようなヤバイことを黙っててやるくらいの分別は、俺にもあるよ!」
片目をつぶってみせたランディである。
「もう! そんな言い方したら、リュウに隠れてものすごく悪いことしてるみたいに聞こえるじゃない。俺は自分で責任取れないことは、やってないよ!」
「へっ! そんなに堂々と言っていいのか?」
あんたのやってることは十分ヤバイ。
仕事で密輸かもしれないことをやってるのは仕方ないにしても! 違法ギャンブルの場で普通キレるか? 人の女に絡んだことも何度もあっただろ。それもトップクラスの政治家の妻やヤバイ人たちの女とか。喧嘩に巻き込まれるって言うか、喧嘩を引き起こすことも多い。並の人間なら、とっくに殺されてても不思議じゃない。ということは心の中だけにして、ランディは。
「まあ、もろもろのヤバイことは置いといて、周りに男も女も集まってくるのだけは、レイのせいじゃないけどな。その罪作りな美貌のせ・い・だ」
からかうような調子で言った。そして、わかるだろとランディはみなを見回した。
確かに。
こんなに美しくてしなやかな男がいたら、誰もほっておくわけがないとみな納得した。
「あの~。あの日、小惑星帯のはずれで僕たちと出会ったのは、その~。どうしてお遊びが過ぎたんですか~?」
聞かなくてもいいのに、ニコラスが。
でも、聞かなくてもいいと思ったのはレイだけで、その応えを全員が知りたがっていた。
「もちろん、いい女だったからに決まってるだろ。レイがのめり込むのも不思議じゃない絶世の美女だったぜ!」
「なん! ランディだって、朝帰りだったじゃない」
ランディを睨むレイの視線に、険悪な雰囲気を感じたエヴァが、コホンとひとつ咳払いをして真面目な顔で言う。
「…それじゃあ、僕たちは、その絶世の美女に感謝しないと…。レイさん、その方にお礼を言っておいてください」
その女性がいなければ、自分たちの命は…。風前の灯火だったとぞくりとした隊員も一人ではなかったようだ。ランディはそんな隊員たちの心中を量りもせず、
「礼なんか、きっと言えないぜ。同じ女に出くわす確立なんて、ゼロに近いからな~」
絶世の美女でさえ、火遊びの相手だとランディが暴露した。
「……」
すでにかなり酔いのまわったニコラスがつっこむ。
「あの~。阿刀野さんは決まった方がいらっしゃらないんですか?」
「決まった相手なんて、いないよ。俺はやさしくないから、すぐに捨てられるんだ」
レイが同情を誘おうとした。が。
捨てられる? そんなわけがないとみなが思った。
レイほどの男だ。手に入れられるなら、どんなことでもするという女は多いだろう。それに、普段のこの人はやさしい。それとも、火遊びの女にはやさしくないんだろうか?
「毎回、お相手が違うんですか。うらやましい…」
「毎回どころか! レイの場合は…」
「ランディ!」
レイが鋭い声で一喝する。
「そりゃあ、俺だって健全なおとなの男なんだから。それなりに、いろいろあってもいいじゃない」
レイは話を終わらせようとしたが、隊員たちの興味はつきないようだ。
「阿刀野さんは、どんな方がお好きなんですか?」
ほんとうに今日のニコラスは凄い! クリーンヒットが続く。
怒鳴りつけようかと一瞬考えたレイであるが、ため息を吐いてしれっと応えた。
「俺の好み? そうだね。抱くなら俺より弱くてかわいい女。抱かれるなら俺より強くて賢い男」
「ええっ! 阿刀野さんは男もOKなんですか~」
ダンカンが突拍子もない声を上げた。そうであったらチャンスが! と考えたのだ…。
「あのな、ダンカン。冗談に決まってるだろ! 阿刀野さんより強くて賢い男がそうそう転がってるか? それに、阿刀野さんより弱い女って、世の中の女、全員じゃないか」
そう言われればそうだ。レイは適当に応えたんだとみんなが納得しかけたとき。
「いや、かなり正直な答えだと思うぜ。こう見えて、レイは俺よりはるかに節操がない。レイに言い寄る女は、なぜかいい女ばかりだがな…」
ダンカンの食い入るような視線を感じたレイが「なに?」と問いかける。
「あの…、例えば…、俺が阿刀野さんと闘って勝ったら、……抱かせてもらえる…、とか?」
言いにくそうに、それでもダンカンが最後まで言い切った。どうしても聞いてみたかったのだろう。部屋にいる全員がレイの怒りを恐れて、ぎくりと身を強ばらせる。
「ん~? 考えてもいいよ。襲ってみる?」
レイが冗談めかして応えた。
ふう、怒らなくてよかった、って! そうじゃないだろ、いい加減にしろよ、レイ。心にもないことを! ダンカンが本気にするじゃないか。リュウはだんだん不愉快になってきた。
「無理、無理」とランディが言う。
「なにが?」とレイ。
「どんな男があんたより強いって? 別にそっちの兵隊さんを見下してるわけじゃないけどよ、レイより強い男を俺は見たことないぜ。今までいたか、そんな男?」
「そりゃあ、いるよ!」
レイが勢い込んで応える。
「ほう~、いたのか! で、そいつに抱かれたのか? それとも、そいつに抱かれたかったのか?」
意地悪な口調である。
「ランディ!」
レイの口から、本日、二度目の恫喝が発せられた。ポーカーフェイスを装ってはいるが、頬にほんのり朱がさしていた。
その顔を見ていて、リュウはピンときた。レイの頭に浮かんだ男に心当たりがあったのだ。リュウの心臓がドクドク打ち始める。胸が焦げる。
教育係だった男は、きっとレイより強かっただろう。賢かっただろう。そして、レイを抱いたのか?
なのに! これほど近くにいても、俺は可愛がられているだけ、守られているだけにすぎない。
抱いて慰めらてもらう俺は(それも、抱くの意味が違う!)、レイにとって一夜限りの『女たち』より落ちるじゃないか。
俺は強くなりたい。レイを守れるほど! レイを抱けるほど!
「無理だな。レイに軍人は務まらない」
ランディの冷静なお言葉。
「どうしてですか?」
エヴァが聞き返す。
「おまえら知らないだろうけど、こいつほど宇宙軍に似合わない男はいないぜ。宇宙船の操縦にかけては天才だけど。操縦士としてではなく、上官としてだろう?
レイは規則正しい生活とかけ離れてるからなぁ。規則は破るもんだと思ってるし。もしくは自分が規則だ、とか。
例を挙げろと言われると…、夜遊びはする、朝は起こしても起きない。連絡を付けたいときにはいない。きっとレイが現れた頃には、大切な作戦が終わっちまってるぜ」
あんまりな台詞である。
「失礼な! ランディ、それって俺がめちゃめちゃだらしなくって、我がままだって言ってない?」
「そりゃあ、なっ」
ランディはリュウに同意を求めた。
そんなところで、話をふられても…。言葉に詰まってなかなか相づちを打たないリュウを見て、ランディがとんでもないことを言い出す。
「それじゃあ聞くけど、そもそも俺たちが、なんであんな辺境の小惑星帯にいたと思う?」
「あの時ですか?」
みんなが首を捻った。
「それは不思議でした。普通はあんな場所は飛びませんから」
宙航士のカルヴィンがみなを代表して応える。
そりゃあ、普通の人にとって小惑星帯は鬼門だが、レイは断じて普通じゃない!
「あれは…、近道しようと思って。それに、普通の宙域飛んでたら、飽きるじゃない」
リュウには相変わらずの言い草であったが、免疫がない隊員たちは目を剥いた。
「俺はな、なんで、近道するはめになったかわかるかって、訊いてるんだ」
「……?」
「レイが前の晩、お遊びが過ぎてな。起こしても起こしても、起きてくれなくてさ。普通の航路じゃ、間に合わなくなった」
「俺は、仕事はちゃんとやってるつもりだけど!」
「ああ、あの時でさえ間に合った。『美貌のクーリエ伝説』を守り抜いたんだから、今のところパーフェクトだよな。だけどな、宇宙へ出た時のレイの私生活は俺でも面倒みきれないね。真面目なのはベルンにいるときだけだからな~」
という言葉にかぶせてレイが文句を吐いた。
「あのね、リュウがいるのに、変なこと吹き込まないでくれる?」
「何言ってんだ。ちっちゃい子どもじゃあるまいし、リュウは立派な大人だぜ。それに、レイのお盛んなのは今にはじまったことじゃないだろ。
まあ…、心配しなくてもリュウに聞かせられないようなヤバイことを黙っててやるくらいの分別は、俺にもあるよ!」
片目をつぶってみせたランディである。
「もう! そんな言い方したら、リュウに隠れてものすごく悪いことしてるみたいに聞こえるじゃない。俺は自分で責任取れないことは、やってないよ!」
「へっ! そんなに堂々と言っていいのか?」
あんたのやってることは十分ヤバイ。
仕事で密輸かもしれないことをやってるのは仕方ないにしても! 違法ギャンブルの場で普通キレるか? 人の女に絡んだことも何度もあっただろ。それもトップクラスの政治家の妻やヤバイ人たちの女とか。喧嘩に巻き込まれるって言うか、喧嘩を引き起こすことも多い。並の人間なら、とっくに殺されてても不思議じゃない。ということは心の中だけにして、ランディは。
「まあ、もろもろのヤバイことは置いといて、周りに男も女も集まってくるのだけは、レイのせいじゃないけどな。その罪作りな美貌のせ・い・だ」
からかうような調子で言った。そして、わかるだろとランディはみなを見回した。
確かに。
こんなに美しくてしなやかな男がいたら、誰もほっておくわけがないとみな納得した。
「あの~。あの日、小惑星帯のはずれで僕たちと出会ったのは、その~。どうしてお遊びが過ぎたんですか~?」
聞かなくてもいいのに、ニコラスが。
でも、聞かなくてもいいと思ったのはレイだけで、その応えを全員が知りたがっていた。
「もちろん、いい女だったからに決まってるだろ。レイがのめり込むのも不思議じゃない絶世の美女だったぜ!」
「なん! ランディだって、朝帰りだったじゃない」
ランディを睨むレイの視線に、険悪な雰囲気を感じたエヴァが、コホンとひとつ咳払いをして真面目な顔で言う。
「…それじゃあ、僕たちは、その絶世の美女に感謝しないと…。レイさん、その方にお礼を言っておいてください」
その女性がいなければ、自分たちの命は…。風前の灯火だったとぞくりとした隊員も一人ではなかったようだ。ランディはそんな隊員たちの心中を量りもせず、
「礼なんか、きっと言えないぜ。同じ女に出くわす確立なんて、ゼロに近いからな~」
絶世の美女でさえ、火遊びの相手だとランディが暴露した。
「……」
すでにかなり酔いのまわったニコラスがつっこむ。
「あの~。阿刀野さんは決まった方がいらっしゃらないんですか?」
「決まった相手なんて、いないよ。俺はやさしくないから、すぐに捨てられるんだ」
レイが同情を誘おうとした。が。
捨てられる? そんなわけがないとみなが思った。
レイほどの男だ。手に入れられるなら、どんなことでもするという女は多いだろう。それに、普段のこの人はやさしい。それとも、火遊びの女にはやさしくないんだろうか?
「毎回、お相手が違うんですか。うらやましい…」
「毎回どころか! レイの場合は…」
「ランディ!」
レイが鋭い声で一喝する。
「そりゃあ、俺だって健全なおとなの男なんだから。それなりに、いろいろあってもいいじゃない」
レイは話を終わらせようとしたが、隊員たちの興味はつきないようだ。
「阿刀野さんは、どんな方がお好きなんですか?」
ほんとうに今日のニコラスは凄い! クリーンヒットが続く。
怒鳴りつけようかと一瞬考えたレイであるが、ため息を吐いてしれっと応えた。
「俺の好み? そうだね。抱くなら俺より弱くてかわいい女。抱かれるなら俺より強くて賢い男」
「ええっ! 阿刀野さんは男もOKなんですか~」
ダンカンが突拍子もない声を上げた。そうであったらチャンスが! と考えたのだ…。
「あのな、ダンカン。冗談に決まってるだろ! 阿刀野さんより強くて賢い男がそうそう転がってるか? それに、阿刀野さんより弱い女って、世の中の女、全員じゃないか」
そう言われればそうだ。レイは適当に応えたんだとみんなが納得しかけたとき。
「いや、かなり正直な答えだと思うぜ。こう見えて、レイは俺よりはるかに節操がない。レイに言い寄る女は、なぜかいい女ばかりだがな…」
ダンカンの食い入るような視線を感じたレイが「なに?」と問いかける。
「あの…、例えば…、俺が阿刀野さんと闘って勝ったら、……抱かせてもらえる…、とか?」
言いにくそうに、それでもダンカンが最後まで言い切った。どうしても聞いてみたかったのだろう。部屋にいる全員がレイの怒りを恐れて、ぎくりと身を強ばらせる。
「ん~? 考えてもいいよ。襲ってみる?」
レイが冗談めかして応えた。
ふう、怒らなくてよかった、って! そうじゃないだろ、いい加減にしろよ、レイ。心にもないことを! ダンカンが本気にするじゃないか。リュウはだんだん不愉快になってきた。
「無理、無理」とランディが言う。
「なにが?」とレイ。
「どんな男があんたより強いって? 別にそっちの兵隊さんを見下してるわけじゃないけどよ、レイより強い男を俺は見たことないぜ。今までいたか、そんな男?」
「そりゃあ、いるよ!」
レイが勢い込んで応える。
「ほう~、いたのか! で、そいつに抱かれたのか? それとも、そいつに抱かれたかったのか?」
意地悪な口調である。
「ランディ!」
レイの口から、本日、二度目の恫喝が発せられた。ポーカーフェイスを装ってはいるが、頬にほんのり朱がさしていた。
その顔を見ていて、リュウはピンときた。レイの頭に浮かんだ男に心当たりがあったのだ。リュウの心臓がドクドク打ち始める。胸が焦げる。
教育係だった男は、きっとレイより強かっただろう。賢かっただろう。そして、レイを抱いたのか?
なのに! これほど近くにいても、俺は可愛がられているだけ、守られているだけにすぎない。
抱いて慰めらてもらう俺は(それも、抱くの意味が違う!)、レイにとって一夜限りの『女たち』より落ちるじゃないか。
俺は強くなりたい。レイを守れるほど! レイを抱けるほど!
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