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 耳元にかすれた低音が吹き込まれた。

 腰に回されたユミトの手が布越しに肌を撫でる。

 あきらかに官能を呼び起そうとする手付きに背筋が甘く震えた。

「ひとつ確認したいんだけど」

 エリナは先程考えていた懸念を伝える。

「避妊薬みたいなものってないの? 魔法かなにか、とか。無責任に子供を持ちたくないんだけど」

「ああ、それなら問題ない」

 どういうことか聞き返す前に、顎を捕らわれ唇を塞がれた。

 ちゅっと軽い音を立てて離れた彼の口が開かれる。

「俺、生殖能力ねえから」

「は?」

 咄嗟に浮かんだ感想は、そういう嘘を言って相手を騙すクズ男か? だった。

「嘘じゃねえよ」

 疑いの表情が顔に現れていたらしく、ユミトは呆れた声を出した。

「魔力が強い人間は子供作れねえんだよ。試したけど無理だった」

 試したのか、やはりクズ男か。

「合意の上だからな」

 またしても表情に出ていたらしい。

「……ん? 魔力?」

 クズ男に気を取られて耳慣れない言葉を聞き流してしまいそうになった。

「魔力」

「誰の魔力が強いの?」

「俺」

「え? じゃあユミトは魔法使いってこと?」

「今更なに言ってんだよ当たり前だろ」

 魔法石がどうのという熱弁は聞いたが、ユミト本人が魔法使いだという話は聞いていない。

 だがここで反論すると不毛な言い争いに発展しそうな予感がしたので、エリナは曖昧に頷いておいた。

「髪の色が黒に近くなるほど魔力が強い。反比例して生殖能力が弱まる」

 見上げたユミトの髪は夜空より暗い漆黒。

「まあ、避妊薬はあるから安心しろ」

「ぁ、うん……」

 なんでもないような顔をしてユミトが言った。

 子が成せない。

 デリケートな話題なのでエリナは返答に詰まる。

「今更気にすることでもない」

 窺い見たユミトは沈んでいるわけでも空元気でもなく、ただ当然のことを淡々と述べているだけ、といった表情だった。

「さっそくするか」

 ユミトの声と同時にエリナの足が床から浮いた。

「わっ」

 軽々と抱き上げられていた。

 焦るエリナを気にも留めず、ユミトは店を施錠しクローズの札を出す。

「お店、いいの?」

「店主の俺がいいって言うんだからいいんだよ」

 ユミトが片手で器用に扉を開けた先にはベッドがひとつ。

 意外にも綺麗に整えられているシーツの上に、エリナがゆったりと降ろされた。

「ほれ、あーん」

 反射的に口を開けると飴玉のようなものが放り込まれる。

 蜂蜜のようなコクとまろやかな甘味が広がり、それはすぐに溶けてなくなった。

「避妊薬」

 薬が消えた口内へユミトの舌が押し入ってくる。

「ん、我ながら美味い」

「これあなたが作ったの?」

「魔法使いなんだから当たり前だろ」

 こっちはこの世界の当たり前なんて知らないんですけど。

 そう思いながらも言葉にすることは控えた。

「ま、相性は悪くなさそうだし。楽しもうや」

 
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