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第五九話 シャルロッタ・インテリペリ 一五歳 二九
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「やはり君がロッテちゃん……なのか?」
「はい、わたくしはロッテとして正体を隠して冒険者になりましたわ」
エルネットさんの言葉に頷いたわたくしは正直に彼の疑問に答える。
まあなんで冒険者をやったのかって言ったらストレス解消したいって思ってたのと、自由に使えるお小遣いが欲しいなーと思ったからなんだけど、一応正体を隠していたことについては素直に認めておく。
目の前にあるテーブルに乗せられたカップを手に取り紅茶を軽く口に含むと、わたくしはニコニコと笑顔で彼らに微笑む。
危険はありませんよー! 普通のご令嬢ですよー! という意思表示をしているつもりなんだけど、どうもリリーナさんやデヴィットさんの表情は恐ろしく硬い。
「でもなぜ……あなたは貴族の令嬢として何不自由なく暮らせる立場でしょう? 王子との婚約も行われて……何がそうさせたのです?」
エミリオさんは本当にわけがわからないという表情でわたくしに尋ねるが……わたくしは黙って頬に手を当ててから首を傾げるいつもの営業用スマイルを浮かべる。
さてここからはどう答えるか事前に考えて来ている、真実味のある内容をきちんと伝えれば彼らは味方になってくれそうだ、という勘のようなものが働いているから。
感覚的には彼らは誠実な人物達のように思える。
あの魔物の襲撃より村を守った時から少し年月が経って彼らは成長し、より大人になっており多少現実的な面も見え隠れするが、大丈夫あの時と同じように誠実な人柄だろう。
「……わたくしにはガルムを使役するだけでなく、前世で体験したすべての記憶と技が受け継がれています」
「ぜ、前世?!」
「たとえば……こういうことができたりしますね」
何を言い出したんだ? と言わんばかりのリリーナさんに軽く苦笑いを見せると、わたくしはそのまま虚空に手を突っ込む。
空間に亀裂が走るとわたくしの手に一振りの長剣が……勇者スコットより受け継いだ不滅が姿を表す。
何もない空間から剣を取り出したわたくしの行動に、赤竜の息吹のメンバーが一斉に慌て始める……ああ、この魔法習得しておいてよかった。
スコットさんの魔法を見てから便利だから似たようなことができないかなーと思って少し研究したんだよね、これ。
ちなみに基本的な考え方は前世の世界にあった空間魔法に近く、構造さえわかっちゃえば習得はそれほど難しくなかった。
「これは、とある人より受け継いだ魔法の一つ、すでに失伝していて使い手はいないそうですけど……まあ他にも色々できますね」
「……確かに、こんな魔法は見たことありませんね……空間の間に物を収納する……んですかね?」
デヴィットさんが目を丸くしながらわたくしの手に握られた不滅を見て興味深そうな顔をしているが、わたくしの手に握られた剣が魔剣であることにも強い興味を惹かれているようだ。
エルネットさんも驚きで目を丸くしたまま口をポカン、と開けてわたくしを見つめているが、一人だけこの現状に納得していない人がいた……リリーナさんだ。
「……そんな能力があるなら、普通に冒険者ではなく英雄として立てばいいじゃない……あんた大した能力も持っていない私たちのこと、陰で馬鹿にしてたんでしょ?!」
リリーナさんが肩を震わせながらソファから立ち上がってわたくしに食ってかかろうとするが、ユルがその行動を見て唸り声を上げながらわたくしの前へと立ちはだかったことで、表情を歪めて一歩後ろに後ずさる。
グルル……と唸り声をあげるユルの背中を軽く叩いてあげる、彼はわたくしの顔を見上げてから深くため息をつくと再び側に座り込む。
わたくしは表情を引き締め直すと、リリーナさんに軽く頭を下げてから話しかけた。
「馬鹿になんかいたしませんよ、一人の人間ができることなんか限られております。冒険者として活躍する皆さんのことは尊敬していますし、見ず知らずのわたくしに優しくしてくれたことも感謝しています、それに……」
「な、何よ……」
「本当に馬鹿にしているのであれば、魔法を使ってあなた方の記憶を操作して都合の良いように書き換えますしね」
「なっ……!? ひ、人の記憶を自由に改竄できるっての?」
「できます、だけども今はしません」
「……なぜ?」
「わたくしは皆さんを冒険者として尊敬しています、そういった失礼をする気はありません」
わたくしは怯えたような表情を浮かべるリリーナさんにあくまで冷静に答える。
まあ、前世ではどうしても都合が悪くなって一度だけ記憶を改竄したことがあるけど、それはもうどうしようもないくらいに追い詰められたからなんだよね。
でもその時の罪悪感は強く心に刻まれている……あ、ちなみにわたくしの婚約者の座を欲しいっていう人がいたらその人とクリスをちゃんと結びつけることはやぶさかではないのだ、イレギュラー……所謂ノーカンってやつ。
「正直に言えば……ビヘイビアでお会いするまで以前領地で会ったことをすっかり忘れていました、それについては謝罪します……」
「あ、謝ったって……ぬぐ……うう……ッ!」
再び頭を下げたわたくしに何か言葉をぶつけようとしていたリリーナさんだが、素直に頭を下げたわたくしを見てそれ以上何も言わずに表情を歪めて何度か口をパクパクさせた後、ソファにどかっと腰を下ろしてそっぽを向いてしまう。
そんな彼女を少しハラハラした表情で見ていたデヴィットさんやエミリオさん……まあ、貴族に頭を下げさせる、というのはこの世界でもとってもまずいことだったりもするからな。
ちなみに別の国では貴族に頭を下げさせたものが報復のために冤罪を着せられ、絞首刑になったという話もあるんだとか……まあわたくしは清く正しい日本人としての過去を持っているから大して気にしないんだけどね。
「……で、君は俺たちに何をさせたいんだ?」
エルネットさんがソファに腰掛けたままわたくしをじっと見つめているが、その眼差しはかなり真剣なものだ。
うん……イケメンにじっと見つめられるというのは現世が女性であるわたくしにとってもちょっとご褒美だなあ。
いや、そうじゃくてなんとなく気恥ずかしいものがあるのだけど、わたくしは彼らの信頼を得なければいけない。
最初の目的を達成するべくわたくしはふうっと一度息を吐くと、あざとい感じで指を軽く自分の頬に添えて首を傾げた状態でにっこり笑う。
「ということで、わたくしの友人となってもらえませんか?」
「……はい?」
「わたくしがロッテとして手に余る功績を得るのは本意ではありません、功績を皆様に譲ります……その代わりわたくしの友人となっていただき秘密を共有して欲しいのです」
都合が良すぎる話かもしれない……とは少し思っているがわたくしにはこれしか提供できるものがない。
いや……差し出そうと思えば色々差し出せるだろうけど、最低限貴族としてやってはいけないこと、やりたくないこと、やったら醜聞になってしまうことなど色々考えた末の苦渋の決断だ。
お金を差し出してもいいと思っているが、エルネットさんの性格を考えるとお金じゃない気がするんだよな。
「……お金を出す、と言わないところを見ると俺が金で動く人間ではないと考えているからか……」
「……お金で動く方ならすぐにわたくしの元へ来て秘密をバラされたくなかったら……という話になるかなって……あはは」
「ったく……君は貴族令嬢にしては脇が甘すぎるよ。俺たちだったから良いものの……」
苦笑するわたくしを見てエルネットさんが肩をすくめるのと同時に、納得したかのような笑みを浮かべたのを見て、彼が承諾してくれそうなのがわかった。
まあそうだろう、わたくしは元々貴族なんかに向いているとは思っていない。庶民の方があっている人間なのだから貴族令嬢との交渉を前提に話をされると違和感しか感じないだろう。
エルネットさんはわたくしの表情を見て少し頭を抱えるような仕草を始める。
「僕がもっと下衆な人間だったらどうするつもりだったんだ……心配で見てられないよ、これは……」
「エルネット、なら決まりね?」
リリーナさんがエルネットさんをしょうがないな、という表情で見つめて笑う。デヴィットさんもエミリオさんもやはり似たような顔で彼を見て笑っている。
その意味がよくわかっていなかったユルとわたくしは顔を見合わせてから赤竜の息吹のメンバーをまじまじと見つめるが、よほど間抜けな顔をしていたのだろう……視線に気がついた彼らはにこりと笑って頷いた。
「ああ、俺はロッテちゃ……あ、シャルロッタ様との約束を守ることにする、異論があるなら言ってくれ」
「ないわ、あなたが決めることに私が反対したことなんかないでしょ」
「ありません、貴人の願いであればそれを叶えるのもまた神のご意志」
「俺は彼女が扱う魔法の方にしか興味がない」
「……ありがとうございます……」
わたくしはソファから立ち上がると彼らに深々と頭を下げる。
本来はこんなことする必要なんかないかもしれない、貴族であればふんぞり帰って彼らにお願いさせても良いのかもしれない……でもそうすることでわたくしは前世や前々世を否定してしまう気がしてできなかった。
ユルは鼻を軽くフンッ、と鳴らすと仕方ねえなとばかりに軽く伸びをしてから赤竜の息吹のメンバーへと話しかけた。
「冒険者ども、我はお前たちを信用はしていない……しかし我が主人がお前らを信用すると言ったからな……いつでも我の目はお前たちを見ていることを忘れるなよ」
「はい、わたくしはロッテとして正体を隠して冒険者になりましたわ」
エルネットさんの言葉に頷いたわたくしは正直に彼の疑問に答える。
まあなんで冒険者をやったのかって言ったらストレス解消したいって思ってたのと、自由に使えるお小遣いが欲しいなーと思ったからなんだけど、一応正体を隠していたことについては素直に認めておく。
目の前にあるテーブルに乗せられたカップを手に取り紅茶を軽く口に含むと、わたくしはニコニコと笑顔で彼らに微笑む。
危険はありませんよー! 普通のご令嬢ですよー! という意思表示をしているつもりなんだけど、どうもリリーナさんやデヴィットさんの表情は恐ろしく硬い。
「でもなぜ……あなたは貴族の令嬢として何不自由なく暮らせる立場でしょう? 王子との婚約も行われて……何がそうさせたのです?」
エミリオさんは本当にわけがわからないという表情でわたくしに尋ねるが……わたくしは黙って頬に手を当ててから首を傾げるいつもの営業用スマイルを浮かべる。
さてここからはどう答えるか事前に考えて来ている、真実味のある内容をきちんと伝えれば彼らは味方になってくれそうだ、という勘のようなものが働いているから。
感覚的には彼らは誠実な人物達のように思える。
あの魔物の襲撃より村を守った時から少し年月が経って彼らは成長し、より大人になっており多少現実的な面も見え隠れするが、大丈夫あの時と同じように誠実な人柄だろう。
「……わたくしにはガルムを使役するだけでなく、前世で体験したすべての記憶と技が受け継がれています」
「ぜ、前世?!」
「たとえば……こういうことができたりしますね」
何を言い出したんだ? と言わんばかりのリリーナさんに軽く苦笑いを見せると、わたくしはそのまま虚空に手を突っ込む。
空間に亀裂が走るとわたくしの手に一振りの長剣が……勇者スコットより受け継いだ不滅が姿を表す。
何もない空間から剣を取り出したわたくしの行動に、赤竜の息吹のメンバーが一斉に慌て始める……ああ、この魔法習得しておいてよかった。
スコットさんの魔法を見てから便利だから似たようなことができないかなーと思って少し研究したんだよね、これ。
ちなみに基本的な考え方は前世の世界にあった空間魔法に近く、構造さえわかっちゃえば習得はそれほど難しくなかった。
「これは、とある人より受け継いだ魔法の一つ、すでに失伝していて使い手はいないそうですけど……まあ他にも色々できますね」
「……確かに、こんな魔法は見たことありませんね……空間の間に物を収納する……んですかね?」
デヴィットさんが目を丸くしながらわたくしの手に握られた不滅を見て興味深そうな顔をしているが、わたくしの手に握られた剣が魔剣であることにも強い興味を惹かれているようだ。
エルネットさんも驚きで目を丸くしたまま口をポカン、と開けてわたくしを見つめているが、一人だけこの現状に納得していない人がいた……リリーナさんだ。
「……そんな能力があるなら、普通に冒険者ではなく英雄として立てばいいじゃない……あんた大した能力も持っていない私たちのこと、陰で馬鹿にしてたんでしょ?!」
リリーナさんが肩を震わせながらソファから立ち上がってわたくしに食ってかかろうとするが、ユルがその行動を見て唸り声を上げながらわたくしの前へと立ちはだかったことで、表情を歪めて一歩後ろに後ずさる。
グルル……と唸り声をあげるユルの背中を軽く叩いてあげる、彼はわたくしの顔を見上げてから深くため息をつくと再び側に座り込む。
わたくしは表情を引き締め直すと、リリーナさんに軽く頭を下げてから話しかけた。
「馬鹿になんかいたしませんよ、一人の人間ができることなんか限られております。冒険者として活躍する皆さんのことは尊敬していますし、見ず知らずのわたくしに優しくしてくれたことも感謝しています、それに……」
「な、何よ……」
「本当に馬鹿にしているのであれば、魔法を使ってあなた方の記憶を操作して都合の良いように書き換えますしね」
「なっ……!? ひ、人の記憶を自由に改竄できるっての?」
「できます、だけども今はしません」
「……なぜ?」
「わたくしは皆さんを冒険者として尊敬しています、そういった失礼をする気はありません」
わたくしは怯えたような表情を浮かべるリリーナさんにあくまで冷静に答える。
まあ、前世ではどうしても都合が悪くなって一度だけ記憶を改竄したことがあるけど、それはもうどうしようもないくらいに追い詰められたからなんだよね。
でもその時の罪悪感は強く心に刻まれている……あ、ちなみにわたくしの婚約者の座を欲しいっていう人がいたらその人とクリスをちゃんと結びつけることはやぶさかではないのだ、イレギュラー……所謂ノーカンってやつ。
「正直に言えば……ビヘイビアでお会いするまで以前領地で会ったことをすっかり忘れていました、それについては謝罪します……」
「あ、謝ったって……ぬぐ……うう……ッ!」
再び頭を下げたわたくしに何か言葉をぶつけようとしていたリリーナさんだが、素直に頭を下げたわたくしを見てそれ以上何も言わずに表情を歪めて何度か口をパクパクさせた後、ソファにどかっと腰を下ろしてそっぽを向いてしまう。
そんな彼女を少しハラハラした表情で見ていたデヴィットさんやエミリオさん……まあ、貴族に頭を下げさせる、というのはこの世界でもとってもまずいことだったりもするからな。
ちなみに別の国では貴族に頭を下げさせたものが報復のために冤罪を着せられ、絞首刑になったという話もあるんだとか……まあわたくしは清く正しい日本人としての過去を持っているから大して気にしないんだけどね。
「……で、君は俺たちに何をさせたいんだ?」
エルネットさんがソファに腰掛けたままわたくしをじっと見つめているが、その眼差しはかなり真剣なものだ。
うん……イケメンにじっと見つめられるというのは現世が女性であるわたくしにとってもちょっとご褒美だなあ。
いや、そうじゃくてなんとなく気恥ずかしいものがあるのだけど、わたくしは彼らの信頼を得なければいけない。
最初の目的を達成するべくわたくしはふうっと一度息を吐くと、あざとい感じで指を軽く自分の頬に添えて首を傾げた状態でにっこり笑う。
「ということで、わたくしの友人となってもらえませんか?」
「……はい?」
「わたくしがロッテとして手に余る功績を得るのは本意ではありません、功績を皆様に譲ります……その代わりわたくしの友人となっていただき秘密を共有して欲しいのです」
都合が良すぎる話かもしれない……とは少し思っているがわたくしにはこれしか提供できるものがない。
いや……差し出そうと思えば色々差し出せるだろうけど、最低限貴族としてやってはいけないこと、やりたくないこと、やったら醜聞になってしまうことなど色々考えた末の苦渋の決断だ。
お金を差し出してもいいと思っているが、エルネットさんの性格を考えるとお金じゃない気がするんだよな。
「……お金を出す、と言わないところを見ると俺が金で動く人間ではないと考えているからか……」
「……お金で動く方ならすぐにわたくしの元へ来て秘密をバラされたくなかったら……という話になるかなって……あはは」
「ったく……君は貴族令嬢にしては脇が甘すぎるよ。俺たちだったから良いものの……」
苦笑するわたくしを見てエルネットさんが肩をすくめるのと同時に、納得したかのような笑みを浮かべたのを見て、彼が承諾してくれそうなのがわかった。
まあそうだろう、わたくしは元々貴族なんかに向いているとは思っていない。庶民の方があっている人間なのだから貴族令嬢との交渉を前提に話をされると違和感しか感じないだろう。
エルネットさんはわたくしの表情を見て少し頭を抱えるような仕草を始める。
「僕がもっと下衆な人間だったらどうするつもりだったんだ……心配で見てられないよ、これは……」
「エルネット、なら決まりね?」
リリーナさんがエルネットさんをしょうがないな、という表情で見つめて笑う。デヴィットさんもエミリオさんもやはり似たような顔で彼を見て笑っている。
その意味がよくわかっていなかったユルとわたくしは顔を見合わせてから赤竜の息吹のメンバーをまじまじと見つめるが、よほど間抜けな顔をしていたのだろう……視線に気がついた彼らはにこりと笑って頷いた。
「ああ、俺はロッテちゃ……あ、シャルロッタ様との約束を守ることにする、異論があるなら言ってくれ」
「ないわ、あなたが決めることに私が反対したことなんかないでしょ」
「ありません、貴人の願いであればそれを叶えるのもまた神のご意志」
「俺は彼女が扱う魔法の方にしか興味がない」
「……ありがとうございます……」
わたくしはソファから立ち上がると彼らに深々と頭を下げる。
本来はこんなことする必要なんかないかもしれない、貴族であればふんぞり帰って彼らにお願いさせても良いのかもしれない……でもそうすることでわたくしは前世や前々世を否定してしまう気がしてできなかった。
ユルは鼻を軽くフンッ、と鳴らすと仕方ねえなとばかりに軽く伸びをしてから赤竜の息吹のメンバーへと話しかけた。
「冒険者ども、我はお前たちを信用はしていない……しかし我が主人がお前らを信用すると言ったからな……いつでも我の目はお前たちを見ていることを忘れるなよ」
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