宙(そら)に散る。

星野そら

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12 総督就任宣言

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「ゴールドバーグ様! イエロー・サンダーのトニー司令官から通信が入っています…」

 ポールの声にレイモンドはハッと顔を上げた。
 トニーだと? そうだ、こんなことをしている場合じゃない。最期にマリオンは、俺にコスモ・サンダーを託していった。どうにかしないとあわせる顔がない。
 悲しみに浸るのは後だ。あいつだけは許せない。
 涙でぼやけていたレイモンドの瞳に、鋭い光が戻った。

「艦橋へ回せ。今から、そちらに行く!」
「はい。それから…、ゼクスター様の乗った宇宙船が爆発したのを感知しました。……残念です」
「まさかッ! 通信を傍受していたのか?」
「いえ、救命艇から連絡が入り…、ゼクスター様が宇宙船に残っておられたのだと知らされました」
「そうか…。マリオンは指揮官らしい指揮官だったな」

 イエロー・サンダーのトニーから通信だと、よくもぬけぬけと!
 許さない! 絶対に許さない!

「贈り物は受け取ってもらえたか?」

 笑いを含んだ声に、レイモンドは一気に逆上した。

「宇宙船を吹き飛ばす爆発物が贈り物だとッ! 俺を怒らせたいのかッ!」
「まあ、切れる必要はなかろう。逃げ出す時間は十分にあった。現に、救命艇が出ていたじゃないか」
「……、全員は助からなかった。……マリオンが死んだ」

 断腸の思いで告げる。

「へえ~。真っ先に逃げるかと思ったのにな」

 トニーの声音には、マリオンへの軽蔑が感じられた。
 レイモンドは呆気にとられた。こんなヤツが艦隊司令官なのか?
 指揮官なら、いや、キャプテンですら、同じ場面に陥ったら、自分の命を犠牲にしても部下たちを救うだろう。
 艦隊司令官でありながら、こいつは指揮官としての責任など全うしないと宣言しているようなもの。こんなヤツらだったら、マリオンが会談に行く意味などなかった。マリオンの言うように、最初から叩きつぶせばよかった。

 レイモンドは苦い後悔と同時に、一気に心が冷めるのを感じた。

「贈り物の意味は?」
「へっ! 決まってんだろ。ゴールドバーグ次期総督就任への反対表明をわかりやすい形でさせてもらったのさ」

 くだけた物言いに、レイモンドはぐっと拳を握りしめる。

「一応、確認しておく。それは、おまえとハーディ、カルロス、3人の総意なのか」
「おおよ!」
「……確かに、贈り物は受け取った」

 レイモンドはパチンと通信を切った。
 通信の様子をハラハラしながら見守っていた艦橋の男たちは、淡々と話を進めるレイモンドを見て首を捻る。
 マリオンが殺されたのである。もっと責任を追及してもらいたい。叱りつけてくれ! 誰の胸にもそんな思いがわき上がっていた。


 男たちの痛いほどの視線をはねのけるように、レイモンドが厳然と言い渡した。

「ポール。コスモ・サンダー全構成員に通信をつないでくれ」
「はっ…? 緊急通信回線を開くのですか」
「そうだ」

 レイモンドがうなずいた。
 艦橋に軽い緊張が走る。緊急通信回線が使われることなど、いつ以来だろう。あの伝説のクール・プリンスの逃走劇で、そう言えばマリオンが緊急通信を使用したと思いついたのは、近衛隊でもベテラン幹部だけだった。

 しばらくして。
 緊急通信がコスモ・サンダー全軍につながった。
 これまで構成員の前に姿をさらしたことのなかったレイモンドが、モニターカメラの前に立つ。軽くレンズを見つめてから合図を出す。コスモ・サンダー全艦隊、全基地のモニターというモニターにレイモンドの姿が浮かび上がった。
 緊張した面持ちでモニターに視線を据えていた構成員たちは、映しだされた美貌と射抜くような鋭い視線にあっけにとられた。

「コスモ・サンダー構成員の諸君、モニターで失礼する。俺はレイモンド・ゴールドバーグ・ハンターだ。知っているだろうが、前総督の遺言で総督候補となった」

 そこで、レイモンドは一呼吸おいた。

「俺は、レイモンド・ゴールドバーグ・ハンターは、今ここでコスモ・サンダーの総督就任を宣言する」
「ええっ!」

 中央艦隊『マーキュリー』の艦橋からでさえ、驚きの声が発せられた。構成員たちは全員が全員、モニターに釘付けである。レイモンドの静かな、しかし断固とした声が告げる。

「つい先ほど、馬鹿な司令官どもが俺を挑発するためにゼクスター総督代理を死に追いやった。仲間の宇宙船に爆発物を仕掛けるというきたない手を使ってな。俺はそんなヤツらと仲良しごっこをする気はない。そんなヤツらにコスモ・サンダーを自由にはさせない。だから、俺が総督になる。承認会議などくそくらえだ。もう誰にも馬鹿な真似はさせない。これからは俺が、コスモ・サンダーを取り仕切る」

 総督就任宣言をした瞬間から、マーキュリーの通信室には艦隊や基地からの受信が殺到し始めた。通信兵が対応しているが、がなり声がもれ聞こえている。

「訊かれる前にこれからの予定を説明しておく。まず第一に、俺がコスモ・サンダーを取り仕切るために障害となるものを取り除く。つまり、総督就任に反対する艦隊を叩きつぶす。その後で、コスモ・サンダーを俺の考えたとおりに再編する。規律は俺が決める。誰にも文句は言わせない」

 あまりにも一方的な、通告。

「俺の言い分に納得できないヤツもいるだろう。おまえたちには選択権をやる。総督就任を認めて俺についてくるか、それとも反対に回るか。自分で決めろ! 第2艦隊のハーディ、第4艦隊のトニー、第6艦隊のカルロスの答えは聞いた。もちろん、今さら俺に従うと言われても、おまえたちだけは断る。ゼクスター総督代理を殺しておいてそんな虫のいい話はない…、おまえたちは俺が殲滅する。
 そうだな、上官に文句を言えない兵隊たちには酷い話かもしれない…。その3艦隊の中で、俺に従いたいヤツがいるだろうか。いるなら連絡を入れろ。キャプテン単位で受け入れる。その他の艦隊、各基地も、どうするか今、決めろ。俺は中央艦隊の近衛隊宇宙艦『マーキュリー』で極東地区にいる。しばらくしたら、第4艦隊本部への攻撃を開始する。俺に従うつもりがあるなら、すぐに飛んできて参戦しろ。どっちつかずの態度は許さない。従うか敵に回るか、ふたつにひとつだ。……ただし、これを機にコスモ・サンダーを抜けたいなら、特別に認めよう。二度と海賊行為をしないという誓約の上で」

 コスモ・サンダーの各艦隊、各基地は混乱をきたしていた。総督承認会議までまだ間があると思っていた司令官はもちろん、キャプテン単位での選択を与えられた幹部たち、そして戦闘員、事務員までが口論を始めていた。
 総督就任宣言をしたゴールドバーグか、それとも極東地区に集まった3司令官たちか。生き残りをかけた闘いになるであろう。どちらにつきたいか。どちらについた方が得なのか。いや、この際、堅気になるか。侃々諤々の言い争いが繰り広げられても不思議ではない。また、それを知らぬレイモンドではなかった。

「突然、見も知らぬ男がモニターを通じて総督就任を宣言し、突拍子もないことを言い出したと思っているだろうな。
 ……前総督の遺書が披露されてから、コスモ・サンダーに所属したことも、部隊を率いたこともない男に何ができるのだと何度も言われた。そんなことはどうでもいいと思っていた。だが、もう、陰口は聞き飽きた。
 言っておく。俺は少年の頃からコスモ・サンダーに所属していた。コスモ・サンダーを離れた時期もあるが、俺は16でキャプテンになり、部隊を指揮した実績がある。その頃、俺はキャプテン・レイモンド、もしくはクール・プリンスと呼ばれていた」

 モニターの前の男たちは、ある者は目を見張り、ある者はモニターに映る美貌を凝視し、ある者はほうっと長いため息をついた。
 そして! 極東地区本部の幹部たちは驚愕に凍り付いた。

「俺はコスモ・サンダーを裏切った。総督に銃を向けたことを否定するつもりはない。ただし、これだけは誤解のないように説明しておく…。俺は病で伏していた前総督に呼び戻された。総督を引き継いでくれと頼まれたんだ。前総督と総督代理であったマリオン・ゼクスターにコスモ・サンダーを託せるのはおまえしかいないと説得された。……バラバラになったコスモ・サンダーをひとつにできるのはおまえだけだと。
 俺には荷が重すぎると何度も断った。マリオンがそのまま総督を引き継げばいい、司令官で総督になりたいやつがいるならそいつがなればいいと思っていた。
 しかし。今思うと、前総督の考えは間違っていなかったと思う。マリオンは自分には無理だから、おまえに託すのだと言った。マリオンが無理なら、ほかのどの艦隊のどの司令官がコスモ・サンダーを統一できるんだ? 俺しかいないだろう。
 それなのに、俺は逃げていた。話し合いで決着がつくならと行動も起こさなかった。
 俺が間違っていたよ。海賊組織を統べるのに話し合いもないよな。同じコスモ・サンダーだから、反対勢力だからと言って叩き潰すこともないと考えた俺が甘かった。馬鹿だった。そのせいで、マリオンを亡くしてしまった。
 俺は、もう迷わない。俺に従わない戦闘員はいらない。おまえたちは、覚悟して自分の道を選べ」
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