宙(そら)に散る。

星野そら

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10 マリオンからの通信

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「ゴールドバーグ様。ゼクスター様から通信が入っています」

 艦橋にいるレイモンドに通信室から連絡が入る。

「こちらに回せ…」

 と言いかけたが、ふと気づいて言い直す。先ほど、無事にイエロー・サンダーの宙港を離陸したと通信士から連絡があったところだ。何か話があるのかもしれない。

「いや、戦略室へ回してくれ。ポール、しばらく席をはずす」

 言い置いて、艦橋を後にした。
 ゆったりと腰を落ち着けてからヘッドホンを付ける。ついでにモニターのスイッチを捻った。モニターいっぱいにマリオンの端正な顔が広がった。

「どうしたの、マリオン。あと数時間で帰ってくるんだろう。急用?」
「いえ、そういうわけではありませんが…」

 珍しく口ごもるマリオンに、にこりと微笑んだレイモンドが言う。

「もしかして、俺の顔を見たくなったとか? うれしいな」

 モニター越しでさえ顔を見るのは久しぶりである。イエロー・サンダーの本部基地にいる間、マリオンからは毎日連絡が入った。しかしそれは、音声のみであった。内容も、当たり障りのない業務連絡のみ。基地からの通信はすべて傍受されているから当然である。

「艦橋ではないのですか?」
「ん、戦略室だよ。俺一人」

 暗にプライベート・モードだとほのめかす。しかし、甘える前に会談の結果を訊いておかないと。

「で、どうだった?」
「明言はなかったですが、間違いなく、おまえの総督就任に反対です。ゴールドバーグには実力がない、総督は無理だろうという風なことを、あれこれ言っていました」
「あいつら、自分たちがコスモ・サンダーを牛耳ろうって思ってるの?」
「そう…。牛耳ろうとまでは考えていないかもしれませんが、自分たちの艦隊を自由にしたいとは思っています。力を広げるためには、弱い艦隊を吸収しようとするでしょう。吸収した後…、あの男たちに、大きな組織を動かす力はありません」
「ふ~ん。自分より弱い相手を争いに巻き込んで、後はほっぽり出すって感じ?」
「そういうこと、です」
「艦隊単位で独立を認めるって話はしたの?」
「いえ。そんな話をしても、結果は見えていますから」

 独立を認めるもなにも、すでに自分たちは独立した艦隊だと思っている。コスモ・サンダーの名など、冠程度だと。それなのに、独立を認めるなどと言えば、レイモンドを知らない司令官たちは弱気な総督だと決めつける。総督就任を認めない艦隊に立ち向かう勇気も力もなく、言いくるめるだけの知略もないと考えるはずだ。知略がないと思われるだけならまだましだ。しかし、力がないと思われると海賊組織ではやっていけない。
 仲間同士の無駄な争いを避けたいと願うレイモンドの気持ちなど、これっぽっちも通じないだろうとマリオンは思っていた。
 そんな判断は胸の内に隠して、ところで、と言葉をつなぐ。

「トニーはおまえに腹を立てていましたよ。宇宙船も幹部も処分して、戦闘員だけを送り返してくるとはどういう了見なのかと、ね。いっそ、宇宙船ごと葬っていたらおまえの非情さを思い知らせられたかもしれません」
「こんなにやさしい男を捕まえて非情だなんて、よく言うよ、マリオン」

 いや、やさしさと非情さは相反する言葉ではない。レイモンドはやさしいし、いつも部下のことを第一に考えている。敵のことですら思いやるだろう。
 それでも、やらねばならないなら、どんなに冷酷なことでも眉ひとつ動かさずにやる。心の中で血の涙を流しながら、非情さに徹することができる。
 冷酷だ、非情だと思われていれば、それだけで尊敬されるのが海賊の世界である。だからこそ、誰にも肩代わりさせたりせずに、自分の手で裏切り者を処刑してきた特別部隊、別名処刑部隊のクール・プリンス伝説が今でも語り継がれているのだ。
 それなのに。

「別にトニーにどう思われようと、かまわない。それより、何か面白い話はないわけ?」

 マリオンは首をふった。才能にあふれ、強い精神力を持つからこそ、どう思われようとかまわないなどとレイモンドは言えるのだろう。

 モニターの向こうに映るマリオンの姿を見て、レイモンドは面白い話などなかったのだろうと思った。

「腹のさぐり合いをして、疲れました。司令官ともあろうものが、コスモ・サンダーの将来も部下のことも考えていない。自分がよければそれでいいと…。
 部下たちを保護し、采配をふるうだけの力もない。行き当たりばったりの海賊行為に頼っている…。どうしてあんな男たちが司令官なのかと…」
「俺に言われても知らないよ。あなたが任命したんじゃないの?」
「……前総督とわたしの見込み違い。もっと、腹の据わった男たちかと思っていたのですが」

 マリオンの目から見た司令官たちは、レイモンドの足下にも及ばないつまらない男に見えた。

「へえ~、マリオンらしくないね。疲れたとか、見込み違いだとか…。
 いいよ、俺がなんとかする。気にしないでいいから、早く帰ってきてよ。1週間も離れてて、マリオン禁断症状がでてる」

 何を馬鹿なことをと叱れるかなと思ったが、マリオンははあ、とため息を吐く。

「もっといい報告ができたらよかったんですが。……わたしも、早くおまえに会いたいですよ」

 付け足された言葉に、レイモンドはぽかんと口を開く。

「えっ…、うそっ! 今、何て言ったの? どこか具合でも悪いんじゃない、マリオン?」
「わたしがおまえに会いたいと言うのが、そんなに不思議ですか?」
「だって…。知らなかった、あなたが俺に会えないのを寂しく思ってくれるなんて」

 マリオンがむっとして言い返す。

「寂しいなどとは言っていません」
「ん? 寂しくなかったの。俺なんか、寂しくて、寂しくて。マリオンが帰るのを指折り数えて待ってるのに」

 大げさなと言いながらもマリオンの頬がほんのり染まる。

「それは、おまえが待つのに慣れていないからです。いつも、待たせる方ですからね。探して連れ戻さないと、何年も帰ってこない」
「あいたっ! あれはもう時効だよ。こうして俺はコスモ・サンダーに戻って、あなたと一緒にいるんだから」
「そうですね。ところで、そちらはいかがでしたか?」

 惑星開発の件はどうなったのかとマリオンが訊いた。

「ん、ミスター・ラダーに連絡を入れた。俺が生きているって知って驚いていたけど、会ってくれるって」
「おまえの立場は話したんですか?」

 ううん、とレイモンドは首を振る。

「それは、まだだけど…。今の俺が何をしていても、生きていてくれてうれしいって。大切な友人だと思っているって」

 ケイジ・ラダーはレイモンドが何も言わないうちに、どんな状態であっても、いつでも受け入れると言ってくれたのだ。あの約束は今でも生きていると…。

「よほど気に入られているようですね。信頼してくれる友のいるおまえが羨ましい」
「へっ? 親しい友人なら、マリオンだっているじゃない。ほらっ、第7艦隊の司令官とか。こないだだって、俺とアーシャの前だということも忘れて、2人にしか通じない話をして笑い合っちゃって。まったく、妬けちゃったよ」
「な、なにを言うんですか。それならおまえの弟や宇宙軍の男たち、あれは何ですか。見ているだけで腹が立つ。おまえを崇拝しきっているあの態度は…」

 レイモンドのにやにや顔に、マリオンがハッと言葉の続きを呑み込む。

「ポーカーフェイスだからわからなかったけど、マリオンも妬いてくれてたんだ」
「………」

 コホン、とマリオンが小さく咳払いをした。

「わたしはだんだん、おまえのペースにはめられていくようです。あと、2~3時間で戻りますので、詳しい話はその時にでも」

 マリオンが通信を切ろうとするのにレイモンドが

「ん、わかった。愛してるよ♡マリオン」

 …っ! と絶句するマリオンをうれしそうに見つめながら通信を切ろうとしたとき、モニター画面の中でドアがバタンと開いた。
 男がひとり飛び込んできた。ポールの下で隊長を務めるエドモンドだ。マリオンを補佐するために連れて行かせた。

『ゼクスター様! たいへんです』

 エドモンドが甲高い声で告げる。滅多なことでは動揺しない男なのに。
 後ろを振り返ったマリオンが、落ち着いた声で何事かと尋ねていた。
 エドモンドを下がらせてから、モニターに向き直ったマリオンの眉間にはしわが刻まれている。

「なにか、あったの? イエロー・サンダーが襲ってきたとか」
「いえ、襲撃ではありませんが…。ちょっと面倒が起こったようです。今、説明している時間はありません。すぐに処理してきます」

 通信を切ろうとするマリオンに、レイモンドがあわてて命じた。

「切らないで、俺はここで待っている。片が付いたらすぐにここへ戻ってくるんだ!」

 命令口調で終わった言葉に、マリオンは苦笑を浮かべながら応えた。

「諒解しました、ゴールドバーグ様」
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