宙(そら)に散る。

星野そら

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5 現実の世界へ

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 ……リュウ。じゃあね。

 モニターの中のレイがにっこり笑って片手を上げた。
 それから、ザーッと音がして映像が終了した。じっと映像に見入っていたリュウの目から、涙がこぼれる。この3週間、一度として見せたことのない涙だった。

「リュウ?」

 労るような呼びかけに、リュウは嗚咽を堪えながら目をあげた。

「ランディ。レイは戻ってこないのか?」
「ああ、そうだ」
「レイは死んだ、のか?」
「……、おれはクリスタル号が爆発するのを見ていた。あれだけ見事に木っ端みじんになったんだ、生きてはいないと思う」
「そう…、」

 沈黙が続いた。リュウは涙を拭きもせず、真っ黒なモニターを凝視していた。見つめていたらまた、レイの声が聞こえてくるとでも言うように。
 沈黙が気詰まりになってきた頃、リュウが小さくため息を落とした。

「なんか、疲れた…。俺、しばらく寝てくる」

 そう断ると、自分で歩いて部屋を出て行った。自分の意志で。ここしばらくはルーインが動かさなければ、動こうとはしなかったのに。


「あいつ、大丈夫なのか?」

 心配そうにランディが尋ねる。

「わかりません。でも、あなたが来られるまでは、阿刀野は遠くの世界に行ったっきりでした。今は少なくとも、現実の世界にいる…」
「レイのことを慕ってたからな、ダメージはキツいか」
「ええ。でも、阿刀野はレイさんの言葉には忠実ですから。きっと今頃、レイをがっかりさせちゃまずい、とかなんとか思ってるんじゃないですか?」

 ルーインは自分の冗談に笑みをもらした。そして、気になっていたことを聞いてみた。

「阿刀野とレイさんとは、本当の兄弟じゃないんですか?」
「おう。俺は詳しいことは知らないが、2人はなんかの事故か事件がきっかけで出会ったらしい。
 19歳って言ったよな。レイはその歳からひとりで、苦労しながらリュウを育てたんだ。凄いやつだよ、まったく。
 ……傭兵をやってるときも、クーリエになってからも、いつもリュウのことを気遣ってた。
 仕事でほかの星に泊まる時の素行はめちゃくちゃだったが、ベルンにいる時は真っすぐ家に帰ってた。リュウが待ってるからって。どんな美女のお誘いよりも、リュウを優先してた」

 ランディの口から、レイの思い出がいくつもこぼれ落ちる。そのどれもが、リュウに対する思いであふれていた。

「……そうですか。阿刀野がうらやましい」
「ああ、レイのリュウに対する愛情は本物だった。兄弟というより、親子って方が近いけどな」

 ルーインはうなずいた。うなずきながら、リュウはレイのことをどう思っていたんだろうかと考えていた。
 やさしくて美しくて、強い。誰よりも頼りになる男が、兄ではないと知っていたら。守られ、甘やかされていたリュウが(もちろん、甘やかすばかりではなかっただろうが)、レイを好きだったことは間違いない。
 でも、それは。親や兄を慕うというものだったのだろうか。少し、違うような気がした…。

 リュウは『レイを守れる男になりたい』と言っていたことを思い出した。それは、どういうこと? 
 ルーインは乱暴に頭を振った。心に浮かんだイメージを振り切るように。そして、

「さっき、阿刀野も訊いていましたが、本当にレイさんは亡くなったんですか?」

 あわてて話題を変えると、ランディは苦しそうにうなずいた。

「信じられないのはよくわかるぜ。俺だって、聞いただけなら信じないだろうからな。あの男がって。
 ……俺が馬鹿だった。レイが救命艇を離陸させろと言った時に断固として待つべきだったんだ。クリスタル号を爆発させるから、早く離陸しろと言われて。俺は大丈夫だから早くしろと、怒鳴られた。どう考えても大丈夫な訳がないのに、な…。
 コスモ・サンダーの艦隊に囲まれていたんだ。母船がビームでクリスタル号をがっちりつかんで、戦闘員が乗り込んできた。救命艇へたどり着くまでに銃を撃ちまくって、俺は頭に血が上ってた。レイは最初から、俺だけを逃がすつもりだったんだ。気づいていれば…」
「あなたのせいではありませんよ。レイさんに命じられたら、誰も逆らえない。兵士なら尚更です」

 ランディは驚いてルーインを見つめた。それから、救われたような顔をした。

「それでも、リュウには恨まれるだろうな…」

 ルーインは首を振る。

「阿刀野はレイさんの言葉通り、あなたを頼ることはあっても恨んだりしません。そっけなかったのは、レイさんが戻ってこないのが信じられないからです。
 あの…、クリスタル号はコスモ・サンダーに爆破されたんですか?」
「それは違う。レイが自爆装置を作動させた。そう言った」
「なぜ、クリスタル号に自爆装置なんてものがあったんだろう。それに、どうしてコスモ・サンダーに狙われたんですか?」

 たとえば、ものすごく貴重な鉱物を運んでいたとか…。

「俺にはわからない。辺境までつまらない荷を運んだ帰りだった。なぜコスモ・サンダーに狙われたのか…。一度、メタル・ラダー社の社長がコスモ・サンダーに囲まれた時に、助けたことがあるが…」
「わざわざコスモ・サンダーが仕返しに来たと?」

 ランディはわからないと繰り返した。

 だが、と思い返す。
 レイはコスモ・サンダーに襲われたのを不思議だとは思っていないようだった。まあ、あいつはいつもポーカーフェイスだったがな。

 ランディはリュウのことをルーインに頼んで引き上げた。
 なぜコスモ・サンダーに襲われたのか、それも狙い澄ましたように。
 ランディは調べるつもりでいたのだ。理由くらいは知りたい。ひとり生き残ってしまった自分にできるつぐないは、それくらいだと思っていたから。
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