宙(そら)に散る。

星野そら

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4 遺言

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 リュウ、元気にしてる?
 これを見ているってことは、俺が死んでるってことだから、あんまり元気じゃないかもしれないけど。元気でいてくれたら、うれしいな。
 いまから言うことをよく聞いてほしい。俺からおまえへの遺言だよ、これ。
 一度しか再生できないから、ちゃんと聞いてね。

 遺言だなんて、びっくりだろう?
 でも、俺が急に死んでも困らないように、俺たちがベルンに落ち着いてから、毎年、作ってたんだ。
 作り替えるたびに、一年過ぎた幸せを噛みしめてた。もっと早く、これを使うことになるかもって恐れてたけど、ありがたいことに、もう8回目だよ。

 リュウ、おまえを置いていくことになってごめん。
 俺は、いつかこんな日が来ると思っていたよ。だけど、後悔はしていない。おまえと出会ったこと。一緒に暮らしたこと。
 おまえとの暮らしはとても楽しかった。俺にとっておまえは、初めての、そしてたった一人の大切な家族だった。
 おまえは笑ったり、泣いたり、拗ねたり、怒ったり…、とても素直に感情を見せてくれた。最初はどう扱っていいのか戸惑ったもんだ。だって、俺は子どもを育てたことも誰かに愛情を注いだこともなかったからね。
 人形みたいに固まってたおまえが、初めて泣いて縋り付いてきてくれたとき、ものすごくうれしかった。
 それまで、俺は、誰にも必要とされたことのない人間だったから。リュウに必要とされている。それが、俺が生きていく支えになった。

 おまえを抱きしめたり、なぐさめたり、腹を立てたり、笑い合ったり、時には頬を張ったこともあったけど。俺はひととして大切なことを、ぜんぶ、おまえに教えてもらったような気がする。
 おまえがいたから、俺は生きて来られた。ありがとう、リュウ。


 この春、おまえが士官訓練センターに入校した時、俺はものすごくうれしかった。制服姿のおまえを見たとき、あの小さかったリュウがこんなに立派になったって。胸がいっぱいになった。
 週末に、士官訓練センターでの話を聞くのが楽しみだったよ。2年のところを1年で卒業できるかもしれないって喜んだおまえの誇らしげな顔が、目に浮かぶ。ルーインや小隊のメンバーたちとの交流も楽しかった。おまえといたおかげで、俺はひとと触れ合う素晴らしさを知ることができた。感謝している。

 仕事のことだけど、おまえは俺と一緒にクーリエをやりたいと言ったね。だけど、俺はおまえが連合宇宙軍の士官になってくれればいいと思っている。超一流だと言われていても、クーリエは単なるメッセンジャーにすぎない。危険な割に、誰にも感謝されない仕事だ。危険を冒させるだけの使い捨ての人間。
 俺は宇宙を飛ぶことが好きだから、それでもよかったけれど、おまえは違うだろう。操縦士って柄じゃないもんね…。

 おまえには自分の道を探してほしいんだ。俺と一緒であることにこだわらなければ、もう一緒にはいられないけどね、おまえの前にはいろんな道が拓けているよ。俺は、おまえは士官に向いていると思う。きっと、兵士たちを束ねるいい指揮官になれる。
 セントラルの士官学校へ進めるかどうかはわからないけど。もし、行けるのなら、行きなさい、ね。仲間をいっぱい作って、自分の力を精一杯出して、みんなが助け合いながら人のためになる仕事をする。宇宙軍はそんな理想的な場所だと思うんだ。

「そんなことを言うなら、レイが入ればよかったんだ!」

 と言われそうだけど、俺はおまえと出会う前に無茶をやったから、連合宇宙軍には入れない。傭兵や私設軍ならなんとかなるんだろうけど…、もう法に外れることはやりたくないし、誰かに命令されて動くだけのロボットになるのは、こりごりだ。……ごめん、愚痴っても仕方ないね。


 ところで。おまえは19歳だね。
 知ってる? 俺がおまえと出会った歳なんだよ。あの時、俺は一人前だったなんて意地悪は言わないけど、19歳と言えば、ひとりで生きていける歳だ。自分の意思で自分の道を歩める歳だ。
 俺の生死に関わりなく、そろそろ親離れ、子離れしなくちゃならない歳だと思ってる。
 それが、こんな形で離れなくちゃならないのはつらいけど、俺はおまえにひとりでも生きられるだけの基礎力と技術を叩き込んだつもりだよ。
 自信を持っていい。おまえは強い。肉体的にも、精神的にも。
 取っ組み合いになったら、俺は、気を抜いたら負けただろうね。おまえが俺に勝てなかったのは、勝てると思わなかったからだ。つまり、気持ちの問題だけ。人間、やろうと思えばできないことはない。大抵のことはできる。
 戦いなら負けるなんて思わない、どんなことでもできないなんて言わない。絶対にあきらめないのが俺のポリシーだった。というか、いつだってできないなんて言わせてもらえなかったんだけどね。

 あっ、もう、ビデオの時間がなくなる。
 肝心なことを言っておかなくちゃ。マンションは俺がいなくなったら、自動的におまえのものになる。それから、生活費はもし働けなくなっても困らないくらいにはある。信託の形になってるから、詳しいことは、銀行から知らせがあるはずだ。ランディが来てくれたなら、彼に聞いてほしい。あいつは頼りになるから、困ったら相談すればいい。ルーインもおまえのことを気にかけてくれてたから、きっと助けてくれる。


 ねえ、リュウ。
 俺が帰ってこないからって、玄関で膝を抱えてるんじゃないよ。まあ、出会った頃のおまえじゃないから大丈夫だとは思うけど。
 俺の願いは、おまえが生き生きとおまえらしく暮らしてくれることだ。
 わかってる? 今度、どこかで会った時に、もしかしたら天国でかもしれないけど…、こんなに頑張った、こんなに楽しんだっていう話をいっぱい聞きたいんだ。
 だから、ね、俺をがっかりさせないでね。
 
 最後になるけど、もう一度だけ言っておくよ。
 おまえと出会えてよかった。俺は幸せだった。
 ありがとう、ほんとうにありがとう、リュウ。じゃあね。
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