宙(そら)に散る。

星野そら

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7 囚われて

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 リュウとケイジ・ラダーが握手を交わした頃。
 コスモ・サンダーの執務室で、レイモンドは自分の身を振り返っていた。
 レイモンドの運命を変えた日。それは、遡ること1年以上も前のことであった。
 リュウやルーイン、そしてケイジ・ラダーなど周りの人々の運命をも変えることになったのだが…。
 その日から、レイモンドの運命はマリオンの手の中に落ちたのだ。 

 レイモンドは、宇宙を飛んでいる限り、いつかはコスモ・サンダーに自分の存在を嗅ぎつけられると覚悟していた。しかし、マリオンが自らクリスタル号に乗り込んできたときには驚いた。
 後で思い返してみると、いくらでも逃れる手があったと思う。やはりその場で、マリオンを道連れに死んだらよかったとも。こんな面倒に巻き込まれるぐらいなら…。


 それは、極東地区を飛んでいる時であった。
 クリスタル号の艦橋に足を踏み入れたマリオンが静かに告げたのだ。

「相手をするには、おまえたちでは役不足だ」
「総督代理!」

 銀髪がピシリとなで付けられ、整った容貌の中の冷たい瞳が俺の目を射抜く。
 撃たれることなど考えもしないかのように、平然とした態度であった。

「久しぶりですね、レイモンド」

 覚えていた通りの冷たい口調。 

「マリオン、直々か。どおりで鮮やかなわけだ」

 その時に、この男には勝てないと思ったのが間違いだった。
 みっともなく取り乱したくないと思ったのは、俺のプライド? それとも、いつでも冷静でいろとあなたに躾られていたからだろうか?

「用があるのは俺だけだろう? 救命艇は逃がしてもらう、いいな」

 そう口にしていた。

「自爆装置のスイッチを押した。あと10分あまりでクリスタルは爆発する」

 と告げて、ランディにクリスタル号から発進するよう言い渡した。
 コスモ・サンダーの戦闘員たちは驚いたが、目の前に立つマリオンは、わかりきっていたとでも言うように表情ひとつ変えなかった。

「俺はここにいる。間違って救命艇を攻撃するなよ」

 傲岸な命令を下すと、男たちがざわめいた。マリオンは戦闘員たちを手で制して、静かに応えた。

「いいでしょう。その替わり、わたしの頼みを聞いてくれますか?」
「……頼みによっては」

 不敵な応えにマリオンがくちびるを歪める。

「わたしと一緒に、コスモ・サンダーに戻ってください。総督の前に」
「殺されるために? 断る!」
「そうですか」

 マリオンはほんの少し、残念そうな顔をした。

「再会をのんびり楽しんでいる時間は、なさそうですね。仕方がない」

 ピタリとマリオンの胸にレーザーで狙いをつけて、ことさらやさしく言葉をかけた。

「さっきも言ったけど、もうすぐクリスタル号は自爆する。俺は死ぬ覚悟ができている。
 逃げてもいいよ、マリオン。見逃してあげる。あなたを道連れにできるなら、俺は本望だけどね」

 マリオンはあわてもせずに、戦闘員たちに言い渡した。

「いますぐ宇宙艦に戻れ。船内にいるすべての戦闘員を引き上げさせろ」
「総督代理はどうなさるんですかっ!」
「大丈夫だ。この男にわたしは殺せない。ぎりぎりまで、連絡通路を開けておいてくれ」

 マリオン、俺が引き金を引けないと思っているの? 総督でさえ撃てたのに! 俺はまだ、それほどやわになっちゃいないよ。

「しかし!」
「これは命令だ。自爆装置が作動しているんだ。命令に従え!」
「もう、8分を切ったよ。急いだ方がいいんじゃない?」

 レイモンドの忠告? に戦闘員たちがいっせいに駆けだした。誰も爆発に巻き込まれたくなどない。

「マリオン、あなたはどうするの? 俺と一緒に死んでくれるわけ?」

 ふっ、とマリオンが笑った。

「レイモンド、スクリーンをお借りします。動きますが撃たないでください」
「えっ」

 わけが分からぬうちに、マリオンが優雅な手つきで通信機器を操作していた。まあいいか、あと数分でクリスタル号は爆発するんだ。下手な細工をしても結果は同じだ。
 ほどなくスクリーンいっぱいに宇宙艦の艦橋らしきものが映し出された。

「ん、あれは?」
「訓練センターの演習船です。わからないですか。よく見てください。右隅のシートに座っている人物に見覚えは?」
「……ッ! リュウ!」
「それから、覚えていますか。画面の中央付近に立っている男?」
「…ア、アレクセイ。アーシャがなぜ、訓練センターの演習船にいるんだ」
「説明をしている時間はないですが、おまえがわたしの頼みを聞いてくれないと、あの若者が命を落とします」

 マリオンはリュウを指先で指し示し、当たり前のように言った。

「なっ…、汚いことを!」
「わたしは、おまえを総督の前に連れて行かねばならない。そのためなら、なんだってします。一緒にきてくれますね」

 ひと言、ひと言、言い含めるように。

「拒否する権利はあるのか?」
「あの若者の命と引き替えでしたら…」
「……」
「わたしが死んだら、アーシャにはわかるようになっています。おまえが死んでも…」

 言葉の続きは頭の中を素通りした。
 俺はいつでも命を捨てる覚悟でいた。
 だが、リュウの命を賭けることはできない。
 リュウにはまだ生きていてほしい。ずっと生きていてほしい。
 手からレーザーガンが滑り落ちた。

「俺には、誇り高く死を選ぶ権利も、ないんだね…」
「こんなことをするのは心苦しい。おまえと撃ち合って決着をつける方が、わたしの流儀ですが…。時間がない。走りますよ、ついてきなさい」

 あはっ。可笑しい。何のために俺はクリスタル号に自爆装置を付けていたんだ? 
 あはははは。自分の命を長らえさせるために、マリオンの後ろを走っているなんて。
 あはは、はっ。可笑しくて涙が出てくる。

「レイモンド! 走りながら笑わないっ」
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