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12 総督の甥
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ところが、ある日。
病室を訪れると、総督が喘いでいた。ぜいぜいという浅い呼吸が今にもとまりそうで、驚いて医者を呼ぶ。医師たちは大仰な機器を運んできてさまざまな処置を始めた。
部屋の外に追い出された俺は、マリオンが来るまで、病室の前を行ったり来たりしていた。
「マリオンッ! 総督が。総督が!」
「落ち着きなさい。発作が起きただけです。今までにも何度かありました。大丈夫ですから、落ち着いて…」
「顔の色が蒼白だった。生きてる人じゃないみたいに…」
「おまえには人の死など珍しくもないでしょう。冷酷無比なクール・プリンスが、動揺してどうするんですか?」
確かに俺は、何度も宇宙船を撃ち落とした。何度も敵や仲間に引き金を引いた。凄惨な場面も目にしてきた。が、それとこれとは話が別だ。
目の前で大切な人が弱って死んでいくなんて…。それを何もできずに見ているだけなんて…。
ん…、大切な人?
総督は俺にとって大切な人なのか? 元気であれば罰せられ、殺されていたかもしれない相手なのに。
「おまえには総督が死のうが生きようが、たいした違いはないでしょう?」
マリオンの言葉が心に刺さる。そうなのか?
わからない。それでも。死んでほしくないという気持ちは嘘ではなかった。
幸いなことに、総督は一命を取り留めた。だが、そのおかげで俺は抜き差しならない事態に陥ることになった。
総督の意識が戻ったのは3日目の朝だった。
集中治療室からようやく病室に移された総督が俺とマリオンを呼んでいるという連絡が入った。急いで病室に駆けつけると、総督がベッドの上に半身を起こして座っていた。
「総督! 起きて大丈夫なんですか? 無理をなさらないでください」
マリオンがベッドに横たえようとするのを、総督が手で制した。
「今だけは寝ているわけにはいかない。レイモンドに大切な話がある。マリオン、おまえも一緒にいてくれ」
「畏まりました」
「はい」
レイモンドはマリオンと並んで、総督のベッドの前に、姿勢を正して立った。
杓子定規な態度に苦笑を浮かべた総督が、
「ここは病室だ。座ってくれといいたいが、大きな声は出せそうもない。近くにいてもらった方がよさそうだ。そのまま、わしの話を聞いてくれるか?」
2人はうなずいた。
「レイモンド、おまえに総督を譲ろうと思う」
「ええっ!」
二の句を告げずにいる俺に、総督は衝撃的な事実を口にしたのだ。
「おまえは、わしの兄、ゴールドバーグの忘れ形見なのだ。おまえの名は、レイモンド・ゴールドバーグ・ハンターだ」
「………俺はスラム出身の孤児では…」
「いや、違う。おまえは二代目総督ゴールドバーグの息子だ。コスモ・サンダーの正統な跡取りなんだ。
おまえのことはずっと気にしていた。おまえを引き取った母親が亡くなったと知り、コスモ・サンダーに引き取ろうと思った。が、その時には、お前がどこにいるのかわからなくなっていた。部下に惑星中を探させたよ。それでも、なかなか見つけることができなかった。スラムでようやく見つけた時には、おまえは一人で立っていた。まだ、小さかったのにな。何の保護もないのに、スラムで生き抜いた。さすがに兄の子だと思ったよ。
兄は、二代目総督は、わしよりも力も頭も統率力もあった。おまえはその血を引いている」
「海賊に、血筋も跡取りも何も…。総督はコスモ・サンダーのことを大切に思っている誰かが継げばいい! 俺には関係ない!」
俺が喚いたのを無視して、総督は話を続ける。
「惑星統治者の娘だったおまえの母に惑わされる(いや惹かれる)ことがなければ、もっと冷酷でありさえすれば、兄はいまもコスモ・サンダーの総督を務めていただろう。惑星間のいざこざに巻き込まれて死ぬこともなかった…。
おまえの外見はあの女によく似ている。だが、中身は兄そのものだ。頭も良い。上に立つ者の威厳を備えている。その上、必要ならば冷酷にもなれる。わしに銃を向けるくらいだからな」
総督は嫌みではなくそう言って笑った。
マリオンは知っていたのだろうか。
俺がゴールドバーグ前総督の息子だということを。その表情からは少しもわからない。
「わしの命は長くない。意識のしっかりしているうちに、おまえに話しておきたかった。おまえに総督を譲るよ」
「そんな、一方的な! 俺の都合はなしですかッ」
「都合など聞く必要があるのか? おまえはわしに殺されても文句はないと言ったんだぞ」
それはそうだが。コスモ・サンダーの総督になれと言われるとは思わなかった。
「俺は総督を、コスモ・サンダーを裏切った人間です。どうして、そんな裏切り者に総督の座を譲るなどと言えるんですか!」
「おまえが総督の器だからだ」
決めつけられた。
「スラムからおまえを連れ出し、マリオンに育てさせた。おまえは予想を超えていたよ。才能があり、技術に長け、何よりも強い精神力を持っていた。
そして、兄のゴールドバーグが持ち合わせていなかった冷徹さを見たとき、わしはおまえこそ総督にふさわしい男だと思った。もう少し経験を積み、誰もが認めるようになったら総督を譲ろうと考えていた。どれほどその日を楽しみにしていたか。こんな身体になったから言うんじゃない。ずっと以前から決めていたんだ」
病室を訪れると、総督が喘いでいた。ぜいぜいという浅い呼吸が今にもとまりそうで、驚いて医者を呼ぶ。医師たちは大仰な機器を運んできてさまざまな処置を始めた。
部屋の外に追い出された俺は、マリオンが来るまで、病室の前を行ったり来たりしていた。
「マリオンッ! 総督が。総督が!」
「落ち着きなさい。発作が起きただけです。今までにも何度かありました。大丈夫ですから、落ち着いて…」
「顔の色が蒼白だった。生きてる人じゃないみたいに…」
「おまえには人の死など珍しくもないでしょう。冷酷無比なクール・プリンスが、動揺してどうするんですか?」
確かに俺は、何度も宇宙船を撃ち落とした。何度も敵や仲間に引き金を引いた。凄惨な場面も目にしてきた。が、それとこれとは話が別だ。
目の前で大切な人が弱って死んでいくなんて…。それを何もできずに見ているだけなんて…。
ん…、大切な人?
総督は俺にとって大切な人なのか? 元気であれば罰せられ、殺されていたかもしれない相手なのに。
「おまえには総督が死のうが生きようが、たいした違いはないでしょう?」
マリオンの言葉が心に刺さる。そうなのか?
わからない。それでも。死んでほしくないという気持ちは嘘ではなかった。
幸いなことに、総督は一命を取り留めた。だが、そのおかげで俺は抜き差しならない事態に陥ることになった。
総督の意識が戻ったのは3日目の朝だった。
集中治療室からようやく病室に移された総督が俺とマリオンを呼んでいるという連絡が入った。急いで病室に駆けつけると、総督がベッドの上に半身を起こして座っていた。
「総督! 起きて大丈夫なんですか? 無理をなさらないでください」
マリオンがベッドに横たえようとするのを、総督が手で制した。
「今だけは寝ているわけにはいかない。レイモンドに大切な話がある。マリオン、おまえも一緒にいてくれ」
「畏まりました」
「はい」
レイモンドはマリオンと並んで、総督のベッドの前に、姿勢を正して立った。
杓子定規な態度に苦笑を浮かべた総督が、
「ここは病室だ。座ってくれといいたいが、大きな声は出せそうもない。近くにいてもらった方がよさそうだ。そのまま、わしの話を聞いてくれるか?」
2人はうなずいた。
「レイモンド、おまえに総督を譲ろうと思う」
「ええっ!」
二の句を告げずにいる俺に、総督は衝撃的な事実を口にしたのだ。
「おまえは、わしの兄、ゴールドバーグの忘れ形見なのだ。おまえの名は、レイモンド・ゴールドバーグ・ハンターだ」
「………俺はスラム出身の孤児では…」
「いや、違う。おまえは二代目総督ゴールドバーグの息子だ。コスモ・サンダーの正統な跡取りなんだ。
おまえのことはずっと気にしていた。おまえを引き取った母親が亡くなったと知り、コスモ・サンダーに引き取ろうと思った。が、その時には、お前がどこにいるのかわからなくなっていた。部下に惑星中を探させたよ。それでも、なかなか見つけることができなかった。スラムでようやく見つけた時には、おまえは一人で立っていた。まだ、小さかったのにな。何の保護もないのに、スラムで生き抜いた。さすがに兄の子だと思ったよ。
兄は、二代目総督は、わしよりも力も頭も統率力もあった。おまえはその血を引いている」
「海賊に、血筋も跡取りも何も…。総督はコスモ・サンダーのことを大切に思っている誰かが継げばいい! 俺には関係ない!」
俺が喚いたのを無視して、総督は話を続ける。
「惑星統治者の娘だったおまえの母に惑わされる(いや惹かれる)ことがなければ、もっと冷酷でありさえすれば、兄はいまもコスモ・サンダーの総督を務めていただろう。惑星間のいざこざに巻き込まれて死ぬこともなかった…。
おまえの外見はあの女によく似ている。だが、中身は兄そのものだ。頭も良い。上に立つ者の威厳を備えている。その上、必要ならば冷酷にもなれる。わしに銃を向けるくらいだからな」
総督は嫌みではなくそう言って笑った。
マリオンは知っていたのだろうか。
俺がゴールドバーグ前総督の息子だということを。その表情からは少しもわからない。
「わしの命は長くない。意識のしっかりしているうちに、おまえに話しておきたかった。おまえに総督を譲るよ」
「そんな、一方的な! 俺の都合はなしですかッ」
「都合など聞く必要があるのか? おまえはわしに殺されても文句はないと言ったんだぞ」
それはそうだが。コスモ・サンダーの総督になれと言われるとは思わなかった。
「俺は総督を、コスモ・サンダーを裏切った人間です。どうして、そんな裏切り者に総督の座を譲るなどと言えるんですか!」
「おまえが総督の器だからだ」
決めつけられた。
「スラムからおまえを連れ出し、マリオンに育てさせた。おまえは予想を超えていたよ。才能があり、技術に長け、何よりも強い精神力を持っていた。
そして、兄のゴールドバーグが持ち合わせていなかった冷徹さを見たとき、わしはおまえこそ総督にふさわしい男だと思った。もう少し経験を積み、誰もが認めるようになったら総督を譲ろうと考えていた。どれほどその日を楽しみにしていたか。こんな身体になったから言うんじゃない。ずっと以前から決めていたんだ」
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