宙(そら)に散る。

星野そら

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13 最期の会話

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 総督の言葉がふ、と途切れ、そのくちもとがわずかに歪んだ。

「おまえに逃げられたのは誤算だった。あの後、おまえは死んでしまったのだと一度はあきらめた。コスモ・サンダーの規律が乱れ、手のほどこしようがなくなっていくのを、わしはどうにもできず、どうにかする気力もなく、なすすべもなく見ていた。
 おまえがいなくなって、どうでもよくなっていたんだろうな。わしの命も尽きようとしていた。コスモ・サンダーもわしと一緒に消滅すればいいと思っていた。そんなときに、マリオンがおまえを見つけたと言ったんだ。わしがどれほど喜んだかわかるか?」

 俺は沈黙を守ったまま。

「それでも、さほど期待していなかった。どんな男になっているかわかったもんじゃないからな。いくら身内びいきでも、誰にでも総督の座が務まるわけではない。おまえがどんな男で、総督になれるかどうかこの目で確かめたかった」
「……くだらないおしゃべりに高じる男の、どこが総督の器だと…」
「ああ、レイモンド。自分を卑下するものじゃない。おまえは立派だった。殺されるとわかっていて震えもせずにわしの前に立った。死を覚悟していたおまえには恐いモノはないようだった。そうだろう?
 もし、おまえが、コスモ・サンダーを任せるに足りない男だったら、ハンター家はわしで最後。おまえを殺してしまおうと考えていたのだ。それが、わしは、おまえの存在感に圧倒された。瞳の鋭さにたじろいだ。頭の回転の早さに舌を巻いた。そのやさしさに、あふれる愛情に心が温かくなった。
 あのままコスモ・サンダーにいてのし上がっていくより、おまえははるかに成長していた。苦労をした分、大きな男になっていた。おまえには特別な輝きがある。それはわしが持ちたいと願っても持てなかったものだ。
 コスモ・サンダーは構成員3万人、いや、関係者を入れると5万人にもなる大きな組織だ。海賊だけをしていた初代とは違い、おまえの父であるゴールドバーグが、さまざまな事業に手を出して大きな組織に造り替えた。
 総督はそのコスモ・サンダーのシンボルであり、核となる人物でないといけない。わしには荷が重すぎた」
「総督に荷が重いのなら、俺に務まるわけがない。かいかぶりはやめてください。俺はひと一人を育てるのに青息吐息で、なんとか暮らしてきた男です。コスモ・サンダーに捕まらないように、辺境でこそこそ生きてきた。人を束ねるとか、動かすとか、やったこともない」

 総督は苦笑を浮かべる。

「大丈夫だ。大切なのは、この男についていきたい。この男の言うことなら無茶を覚悟でやってやろうと部下に思わせられるかどうかだ。つまり、人としての魅力に尽きる」
「それこそ! 俺にはないものだ。身勝手で自分のことしか考えない。判断力もない。人を導くなどできない。
 ……どこかの惑星で地道に生きていればコスモ・サンダーと二度と出会うことはないと知っていたのに、宇宙を飛びたいがためにクーリエなどという仕事を選んでしまった。俺は堪え性もなく、危機管理さえできない男です」
「そう、忘れていた。いちばん大切なのはそれだよ。飛ぶことが、宇宙が好きだと言うことだ。わしらは海賊だからな。一般船を襲うのはいただけないが、宇宙を飛び回って、正々堂々と宝探しをすればいい。邪魔する奴らがいれば闘ってうち負かせばいい。
 なあ、レイモンド。総督だからといって本部に収まっている必要はないぞ。好きな宇宙を思う存分飛んで、勢力を広げればいい」
「俺には無理だ! マリオンがいるでしょう。マリオンのほうが、よほど総督らしい。総督の器だと思います」
「わしが病に伏せてから、マリオンはずっと総督代理を務めてくれた。マリオンは自分の限界をいちばんよくわかっていると思う」
「でも……」

 総督は手を振って、レイモンドの言葉を遮った。

「わしは疲れた。これ以上、おまえと言い争う気はない。部屋に戻れ。
 …マリオン、おまえはもう少し、付き合ってくれるか?」
「畏まりました」

 それが総督とした最後の話となった。
 ほどなく、総督は、黄泉の国へと旅立ってしまったのだ。

 葬儀は盛大に行われた。宇宙全域に散らばっていたコスモ・サンダーの構成員が続々と詰めかけ、本部惑星は宇宙船であふれかえった。3日3晩の葬儀の間中、多くのものが総督の死を悲しみ、涙を流した。
 そして心あるものは、何よりコスモ・サンダーの行く末を案じていた。

 1年が過ぎた。


 この1年の間、マリオンが総督代理として音頭を取り、慣例に従って幹部たちの合議でコスモ・サンダーを動かしてきた。コスモ・サンダーを分割統治しようという幹部たちにマリオンは真っ向から反対した。
 マリオンは総督から、『レイモンドが次期総督となれるよう教育してほしい』と頼まれていたのだ。その言葉を忠実に守り、葬儀の次の日からレイモンドに帝王学と総督としての執務を教え込んだ。

『1年間おまえがレイモンドを教育してくれ。あの子になら、コスモ・サンダーをまとめることができるとわしは信じている』。

 だが、と総督はつけ加えていた。

『1年経って、もし、レイモンドが総督にふさわしくないと思ったなら、レイモンドが総督の器ではないと思ったなら。
 マリオン、おまえがコスモ・サンダーを好きにしていい。おまえには酷いことばかりしてきた。それがわしのせめてもの罪滅ぼしだ。おまえが宇宙に出たいと願っていたのに、むりやりレイモンドの教育係を押しつけた。
 レイモンドが逃げ出したときは、全部おまえのせいにした。八つ当たりもした。おまえには力があったのに、伸ばしてやれなかった。済まなかった』と。

 好きにしていいの中には、実は、レイモンドの命を奪ってもいいということまで含まれていたのだ。

 マリオンは、やる気になりさえすれば、レイモンドはまさに総督の器だと思っていた。
 それでも、マリオンは気づいていた。
 大きくなりすぎたコスモ・サンダーは、レイモンドにさえ、まとめようにもまとまらない組織となり果てている、ということに。
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