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第九七話 シャルロッタ 一五歳 王都脱出 〇七
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「……シャ、シャル……! 起きて、起きてください!」
無慈悲に炸裂するゲイザーからの麻痺光線を受けてしまい、地面に崩れ落ち動けなくなったユルの目の前で、ニタニタと笑う怪物が気を失っているシャルロッタの体へと球体より伸ばした触手で絡めて取り込もうとしている。
先ほど彼女が浴びた光線の効果は恐怖であり、肉体へのダメージなどは一切なかった。
だが光線による効果は彼女に強い影響を与えているのか、何かをブツブツと呟きながら、糸の切れた人形のように無防備な姿を晒している。
口元は半開きで、口の端から唾液がほんの少し溢れている……目に光はなくどこか遠くを見ているような状態だ。
「まずは……嬲る……女、快感で堕ちる……」
ゲイザーはニタニタと笑うような瞳をぐるぐると回すと、その漆黒の体からいくつもの触手が突き出し、シャルロッタの体へと伸びていく。
だが彼女は反応しない……虚空を見つめる瞳、何かを呟く口元は感情を感じさせず、何かの影響で状況を認識していないのがわかる。
彼女の細い腰や首へと触手が巻き付けられる……だが全く反応しようとしないシャルロッタ。
「まずい……普段はあれだけ防御結界があるからって豪語しているのに……!」
契約しているシャルロッタの精神状態を如実に伝えるかのように強い恐怖と後悔がユルへと伝わってくる……絶望、そして憤怒、その強い波動に当てられて自分自身も狂乱してしまいそうなくらい強い波が押し寄せてくる。
知らなかった……いつも強く笑顔を浮かべている契約者シャルロッタ・インテリペリが身を焼き尽くしそうな怒りと恐怖を持っていることに。
よく考えてみればこの世界で彼女と出会ってからユルは本当の彼女の本音らしい本音を知らない。
「女……取り込む……こいつ……美味しい……」
「や、やめろ……シャルに手を出すな……!」
ゲイザーの体から伸びる触手が彼女に巻きつき、その体を自らの体内へと取り込もうと引き寄せている……そんな状態にあってもシャルロッタはぴくりとも反応せずに、うつろな視線のまま虚空を見つめている。
触手が彼女の髪の毛を弄り、無防備に半開きとなった口へと捩じ込まれる……触手が彼女の口内を侵食し、その度に苦しそうに咳き込む……。
年齢にしては成熟した体の感触を確かめるかのように体へと巻き付いた触手が何度も何度もしなやかな体を弄ってから、両足へと触手を絡め身動きを完全に封じていく。
ゲイザーの体内へとじわじわとシャルロッタの体が取り込まれようとしていく……まずい彼女が取り込まれてしまうとユル自身も契約に基づいてこの世界からの消滅を余儀なくされてしまう。
だが、麻痺光線の効果が強く前足すらも動かせない……もうだめか……! ユルが死を覚悟した次の瞬間。
「……何チョーシくれて取り込もうとしているのよ」
「!? ……おまえ……グヒイッ!」
いきなり意識を取り戻したシャルロッタが、怒りの表情を浮かべて体に巻きついていた触手を鷲掴みにする。
ギロリと頭にまとわりついているゲイザーへと視線を向けると、力任せに触手を引きちぎりそのまま投げ飛ばした……悲鳴をあげて驚いたように目を回転させると再びふわりと空中へと舞い上がる怪物。
身体中に巻きついていたちぎれた触手を投げ捨てながら、シャルロッタはゴキゴキと首を鳴らして殺意を漲らせた顔でゲイザーを睨みつけると、ペッ! と唾を吐き出す。
「……いやな記憶を思い出しちゃったわ……でもありがと……お前らみたいなゲス野郎をぶち殺す最初の気持ちを思い出させてくれて……」
怒りのままに魔力を噴出させる……それは周りの地下水路の壁や床を震わせ大きな振動となって伝わっていく。
ゲイザーが光線を放とうとした瞬間、その黄金の目玉へとシャルロッタが右手のストレートを叩き込む……グシャリと潰れたように凹むと、そのまま吹き飛ばされて水路の壁へと叩きつけられる。
壁はその重さに耐えかねたかのように大きく崩壊すると、轟音が水路中に響き渡る……すでにかなりの年数を経過している水路の天井が崩れ、水路へと大きな岩が落ちていく。
「大丈夫? もう動けると思うけど……」
「え、あ……ああ……そうですね、動けます」
ユルの体を優しく支えると、シャルロッタは彼の頭をそっと撫でる……優しい瞳と笑みを浮かべたまま彼女は、ユルと共に立ち上がると魔剣不滅を肩に乗せると、ゲイザーを吹き飛ばしたあたりに撒き散らされている瓦礫の山へと視線を向ける。
ユルはそんな主人の顔を見上げながら、ふと彼女の感じていた絶望とか今日の中身が知りたくなり問いかけてみることにした。
「あ、あの……あの光線で何を見たのですか?」
「古い記憶よ……わたくしが勇者になるって思った時の記憶、でも記憶は所詮記憶……」
「そ、そうですか……」
「でもムカつくんだよね……勝手に頭の中覗き込まれた気分で……さッ!」
シャルロッタは突然片手で不滅を投げつける……回転しながら飛んでいった魔剣が、必死に崩れた瓦礫から抜け出してきたゲイザーへと突き刺さる。
その衝撃で壁に打ち付けられたゲイザーはビクビクと何度か体を震わせた後、黒い煙と汚泥となって溶けていく……混沌の生物であるが故に、その原型は混沌の汚泥。
そして汚泥は一度大きく震えると、青い炎に包まれて消滅していく……それを見たシャルロッタの表情が一瞬曇るが、少し考えるような仕草をしてからすぐにフン、と軽く鼻息を鳴らすと壁に突き刺さったままの不滅へと近寄り、片手で引き抜く。
「罠にしては少し雑な気がするわね……こちらの戦闘能力を測るため? いやそれとも……」
「そういえばなぜ光線がシャルに効果を及ぼしたのですか?」
「結界は張っていたのだけど、それを無効化してきたわ……おそらく混沌神の加護が宿っていたのね」
混沌の眷属にはそういった加護を持つ怪物も存在する……分かりやすいものでいくと腕が増えたり、頭が増えたりするのだが稀に一見普通の魔物にしか見えず、致命的な能力を付与されるものも存在しているのだという。
今回のゲイザーがその個体だった可能性は高い……それ故に普段高位魔法すら無効化しているシャルロッタの防御結界を容易く貫いてきたのだ。
シャルロッタは本当に面倒くさそうな表情を浮かべて、肩をすくめる……なんだかその仕草は女性らしくはなかったが、ユルはいつもの調子に戻ったのだな、と判断して口を歪めて笑う。
「……次は我が盾になりますよ、だからあんなことはしないでくださいね」
「……ゲイザーが滅ぼされた? ふむ……冒険者などではなさそうだな……」
小さな蝋燭の明かりだけが見える暗く静かな部屋の中で闇征く者は、書類を整理する手を休めて一人ポツリと呟く。
数年前にサルヨバドスを配置した場所……再び何かに使えるかもしれないと考えゲイザーを防衛のために配置していた。
誰も来なければ来るべき魔王復活の日に戦力として呼び戻せば良い、ゲイザーにはそれまで休眠をと考えていたのだが……しかし冒険者如きでゲイザーを倒せるだろうか?
最近王都で話題の「赤竜の息吹」なら倒せる、苦戦はするだろうが……それ以外はどうだろう? 金級冒険者パーティとしてはそれ以外に「黄金の鷲」「千なる世界」「老鶯」などがイングウェイ王国では有名なのだが、そのメンバーも別々の地方へと移動しており王都を不在にしているはず。
「つまり……あの娘がやった、ということだな……クハハッ!」
仮面の下で引き攣るような笑い声をあげると、闇征く者は椅子から立ち上がる。
その動きに合わせて蝋燭の炎がゆらめく……強大な魔力が体から噴出していくが、それに合わせて周りの壁や地面がビリビリと震える。
暗闇の中に何かが潜んでいるのか、驚きと恐怖の感情が伝わってくる……ああ、一人ではなかったのだったと気を取り直し放出する魔力を抑える。
暗闇の中で何かを囁くような声、そして不可思議な発音の言葉が発せられるが魔人はそんな些細なことは気にも留めずに黙って椅子へと再び腰を下ろした。
「……筆頭殿、ご機嫌でいらっしゃいますね」
「使役する者……楽しいことがあったのでな、感情を表に出しただけだ」
不意に不気味に蠢く風があたりに流れたかと思うと、暗闇からぬるりと染み出すように一人の大男が姿を表す……その頭部は三叉のように分岐した奇妙な形状で、そこにある複数の瞳はギョロギョロとあちこちを観察するように見ている。
使役する者はまるで貴族のような優雅な一礼を見せると、片膝をついて訓戒者筆頭たる眼前の魔人が発するであろう言葉を待つ。
少し沈黙の時間が流れた後、闇征く者はしゃべって良いとばかりに促すように手を振るが、それを見た使役する者は口元に笑みを浮かべる。
「では報告を……辺境伯を襲撃する準備に進展がございます、第一王子派貴族が傭兵団を雇い入れたそうです」
「ふむ……」
先日相対したシャルロッタ・インテリペリ辺境伯令嬢……彼女には家族がいる、第二王子派の主力とも言えるインテリペリ辺境伯だ。
領地と王都を往復する忙しい日々を送っているが、若い頃には武術大会で優勝した経験もあり、軍指揮官としても非常に優秀で彼自身が第二王子へとついたことは第一王子派への抑止力として非常に効果的な側面を持っている。
戦闘で討ち取ることは容易いかもしれないが、第一王子派の近衛軍などと違い辺境伯軍は魔物討伐などで鍛え上げられており、力押しで排除できるかどうかわからないからだ。
「……まあ、所詮傭兵団では彼の従えている護衛には敵わない可能性もございまして、襲撃の際に別途暗殺者を送り込もうと考えております」
「妥当だな、クレメント・インテリペリの評判を聞く限り正攻法は難しい、許可する」
この場合の暗殺者……夥しい数存在している混沌神の中にエンカシェという神の信徒がそれにあたる。
エンカシェはワーボスとは違い、集団での戦闘や正面からの殺戮を否定しており、あくまでも人知れず相手を暗殺、毒殺することに至上の喜びを得るもの達から信仰を集めているのだ。
人間だけでなくダークエルフやトロウルなど大陸ではあまり姿を見せなくなっている異種族達にも信徒がいるのだが、その信徒を使って辺境伯を排除する計画なのだ。
「……では決行については準備が出来次第という形で……委細この使役する者におまかせあれ」
無慈悲に炸裂するゲイザーからの麻痺光線を受けてしまい、地面に崩れ落ち動けなくなったユルの目の前で、ニタニタと笑う怪物が気を失っているシャルロッタの体へと球体より伸ばした触手で絡めて取り込もうとしている。
先ほど彼女が浴びた光線の効果は恐怖であり、肉体へのダメージなどは一切なかった。
だが光線による効果は彼女に強い影響を与えているのか、何かをブツブツと呟きながら、糸の切れた人形のように無防備な姿を晒している。
口元は半開きで、口の端から唾液がほんの少し溢れている……目に光はなくどこか遠くを見ているような状態だ。
「まずは……嬲る……女、快感で堕ちる……」
ゲイザーはニタニタと笑うような瞳をぐるぐると回すと、その漆黒の体からいくつもの触手が突き出し、シャルロッタの体へと伸びていく。
だが彼女は反応しない……虚空を見つめる瞳、何かを呟く口元は感情を感じさせず、何かの影響で状況を認識していないのがわかる。
彼女の細い腰や首へと触手が巻き付けられる……だが全く反応しようとしないシャルロッタ。
「まずい……普段はあれだけ防御結界があるからって豪語しているのに……!」
契約しているシャルロッタの精神状態を如実に伝えるかのように強い恐怖と後悔がユルへと伝わってくる……絶望、そして憤怒、その強い波動に当てられて自分自身も狂乱してしまいそうなくらい強い波が押し寄せてくる。
知らなかった……いつも強く笑顔を浮かべている契約者シャルロッタ・インテリペリが身を焼き尽くしそうな怒りと恐怖を持っていることに。
よく考えてみればこの世界で彼女と出会ってからユルは本当の彼女の本音らしい本音を知らない。
「女……取り込む……こいつ……美味しい……」
「や、やめろ……シャルに手を出すな……!」
ゲイザーの体から伸びる触手が彼女に巻きつき、その体を自らの体内へと取り込もうと引き寄せている……そんな状態にあってもシャルロッタはぴくりとも反応せずに、うつろな視線のまま虚空を見つめている。
触手が彼女の髪の毛を弄り、無防備に半開きとなった口へと捩じ込まれる……触手が彼女の口内を侵食し、その度に苦しそうに咳き込む……。
年齢にしては成熟した体の感触を確かめるかのように体へと巻き付いた触手が何度も何度もしなやかな体を弄ってから、両足へと触手を絡め身動きを完全に封じていく。
ゲイザーの体内へとじわじわとシャルロッタの体が取り込まれようとしていく……まずい彼女が取り込まれてしまうとユル自身も契約に基づいてこの世界からの消滅を余儀なくされてしまう。
だが、麻痺光線の効果が強く前足すらも動かせない……もうだめか……! ユルが死を覚悟した次の瞬間。
「……何チョーシくれて取り込もうとしているのよ」
「!? ……おまえ……グヒイッ!」
いきなり意識を取り戻したシャルロッタが、怒りの表情を浮かべて体に巻きついていた触手を鷲掴みにする。
ギロリと頭にまとわりついているゲイザーへと視線を向けると、力任せに触手を引きちぎりそのまま投げ飛ばした……悲鳴をあげて驚いたように目を回転させると再びふわりと空中へと舞い上がる怪物。
身体中に巻きついていたちぎれた触手を投げ捨てながら、シャルロッタはゴキゴキと首を鳴らして殺意を漲らせた顔でゲイザーを睨みつけると、ペッ! と唾を吐き出す。
「……いやな記憶を思い出しちゃったわ……でもありがと……お前らみたいなゲス野郎をぶち殺す最初の気持ちを思い出させてくれて……」
怒りのままに魔力を噴出させる……それは周りの地下水路の壁や床を震わせ大きな振動となって伝わっていく。
ゲイザーが光線を放とうとした瞬間、その黄金の目玉へとシャルロッタが右手のストレートを叩き込む……グシャリと潰れたように凹むと、そのまま吹き飛ばされて水路の壁へと叩きつけられる。
壁はその重さに耐えかねたかのように大きく崩壊すると、轟音が水路中に響き渡る……すでにかなりの年数を経過している水路の天井が崩れ、水路へと大きな岩が落ちていく。
「大丈夫? もう動けると思うけど……」
「え、あ……ああ……そうですね、動けます」
ユルの体を優しく支えると、シャルロッタは彼の頭をそっと撫でる……優しい瞳と笑みを浮かべたまま彼女は、ユルと共に立ち上がると魔剣不滅を肩に乗せると、ゲイザーを吹き飛ばしたあたりに撒き散らされている瓦礫の山へと視線を向ける。
ユルはそんな主人の顔を見上げながら、ふと彼女の感じていた絶望とか今日の中身が知りたくなり問いかけてみることにした。
「あ、あの……あの光線で何を見たのですか?」
「古い記憶よ……わたくしが勇者になるって思った時の記憶、でも記憶は所詮記憶……」
「そ、そうですか……」
「でもムカつくんだよね……勝手に頭の中覗き込まれた気分で……さッ!」
シャルロッタは突然片手で不滅を投げつける……回転しながら飛んでいった魔剣が、必死に崩れた瓦礫から抜け出してきたゲイザーへと突き刺さる。
その衝撃で壁に打ち付けられたゲイザーはビクビクと何度か体を震わせた後、黒い煙と汚泥となって溶けていく……混沌の生物であるが故に、その原型は混沌の汚泥。
そして汚泥は一度大きく震えると、青い炎に包まれて消滅していく……それを見たシャルロッタの表情が一瞬曇るが、少し考えるような仕草をしてからすぐにフン、と軽く鼻息を鳴らすと壁に突き刺さったままの不滅へと近寄り、片手で引き抜く。
「罠にしては少し雑な気がするわね……こちらの戦闘能力を測るため? いやそれとも……」
「そういえばなぜ光線がシャルに効果を及ぼしたのですか?」
「結界は張っていたのだけど、それを無効化してきたわ……おそらく混沌神の加護が宿っていたのね」
混沌の眷属にはそういった加護を持つ怪物も存在する……分かりやすいものでいくと腕が増えたり、頭が増えたりするのだが稀に一見普通の魔物にしか見えず、致命的な能力を付与されるものも存在しているのだという。
今回のゲイザーがその個体だった可能性は高い……それ故に普段高位魔法すら無効化しているシャルロッタの防御結界を容易く貫いてきたのだ。
シャルロッタは本当に面倒くさそうな表情を浮かべて、肩をすくめる……なんだかその仕草は女性らしくはなかったが、ユルはいつもの調子に戻ったのだな、と判断して口を歪めて笑う。
「……次は我が盾になりますよ、だからあんなことはしないでくださいね」
「……ゲイザーが滅ぼされた? ふむ……冒険者などではなさそうだな……」
小さな蝋燭の明かりだけが見える暗く静かな部屋の中で闇征く者は、書類を整理する手を休めて一人ポツリと呟く。
数年前にサルヨバドスを配置した場所……再び何かに使えるかもしれないと考えゲイザーを防衛のために配置していた。
誰も来なければ来るべき魔王復活の日に戦力として呼び戻せば良い、ゲイザーにはそれまで休眠をと考えていたのだが……しかし冒険者如きでゲイザーを倒せるだろうか?
最近王都で話題の「赤竜の息吹」なら倒せる、苦戦はするだろうが……それ以外はどうだろう? 金級冒険者パーティとしてはそれ以外に「黄金の鷲」「千なる世界」「老鶯」などがイングウェイ王国では有名なのだが、そのメンバーも別々の地方へと移動しており王都を不在にしているはず。
「つまり……あの娘がやった、ということだな……クハハッ!」
仮面の下で引き攣るような笑い声をあげると、闇征く者は椅子から立ち上がる。
その動きに合わせて蝋燭の炎がゆらめく……強大な魔力が体から噴出していくが、それに合わせて周りの壁や地面がビリビリと震える。
暗闇の中に何かが潜んでいるのか、驚きと恐怖の感情が伝わってくる……ああ、一人ではなかったのだったと気を取り直し放出する魔力を抑える。
暗闇の中で何かを囁くような声、そして不可思議な発音の言葉が発せられるが魔人はそんな些細なことは気にも留めずに黙って椅子へと再び腰を下ろした。
「……筆頭殿、ご機嫌でいらっしゃいますね」
「使役する者……楽しいことがあったのでな、感情を表に出しただけだ」
不意に不気味に蠢く風があたりに流れたかと思うと、暗闇からぬるりと染み出すように一人の大男が姿を表す……その頭部は三叉のように分岐した奇妙な形状で、そこにある複数の瞳はギョロギョロとあちこちを観察するように見ている。
使役する者はまるで貴族のような優雅な一礼を見せると、片膝をついて訓戒者筆頭たる眼前の魔人が発するであろう言葉を待つ。
少し沈黙の時間が流れた後、闇征く者はしゃべって良いとばかりに促すように手を振るが、それを見た使役する者は口元に笑みを浮かべる。
「では報告を……辺境伯を襲撃する準備に進展がございます、第一王子派貴族が傭兵団を雇い入れたそうです」
「ふむ……」
先日相対したシャルロッタ・インテリペリ辺境伯令嬢……彼女には家族がいる、第二王子派の主力とも言えるインテリペリ辺境伯だ。
領地と王都を往復する忙しい日々を送っているが、若い頃には武術大会で優勝した経験もあり、軍指揮官としても非常に優秀で彼自身が第二王子へとついたことは第一王子派への抑止力として非常に効果的な側面を持っている。
戦闘で討ち取ることは容易いかもしれないが、第一王子派の近衛軍などと違い辺境伯軍は魔物討伐などで鍛え上げられており、力押しで排除できるかどうかわからないからだ。
「……まあ、所詮傭兵団では彼の従えている護衛には敵わない可能性もございまして、襲撃の際に別途暗殺者を送り込もうと考えております」
「妥当だな、クレメント・インテリペリの評判を聞く限り正攻法は難しい、許可する」
この場合の暗殺者……夥しい数存在している混沌神の中にエンカシェという神の信徒がそれにあたる。
エンカシェはワーボスとは違い、集団での戦闘や正面からの殺戮を否定しており、あくまでも人知れず相手を暗殺、毒殺することに至上の喜びを得るもの達から信仰を集めているのだ。
人間だけでなくダークエルフやトロウルなど大陸ではあまり姿を見せなくなっている異種族達にも信徒がいるのだが、その信徒を使って辺境伯を排除する計画なのだ。
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